ARUMAJI!!光と闇の狭間に
ARUMAJI!光と闇の間で
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別に期待していたわけじゃない。頼りにもしていない。だから何を言われてもいいとは思うんだけど。
「オレは何をすればいいんだ?」
これでも業界最高峰だというのだからあきれたものだ。私はノンフィクション作家として社会の闇を暴くために、次の取材を続けていた。独自の情報収集であたりをつけて見つけ出したのは、何かのブランク。その手前とその後ははっきりしているのに、人の流れがそこで変わって急加速している。ここには何があるのだろうと思って見つけたのは密売ルート、これはもう手に負えない!と思って知り合いをたどって頼りになりそうな人を見つけた。これは信仰に関係するからその手のことに詳しそうな、と漠然と当たっていき見つけたのはミナカタ心霊カウンセル。なんでもこのうさんくさい業界にあって良心的で、「こういうのは人を頼ると踏み外すから心配しないで」とすぐに帰らせることが多い。おかげで業績は火の車という、徹底的に経営に向いていない人がやっている事務所だ。それでも私の突き止めたエキドナ教団の裏側を知ってもらわないといけない、と洗いざらい話すと「うーん」と困っていた。手に負えないなら他の人を紹介して!と頼むと、この人が来た。灰色のアルマという名前で少しは知られた男は、なんで呼ばれたかわかっていないらしい。見るからに唐変木、靴は洒落てこだわったものを履いているのに靴下は履かないというどこぞのトレンディ俳優みたいな足下に気がついたときに、もうわかっていたけど。
近くの喫茶店で合流した灰色のアルマは、「ミナカタに聞きはしたが」と全然把握していない。それでもプロ?あなたエキドナ教団を知らないの?と問い詰めると、知ってるに決まってるだろと嫌そうな顔をした。
「エキドナ教団。設立は70年前、世界最大派閥の一宗派ってことになってるな」
なってるって何よ!知ったかぶらないで、私はちゃんと調べたのよ!神宮司ゆかりと言えば出版業界では知られた名前、聞けばあんたは本職フリーライターで原稿を受け取ってもらえないそうじゃない!そう言うとアルマは「本業の上下関係を持ち込むなら依頼は受けない」と笠に着てきた。足下を見られてカンカンに怒っていたけど、それどころではないという弱みがある。一から言って聞かせて、エキドナ教団が薬物売買に関わっているなら大事件、ただの礼拝堂ではないということになる。知ってしまった以上、どうにかしないと!それでもアルマは納得しない。これは少し調べればすぐにわかる程度のこと、少なくとも気がついた人がいないわけない。なのに放置されて野放し、もしかしたら、あるわけないけど、何か超常的な……。「んなわけねえだろ」と頭から否定された。んなわけないならあんたの仕事は何なんだ!オレの仕事はフリーライター、とすっとぼけるアルマをとにかく引っ張っていった。聞いてくれる人がまず見つからないんだから仕方がない、こいつで我慢する。
霊視能力が高く任せても安心、というもはやこちらも信用ならないミナカタさんの言葉にすがって、礼拝堂にアルマを連れてきた。この中に何かあるかわかる?って聞いたけど「こんな中見ても何もない」と全然乗ってこない。バカ!役立たず!と怒っていたら、礼拝堂の中から人が出てきた。どうしました?と聞かれて困った。よければ中へ、と通されそうになったけど、アルマが肩をつかんで止めた。一見軽くかけた手には、妙に力がこもっていた。
「いや、ここで結構」
話はいくらでもここでしましょう、天気もいいですからね。礼拝堂の人は引っ込んで、私はとりあえず板挟みにあっただけみたいな、そんな感じになった。……上手く話を聞き出せば何かわかったかもしれない、とアルマに連れられて歩いていると、アルマがあきれていた。
「入ったら終わりだぞ」
あの手の礼拝堂の管理人は、暗い個室に連れていって明かりをつけて話を聞く。ただでも怪しい空間でガスなんか嗅がされたら判断ができないのが当然、とものすごい偏見を押しつけてきた。あんたそれ、誹謗中傷よ!と責めたら、馬鹿を見るような目で見られた。私は、あまりにもくだらないことを聞いてしまったらしい。
暗い個室に明かりをつけるにはどうする?と聞かれて、電気じゃないの?と答えた。電球、スタンドライト、蝋燭……そんなものならいいんだけどな、と並べ立てるアルマは、個室に入ったこと自体はないらしい。しかし妙に長い歴史をたどるなら、電気がない時代の方が長かったはずで、そういうものではない。じゃあ蝋燭……と答える前に、アルマが言った。
「油ってことはないか?」
