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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
6章  待ち過ぎた女

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 初めてクルテを見たのはネネシリスに追われて崖っぷちに追い詰められた時だ。クルテは空中に浮かんで、俺を背後から肩越しに覗き込んできた。驚いた俺はつい足を踏み外して崖から落ちた。アイツは宙に浮かんだまま、落ちていく俺を()おろろしていた。頭の中に直接話しかけてきたり、宙に浮かんだり、蛇や(はし)、シャボン玉に姿を変えた。人間の()()はない。魔物だってことに嘘はなさそうだ。


 怪我の手当てをし、面倒見てくれたのもクルテで間違いない。滝に隠された洞窟に俺を運んだのもきっとクルテだ。


 ネネシリスに復讐し王位を奪還しろ。その手助けをする、それが(ゴル)を葬り去ることになる――クルテは俺にそう言った。()じんも疑わなかった。


 思い返せば、誰かを疑ったことがない。臣下はすべて信に足る者ばかり、裏を取るようなこともなければ、自分で調べたりしたこともない。(もたら)された情報から判断するのが俺の役目だった。だからネネシリスに簡単に騙されたのか? 静養に来いと誘われ、行ってすぐさま狩場に出向いたのに、なんの疑問も持たなかった。まずは館で姉上との対面とか、持て成しがあるものでは? ネネシリスの性急さに(まゆ)(しか)めた臣下もいたのに『よっぽど狩りに行きたいんだろう』と笑って流してしまった。その結果、忠臣はネネシリスに命を奪われた。


 そんな(にが)い思いをしたのに……俺は性懲(しょうこ)りもなく簡単に他者を信用している。クルテに言われるまま、崖を出たあとはザジリレンの様子を確かめることもせず、導かれるままローシェッタに逃れた。ローシェッタに来てからは辿り着いたコゲゼリテで、やっぱりクルテに言われるまま疑いもなく魔物退治に乗り出した。


 そのあとはデレドケに連れて行かれ、ギュリューに行き、聖堂の森、セレンヂュゲからグリュンパ、ジェンガテク湖と回り、ギュリューに戻ることにした。カッチーをコゲゼリテから連れ出し、デレドケで知り合ったマデルも同行している。それらを決めたのは俺だったか? クルテが言い出したことばかりだ。


 マデルに協力し、フレヴァンスを見つけ出してローシェッタ国王の信用と助力を得る。クルテはそう言った。だがそれは、カテロヘブは錯乱などしていない、それを証明する意味合いもあったはずだ。


 姉クリオテナがカテロヘブ乱心を信じていないのなら、他にも手はある。ザジリレンに潜伏し、密かに連絡を取る。クリオテナを動かしてネネシリスを討つこともできるはずだ。


 クルテは、どの程度事実を知っていたのだろう? ネネシリスの思い通りに事が進んだと、本当に信じていたのだろうか?


(買い出しに行った村ではみんなそう噂してた)

頭の中に聞こえたクルテの声は弱々しかった。

(カテロヘブが錯乱して臣下を皆殺しにしたそうだ。崖から落ちて行方不明、もう助からないだろう。明日は葬儀、その三日後には王女さまの戴冠式なんだって――噂をそのまま真実と誤認して、カテロヘブに話した。わたしのミスだ。済まないと思ってる)


 あぁ、俺はまた、きっとクルテに騙される。鵜呑(うの)みになんかするものかと思っているのに、そんなこともありそうだとも思っている。


(ねぇ、カテロヘブ……)

クルテが少し体を動かしピエッチェを見た。

(わたしが信じられないならそれでもいい。疑うならどんなに疑ってもいい――だけど、そばに居させて欲しい)


 そしてやっぱり騙される。

(居たいだけ居ればいい。俺が王位を取り戻すまでは人間の姿で、そのあと人間に()れても成れなくても、ずっとそばに居るって約束したことを忘れるな)

そう言いながら、あれは約束だったのかと考える。違うのならば今、約束した。それでいい。


 クルテがそばに居たがる理由は判らない。なんらかの目的のため、俺を騙して離れずにいる。そうだとしても、それならそれでいいと思った。何があっても、クルテのそばに居たい。一緒に居ることを望んでいるのはクルテじゃなく俺の方だ。必ず思い出してクルテを人間に変える。人間に成れば、クルテに俺を騙す理由もなくなる。そう信じるしかない。


「ギュリューに着いたらザジリレンの様子を探ってみよう」

ピエッチェを見詰めたまま、クルテが言った。声が耳から聞こえた。


「起きていたのか?」

ピエッチェが(とぼ)けて言った。カッチーはまだ起きて本を読んでいる。ページを(めく)る音が途切れ途切れに聞こえていた。


「うん……ザジリレンの夢を見てた」

クルテの大嘘が始まった。カッチーの手前、ザジリレンと口にした言い訳だとピエッチェが思う。


「ザジリレン王宮の裏庭にある森に迷い込んだ夢――女神の像が森の入り口にあって、女神の森って呼ばれてる、そんな夢」

そう呼ばれてる森ならあるぞ、と言いそうになって慌ててカッチーを盗み見る。クルテはそんなピエッチェを気にする様子もなく、

「そこには(うろ)のある大きな木があって、わたしはその洞の中で誰かを待ってる。来たのはどこかの国の王さま……女神の娘の話をしたから、そんな夢を見たのかもしれない」

と続けた。


「どこかの国の王さまって? ザジリレン王宮の森ならザジリレン国王なんじゃないのか?」

「夢の中だから。ザジリレン王宮の森だって思ってたのに、王さまが来た頃はどこだったか判らなくなってた――なんだか幸せな夢だった。それだけ。で、ザジリレンはどうなったかなぁって」

