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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
5章  碧色の湖と人魚の涙

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 そうだ、答えはこれだ。『俺の傍に居ろ』と言ってやればいいんだ……やっとピエッチェがクルテに言うべき言葉を見つけた。(いと)わしくないかと訊いたのは不安から、クルテが知りたいのは自分が何者なのかじゃない。何者かさえも判らない自分が受け入れられるかどうかだ。


「俺はおまえがなんであろうとずっとおまえのそばに居る。だからおまえも俺から離れるな」

おまえの居場所は俺の隣だ、強くそう思う。『判った。そうする』と答えてくれ。


 クルテが少し笑ったような気がした。その笑いに(あざけ)りの匂いを感じる。俺ではダメだって事か? ピエッチェの心が揺れる。

「クルテ?」

(たま)らず名を呼ぶが応えがない。俺は見当はずれなことを言ったのか?


「クルテ?」

もう一度呼んだがクルテは身動(みじろ)ぎすらしない。ひょっとして眠ってしまった? 静かに立ち上がると、ゆっくりベッドに近寄った。


 背中側から再びそっと声を掛ける。

「クルテ?」

やはり反応がない。やはり眠っているのか? 上体を傾けて顔を覗き込む。


 眠ったわけではなかったクルテが、真っ直ぐ前を向いたまま目玉だけを動かしてピエッチェを見た。そして溜息とともに視線を元に戻すと、

「だけどカテロヘブの本音は人間になって欲しい……」

と呟いた。


「仕方ない。カテロヘブは人間だから」

「いや、クルテ、俺は――確かに、できることならおまえを人間にって思ってる。でも、人間じゃなくてもいいし、なんて言ったらいいか。なんだ、その……」


 取次筋斗(しどろもどろ)のピエッチェ、

「おまえが魔物だろうが人間だろうが精霊だろうが、そばに居て欲しいのは変わらないんだ。だって、今もそうじゃないか。魔物だって知ってるのに、こうして一緒にいるじゃないか」

言いながら『もうダメだ』と思う。魔物だっていい、離れたくない。クルテの傍に居たい。


 クルテがゆっくりと寝返りを打ってピエッチェを見る。それから被っていた布団をピエッチェのために()けた。

「一緒に居たいのはわたしのほう。ピエッチェはわたしのことなど考えずに自分の道を進めばいい――もう寝よう。なんだか冷えた。温めて」

「……おまえ、俺の心を読めるのに、俺が言いたいことは読み取れないんだな」

「それがどうかした? わたしはしょせん魔物だ。人間と同じようには考えられない。それを忘れちゃいないだろう?」


 ピエッチェがクルテを見詰める。クルテもピエッチェを見詰めている。

「判った……」

先に目を逸らしたのはピエッチェだ。

「明日もやるべきことがある。寝なくちゃな」

ゆっくりと横たわりクルテを抱き寄せると、ピエッチェの胸元でクルテが小さく溜息を吐いた。


「なぁ、クルテ……」

ピエッチェが囁く。

「俺の気持ちを理解してくれないのはおまえが魔物だからなのか? おまえが言う何かを俺が思い出せて、人間になるまで理解できないって事か? 人間になったら理解してくれるのか?」

理解したからと言って受け入れてくれるとは限らない。そんなことは判っている。だけどせめて知って欲しい。


 答えを待ったが聞こえてきたのは穏やかな寝息だ。クルテの髪の匂いの中でピエッチェも溜息を吐いていた――


 翌朝、朝食が運ばれて来たのは約束よりも少々早い時刻だったが、すでに四人とも起きていた。


 玄関の扉を開けると宿の主人(あるじ)が、昨日は玄関で受け渡しした料理をダイニングまで運ぶと言ってこちらの返事も聞かずにどんどんコテージの中に入ってきた。

「あんたら、誰かに追われちゃいないかい?」

よっこらしょっ! とダイニングテーブルに重ね箱を置くと、いきなりそう切り出した。


「いやさ、昨日、けっこう遅くなってから来た客がいたんだけどね」

ありゃあ、よくない事を考えてる顔だ。したり顔で主人(あるじ)が言う。

「生まれた時から宿の客を見て来たからね。盗み癖のあるヤツやほかの客とトラブルを起こすヤツ、そんなのは顔を見りゃあ判る。あの男たちは他人を尊重するってことを知らない連中だ。自分の欲望にしか興味がない」