石油の利用は遙か紀元前3000年にはもう始まっていた。ちらほらと各地で手に入り、大規模な採掘が最近というだけ。ああいう場所は電気があろうと儀礼的に古いしきたりに従い、油を使っている可能性は否定できない。それを燃やすなら、どんなガスが出るか……。横断歩道の前でアルマは通り過ぎるトラックを見送った。硫黄を燃やしたときに発生する亜硫酸ガスにも似た組成は、毒物でしかない。体にも神経にも有害、思考能力は著しく落ちる。そんなことを自慢げに言うものだから、あんたバカ?とロボットに乗る中学生みたいなことを言った。あれはロボットではないと言う人が多いらしいけど、ロボットですましている。
その個室には管理人が一緒に入る。ガスなんか出したら、一緒に体を壊すじゃない!としごく真っ当なことを言うと、アルマは簡単に納得した。ああ、そうだ。体を壊したら気がつく。壊れきっていれば、何も思わない。すでに失われた思考能力はなくなったまま、マニュアルに従うだけ。ファストフードのバイトの方がずっといい働きをする程度の者の言うことに、なぜ言いくるめられる?再び座れる店に入ってレジ待ちの時にそう言っていたアルマは、お釣りが足りないとバイトの子と揉めていた。アルマが百円玉と五十円玉を間違えていただけだったから、すごく恥ずかしかった。
よくあることだ、と開き直っているのかと思ったらエキドナ教団の話らしい。そりゃ蒸し返したくないか。エキドナ教団が薬物の売買をしていたとして、古代では規制も敷かれず当たり前に行われていた。集まったヤツに、安定剤でも飲ませているんじゃないか?と言われて愕然とした。ますます止めないといけない、精神安定剤をそんなことに利用するなんて!と叫ぶと、「利用?」と全然わかっていない。本来医薬品なのに、私利私欲に使うなんていけない!と説明するとようやくわかったようで。
「ああ、そうか。利用か。そういうことか」
まったく、なんでこんなに察しが悪いのかなあ。あんまり役に立たないから、放っておこうとしたらアルマはついてきた。警察に飛び込まれると敵わん、と余計なお世話なことを言う。あんたを突き出してやろうか!と言ったけど呼んだのがこっちなので法律上どうなるかわからない。考えても無駄だからやめとけ、とアルマは気が済むまでついてくるようだった。
「あんたはどこから気がついた?」
次回作「信仰の未来」を書く準備段階で、まだ大したことは調べていない。軽い下調べで気がついてしまったのでほとんど手つかず、だから何かの間違いかと専門家を当たった。どこからも何も、明らかじゃない!アルマは「なるほど、頭いいな」と偉そうな口を聞く。余計なことを知って煙に巻かれるヤツらばかりで、嫌になってたんだ。「あんたに誉められるなんて恥ずかしい!」とさすがに八つ当たりだと自分でわかることを言った。怒るかと思えば、アルマは落ち込んでいた。やった。
強いてきっかけを言うなら、ネットニュースだった。アルマはふんと鼻を鳴らして、こともなげに言った。過去に、知っている者からすれば明らかな妨害行為があったのも事実、今回またそんなことに関わったとなれば、ヤツらの手口。これしか手を知らないんだろうな、とあきれていた。ネットニュースを見ればあんたならわかるだろう、と試すようなことを言う。あまりにも稚拙な文章、ただ悪意を煽るだけの見出し。どこの誰が書いたかわからない文章は、売り物になる代物ではない。なのになぜ、発信される?……くだらない書き手がたくさんいるんだろう、と思っていたけどアルマはそうは思っていない。オレでももう少しましに書ける、それくらいは誰でもできる。あるとすれば、この記事を出したいだけだ。タイトルで悪意を煽り、中身がなければ不安だけが残る。それが狙いだ、と平然と言っていた。不安を煽っているのは、あんたでしょう!そう言い返したけど「なら他に説明がつくのか」と聞かれて、考えてしまった。アルマは二十秒ほど黙って、ほらな、とだけ言った。
あいつらはろくなもんじゃないから、次回作は違うものにしろ。大してやってないんだろ?そんな無責任なことを言って、切り上げられた。そんなこと言われても困る、終われない。店を出て、アルマは立ち去ろうとした。気にするな、忘れろ。そう言って興味を示さなかったのに、すぐに振り向いた。私も背後を見た、名前を呼ばれたから。
「神宮司ゆかり?」
後ろにいた男に、エキドナ教団を知っているかと聞かれてそりゃ調べてたし名前くらいみんな知ってるから、ええ、と答えた。男はナイフを取り出して飛びかかってきた。後ろからアルマが……眼にも止まらないような速さで男の腕をつかんで握りしめた。男の手が勝手に開いて、ナイフを落とす。私が見ていなかっただけかと思ったら、みんな驚いている。アルマは男を冷ややかに見ていた。
「肉体強化黒魔法、剛健。生身の人間の比じゃねえよ、諦めな」
