中濃ソース
その日の晩、教会には食欲をそそる香ばしい匂いと、サクサクッという小気味よい音が響いていた。
「……これが、『とんかつ』……」
カレンは目の前の黄金色に輝く肉塊を、震える手で箸(アデルが予備知識で作った)を使い、見つめていた。 厨房では、アデルが巨大な肉切り包丁で肉を叩いていた。その姿は、子供たちには「捕虜の骨を砕いて柔らかくしている」ように見えたが、実際にはただのスジ切りである。
「いいか、衣を付けるときは優しくだ。魔力を込めすぎると爆発するからな(※アデルの特性による)」
「はーい、アデル先生!」
アリスが楽しそうに手伝っている。 アデルが肉を高温の油に投入すると、シュワーッという激しい音が鳴り響いた。
「ひいいいッ! 釜茹での刑だあああ!」 「あの中には、さっきのオークたちが……!」
子供たちが恐怖に震える中、アデルは無言で揚がった肉を引き上げ、包丁で一気に切り分けた。 サクッ、ジュワッ。 溢れ出す肉汁。
「……さあ、食え。カレン、お前は特盛りだ」
アデルが差し出した皿には、山盛りの千切りキャベツと、巨大なロースカツが鎮座していた。カレンはごくりと唾を飲み込み、意を決して一口かじった。
「ッ~~~~~!!」
サクサクの衣。噛みしめるたびに溢れる豚の甘み。そしてアデル特製の、少し酸味の効いた漆黒のソース。
「……あ、悪魔の……悪魔の味がする……! 抗えない……体が勝手に……!」
「ただのソースだ。中濃だ」
カレンは一心不乱にカツを口に運び、子供たちもまた、恐怖を食欲が上回り、無我夢中で食べ進めた。 アデルはその様子を、影の濃い顔に満足げな笑みを浮かべて(周囲には『獲物が罠にかかった』邪悪な笑みに見えたが)眺めていた。
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