「そいつらが俺たちを狙ってると?」

「だってよ、旦那さん。背の高い若い男、艶っぽい女、大人になりかけの少年、えらい別嬪(べっぴん)さん、しかもコテージに泊まっているはずって言われたら、ぴったりあんたたちだ。違うんなら違うでいいんだけどさ」


「それで、わたしたちがいるって言っちゃったのかい?」

これはマデルだ。すると主人(あるじ)

「とんでもない! そんな客は来てないねって言ったさ」

身の潔白を主張する。

「でもよ、泊まりたいって言われれば断れない。本館に部屋を用意した――あんたたち、いったいなんで追われてるんだ?」


 マデルが事情を話すと、

「そんじゃあ、あんたたちは本館に泊まってたけど朝早くに発ったって、アイツらに言っとくよ」

宿の主人が安請け合いする。


「昨夜、そんな客は居ないって言ったんじゃなかった?」

「あぁ、来た時は男物の服を着てる女なんていなかった。でも、出る時には男物の服を着てた、だから昨日訊かれたのはこの客だって判ったって言えばいい」

「なるほど……」

「だけどさ、ホント、気を付けな。アイツら全員剣を持ってた。しかも二人は相当使い込んでる。きっと騎士崩れだね、ありゃあ」


「ちょっと待て」

聞き(とが)めたのはピエッチェだ。


「そいつら、何人だった?」

「男ばかりの八人さ。そんな客は珍しい。しかも観光って感じじゃなかった。ま、うちは宿賃が貰えりゃ文句はないが、胡散臭(うさんくさ)いったらありゃしない。あんたたちのことが無くてもできれば断りたい。だけど、あの時間じゃ他に行けとも言えないさ――ヤツらが出てったら教えるから、それまではここに居たほうがいいよ。それじゃあね」


 朝食は予告通りだったが、ひとつだけ問題があった。茹で卵だ。どれが半熟でどれが固茹でか見分けがつかない。四人とも茹で卵にしたが固茹ではカッチーだけ、

「割れば判るさ」

ピエッチェが笑った。


「それにしても八名さまですか」

カッチーが溜息を吐く。

「デレドケの時は何人でした?」


「十三人だったな」

「それじゃあ、楽勝ですね」

「どうかな? あの時はまともに剣を扱えるヤツはいなかった。宿の主人(あるじ)が見て手練(てだ)れだって言うなら、それなりに使えると思った方がいいだろうからな」


「おや、ピエッチェ、珍しく弱気?」

茶化したのはマデルだ。

「判らないでもないけどね。デレドケの時はわたしやカッチーに怪我をさせる気はなかったみたいだけど、今度はそうはいかなさそう」


「マデル、剣は扱えるのか?」

ピエッチェの質問にマデルの表情が引き締まる。


「一応はね。あんたと勝負したって、まったくわたしに勝ち目がないってのが判る程度に」

「随分と回りくどい言い方だ」

ピエッチェが苦笑する。


「自分を守るくらいはできるな? 警戒するべき二人は俺とクルテが相手する。他は駅馬車で乗り合わせた三人と同程度だろう」

「残りはどうせ有象無象ってことだね。まあさ、いざとなったら魔法を使うよ」

「できれば魔法は使いたくないんだろう?」

軽く笑うピエッチェにマデルが、

「お見通しだね。無闇に魔法を使っちゃいけないってのが王室魔法使いの決まりなんだよ。でも、自分を守るためならやむを得ない」

と溜息を吐く。


「宿の主人(あるじ)が巧くやってくれれば回避できるかもしれないしな。そう深刻になることもない。もし出くわしちまったら、その時は俺とクルテでなんとかする。マデルとカッチーは自分を守ることだけ考えろ。特にカッチー、間違ってもやり合おうと思うんじゃないぞ」

