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My Dear MOON  作者: 黒蝶
13/24

第13話〜立秋〜 秋の夜長

 夏の暑さは跡形も無く消えた――秋、到来。


 トーヤの服装は、出逢った時と同じに戻った。

 「あなたは寂しいと思うとき、ある?」私は聞いた。

 「あるよ。」

 「どんなとき?」

 「地球への橋が出ないとき。」

 そう言うと、トーヤは私のほうを見てフフッと笑った。

 ドキッとした。

 「どんな感じがするの?」

 「うーん、どんなって言われると、どう説明していいのか

わからないんだけど、そうだなぁ・・・・いつも見慣れてる、

そこにあってあたり前のようなものが、急に無くなって

しまった時の気持ちのみたいなものじゃないかな?

 どこか物足りないような、心に小さな穴がポッカリと空いて

いる感じ。」とトーヤは言った。

 「そう・・・。」

 それならやっぱり、トーヤに会えない夜の、どうにもいたた

まれない気持ちは、寂しさからくるものなのかもしれない。


 ねぇ、レン――とトーヤは言ったので、私はなぁに?と答えた。

 「君は前に、いつもひとりだって言っていたよね。」

 「えぇ、言ったわ。」

 「どうしてだい?」とトーヤは聞いた。

 どうしてって言われても・・・・私は少し返答にとまどった。

 そんな私に気づいたのか、トーヤは、

 「ごめんよ。もし、言いづらいのなら話してくれなくていいんだ。

僕も、少し軽率だったよ。本当にごめん。」と言った。

 「謝らないで。別に話したくないわけじゃないの。ただ、何から

話していいのかわからなくて・・・」

 「私がいつもひとりなのは、他にいつも一緒にいる猫がいない

からよ。」私は言った。

 「君、家族は?」トーヤが聞いた。

 「母親はいたんでしょうね。でなければ、私は今ここにいないもの。

だけど、顔は全く覚えていないし、兄弟でさえ、いたのかどうかわから

ないわ。」

 「飼ってくれる人はいないのかい?」

 「いないわ。私は、生まれてから一度も人に飼われたことがないの。

だから名前もなかったし、帰るところもないわ。」

 「人間が嫌い?」

 「わからないわ。人間がどういうものなのか、私にはわからないから。

それに、私が嫌っていると言うよりも、人間の方が私を好まないみたい。」

 「そんなことはないと思うけど・・・」とトーヤは言った。

 「私は、ずっと人間に『不吉だ』とか、『汚らわしい』とか言われて

きたの。だから、それが真実なんだと思う。」私は言った。

 すると、トーヤが言った。

 「そんなことはないよ、レン。前にも言ったけど、君のその黒色は

綺麗だ。僕は心からそう思うよ。」真剣な目でトーヤは言ってくれた。

 「そんなことを言うのはあなたくらいよ。でも、とても嬉しいわ。

ありがとう。」

 トーヤだけが私を解ってくれる。それは私にとって救いだった。

 「自分の生きる道を恨んでいるかい?」トーヤは聞いた。

 そうね・・・と言って私は話し始めた。

 「そう思ったことも確かにあったわ。好きで黒猫に生まれたんじゃ

ないのに、私が何をしたの――ってね。でも、どうやったって私は私で、

他の何者にもなれないじゃない。だから、私で生まれたい以上、私で生き

なければいけないのよ。」私は言った。

 「うん。それは確かにそうだね。僕も、王子を辞めたいと思ったことあるよ。」

トーヤは言った。

 「あなたもそんなこと考えるの?」私は少し驚いた。

 私とは全く違う生き方をしているトーヤに、辛いことなんてひとつも無い

と思っていた。

 「もちろんあるとも。いろんな人から尊敬されたり、すばらしい人だって

言われるけど、正直僕はそれほどできた存在じゃないんだよ。苦手なことも、

嫌いなこともある。時にはそれをごまかしたりだってしているんだ。そんな

奴を敬うなんて、国民を騙しているみたいで苦しかった・・・」

 「そう。あなたもそんな風に思うのね。」私は言った。

 悲しみを抱えているのは、私だけではなかった。私はずっと、自分

だけがこんな想いをしているのだとそう思っていた。だけどもしか

したら、誰もが少なからず、何かしらの痛みを抱えているのかもしれない。

 「でも、レンの話を聞いて、僕もちょっと頑張ろうと思う。みんなの期待

に答えられるように。」とトーヤは言った。

 「応援するわ。でも、あなたらしさをなくすのは良くないわ。」

 「そっか。それは大事だね。難しいけど、頑張ってみる。」

 えぇ――、と私は言った。


 「私ね、最近悪いことばかりじゃないって思うようになったの。ずっと

ひとりで、平凡に毎日を過ごしていた私に楽しみができたように、良いこと

もちゃんとあったりするのよ。」と私は言った。

 「じゃあ、君は今幸せかい?」トーヤは聞いた。

 「さぁ・・・そういうことあんまり考えた事無いから。でも、不幸せではないわ。」

 それだけは胸張って言えた。私の人生は、それほど捨てたものじゃないの

かもしれない。

 「君は、素敵だね。」とトーヤは言った。

 どうして――、と私が聞くと、トーヤは私の方を見て、ただにっこりと笑った。

 「ところで、さっき言った、君の楽しみって?」

 知りたい?――、と私は言った。

 知りたい――、とトーヤは言った。

 「あなたと、ここでこうしていることよ。」

 

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