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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
6章  待ち過ぎた女

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 どこで道を間違えたかなんて、判るはずもない。判っていたら間違えたりなどしない。


 来るときはセレンヂュゲを経由したが、ギュリューには森を抜けたほうが一日早く着ける。だからそちらを選んだ。それがいけなかった。


 クルテがセレンヂュゲには行きたくないと言ったのもある。

「あそこでは具合が悪くて寝てばかり」

まるでセレンヂュゲのせいで発熱したような口ぶりだ。だが本当は、マデルに気を遣ったのだろう。グリュンパ視察を終えたラクティメシッスも今日、セレンヂュゲに戻るとグリムリュードが言っていた。グリュンパとセレンヂュゲを繋ぐワイズル街道のどこかで出くわさないとも限らない。


 宿の女将(おかみ)さんに道を尋ねると、

「あの道は、時どき魔物が出るから気を付けるんだよ」

と心配そうに言った。それでもピエッチェを見て、

「あんたがいるなら大丈夫だね」

と微笑んだ。

「ただ、空には用心した方がいいかもしれない。大きな鳥の魔物がサッと飛んできては人を捕まえて連れ去っていくって話でさ、年に二・三度、やられてる」


 カッチーはピエッチェの助言通り、事前に土産を渡していたようで、

「結構なものをいただきました」

とマデルやピエッチェ・クルテにも礼を言った。

「この(とし)になって髪飾りを貰えるだなんて。死んだ亭主からも貰ったことがないのにね」

と恥ずかしそうに笑う。


「女将さんったら、『もう少ししたら、女を泣かせるようになるんじゃないか心配だ』なぁんて言うんです」

カッチーが照れながら訴える。女将さんが愉快そうに笑い、

「そんな男になっちゃいけないって言ったんですよ」

と、ピエッチェとクルテを見た。

「ひとりの人と一生添えれば、やっぱりそれが幸せでしょうからさ」


 クルテを大事にするんだよ、と言われた気がしてピエッチェが顔を赤くする。

「そうですね。そうありたいと思っています」


 女将さんに教わった通りグリュンパの街中を行くと、『ギュリューへ』と立札のある、心持ち狭い道が見つかった。荷馬車同士が出くわしたら、どちらかが端に寄らないとすれ違えないだろう。いつかラクティメシッスが乗っていたような、大きな馬車はとうてい通れそうもない。


「本当にこの道でいいのかな?」

クルテが首を傾げたが、少し行けば森なのが入り口から見える。だったら間違いないだろうと入っていった。


 それきりクルテは何も言わず、いつの間にか居眠りを始めた。

「おいっ! 気を付けろ、落ちるぞ!」

舟を()ぐクルテを何度かピエッチェが怒鳴りつけた。途中、いきなりクルテが

「気を付けろ!」

と叫んだ。寝言かよ? と苦笑するピエッチェ、叫んだクルテはキョトンとして、再び居眠りを始めた――


 道なりに進んだつもりだった。森を抜ければセレンヂュゲのはずなのに、昼過ぎには森が途切れて広い草原に出てしまった。道もそこで終わっている。森の中にぽっかり()いた穴のような草原だ。


 仕方なく来た道を引き返す。途中、一度も曲がらなかった。けれど辿り着いたのは草原、先ほどと同じ風景が広がっている。


「おい、クルテ……どう思う?」

ピエッチェが、隣のクルテに話しかけた。

「だから気を付けろって言ったのに……」

そう言って、クルテは眠そうに目を(こす)った。寝ぼけてるのか? と思いきや、

「取り敢えず、少し休もう。リュネも疲れてる。多分」

と、()()()()まともなことを言う。毎度のことだが『多分』が気になったが放置した。


 御者(ぎょしゃ)席から荷台に向かって『休憩するぞ』と大声を張り上げ、馬車を降りる。様子を気にして前方を覗き込んでいたマデルが、

「ねぇ、ここってさっきと同じ場所だよね?」

と不安げに言った。


 リュネに水を飲ませるカッチーに、ニコニコ顔のクルテが声を掛ける。

「すっかりリュネはカッチーに懐いたね」

嬉しそうにカッチーが照れ笑いする。


 そんな二人を少し離れた場所でチラチラ見るピエッチェ、話し相手はマデルだ。

「マデルもさっきと同じ草原だと思うか?」


「どうなんだろう? パッと見同じ、だけどさっきの場所をつぶさに見たわけじゃない。原っぱなんてどこも同じに見えそうだよね」

「しかし……もし違う場所だとしても、来た道を引き返したのに、ここに出たのはヘンだ」

「問題はそこだよね――魔物が出るとは聞いてるけど、森で迷子になったって話は聞いたことがない」

「迷子は森から出られず街に伝えられない。だから誰も知らない。なんて事は?」

「もしそうなら、行方不明だって大騒ぎになるんじゃ?」


「それもそうか……いや、マデル。俺たちがここで遭難しても、誰が騒ぐ? 俺たちは何処(どこ)に居るとか何処に行くとか知り合いに言ってない。マデルは? この道を通ってデレドケに向かうと、王室魔法使いの仲間に連絡したか?」

「いや、してない。休暇中にどこに行こうがわたしの勝手――そうなると、そんなふうに居なくなっても騒がれないヤツを狙って迷わさせてる?」


「条件付きで発動する魔法……誰にも知らせないで森に入ると、この草原に導かれるってことなんじゃないか?」

「だとしたら、こっから出るにはその魔法を掛けた術者を見つけ出すしかないよ」

「どうやって見つけ出す?」

ピエッチェの問いにマデルが黙り込む。


 苦笑したピエッチェが

「愚問だったな……それが判れば苦労無しだ」

と言えば、

「だからって、ここでボーっと死を待つのも愚か」

マデルも力なく笑む。


「殺すことが目的じゃないことを祈ろう。ちょっと困らせて楽しむだけなら、そのうち道を出してくれるかもしれない」

「何日くらい困らせる気だろうね? それまで食料と水が持つかが心配」

困らせるのが目的と決まったわけでもないのに、マデルはそう思いたいのだろう。気休めのつもりで言ったピエッチェが、マデルの返答に困る。が、ここはマデルを安心させた方がいい。