……ハッタリばかりじゃなかった。少なくとも身体能力は常人のものではない。目の端に捉えただけの手は、弾丸のような速さだったとだけはわかった。でも男は諦めてくれなくて、アルマは仕方なく次の手を打った。男の顔に自分の手をかざして力を込めると、男は驚いて体を丸めてうずくまった。
「光と闇の転換魔法。効果はすぐに切れる」
その男はうずくまって我に返ったようで、泣き出した。頭を抱えて立ち上がれない男からナイフを取り上げて、気にするな、忘れろと言うアルマにもう一度文句を言った。私はともかくこいつが忘れちゃダメでしょう!ポリポリと頭をかいたアルマは、何か言おうとしたようだったんだけど、最後まで言わなかった。だって私たちの周りは明らかに異常だった。あんなに天気が良かった昼下がりは急に光の差さない夜になって、何も見えなくなった。向こうから、明かりが近づいてくる。誰かが片手にぶら下げたランタンは、ぼんやりとその人を照らしていた。指を一本ずつ弾いて、まるで数え歌を歌うように鼻を鳴らしていた。わずか数秒の夜が終わってまた昼間が来ると、アルマが驚いていた。走り出して周りを見るけど、何かの幻覚だったのかもうどこにもいない。いるのは気が抜けたような襲撃犯だけ。大慌てのアルマは、誰もいないのに言っていた。
「まだやってるのか、ウィリアム!」
松明のウィリアム。私がその名前を忘れられなくなるのは、もう少し先のことだ。
※
アルマは本当に襲撃犯を責める気がないようで、こちらはたまったものではない。あわよくば警察がエキドナ教団に踏み込んでくれるかもしれない。通報する!と被害者が言っているのに「無駄だ」と一蹴された。法律が何のためにあるか知っているか?と聞かれて、法治国家でそんなことを聞かれると思っていなかったからバカだと思った。そしたらアルマの答えは、少し斜め上で。
「法律を守らせるためだ」
法律を守っていれば大丈夫、と思わせれば後は手玉、意味のないルールを恐れて踏み込まない。法律を破ったらすぐに捕まるというのなら、あんな分厚いだけの辞書には言いがかりになりそうなことがたくさん書いてある。あの辞書に書いてある内容は、難しいと評判なのに一部分だけが抜粋され、引っかかったという箇所は三行あれば全文が終わる。本気で読むヤツは気が知れないし、法律を守らせるために作ったのなら法律の向こうにはなんの力も働かない。それに飛びつくのがもう術中だという。じゃあどうすればいいの!と聞くと「知らん」。この世にはエキドナ教団を裁くための部署がない、だからオレは安アパートで口に糊して生きているんだと不満げなのに何もする気がないらしい。エキドナ教団を止めるものはなく、ヤツらの罪に名前はない。ならば誰も口出しできない、名前ではないものが見えるヤツはほとんどいない。もしいたら、魔力や霊能力よりよほど貴重な力だと言っていた。私は頭を抱えたけど、アルマには気になることがあるらしい。
「ヤツを止めるなら協力する。仕事の範疇だ」
……ヤツ、というのはアルマがウィリアムと呼んだあの男。仮面にチューリップハット、マントのような服を着たランタンの持ち主は、やはり幻ではなくアルマも見ていたらしい。私はそんなこと頼んでない、と言ったけど止めるという。なんでそんなことをするのかというと「止めたいから」らしい。あんたがエキドナ教団を止めたいならおそらく出くわすだろう、ととんでもないことをアルマは言った。私は刑事事件を追っているのであって、幽霊とも妖怪ともつかない超常現象はお断り!だったらアルマを呼ばなきゃいいのに、実際に目の当たりにしたらもうごめんと思うようになってこう言っている。でももう取り返しがつかない、だって一度襲われたし私の名前で探していたから一人になると余計に危ない。しかたなくアルマと、「協力」することにした。助けてもらうわけじゃないからね!わかってる、と言ったアルマは持ち合わせではファミレスの支払いができず私が払った。まず貸しが一つ。
ウィリアムとは誰なのかと聞くと、有名人らしい。ウィリアム・オブ・ザ・ウィスプ、通称松明のウィリアムは知っている人が多いというが、私は知らない。バカにされるかもしれないから黙っていたら、アルマは特に何も思わないらしい。仕事柄知識が偏り、依頼人に話が通じるなんてほとんどない。それが当たり前なのにいちいち感想はない、というのが本人の談だった。アルマは、ウィリアムに関する昔話の一つを、私に聞かせた。
