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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
4章  聖堂の鐘、鳴りやまず

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20

 マデルとカッチーが帰ってきたのは夕刻だった。大興奮のカッチーにマデルが苦笑する。

「俺を笑うけど、今日の芝居はマデルさんだって気に入ってたじゃないですか」

カッチーが頬を膨らませる。

「前に見た時は始まってすぐ居眠りし始めたけど、今日は真剣な顔で観てましたよね」


「そうだった? まぁ、どうでもいいじゃない――クルテ、帳面はこれで良かったかな?」

クルテに小型の帳面を渡すと、

「居眠りしなかったからか、疲れたわ。夕食まで休むね」

マデルは寝室に行ってしまった。


 戻ってくるときに受付でティーセットを受け取ってきたカッチーが、

「お茶くらい飲んでから休めばいいのに」

と呟く。

「干しリンゴ、たっぷり貰ってきました。他にクッキーもあります」

と嬉しそうだ。


「夕食まで間もないのに、あまり食べると飯が美味くなくなるぞ?」

ピエッチェが(たしな)めるが、

「任せてください。俺、食い盛りですから」

カッチーに気にする様子はない。


「マデルが真剣に観るなんて、どんな芝居だったんだ?」

「それがね、ピエッチェさん。またも女神の娘の話だったんですよ」

「なんだ、同じ話じゃ詰まらなかったんじゃないのか?」

「いえいえ、女神の娘の話と言っても内容は全然違うんです」

カッチーが、観てきた芝居の(すじ)を話した。


 美しい森で暮らしていた女神の娘の友達は森の生き物たち、食べ物は森の実り、毎日楽しく幸せに暮らしていました。姿は人間と同じだけれど、その正体は精霊、森が豊かであるうちは死ぬことはありません。そして深い森の奥に住んでいましたから、人間を見たことがありませんでした。


 いつものように小鳥たちと歌っていると、見たことのない生き物が現れました。人間です。それは森に迷い込んだこの国の王子でした。

『娘さん、どう行けば森から出られるか、ご存知ですか?』

女神の娘は自分と同じような姿に親しみを感じ、困っている様子に助けなければと思って道案内することにしました。


 森の出口への道すがら、王子は女神の娘に自分のことを話します。大勢の人、さまざまな料理、(きら)びやかな舞踏会……

『良かったら、僕と一緒に来ませんか?』

娘を精霊とも知らず王子が誘います。けれど娘は首を縦には振らず、出口が見えるところまで案内すると森の奥へと帰っていきました。精霊である娘は森から出ることは(かな)わなかったのです。


 それからというもの、小鳥たちと歌っても小動物たちと遊んでも娘の気持ちが晴れることはありませんでした。考えるのは王子のことばかり……もう一度会いたいと涙ぐむ毎日です。そう、娘は王子に恋をしてしまったのです。


 思いつめた娘が母親である女神に願います。

『わたしを人間にしてください』

『娘よ。不老不死の身を捨てて、なぜ人間になりたがるのか?』

『森に迷い込んだあの人に、もう一度会いたいのです』


 女神は娘の願いを聞き入れませんでした。ただ一目会うためだけに人間になるなど愚かだと娘を(なだ)めたのです。けれど娘は諦めようとしません。

『判りました――では次の新月の夜から満月の夜までの間、あなたに時間をあげましょう』


 人間になるには王子もあなたを心から愛することが必要です。けれど、あなたから愛を告げてはなりません。人間は目の前の物に惑わされやすい。誘惑に負けることが多いのです。誘惑に負けただけなのに、愛していると思い違いをするものなのです。


 そして女神は言いました。

『王子と真実の愛で結ばれた時、あなたは人間に変わります。けれど期限までに思いが通じなかったなら、必ず森に帰りなさい。満月の夜が過ぎ、日の出を見ても人の中に居続ければ、あなたは消えてしまいます』


 新月の夜を待って娘は森を出て、恋しい王子が住む王宮に向かいました。王子は娘を覚えていて、歓迎してくれます。好きなだけ居ていいと、娘に王宮の部屋を与えました。これで毎日王子と会える……幸せいっぱいの女神の娘、ところがそうはなりませんでした。


 毎夜のように開催される舞踏会、美しい貴婦人たちが王子を取り囲んでいます。もちろん美しさでは女神の娘も負けてはいません。ですが王子は貴婦人たちの相手で手一杯、女神の娘に群がるのは他の若者たち……王子は公務で忙しい、会えるのは舞踏会だけなのに。


 娘はいつしか悟ります。王子に愛されることはない。だけど、せめて一度、王子さまと踊ってみたい。


 王子と踊ることができないまま、満月の夜を迎えます。その日の舞踏会は王子の妃を決めるための舞踏会でした。


 終わると同時に王子の妃が発表される。王子が躍った令嬢がその候補、いったい誰が選ばれるのだろう? 舞踏会に集まった人々は面白おかしく私見を披露していました。その中のひとつが娘の耳に飛び込んできます。今までの舞踏会で、一番多く王子と踊っていた令嬢がきっと妃に選ばれるだろう。娘の心が震えます。


 もう諦めて森に戻ろうとしていた娘を王子が呼び止めます。

『踊っていただけませんか? あなたと踊るのを楽しみにしていました』

王子が娘に微笑みます。

『知っていますか? 今宵の舞踏会は日の出とともに終わります――最後に踊るのはあなたがいい。待っていて貰えますか?』

娘は迷います。日の出に森に居なければわたしは消えてしまう。


 王子は娘と踊ったあとは、次々と相手を変えて踊っています。何か話しながら、時には微笑みを浮かべています。娘は何度も森に帰ろうと思いました。けれど広間を出て行けません。最後に踊るのはあなたがいい……王子の言葉を何度も思い返します。


