第11話:〜夏〜 星の下
決して届かないと知った想い、そしてそれを
忘れることも出来ない。
私は、どうすればいいのかわからない――
「どうかしたのかい?」トーヤが聞いてきた。
「何が?」私も聞いた。
「今日は何だか、いつもと違う気がする。元気が
ないみたいだ。何かあったのかい、レン?」
何か、なら確かにあったが・・・・
「そうね、でも、ちょっと上手く言えないの。
ごめんなさい。」私は少し下を向いて言った。
「そっか。それなら無理には聞かないよ。誰でも、
言いにくいことのひとつやふたつあるものだからね。」
「ありがとう。」私は礼を言った。
「いいんだよ。もし、僕が何か力になれることが
あったら、いつでも言ってよ。僕にできることなら何でも
するから。」
相変わらずトーヤは優しかった。
やっぱり私はこの人が好きだ――
トーヤの傍にいたい。
それだけは心の奥深くからの願いだった。
私にとってトーヤは居場所だった。
どこへ行っても嫌われてばかりで、邪魔者だった私。トーヤ
の傍にいると、そんな自分をほんの少しだけ好きになれた。
そんな温かさを与えてくれたのは、他の誰でもない
トーヤだった。
愛されたら確かに嬉しいだろう。だけど、それが
叶わないのなら、せめてずっと彼の傍にいさせてほしい。
それが、私の彼を想う愛の形なのだ。
これからもトーヤを好きでいよう。
愛する人を想うトーヤを好きでいよう。
私はそう決めた――
「今日はあなたの方が元気がなさそう。」
その日、光の中から現れた瞬間から、私はトーヤの様子が
違うような気がしていた。
「もし、私が聞いてもかまわないことなら話してみて?
私も、あなたが言ってくれたように、私があなたのために
できることなら何でもしてあげたいの。」私は言った。
実は・・・と言ってトーヤは話し始めた。
「僕がよく仕事を手伝っていた、農場を経営する老夫婦の
奥さんが、数ヶ月前に病気になって倒れたんだ。
その後、旦那さんが必死に看病していたんだけど、昨日、
息を引きとられて・・・」
「亡くなってしまったのね。」
「あぁ、とても仲が良い夫婦で、僕も大好きだった。」
トーヤの悲しさは、私にも伝わった。
「レン、人は死んだらどこへ行くのかな?」トーヤが聞いた。
「天国じゃないの?」私は答えた。
「天国って、本当にあるのかな?誰も見たことはないんだろう?」
確かにそうね――、と私は言った。
「星に、なるんじゃないかしら?」わたしはふと言った。
「えっ?」
「ほら、よく言うじゃない。死んだ人は、生きている人を
見守っているって。あれは、空の星になって、見下ろしているんだと
思うの。」
私は続けた。
「その農場の奥さんは、きっと空に無数に散らばる星のひとつに
なったのよ。そして、旦那さんやあなたのことを見守ってくれて
いるはずよ。例え自分がいなくなっても、あなた達が幸せである
ようにって。」
「そうかな?」トーヤは言った。
「私はそう思う。」
「そうか。星になるのか・・・それは素敵だな。」
そう言って、トーヤは夜空を見上げた。
いつか私が死んでしまったら、その時は星になれたらいい。トーヤ
だけを照らす星になりたいと思った。
あの眩しいほどの太陽には敵わないだろうけど、それでも、彼の
いくらかの助けにはなれるはずだ。