ウィリアムは悪さばかりするろくでなしだったと「言われている」。神をだまして私腹を肥やしたウィリアムは、一条の光も差さない闇の中に落とされた。それを哀れんだのは神ではなく悪魔で、燃える石炭の一つを分け与えた。その石炭の炎を頼りに、ウィリアムは今も闇の中を歩んでいる……というおとぎ話。悪魔の手先なの?と聞いたら、うん……と煮え切らない。神に弾かれて悪魔の手を借りたのは事実、だが手先かと言われればなんとも言えない。第一ヤツの周りは常にあの夜の闇。それはヤツが人間だからに他ならないという。アルマは、さっき襲撃犯にしたことをもう一度実演した。指を軽く弾くと、その中が暗くなった。光を闇に変え、闇を光に変える。「光と闇の転換魔法」はくだらない割には人間にしかできない。二つの極性の狭間にいるからできることで、暗いところを明るくするくらいしか使い道がない。さっきはあの襲撃犯の目の中に、強い光を出した。びっくりしたから背中を丸めていたが10秒も続かない。その代わり本人からすればかなり強烈で、瞳孔が大きく動いた。驚いたらしゃっくりが止まるようなもので、いったん落ち着いたらしい。
「ウィリアムが連れてくる夜の闇は、本人が作ってるんだ。光から闇への一様な変化を、止められない」
ウィリアム本人が暗くしたいわけではなく、勝手に暗くするように体を変えられた。だからどんなに明るいところに行っても自分の周りに光が差さない。あそこを明るくできるのは、逆の極性を持つ者。「いわゆる」悪魔だという。それでもあんな小さな明かりが限界で、無いよりマシという程度。悪魔が何を思ってウィリアムに明かりを渡したかは、よくわかっていない。
どんな酔狂で与えたかは知らないが、ウィリアムは助かるとともに怒り狂った。なんで!何がどうなっている!……気持ちはわからなくはない、というアルマはまるで友人のことを語るように、声を落としていた。アルマが友人と呼べる人はもうこの世にいないらしいが、ウィリアムは仕事をしていれば稀に出くわす腐れ縁、いつもあんなことをしているという。こんな世界は、なくなればいい。そう思って、たくさんの人間の恨みを、集めている。降り積もれば自分の命すらすり減らす悲しみを、もうどれほど集めたのだろう。ウィリアムが深い夜の闇に落ちたのはずっと昔。……想像もできないし、したくないという。できれば止めてやりたい、というアルマは、ウィリアムと大した仲ではない。なんでそんなことするの?と聞くと「……出くわしたからかな」と言っていた。初めてアルマの言うことが少しだけわかって、そうね、と私は答えた。
※
次の日の朝、ニュースを見て驚いた。大きな動きはできないはずだから素知らぬ顔で、というアルマの読みが大外れ、教団の礼拝堂が壊された。それはもうズタズタになって、誰かが押し込んだのだろうという報道だけど手がかりがほとんどない。アルマに電話すると知らなかったようで、どうということはない、と言っていた。どこがよ!って怒ったら、やられたのは教団だからだという。私を襲ってきたのは教団関係者のさらに関係者で、今回襲われたのは教団。やったのは教団に恨みがある者、呉越同舟の立場にいるから見ていればいいらしい。こちらはまだ何も動いていないからどうともない、というのだがこのアルマという男は詳しい割には抜けている。携帯片手にしゃべっていたのにこちらのインターホンが鳴ったのに気がつかず、私は出てしまった。いたのはいかにもな首飾りをつけたスーツの男、「神宮司ゆかり?」と聞かれて固まってしまった。来てもらおうか、と言われたら怖くて逆らえない。あの男は、「呉越同舟」は知っているのに「三つ巴」は知らないらしい。私はもっと賢いから「身の安全」を知っている。だからついていくしかなかった。
その日の昼、アルマともう一度会って喧嘩になった。なーんでそんなのについていくんだ!仕方ないじゃない!「お互いに都合がある」ことをわかっているのに「お互いにヤバすぎる」から当たり散らす。一応業界最高峰のアルマは仕事を選び、嫌なら断ることがある。仕事を選ぶなんて言うとよほどいい立場なのかと思うけどお金がないのが見てわかるからただのわがままだ。だからアルマを動かすにはアルマの関係者から当たるのがいい。相手は関係者に「その気なら」強要することができて、アルマだって手当たり次第に当たられたら困る。どうせ今回のことしか考えていないから全員で流すのがいいらしいが、私は部外者だからそんなこと知らない。あんたもミナカタさんも言わなかったじゃない!ミナカタの野郎言ってないのか!というやりとりの末に「ミナカタさんが悪い」という結論にとりあえず着地、何か違うとは思うけど言ってたら始まらないので忘れることにした。まったく、ろくでもない。教団の指示は事態の収拾、襲撃犯は礼拝堂を潰しにかかるという。おそらく悪魔の仕業だ、という教団の主張に、アルマは珍しく「他人をけしかけてくるヤツは悪魔と決まっている」と理解を示した。
あの礼拝堂はもう使い物にならず警察の管理下にある。いろんな意味で終わっているらしい。おそらくエキドナ教団、もしくは関係宗派の施設が狙われるという読みの元にアルマは病院や製薬会社までピックアップした。関係ないのに最優先らしい。影響でいえば一番デカい、という考えらしいけどそんなこと言い出したらお役所は全部押さえないといけない。「そこまですると角が立つだろう」と語るアルマは、ここまでは平気と思っているようだ。
