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触れなかったモノ

短編です

 ソレは、ふれなかったのか、さわれなかったのか。

 私にとってはどちらでも良いのだけれど、あの時、私には触れなかった。

 触れられなかった、が正解なのかもしれない。でも、触れたくないと思っていたのも確かで、自分の意志で触らなかったのか、それとも触ってはいけないと思っていたのか。

 思い返してみると、誰かに、触れてはいけないと、叱られた記憶があったのかもしれない。

 または、触ってはいけないモノだったのかもしれない。

 どちらにせよ、私はソレに触れなかった。

 触れたら壊してしまいそうで、触れられなかったとも思える。

 力加減のまだよくわからなかった頃、手に持っていた綿あめを握りしめて大泣きする姿を両親に見せられた記憶がある。あんな感じで。私は未だにソレに触れるための力加減が解らない。

 優しく触れる方が良いモノ、強く触れても平気なモノ、撫でるような触れ方しかできないモノ、投げても割れない強度を持っているモノ。

 今まで様々な強度のモノに出会ってきたけど、似ているモノはあれど、まったく同じモノはなかった。真正面からぶつかっても壊れなかったモノが、ほんの小さなヒビから決壊していく姿を見かけることもあった。私にしてみれば、そんな小さなことで?と思ってしまうが、ソレを持っている人にとっては、大事だったらしい。

 それだけたくさんのモノと触れ合ってきたけれど、やっぱり正しい触れ方というものは解らない。

 せめて最初はどの力加減が良いのか、だけでもわかれば、だいぶ過ごしやすくなるのになぁといつも思う。

 ときおり、扱いの上手い人を見ると、つい羨望の眼差しを向けてしまう。

 羨ましいなぁ、あんなに容易く扱えて。なんて思ってしまうが、それだってその人が編み出した方法なのだから、“どうやっているのか”を聞いたところで、実践できない可能性がある。

 触れ方は様々。触れてもいいし、触れなくてもいい。

 たったそれだけの事なのだけど、触れたら触れたで、問題が起きるし、触れなければ触れないで問題が起きる。

 私はあの時、あえて触れなかったと記憶している。いや、触れるなと言われたんだったか。そもそも触れてはいけないものだと認識していたのか。

 なんにせよ、私はアレに触れなかった。

 もし触れていたら、なんてことも考えるけど、あまり良い未来は見えてこない。きっと何かに巻き込まれていた可能性がある。

 触らないほうが身のためなんてことも、十分にあり得るのだ。うん、私が触れなかったのは、仕方のない事実だ。それを周囲からとがめられたところで、どうしようもない。

 それにもう、だいぶ過去の記憶だから、今更そのことについて考えたところで、それこそどうにもしようがないモノなのだ。

 しょうがないしょうがない。


 そうやって押し流そうとしたって、喉に引っかかる小骨のように、心の隙間に残り続けるのが厄介なところだ。それに気が付くと、「あぁ、私はまだあのことを気にしているんだな」なんて、感傷にふけりたくなる。

 今更考えたってどうしようもないことなのに、咎められたって過去は変えられないのに。時間が経ってもまだ気になる。

 残り続ける小骨が取れる日は来るのだろうか。

 あぁ、とかく人の世は生きにくいものだ。


——触れなかったモノ——

ふれなかったのか、さわらなかったのか、にどのくらいの距離感があるのか

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