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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
4章  聖堂の鐘、鳴りやまず

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 クルテは厨房を抜け中庭、女神の娘の像の前で(ひざまず)いた。祈りを捧げている。すると澄んだ鐘の音が聞こえてきた。思わずピエッチェが鐘楼を見上げる。


「何を祈った?」

祈りを終え、自分の隣に立って鐘楼を見上げるクルテにピエッチェが訊いた。


「レムシャンとグレーテが結ばれ、幸せな家庭を築けますように」

「なんだ、自分のことじゃなくてもいいんだ?」

ちょっとピエッチェがホッとする。


「よかったから鐘が鳴ったのでは? あの鐘、こんなに綺麗な音色だったんだね。これがあれじゃあ、嘆きたくもなる」

「そうだな。夜の音色だとご宣託を信じるかも迷いそうだけど、これなら間違いないって思える。二人が無事結ばれるのなら、グレーテも安心して出産に(のぞ)める。よかったな」


「ピエッチェのことも祈ろうかな?」

「俺のこと?」

「ナリセーヌと結ばれますように」

「どうせ鳴らない、祈るだけ無駄だ」

ピエッチェを無視して女神の像の前で(ひざまず)くクルテ、(こうべ)を垂れて祈り始める。


 そんなクルテを眺めてピエッチェが思う。もうナリセーヌと結ばれたいなんて思ってないのに……すると、再び鐘が鳴り響いた。


 嬉しそうにクルテが戻ってきてピエッチェの腕を取る。

「行こう、ピエッチェ。マデルたちが待ってる」


 クルテに引っ張られるように歩き出したものの、鐘楼から視線が外せない。クルテは聖堂裏の通路の扉に向かっている。見上げても鐘楼が見えなくなって、やっと視線をクルテに向けた。おまえ、なんでそんなに喜んでる?


 宿泊施設の入り口の部屋では、マデルが首を長くして待っていた。ピエッチェとクルテを見るなり、

「急いで、もうすぐ昼だよ」

イライラと言った。カッチーもその場にいたが、クルテがピエッチェの腕に腕を絡めるようにしているのを見て目を丸くする。

「腕なんか組んでどうしたんです?」


 するとクルテが

「娘の像にピエッチェの恋が叶うようお祈りしたら鐘が鳴ったんでビックリしちゃって茫然自失。腕を引っ張らないと歩けない」

と笑う。ムッとしたピエッチェが、

「自分で歩ける。勝手に腕を引っ張ったんだろうが」

腕を振り払ったが、クルテはクスッと笑っただけだ。


「鐘、鳴ってたねぇ……」

怒った様子で寝室に行くピエッチェを横目に見ながらマデルが言った。

「二回鳴った。一度はピエッチェとして、もう一度はクルテ?」


「ううん、一回目はレムシャンとグレーテ、二回目がピエッチェ」

「ピエッチェさんの相手って、故郷にいる片思いの相手ですか?」

カッチーの問いにクルテがクスッと笑う。

「それは本人に聞いてみたら?」

ピエッチェの恋が叶うかどうかを祈った……クルテの説明に二人は納得した。


 ピエッチェが寝室から戻り、

「行くぞ」

と、聖堂裏の通路に向かう。寝室にクルテのサックはなかった。また魔法かと思うピエッチェだ。マデルもカッチーもクルテがサックを背負っているのを見て、なんの疑問も持たなかったようだ。


 門を出て、モフッサ街道へと来た道を戻る。と言っても街道まで一本道だ。迷うことはない。


 不機嫌なまま先を行くピエッチェに歩調を合わせるのはカッチー、ほぼ並んで歩いている。時どきピエッチェが足を止め後続の二人を気にするが、大して離れていないと判るとまた歩き出す。


 そのピエッチェが後ろを確認して舌打ちをした。

「あいつ、遅いと思ったら小鳥なんかと遊んでる……」

「ホントだ、クルテさん。小鳥を(はべ)らせてますね」

笑うカッチーに、

「笑い事じゃない!」

ピエッチェがつい怒鳴る。


「怒らないでください……ピエッチェさんは小鳥が嫌いですか?」

「そう言う問題じゃないだろう?――いや、怒鳴って悪かった」

カッチーに怒っても仕方がない。


 ふとピエッチェが笑みを(こぼ)す。

「小鳥は好きだよ。子どものころ飼ってた。白いのと黒いの、二羽だ」

「へぇ、いいなぁ。俺、猫を飼いたいってずっと思ってたんです。でも、村があんなじゃ無理でした」


 そこにマデルが追い付いて、

「わたしは犬がいいな」

と話に加わる。


「マデルさんなら猫って言いそうなのに?」

「わたしはね、忠実で堅実な犬が好き」

カッチーとマデルが犬だ猫だと言い始める。


 ピエッチェは飼っていた小鳥のことを思い出すのに忙しく、そんな二人の話に加わらなかった。


 仲睦ましい二羽の小鳥……すごく大事にしていたのに、ある日黒い方の小鳥が部屋を飛び出してしまった。探し回ったがなかなか見つからない。

(そうだ、グレナムの剣を見たのはあの時が初めてだ)