工業地帯は都市を離れた山奥と相場が決まっている。大きな機械がずっと動いているし、潮風のような外からの影響は少ない。関東から少し離れたまるで避暑地のような場所に、製剤工場があった。駅前にしか駐車場がないとぼやくアルマに、ぜひ歩きましょう!と頼んだ。こいつの車にこれ以上乗ってられない。40分以上歩く間に、タクシーを拾えばよかったと後悔した。一人で行かせられればいいのに、私はお目付役だから行かないといけない。正確にはお目付役に目をつけられたから嫌でも行く。駅前で待ってりゃどうだ?と言われても、売店が一つとバス停しかないのに待ってられない。店がある駅まで電車に乗ったら、お目付役にならず帰るのと同じだ。ひいひい言って歩く間にアルマを根掘り葉掘り問い詰めた。工場と何の関係があるのかと思えば、最初を忘れているだけらしい。
「どうしてエキドナ教団を追ってる?」
薬物密売、とようやく思い出した。製剤会社と関係があって、これから行くとなれば……まさか!ドラッグを流通させてる!?と核心を突いたつもりなのに「薬は出てこない」。でもそれだとつながらないから納得いかない、と言ったらアルマがあきれていた。
「新薬の開発ってのは大変なんだぞ。たかが教団ができるわけないだろう」
だから薬なんていいものは使わない。こういうことがしたい、と思っているなら混ぜ物でなんとでもなる。一般にミネラル扱いされる少量の重金属を混ぜておけば体調は簡単に崩れる。それを補うために別の薬品、それにももちろん……待ちなさい、重金属なんて入れたら大変じゃない!と今度こそ核心を突いたつもりだったのに、「ああ、大変だ」と流された。アルマ曰く、病気というのは原因がわからないから治せないのであってわかれば割とすぐ治る。自分たちだけが原因を知っていれば自分たちだけが治せる。そしてここで、完治させるかどうかという選択の自由が利く。悪魔の中には生殺しで人間から搾取しようという者もいるらしいが、たぶん規模が大きすぎて個人単位が見えていないと語ったアルマは、話をこうくくった。
「もう間に合ってる」
カワミ製薬の製剤工場にたどり着いたのは少し遅くて、もう始まっていた。
明らかに誰かに壊された車が並ぶ社員用駐車場の向こうで、工場から火の手が上がって轟音が鳴っていた。敷地の外からでも様子がおかしいのがわかる。もちろん守衛に頼んだって入れるわけないけど、緊急事態。だってアスファルトが脈打って人の形に立ち上がったんだから緊急なんてもんじゃない!ウィリアムの知り合いか?って聞いたアルマは振り下ろされた手のひらに叩き潰されたのかと思った。でもアルマは避けていて、壊れたのは会社のフェンスだけ。アルマはわざわざ敷地の中に逃げ込んで、私は置いて行かれる方が怖いから追いかけた。一直線に向かったのは、薄暗い工場の中。アスファルトが途切れて、怪物は入ってこなかった。その代わりに敷地の中には、別の怪物がいた。
赤い。大きい。歯をむき出しにして笑う大男。アルマが「パワーデーモン」と呼んだそいつは、黒い人影をたくさん連れていた。もちろん会社の関係者であるはずがなく、棍棒片手に作業服の人の胸ぐらをつかんでいた。アルマは手のひらの中に白い光を出すと、振りかぶった。プレイボール!わざわざ叫んで投げるものだから飛んでいった白い光は棍棒で砕かれた。お前がいるってことは大当たりのようだな、ってアルマは得意になっているけどそれどころじゃない。周りを囲まれて、相手は見るからにアルマより強い。壁を背にして追い詰められて、手下をけしかけられてもアルマは余裕だった。原色って何か知っているか?ってバカにしないで、赤青黄色!そしたらアルマは手を大きく開いた。
「なら、光の三原色は?」
パン!と叩いたアルマの手元が、強烈に光った。黄色い光があたりを包んで、何も見えない。手下が入り乱れて、パワーデーモンも目を覆っている。自分で来ないから、逆光で影しか見えないだろうとアルマが得意になっている。棍棒を杖に立ち上がったパワーデーモンの横にある機械にアルマが光を撃ち込んだから、崩れてきてパワーデーモンが受け止めた。アルマは平気な様子で話しかけにいった。今なら少しはわかるだろうと得意になっているが、つかの間のことだった。指を弾く音と足音、何より真っ暗になった周りの景色が「あいつが来た」と告げている。ランタンの光を下げて、ウィリアムが現れた。アルマは少しだけ構えて、ウィリアムに言った。
「こいつを見ればわかる。やめるんだ」
ウィリアムは何も答えずパワーデーモンの前を通り過ぎて、二人ともいっぺんに消えてしまった。馬鹿野郎、と言っていたアルマは会社の人たちに捕まって問い詰められた。一緒に逮捕されるかと思って、「私たち、エキドナ教団の!」と口走ったら追い出された。何か深い関わりが……?と思ったら「宗教の話なんてしたら追い出されるに決まってるだろう」とアルマに核心を突かれた。ああ、悔しい。
