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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
5章  碧色の湖と人魚の涙

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 何かあったか、とカッチーに問うと

「夕食のワゴンを下げに来たんで、星を見てるんですって誤魔化しました」

と答えた。


「夜は湖に行くなって言われてましたからね」

「ほかの二人はどうしたって訊かれたか?」

「訊かれましたよ――で、二人で寝室に籠ったから、暫く星を見ることにしたって言ったんです。終わるまで落ち着かないからって」

「そうか」

と答えたピエッチェ、答えてからその意味に辿り着く。


「なんだって!? いったい何が終わるって!?」

「言ったのはマデルさんです。俺に怒らないでください」

ちょっとだけ顔を赤くしてカッチーが笑いながら抗議した。確かに、カッチーが思いつけるセリフじゃない。舌打ちで終わらせたピエッチェだ。


 突っ立ってても仕方ない。クルテの隣に腰かけると、ダイニングの方を気にしていたクルテがピエッチェを見て、

「知り合った頃と雰囲気が変わったって、わたしのことをマデルが言った」

と不満げに言った。


「最初の頃はキリッとしてて隙を見せない感じだったって」

「体調を崩して気が弱くなったのを見たからじゃないか?」

「そうなのかな?」

するとカッチーが、

「巧く言えないけど、俺はクルテさんの警戒心が薄れたって感じます」

クルテを見て言った。


「カッチー、それ、マデルが言ってるのとどこが違うんだ?――そう言えばおまえ、自分のことを僕って言わなくなったな」

ピエッチェがクルテに言えば、

「それは立て続けに娘役だったから。面倒だから『わたし』でいいや」

とクルテ、

「クルテさんも役者志望ですか?」

カッチーは少しズレたことを言う。そのうえ、ピエッチェにしてみれば、そこは訊くなと言いたくなることを訊く。

「男のフリしてるのは男役の練習だとか?」


 下手なことは言えないと、クルテがどう答えるか見守るピエッチェ、クルテはちょっとカッチーを見てから、ピエッチェを見た。イヤな予感しかしない。

「そうなの?」

俺に振るな!


「それはその……」

さて、なんと答えよう? 事情を知っているマデルは女でも男でもないなんて普通じゃ通用しない返事に黙ってくれたけれど、カッチーには通用しそうもない。

「クルテ、おまえ男のフリをしてたのか?」

苦し紛れに話をクルテに戻す。するとクルテがクスリと笑った。


「ピエッチェが怪我をして動けなかった時に村へ買いに行ったんだけど、相手にされなくて必要なものを売ってくれなかった。その時も男物の服。女の格好でいると用のない人が近寄ってきてあれこれ構ってくる。それが面倒」

「あぁ……」

納得するカッチー、がピエッチェは

「相手にされなかったって?」

そちらが気になったようだ。


「子どもがなんでこんな大金を持ってるって言われた。チビとも言われた。だから、厚底の靴を探した。でもあれ、歩きづらい」

「背が高けりゃあ大人ってわけでもない。で、それで売ってくれたのか?」

「厚底靴を履いて別の村に行った。そこでは子どもに見られなかった」

「それでおまえ、子どもはイヤって?」

「そうなのかな? ちょっと違う。でもいいや」


 そこへマデルがお茶のトレイを持って戻ってきた。

「そう言えばクルテもご両親を亡くしてるんだって? 一人で生きてるのに子ども扱いされちゃ困るよね」

話しはダイニングまで聞こえていたようだ。が、お茶を配っている途中で

「あれっ?」

と呟いた。


「痩せっぽちで役に立たないから追い出されたって言ってなかったっけ?」

「言ったっけ?」

ポカンとするクルテ、(とぼ)けたってマデルは誤魔化せないぞと思ったピエッチェ、

「いくら貴族でも、親を亡くして一人になれば周囲は冷たい。あるいは身分や財産目当てのヤツが(たか)る――クルテはそこから逃げた。でもさ、知り合って間もない相手にそんな話はできなかった。そう言うことだ」

と、自分でも驚くほど巧く嘘話をでっち上げた。


 大いに納得したのはマデルだ。

「そうだよねぇ……だからピエッチェと一緒に、旅に出られたってことだね」

しみじみそう言ってから、

「いいや、だからこそ旅に出たのかな?」

とクルテに微笑む。


「出会った頃はピエッチェとカッチー以外はみんな敵、って顔してたよね。わたしのことも嫌ってた」

「そうなのかな? なんで近づいてくるんだろう、とは思った」

「それにさ、カッチーには甘かったけどピエッチェには厳しいし、少し横柄な感じだった。今でも時どき上から物を言うよね」

ピエッチェか顔を(しか)め、マデルがクスッと笑う。


「あれはピエッチェの真似。ピエッチェと同じようにしてた。でもそんな必要はないってピエッチェが言ったから」

「そうだったんだ?」

チラリとマデルがピエッチェを見る。


「そんな話もしたな。俺の真似をして自分を『俺』と言うと相手が変な顔をするから、僕と言うようにしたとかって言ってた気がする」

「うん。ピエッチェの真似だと反感買われることがあった。生意気だって。だからカッチーとか、他の人には考えて工夫した。ピエッチェには同じがいいだろうと思ってたんだけど、イヤだったらしい」

「つまり俺って、他人に反感を買われるような態度だってことか?」

ピエッチェが嘆くと、

「人によってはそう感じるかもね」

とマデルが笑った。


「でもさ、ピエッチェ。あんたは見た目が堂々としてるから、今の態度で不思議と違和感がないし、なんだか納得しちゃう――人の上に立つように生まれついてるんじゃないの?」