 とうとう最後のダンスとなり、王子が娘を探します。大勢の人の中、見付けた娘は涙ぐんでいました。

『僕と踊るのがイヤだった?』

『いいえ、嬉し泣きです』

娘の答えに喜ぶ王子、周囲の人々は踊るのをやめて、王子と娘を遠巻きに見ています。


 微笑む王子に微笑み返す娘、どこからか〝お似合いですこと〟と声が聞こえてきます。そしてダンスが終り、王子が宣言します。

『僕の妃はこの人です』

王子も森で娘と出会って以来、娘のことばかり考えていました。できれば妃になって欲しいと思っていたのです。


 繋いだ手、娘を見詰める王子……祝福の声が聞こえ拍手が沸き起こる中、王子が娘を抱き寄せようとした時、(あさ)が広場に差し込みます。見守る大勢の目の前で、娘は王子の手を擦り抜けます。

『お慕いしています、永遠に』

涙を浮かべてそう言うと、娘は消えてしまいました。


 王子はわけが判らないまま娘を探し回り、娘と出会った森にも行きますが消えた娘がいるはずもありません。嘆き悲しむ王子を見ていた女神が

『しょせん人の時は短い』

と溜息を吐くのでした――


 カッチーの話が終り、ピエッチェが考え込む。それをカッチーは話が面白くなかったのだろうと受け止めたようだ。

「悲恋ものですけど、森の様子や舞踏会のシーンとか、凄い見応えだったんです」

と力説する。


 ピエッチェがフッと笑う。

「楽しめたようで良かったよ。なかなか興味深い話だし」

「でしょう? 俺、娘を探す王子に貰い泣きしちゃいました」


 ピエッチェが考えていたのはクルテのことだ。どこかクルテが女神の娘に似ていると思った。だけど、精霊と魔物の違いや、精霊の方が人間の男に恋をするところが違う。似ているだけなのだと思った方がいい。


「クルテさんはどう思います?」

カッチーは同調者が欲しいのだろう。今度はクルテに話しを振った。なんと答えるかが気になるピエッチェだ。


「んーー、女神って意地悪」

とクルテがカッチーに答える。

「新月から満月まで、なんてのがなければ、娘は王子と結ばれてた。自分に逆らう娘が憎かったのかも」


「えーー、そう取りますか? 俺は人生は(はかな)いものだから、大事なことは後回しにしちゃいけない。王子がもっと早く時間を作って心を打ち明けてたら、二人は幸せになれたのにって、そう思ってました」

「そうなのかな? わたしには判らない――それよりカッチー、お芝居以外に何かなかった?」


「えっ? お芝居以外ですか?」

カッチーが少し考える。

「お芝居を見に行く前に手帳を買いに行って……あ、そうそう、昨日見た大きな馬車を今日も見ました」

「へぇ、それで?」


「それが、俺たちのすぐ後ろで停まったんですよ。で、なんか偉そうな人が降りてきました。あの人がギュームさんを送ってくれたんですよね? 高そうな服着ててビックリしました。王室魔法使いって貴族の中でも身分が高いって聞いてるけど、凄いんですね」

「ふぅん。それでその人、降りてどうした?」


「いや、それは判りません。マデルさんに『さっさと行かないとお芝居が始まる』って急かされちゃって――マデルさん、今日の芝居は楽しみにしてたみたいです」

「そうだね、居眠りしないで観てたくらいだもんね」


 マデルが()()()原因はこれか、とピエッチェが思う。クルテの心配が的中してしまった。しかし、こればかりは仕方ない。マデルがいくら会いたくなくても同じ王室魔法使いなら、いつまでも避けてばかりはいられない。


 それよりもクルテ――大して芝居の話には関心を持たなかったようだ。クルテを人間にしたい思いが似た物語と感じさせただけなのだろう。


 ほどなく夕食が運ばれてきた。寝室から出てきたマデルはいつも通りだった。

「芝居の感想? ロクに見ていなかったからねぇ」

と笑う。


「王宮の舞踏会ってあんな感じなんですか?」

「そうだね、まぁ、あんな感じ。でもさ、毎晩ってのはないよ」

「そうなんだ? やっぱりお芝居はお芝居なんですね」


「役者になるのは諦めたって言ってたけど、今度は王宮の舞踏会に出てみたくなったのかい?」

「えぇ、憧れます。ダンスの相手と恋に落ちるなんてロマンチックですよね」

「まぁ、それはよくある話かな。もっとも、その気のある相手しか誘わないだろうからね」


「それじゃあ、選ぶのは女の人?」

「それはどうして?」

「いくら気に入って申し込んでも断られたらそれまでですよね?」

「基本的に、申し込まれたら断らないのがマナーなんだよ。人気のある()は数人同時に申し込まれることもあるから、その時は選べるけど」

「そうなんだ? それなら俺にもチャンスがあるかな?」

「カッチー、まずダンスが上手にならないとね。足を踏んだら嫌われる」


「俺、ダンスなんかしたことないです――ピエッチェさん、教えてください」

急に話を振られたピエッチェ、

「なんで俺?」

と戸惑う。ダンスじゃないと通り抜けられない広間を思い出していた。あの時のクルテはどんなだった?


「だって、ピエッチェさんならダンスも上手そうです」

「まぁ、そのうち暇を見てだな――それより明日は早く発つぞ。グリュンパまでは一日がかりだ。早く寝て、身体を休めておかないと」


「あぁ、それなんだけど、駅馬車があるらしいよ」

言ったのはマデルだ。

「それでも朝出て、着くのは夕方らしい。だけど歩くよりはいいんじゃない? クルテは病み上がりだしさ」


 翌早朝、四人はグリュンパ行の駅馬車に乗り込んだ――

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