※
パワーデーモンを取り逃がして、倒したと言い張れなくなったアルマは次の手を考えるらしい。言い張れないということは本当に倒す気はないのだろうかと思えば、「本当に倒してもキリがないから倒さなくてもバレない」というなかなかの社会不適合者っぷり。それでもアルマは「社会に適合するのは、適合したヤツの前だけでいい」と開き直る。相手がしてないんだから別にいいだろう的なそんな感じ。適合してないのは、今のところこいつだけなのに。
カワミ製薬はエキドナ教団を通して私たちに情報を送ってきた。正確には私に送って私がアルマに伝える。「てめーがいなけりゃぶっちできるのに!」と怒るアルマともう一回喧嘩して、被害状況を照らした。どうやら工場で大騒ぎがあったときに、社屋で他の騒ぎがあったらしい。真っ暗になって窓の外も見えず、明かりがついたら書類がいくつかなくなっていた。名簿とか顧客情報とかなくなったら大変な取引の関係、「社員はただの社員だから」会社は大慌てらしい。本人たちはただ働いているだけのつもりのようで、エキドナ教団と通じてるのに?と聞くと、通じてるというより常にモニターされていてそのことすら何人気がついているか定かではないらしい。大きな会社だからパソコンの入れかえなんて頻繁にできる。他のメーカーのように20年前のOSを使い続けているとは考えにくいらしい。OSが新しい方が安心じゃないの、と聞くと「だったらいいな」。もっともここはアルマもよくわかっていないから警戒しているだけ、わからないものは危ないと基本的に考えているらしい。ウィリアムは何がしたいの?と本題に戻ると、よくわからないとか。持っていったのは名簿、顧客管理の情報。PCの中にもっと詳しいデータが膨大にあるのに書類を持っていった。アルマはバカだから、書いてあることよりも「紙か否か」が気になって仕方がないらしい。でもそれ以上は進まずに時間だけが過ぎていった。
※
ウィリアム・オブ・ザ・ウィスプ。要するに鬼火。詳しい伝承はあまり残っておらず、アルマ曰くどんどん消えているらしい。教えられた文献を当たると確かに書いてあるが、今はその話はほとんど残っていない。「あったはずの話が残ってないなんて、おかしな話だろ?」とそれだけは残る。アルマに言いくるめられるなんて私の誇りが許さないが、言い返せなかった。あったものは、形が変わってもなくなるはずがない。どんな初歩的な学問も、それを否定することはない。
でも残っていないんだから仕方がなく、想像で進めるしかない。反例を見つけたら引き返して、もう一度。それを繰り返すと、どんどん現実が壊れて何も残らない。この世界は全て何かに塗り固められた奇妙な場所だ、と昔のSF映画のような話になってしまう。アルマは連想したものがあるようで、よくできてたよな、と話に乗ってきた。一見チンケなワイヤーアクションも何かを見せたいからねじこんだというなら天晴れの一言だ、と制作はアメリカなのに天晴れと言われたって嬉しくないだろうという話を続けた。
でもそういうことだ、とアルマは当然のように言っていた。すでにこのパズルは世界中で解かれていて圧倒的な圧力が拡散を許さないだけ、見る者が見れば一目で何をしているかわかる。接触すれば共倒れになるのなら暗号を飛ばし合って相手の出方を見る。漫画、映画、テレビ、広告……目につくメディアだけでも数知れないが、わからない者は一生気づかずに過ごす。もちろん馬鹿げているが、こちらにはこれしかないからずっと続けているという。頭の上に爆弾が落ちてきたら敵わないだろう、何回目だ、とろくでもない例え話をしていた。
そこまでわかっているなら何を困っていて、何がわからずに足踏みしているのか。そう思っていたら、わからないのはウィリアムのことだという。悔恨と怨嗟を集めて教団に復讐しようというのは想像に難くない。だがなぜそんな手段を取る?世界中で解決策はすでに見つかっていて後はどう広めるかだけ。ならばここからは頭脳戦、パワーで叩き伏せるのは下策だから誰もやらない。ウィリアムだけが、前世紀的な一挙殲滅の計画を続けている。あいつはそんなにバカじゃないというが、他の理由があるのだろうか。アルマは頭を抱えていて、何も思いつかないようだ。
「これはパズルだ。思っているよりずっと単純なパズル。解けないのは気がつかないだけ、簡単な話のはずだ」
だとしてもわからないから次の手は打てないし、身動きは取れない。「こちらはな」というアルマは、急いでいて真剣なのにのんびりしていた。焦れば踏み外して個人が潰される、広げればいいだけなのだから使うべきは頭だといって眉間にしわが寄るばかり。私はスマホの通知を見てネットニュースを開いた。ろくなこと書いてねえぞ、とアルマは言ったけどそれどころではない。緊急ニュースはこの近く、警察署が破壊されたらしい。やっぱりその辺か、というアルマは店を出た。すぐに出れるようにコーヒー一杯分の小銭を手元に用意していたけど、なんで五円玉や十円玉がたくさん混じるんだろう。