 これはマデルの探りだ、と感じたピエッチェ、

「それなりの貴族の惣領(そうりょう)息子だからな、そんな風に育てられたかもしれない。それに騎士になってからは部下を何人も持たされた。それで、さらに偉そうになったのかもな――気を付けるよ」

と、もっともらしい返事をした。


「ピエッチェは欠点を自覚すれば改善したいって心がけてる」

クルテが嬉しそうにピエッチェを見詰めた。

「わたしは今のままのピエッチェでいい。でも、本人は自分をよりよくしたいと願ってる。そんなピエッチェのそばに居て、手助けすると決めた」


「いや、それはだ」

なんとなく気恥しくてピエッチェが言い訳した。

「クルテの発熱は俺の注意不足だって謝ったんだよ。そのとき、あー、なんだ、もっと気を配ればよかったって反省してるって言ったら、反省の必要はないって言うからさ。反省して、改善しようと努力して成長していくものだって話したんだ」


「なるほどね」

マデルが苦笑する。『クルテにとってピエッチェは完璧なんだ』と思ったが、どんな言い方をしてもピエッチェを揶揄(からか)うことになりそうだ。だから

「ところで湖はどうだったの?」

と話を変えた。


「うん、いろいろ判った。さすが湖の(ぬし)

「ってことは〝居た〟のね?」

顔を引きつらせるマデルに、

「駆除しようとしないって約束して。人間ってすぐ、自分たちの役に立たない生き物を排除しようとするけど、よくない」

クルテが真面目な顔で言う。


「まぁ、そりゃあね。人間に害を与えないならいいんだけど」

「マデルは王室魔法使いかも知れないけど、今は休暇中」

クルテの言葉に、

「そうね、今は休暇中よね」

マデルが微笑んだ。人魚の存在を報告しないと言ったのだ。


「昔はね、人間と湖の恵みを取り合ってたらしい。だけど今はそんな話、聞かないしね」

マデルの言葉にカッチーが反応する。

「あ、封印の岩の伝説ですか?」


「封印の岩の伝説?」

「はい、封印の岩で封印されたのは人魚って話ですよ、ピエッチェさん」

その昔、湖にたくさんいた人魚の一族を魔法使いが総がかりで湖の端に追い込んで封印した。それが封印の岩で、岩の向こうには今もたくさんの人魚がいる、とカッチーが説明した。


「だけどいつか人魚は開放される。それは満月の夜、気紛れな精霊が人間と仲良くすることを条件に封印の岩を砕く――そんな伝説ですよ」

「封印されたのっていつのことなんだろうね?」

「二百年くらい前だよ」

これはマデルだ。


「人魚の寿命は三百年か――その伝説が本当ならば、岩の向こうで生きてる可能性があるな」

ここでピエッチェの頭の中に『それ以上は言うな』とクルテの声がした。


 湖で会った人魚は、何かの拍子で封印から漏れた一人なんじゃないか……伝説はいつまで経っても伝説、そんな事を言っていた。あの人魚は封印が解かれるのを一人寂しく待っている。そう考えたピエッチェだった。だがクルテは、そのあたりはマデルたちに話して欲しくないようだ。


 カッチーはともかくマデルが知れば、立場上、封印が解放されるのを待っている人魚をやはり放置できない。だから、人魚が伝説を口にしたと言いたくない。


「で、金色の髪の少年の話を聞いてきた」

クルテが肝心な話を始めた――


 ぬいぐるみのオリジナルは少年の母親の手作りで、工房で作られたものは魔物になれないがオリジナルなら可能性がある。また、少年の母親は財力のある貴族の愛人、少年は隠し子で複雑な環境に置かれていた。


(王室に恨みを持っていることは言うな)

クルテがピエッチェの頭の中で言う。

(少年の父親は王族の誰かだ。多分――病気になった母を見捨て、自分を見捨てた父親とその身分を恨んでいるってことだと思う)

ピエッチェが『少年は複雑な存在。愛され(いと)われ望まれ踏み(にじ)られた』という人魚の言葉を思い出す。


(父親の元に逃げ込んでいる可能性は?)

(そんなの判るか――でも、それが誰なのかが判らないうちは下手に動くとマデルに迷惑がかかる。だから王族に関係してることをマデルに知られたくない)


 そして少年はきっと魔法使いになった。生まれ持った強い魔力はいずれ目覚めて開花する。


「首謀者はこのコテージに住んでいた少年だと考えていいのよね?」

「マデル、その〝首謀者〟って考え方は的を射てると思う。共犯でなくても協力者は居たと考えるのが妥当」

クルテがマデルにニッコリと笑む。


「いくら魔法使いでも、魔法で守護されている王宮にはそう簡単に入れない。そうだよね?」

クルテの問いに、

「つまり手引きした共犯者だか協力者が、王宮内にいるってことね?」

マデルが表情を硬くする。

「いったい誰が……?」


「少年の素性が判らないうちは軽率に動けないってことだ」

言ったのはピエッチェだ。

「共犯だかなんだかに、俺たちの動きを知られる可能性を考えると、王宮にこの話は持っていけない。秘密裏に動くしかない」


「だけど少年をどうやって探せばいい? 人魚も居所は知らないんでしょ?」

「ギュームの描いた似顔絵を人魚に見せたら似ていると言った。それに母親が息子に何度も『髪と目はお父さんにそっくり』って言ってたと教えてくれた。つまり父親も金髪に碧眼」


 そんなこと人魚は言っていなかったし、絵も見せていない。クルテは人魚の心も読めるのか? そんな事を思いながら、ピエッチェはクルテの脳内指示通りマデルに言った。

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