「食料は、森の中で探せばなんとかなる。問題は水だな」

「なんとかなる?」

「クルテが森の中の食べ物に詳しいし、アイツは弓が使える。火はクルテが火打石を持ってると思うし、マデルが魔法を使うって手もある。あぁ、鍋がない。まさか必要になるとは思わなかった」

すると、クルテが

「呼んだ?」

と、こちらを向いた。


「おまえ、火打石を持ってるよな? でも、鍋は持ってないよな?」

「ここで野営するつもり?」

クルテが嘲笑し、

「それより、こっちに。リュネが気になる」

と手招きする。


「リュネがどうかしたのか?」

歩きながらピエッチェが問う。


「荷台を外して木の影に隠そう。少し原っぱを探索する」

「だったら、そのままにしておけばいいだろう?」

「ふん! 愚か者め――女将さんの話を聞いてなかったか? 大きな鳥の魔物がいる。ソイツが獲物を襲うのはきっとこんな開けた場所。人を(つか)んで舞い上がれるほどの大きさなら、木立の中では自由が利かない」

ギョッとしたピエッチェ、確かにそうだ。マデルはクスッと笑ったが、カッチーは少し蒼褪める。魔物を恐れたのか、それともピエッチェの機嫌を気にしたか?


 そんなカッチーにクルテが言った。

「探索と言っても、ここから見える範囲からは出ない。何かあればすぐに戻る――カッチーはリュネと一緒にここに残る?」

「えっ……?」

原っぱを見渡すカッチー、クルテの隣に立ったピエッチェが、

「クルテ、木陰なら確実に安全なのか?」

と余計なことを訊く。


 ムッとした顔でクルテが答えた。

「どこに確実に安全な場所がある? どこに居たってそれなりの危険は付き物だ。(しげ)みを()き分けて進んでいると思ったら、一歩先は崖っぷちだった、なんてな」

「なっ!」

当てこすりだ。ネネシリスに追い詰められた俺を言っている。

「おまえなっ!?」


「行きます!」

空気を読んだカッチーが慌てて叫んだ。

「俺も一緒に行きます。だから、揉めないでください!」


 なにもカッチーが原因ってわけじゃない。でも、ここでクルテと揉めればカッチーを困らせることになる。

「カッチー、リュネを木陰に連れて行け」

クルテの皮肉を聞かなかったことにしたピエッチェがカッチーに指示し、それからクルテに訊いた。


「リュネは木に繋いでおくか? それとも繋がない方がいいか?」

「リュネの力でも折れそうな小枝に繋ぐ」

なるほど、危険が迫ればリュネだって全力で逃げだそうとするだろう。それを見込んでいる。


 カッチーがリュネの手綱を引いて木陰に行くと、

「カッチーが怖がるようなことをむやみに口にするな……わたしも余計なことを言って悪かった」

クルテがピエッチェを見上げた。なんと答えるか迷った挙句ピエッチェは、

「時どきおまえは、俺を嫌ってるんじゃないかと俺に思わせる。俺がイラついたり怒ったりするのはそれでだ」

と言った。

「わたしが? 嫌う? なんで?」


 答えないピエッチェ、カッチーを追って木陰に向かう。引き留めようとクルテが伸ばした手を見ることもなく振り払った。茫然と立ち尽くすクルテに、マデルが寄り添った――


 膝くらいの高さの草に道は遮断されている。そこから先は同じような草で埋め尽くされた原っぱ、ぐるりと森に囲まれている。

「大きな城が建てられる広さがあるな」

とピエッチェが呟いた。


「で、どこをどう探索する? 隅から隅まで、なんて言うなよ」

「まずは道幅に前に進む。草に隠れて穴があるかもしれないから、足元に注意」

あぁ、崖かもしれないな、そう思ったピエッチェ、さすがに大人(おとな)げないと言わなかった。


「それじゃあ……そうだな、マデルとカッチーを挟んで、俺とクルテが両端で。横並びで行くか?」

「横並びもいいけど、マデルとカッチーは二歩だけ後ろがもっといい」


 そろそろと足元を見ながら前に進む。

「道だったところに草が()えたんじゃなさそうだ」

「うん。固められた痕跡がない。普通に土の感触。でも、なんで木が生えてないんだろう?」

「元は畑だったとか?」

「あるいは牧草地?」


「畑だろうが牧草地だろうが、日照りが続いたら手の打ちようがなくなりそうだ。水路が欲しい」

「川までは遠い?」

「この森に流れる川は、少なくとも地図にはなかった」

「森の木は根を張り巡らせて水を蓄える。だから森は日照りにも耐えられる。でも、ここには木が生えていない」


 ピエッチェが立ち止まり、後方を見る。

「三分の一程度は来たな。向こうの端まで――」

言葉を途中で切ったピエッチェ、

「黙れ!」

クルテに言われなくても黙る。


 聞き慣れない音が、どこかから聞こえてくる。風が木々を揺らす音のようにも聞こえるがどこか異質、何の音だ? 音がどんどん大きくなるのは、近づいてきているからだろう。マデルにも聞こえたようだ、身構えている。カッチーがそんな三人の様子に緊張した。


「上だ!」

クルテの叫び、マデルがカッチーの頭を押さえ、低く伏す。羽搏(はばた)きの音の中で、ピエッチェが剣を抜いた。

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