美濃井署は所轄としては大きいのだと思うけど、所詮は所轄。警察を襲いたいならなぜ警視庁ではないのかとアルマが不思議がっていた。バスか地下鉄、と選んでいるアルマをタクシーに引き込んでおごってやるから早く来い!と急いだ。アルマはあまり気分が乗らないらしい。公共の交通機関でもどうかと思うのに、タクシーには平然と無線が積んである。気にしすぎだとは思うが……なんて言ってたら、火の手が上がる警察署について支払って降りる前に、タクシーが横転した。パワーデーモンと呼ばれていた赤い鬼が、投げ飛ばしたらしい。アルマが這い出したときにパワーデーモンは拳銃を取り出した。最強で最凶な囚人だ!と頭によぎったけどその前にやってきた夜。むりやりタクシーから這い出したアルマが、光を探した。
「ここではなかった。帰るぞ」
ここではない?当てずっぽうだった?私の疑問が言葉になる前に、ランタンの持ち主はパワーデーモンを連れて帰ろうとしたけど、アルマが手を打ち鳴らした。光と闇の……その魔法をたぶん全力で仕掛けると、ぼんやりと明るくなってきた。一方通行の分、相手の魔法の方が強いようだ。
「……わかったぞ!てめえ!」
ウィリアムはパワーデーモンをけしかけて、自分は帰っていった。魔法を続けられなくてアルマが手を離すと暗くなり、私は手を引っ張られてビルの陰に連れていかれた。息を切らせたアルマが、あの野郎!と焦っていた。ウィリアムがなぜこんな計画を取るか、わかったという。
ウィリアムが闇の中に落ちたのは中世以前。それから延々と石炭の明かりを頼りにさまよっていて、その間に光の下の世界は動いた。ウィリアムは、それを知らないという。これだけ情報技術が発展して世界中で電波が飛び交っているのを、ウィリアムは知らない。
「あいつのいるところには、光がないんだ!」
情報技術はそのほとんどが画面によって媒介される。視覚がなければ肝心要の情報量が激減、何が起きているかわからない。そしてウィリアムは、画面を全て消してしまう。本人の意思に関わらず。新たに世界中に張り巡らされたネットワークの規模がわからないならその作戦は一点突破、もうすでに実体などないのに一気に叩き潰そうとする。なんて単純なパズル、光のある者にはこの当然が見えない。そんなことをしても無意味、下手をすれば逆手に取られて逆効果だというのに、ウィリアムの怨嗟は止まらない。まるで死人から流れる血、人々の流す涙。ウィリアムはそれを、止めることができないという。……止めないと!ああ、と答えたアルマは外に光が戻ったのを見て飛び出したけど、目の前にパワーデーモン。エネルギーをもらったみたいでさっきよりよほど大きく強そうだ。構ってられるか!とアルマは弾けるように動いて相手の頬を張った。その途端、パワーデーモンの目は例えではなく本当に光って、ぎゃあ、とうずくまった。早く、早くしないと!パワーデーモンは急いでいて、慌てていた。すぐに倒せると思っていたアルマの反撃を食らって、逃げるのが遅れたとわかったのはその後。私とアルマとパワーデーモンは、割れた地面の真っ暗闇の中に落ちていった。
※
……気がつくと、誰かの家にいた。暖炉の前で毛布をかけられていて、起きると人の声がした。気がついたか、って話しかけてきたのは、影。目が慣れていないのかと思ったら、黒い体に牙と角を持つ人のような姿だった。飛び上がってソファから落ちると、下にはパワーデーモンが寝ていて、ぎゃふっと言って起きた。人の姿の何かは、スープ皿を私たちの前に置いて、食ったら落ち着くだろうと言って椅子に座った。
このあたりには、たまに落ちてくる人がいるらしい。放っておくことがほとんどだが、気になったときは助ける。ただの気まぐれだ、という人の姿の何かは、パワーデーモンを見てニヤーッと笑った。怖い顔は、体に悪いぞ。パワーデーモンがスープに口をつけて、私ももらった。
寒いだろうと暖炉に薪をくべようとした人の姿に、私は聞いた。あなたは人間?それとも……悪魔?怒られるかと思ったけど、人の姿の何かは、悪魔と言えば悪魔だ、とあまり気にしていない。神と呼ばれていたときもあるが、どちらも名乗った覚えがない。そう呼ばれているなら、そうなんだろう。開いた暖炉には、赤々と燃える石炭が入っていた。それは……!私より先に、パワーデーモンが叫んだ。
「それは、ウィリアム様の!」
なぜ持っている?と聞かれた人の姿は、ああ、と思い出したようだった。出先で渡したことがある、一個かそこいら……なんで渡したの?と私が聞くと、人の姿は答えた。
「前が見えないだろう」
