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My Dear MOON  作者: 黒蝶
14/24

第14話:〜秋〜 落葉

叶わない恋をすると決めたレン。トーヤの一言は彼女に何を思わせるのか。

 すっかり赤に色づいた紅葉を見たときのトーヤは、

本当に嬉しそうだった。

 「すごい。本当に赤色になってる。」

 「ね、私の言ったとおりでしょ?」私は言った。

 「あぁ。この間は緑色だったのに、今じゃあどこ

にも緑が見当たらない。」

 「他に、葉が黄色になる木もあるのよ。」と私は

言った。

 「本当かい?それもぜひみて見てみたいなぁ。」

 丁度、近くにイチョウの木が立っていたのを思い

出した。

 「着いてきて。」と私はトーヤに言って歩き出した。

 

 イチョウの木は、紅葉が立っていた民家の裏路地を、

しばらく進んだ突き当たりにひっそりと立っていた。

それもまたみごとな黄色で、秋そのものを感じさせた。

 「この木はイチョウと言うの。この木の葉は、緑色

だったのが、秋になるとこうして黄色になるのよ。」と

私はトーヤに説明した。

 「赤色だけじゃなく黄色もあるなんて・・・本当に

すごいよ、レン。」とトーヤは嬉しそうに言った。

 「ねぇ、レン。この木、葉が不思議な形をしている。」

とトーヤは私を見て言った。

 「えぇ、そうよ。それがこのイチョウの特徴なの。」

 「そうなのか・・・」トーヤはもの珍しそうに、しばらく

イチョウの葉を眺めていた。



 あのさ、レン――とトーヤは言った。

 「なぁに?」私は答えた。

 「・・・・・・。」

 トーヤは俯いて黙ってしまった。

 両手を膝の上で固く握り締めたまま、何かを考えている

様子だった。

 私は、トーヤが話してくれるまで待つことにした。

 長い沈黙の後、決心が固まったのか、トーヤは顔を上げて、

口を開いた。

 

 「実は、ある人にすごく伝えたいことがあるんだ。でも、僕は

なかなかそれを伝えられなくて、どうしても言葉にならないんだ。

ねぇ、レン。そんな時はどうしたらいいと思う?」

 トーヤは少し困っている様子だった。

 そうね・・・と私は言った。

 「あなたは、例えばそれを伝えないままだったら後悔しない?」

 トーヤの質問に対して私は答えた。

 後悔――、とトーヤは言った。

 「あなたが後悔しない方法をとることが一番いいと思うわ。でも、

覚えておいて。言葉にしなければ、伝わらない想いもあるのよ。」

 ――言葉にしなければ伝わらない想い――

 これは、私がトーヤに言ったようで、実は自分自身にも言っていた。

だけど、聞こえないフリをした。

 「そうか、そうだね。ありがとう、レン。君に話してよかったよ。」

 「どういたしまして。ところで、あなたは何を伝えようとして

いるの?」私は聞いた。

 「うん、プロポーズさ。」トーヤは照れくさそうに笑って、私の

方を見た。


 ――今、彼は何と言った?――

 「あなた、結婚するの?」思わず私は聞いた。

 「さぁ。彼女がOKしてくれればね。」とトーヤは言った。

 いつまでも照れたような微笑を浮かべるトーヤ。

 幸せそうで、嬉しそうで・・・・

 私はトーヤの笑顔が好きだった。だけど、その時だけはただ悲しかった。

 「受けてくれるといいわね・・・。」

 私は、心の奥に澱みのようなものを感じていながらも、トーヤに言った。


 秋色に染まった葉が、一枚、また一枚と、木から落ちていく。

 それは、私の心を象徴したように見えた。

 私の想いも、あんな風に散ってしまうのだろうか・・・・

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