「待ってください、ピエッチェさん」

カッチーが異を唱える。


「俺、毎日素振りして――」

「おまえが頑張っていることは知ってるよ。でも誰かと剣を合わせたことはないじゃないか。ただの喧嘩じゃないんだ。下手をすれば殺し合いになる」


「焦っちゃダメだよ、カッチー」

マデルもピエッチェと同意見、

「今度わたしと手合わせしてみようね。もしもの時は、わたしから離れるんじゃないよ」

とカッチーに微笑む。


 渋々黙ったカッチーに、クルテが茹で卵を一つ差し出した。(ひび)のない綺麗なものだ。

「きっとこれが固茹で」

クルテがニッコリする。


「どうして判ったんですか?」

「ただの勘――卵、不思議だね。あっためなきゃヒナは(かえ)らない。でも温めすぎるとヒナになれない」

「はぁ?」


 カッチーが受け取った卵を割る。

「クルテさん、これ、半熟みたいですよ?」

見ると白身がフニャッとしてる。マデルが、

「固茹ではこっちみたい」

笑いを噛み殺しながら、持っていた卵をカッチーに渡す。


「勘が外れた」

ムッとした顔でボソッと呟くクルテ、ピエッチェは『不思議なのはおまえだ』と心の中で思っていた。


 食事が済んで暫くすると宿の主人(あるじ)が食器を下げに来て、男たちの動きを教えてくれた。

「ヤツら、大慌てで出て行ったよ」

と笑う。


「あんたたち、ここに来る前に封印の岩に寄ってきたのかい?」

「いや、グリュンパから真っ直ぐこっちに来た。明日、ミテスク村に行こうと思ってる」

「ありゃ……まぁ、大抵の観光客がその行程だ。けどよ、ヤツら、封印の岩に行くって言ってた。さっさとグリュンパに戻った方がいいかもしれないよ」


 男たちが周辺で聞き込みしているとも限らないと、四人が人形工房に向かったのは昼前だ。

「あぁ、あの人形ね」

人形工房の女主人は疑うこともなくピエッチェの質問に答えてくれた。

「わたしも詳しくは知らないのよ。何しろ父から受け継いだ仕事だからね。でも型紙は預かってる。いつか返さなきゃって父が言ってたの」

出してくれた型紙は木箱に入れられていた。


「どうやらね、手紙の裏に書かれているみたいなんだけどね……」

手渡された型紙には作り方や大きさ、素材、製法などが詳しく書き込まれ詰め物まで指定されている。表面の手紙には息子のために作って、送って欲しいと書かれれていた。


「父が言うには、息子への贈物を父親に強請(ねだ)ったけれど聞き入れて貰えなかったんじゃないかって。うちで使うように型紙を作って返しに行ったけど、不要だからって受け取って貰えなかった。大切な人からの手紙なんじゃないのかって訊いたら、送り返されてきたんだって悲しそうな顔をしたらしいよ。でもさ、気が変わるってこともある。うちでも捨てられずにいるんだよ」


 それで仕方なく自作したのが少年が持っていた人形と言う事か。愛され(いと)われ望まれ踏み(にじ)られた……人魚の言葉を思い出す。


 文面を(くま)なく読んでみたが少年の名も父親の名もなかった。ただ、『懐かしい王宮に早く戻りたい』という一文があることから、母親もまた王宮に出入りが許された身分だったと推測できた。


 人形工房を出たあとは武具店と土産物店に寄ってから宿に戻った。武具店の親爺(おやじ)

「あんたら、狙われてるよ」

と、朝早く八人組の男たちに叩き起こされ、剣を()がされたと愚痴り始めた――

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