「うん、ギュリューの酒場ででも聞いてみよう」

ニッコリとしてからクルテは目を閉じ、すぐに寝息を立てはじめた。


「俺、女神の娘の話、し過ぎましたか?」

カッチーが声を潜めて聞いてくる。

「今、読んでる話と、クルテさんの夢、そっくりです。王宮の森の木の洞に隠れた娘を国王が見つけ出すって」


 さてはクルテのヤツ、カッチーの頭の中を読んで夢を作り上げたな。

「気にするな、カッチーのせいじゃないよ。どんなに夢が物語に似てたって、ただの偶然だ」

「そりゃそうですよね」

カッチーが安心したように本のページに視線を戻す。暫くしてカッチーが呟いた。

「娘と国王は結ばれて、幸せに暮らしましたとさ……さてと、寝ようかな」

カッチーは暫くモゾモゾしていたが、すぐに(いぎき)が聞こえ始めた。


 ()を上げたのはマデルだ。

「もうダメ! 眠れやしない!」

ガバッと起きだして苦情を言った。カッチーが眠り始めて小一時間も経っていない。ピエッチェは座ったままウトウトしては、鼾で覚醒するを繰り返していた。

「カッチーを起こすか?」


 するとクルテもモゾモゾと動いて上体を起こし、小声で言った。

「起こしちゃ可哀想」

「でもクルテ、これじゃあこっちが眠れない」

マデルもなんとなく小声だ。クルテがクスッと笑う。


「小声で話しても相手の声が聞こえる程度。実はカッチーの鼾はそんなに大きな音じゃない」

「えっ?」


 マデルが神妙な顔をして、

「そう言われてみると……でも、眠ってるときは雷みたいに聞こえた」

と答えた。


「音の性質のせいかもな」

ピエッチェの言葉に、

「小さくても遠くまで届く音と、大きくても近くにしか聞こえない音があるよね」

マデルが頷く。


「カッチーの鼾は(かん)(さわ)る音、マデルは特に苦手なのかも」

とクルテ、

「なによ、わたしに原因があるって言うの?」

マデルは不満顔だ。


「マデルに耳栓あげる」

サックを探り始めたクルテにピエッチェがギョッとする。いつの間にサックを手元に持ってきた? いいや、今に始まったことじゃない。


 見つけ出したのか、クルテは四つん這いでマデルに近付き何かを手渡す。それを後ろから見ることになったピエッチェ、視線のやり場に困って目を背ける。クルテはもちろん、マデルもそんなピエッチェには気付かなかった。


「耳栓なんか、いつも持ってるの?」

「有ったらいいかなって。使ったことないけど、有ってよかった――ピエッチェも使う?」

「いや、俺はいい」


 それからは何事もなかった。

「昨日のうちに到着するはずだったんで、心配してると思うんです」

朝食の用意ができたと呼びにきた女にピエッチェが言った。


「食事もしないで出かけると、街まで持ちませんよ?」

「パンを少し持ってるんです。それを齧りながら行くので大丈夫です。お気遣いありがとうございます――ここから街までどれくらいかかりますか?」

「さぁ? 街に行ったことがないので判りません」


 とても残念そうだったが、女は出口までちゃんと案内してくれた。だが、部屋を出て廊下を行くものの、入ったときとは違うルートなのはすぐ判った。逆行しているからそう感じるのかと思ったが、木の枝が壁から飛び出しているのに気が付いて明らかに違うと確信した。


 こんなところは通らなかった、どこに連れて行く気だと冷や冷やしたものの、辿り着いたのは昨日と同じ玄関の()、扉を出た場所にも見覚えがあるし、リュネを預けた納屋も同じ場所にある。

「リュネ!」

カッチーが声を上げて納屋に走っていった。応えるリュネの(いなな)きも聞こえてくる。


「ありがとうございました」

ピエッチェが女に礼を言う横でクルテが

「お一人では寂しくありませんか?」

と女に尋ねた。

「一人きりになるのは今の時期だけですから」

女が微笑む。


「そうですか――ところでハァピーをご存知ですか?」

クルテの質問に緊張したのはピエッチェとマデル、女は

「もちろんですわ」

と、やっぱり微笑む。


「この森に住んでいますか?」

「えぇ、この森はハァピーの森。見つからないよう、気を付けて……森の中ほどに草原があります。そこはハァピーの狩場、近寄ってはいけません」

「草原を通らず森を抜けるには?」


 気の毒そうに女がクルテを見る。

「さては草原に出てしまったのですね? 道を進めばあの草原に出てしまう。だから道から()れ、我が家に辿り着いた――ハァピーに見付かってしまったと言う事なら、草原を抜けない限り森からは出られませんよ」


「草原を抜ければ出られるのですね?」

「向こう側に辿り着ければ、また道が続きます。入ってきた場所に出られます……でも、そう簡単に草原は抜けられません」


「出られた人はいるのですか? この森にハァピーがいると、噂でさえも聞いたことがないのですが?」

「草原の向こうの道を行くうちに、ハァピーの記憶はすべて消されてしまいます。つまり、脱出成功者は存在します」

「では、成功の秘訣はなんでしょうか?」


 女がクルテをマジマジと見てからマデルを見、ピエッチェをチラリと見た。

「要は男の取り合いです。知恵を働かせることですね。わたしが言えるのはそれだけです。では……」


 女が屋敷に入っていくのと入れ違いに、リュネを()いたカッチーが納屋から出てきて笑った。

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