……それだけ?と聞くと、他にないだろうと言われて何も言えなかった。三つしか持っていかなかったから、一個しか渡せなかった。遠くだったからそれ以上せず、今日は家が近かったから、お前たちを連れてこれた。この、悪魔のような何かは、それ以外のことを言わなかった。なんで連れてきたのかと聞いても、気まぐれだ、としか言わない。気にならないなら放っておいた、とそれだけだった。毎日が楽しければ、食う物があって寝床があって、あとは思いつかないから気の向くまま。歌でも歌って笑っていればいいと太鼓のような物をトントン叩いた。そんなことしてる場合じゃない。ウィリアムを止めないと。でもわかってもらえない。どうしよう……。そしたら悪魔のような何かは、私たちに言った。気になるなら行けばいいじゃないか。私は立ち上がるとお辞儀をしてその家を飛び出して、パワーデーモンも後からついてきた。他のものがついてくるなんて、そのときは思ってなくて。
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くそったれ!神宮司のヤツ、はぐれやがった!おかげでオレは一人でウィリアムを追わないといけない、あいつがいたからと言って役には立たないが頭は一つ増える。なのにオレは、戦いながら頭をフル回転という至難の業を求められた。肉体強化魔法「剛健」は負担を軽くするために思考を止めないといけない。考えたらすぐに力尽きるってのに!目の前のウィリアムは、東京のど真ん中だというのにとんでもないものを持ち出した。いっそのこと全部吹き飛ばそうとでも言うのか、今にも爆発しそうな巨大な黒いエネルギーの塊!おそらく黒いわけではなく光を奪われているのだろうが、蓋を開ければまず間違いなく赤い怒りが渦巻いている。止めてやりゃあいいものを、そうもいかねえ!
「アルマ君、世界は救わないとねえ」
この期に及んでエキドナ教団は自分のことしか考えない。こんな連中相手にしてるからこうなるんだ、殴って止めてやりたいがこっちに教団の影があるならオレはあいつを倒せない。エキドナ教団に都合のいい噂を流す口実を与えてしまう。元凶をより盤石にしてどうするってんだ!オレがヤツを倒そうと都心にエネルギーが投下されようと、教団は死なない。オレもお前も犬死にじゃねえか!どんなに叫んでもウィリアムは止まらない。血が、涙が止まらないように、もう止まることができない。頭上の黒い塊を一気に落とそうと、ウィリアムが手のひらに力を込めた、そのとき。ぽつり、ぽつりと光が現れた。ウィリアムのいるところに光は現れない。なのにそこかしこに光が現れて、集まってくる。オレはようやく気がついた。そうか、今日は!秋の終わりだ!エキドナ教団がオレをけしかけようとしたが、オレはもう戦う気がなかった。
「忘れたか?今日はお前たちが唯一黙認する異教の祭典。バケモノの行進だ!」
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私たちが来ると、周りは賑やかできらびやかになった。私とパワーデーモンの後ろをついてきたのは、仮装した子どもたち。カボチャのランタンが笑って、ドラキュラやフランケン、自転車のかごの宇宙人。狼男、魔法使い、季節外れのサンタさん。みんなたくさんあつまって、思い思いの格好ではしゃいでいた。ウィリアムはそれを見て、驚いていたようだった。光があるからだろうか。そういうことではないような気がした。頭の上に浮かんでいた黒い塊が、動きを止めた。アルマはどかっと腰を下ろして、笑っていた。
「……大丈夫だ、心配すんな。この世にはいいヤツがたくさんいてよ、みんなそいつらが好きなんだ。こんなにたくさんいるじゃねえか」
ウィリアムは何も言わず、何も言えず、お祭りを見ていた。黒い塊が少しずつ小さくなって、消えていく。もう戦う必要はない。エキドナ教団は帰っていこうとしたけど、アルマが呼び止めた。
「今日だけはあんたらにも……いいことがありますように」
そう言ってアルマは十字を作った。右手を縦に、左手を横に。シュワッチなんて言ったから、教団の人は怒って帰ってしまった。気がついたら、朝。ウィリアムもパワーデーモンも、どこかに行ってしまった。
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そんな話は、誰も信じてくれない。締切が守れなくて新作の話は流れた。姉さんが連れてきた甥っ子は、私の話よりも昔話に夢中で、私は絵本を読んでいた。桃太郎は犬と猿と雉を連れて、悪い鬼を懲らしめて、人には優しくするようにと教えて、みんなでいつまでも幸せに暮らしました。まだ幼い甥っ子は、宝物は?って気にしていたけど、この方がかっこいいでしょ?って私が言うと、「……そうだね!」って笑ってくれた。めでたしめでたし。