 王宮中を探し回り、ひょっとしたらと父親の部屋にも行った。部屋に父は居なかった。明日に控えた戴冠式の準備で忙しかったんだろう。


 やはりそこにも小鳥は居なかった。けれどカテロヘブの目を惹きつけるものがそこにはあった。机に置かれたグレナムの剣だ。つい手に取ってしげしげと眺めてしまった。


 ずっしりと重い剣は美しかった。中でも(さや)の裏に施された精霊の浮彫(レリーフ)に心を奪われた。そして祈った。どうか僕の小鳥が無事に見つかりますように……


 戻ってきた父に剣を取り上げられ叱られた。小鳥はきっと森に行ってしまった、諦めろと言われ、泣きながら森を探した。懸命に小鳥の名を呼んだ。


 夕暮れが迫る頃、やっと見つけた小鳥は大きな木の洞の中に隠れていた。カテロヘブの呼ぶ声に、答えてくれなかったら見付けられなかっただろう。


 黒い小鳥の名も、白い小鳥の名も、今では忘れてしまった。でも愛しさは忘れられない。


 やっとクルテが追い付いて、

「もう少し早く歩けないのか?」

ピエッチェが嫌味を言った。


「ごめん、頑張る」

クルテの返事も聞かずに歩きだしたピエッチェだ――


 森の聖堂に向かう馬車とすれ違ったのはモフッサ街道との分岐点だった。森の中を抜け広い街道に出たところで、目指す先から来た大きな馬車が聖堂への脇道に入っていった。


「凄い馬車ですね」

カッチーが驚いて馬車を見送る。

「王室魔法使いが使う馬車だからね」

マデルが馬車から顔を背けるように言った。


 馬車は四頭立て、大きなキャビンの後部には荷物を詰め込む台が付いているのが判った。

「あれならギュームの絵は全部持っていける」

クルテが怠そうに呟いた。


 ピエッチェはキャビンに施された紋章を気にしていた。いくら王室魔法使いだろうが、王家の紋章のついたキャビンを使うだろうか? それにすれ違いざまチラリと見えただけだが、乗っていたあの男、どこかで会ったことはなかったか? でも誰だか思い出せない。


 キャビンの窓から見えた男はまだ若かった。ピエッチェたち一行を見て驚いたようだが、すぐに視線を元に戻していた。あれは誰を見て驚いたのだろう?


 考えたところで判ることでもない。すぐに男のことは忘れてしまった。それよりもセレンヂュゲへ急ごう。気を取り直して歩き出した。昨日、ここからならすぐそこだと、通りすがりの男が言っていた。


 ところがクルテがますます遅れがちになる。それどころか、街の入り口が見えるところまで来るとしゃがみ込んでしまった。

「ちょっと! いくらなんでも様子が可怪(おか)しい」

心配するマデル、

「いいからほっとけ、先に行けば慌てて追いついてくる」

ピエッチェはそう言うが、マデルはクルテのところまで後戻りした。


 仕方なくその場で待つピエッチェ、

「クルテさん、どうしたんでしょうね」

と呟くカッチーに、

「あいつが心配なら、おまえも行ったらどうだ?」

またも厭味を言うピエッチェ、すると

「いいえ、行きません。クルテさんと約束してますから」

カッチーがきっぱり言った。


「クルテと約束ってどんな?」

「ピエッチェさんを優先するって約束です。もし二人が喧嘩してもピエッチェさんの味方をし、クルテさんがピエッチェさんと離れていたら、俺はピエッチェさんから離れない。だいたいそんな内容です」


 なんだそれ、と言おうとするのをマデルの叫び声が邪魔をした。

「ピエッチェ! 来て、ピエッチェ! クルテが大変だよ!」


「大変って何が!?」

叫び返すピエッチェに、向こうから来た通りすがりが

「お連れさん、大変な熱らしいよ」

と言った。


「えっ?」

「行きますよ、ピエッチェさん」

カッチーがピエッチェの手を引くと、すぐにピエッチェも駆けだして、手を引く必要がなくなった。


 クルテのところに着くと(ひざまず)いたピエッチェがクルテの手を握る。マデルがそうしたのか、クルテはぐったりと道端に横たわっていた。

「すごい熱だよ。魔法でなんとかしようとしたけど、大して下がらない」

確かにクルテの手は熱い。(ひたい)に触れると燃えるようだ。


「セレンヂュゲに急ごう。もう街の入り口が見えている――立てるか、クルテ?」

何か(うめ)いただけでクルテの反応は薄い。


 ピエッチェが立ち上がり背負っていた箱をカッチーに渡す。

「カッチー、荷物を頼む。クルテを背負ってく。マデル、手伝って。魔法でクルテを俺の背に乗せられるか?」


 背を向けてしゃがみ込むと背中にそっとクルテが乗せられたのを感じる。マデルが前に回りクルテの腕をピエッチェの首に回そうとするが覚束(おぼつか)ない。結局、クルテの腕を押さえてピエッチェが立ち上がり、それから後ろに手を回してクルテを支えて少し前屈みに歩きだす。


「待って。これでクルテを縛ろう」

マデルが荷物の中からリボンを出した。ピエッチェが立ち止まるとリボンは宙に浮き、スルスルと延びてクルテをピエッチェに(くく)り付けていく。最後にリボンの先端はクルテの両腕を結んだ。


「うん、これなら走っても大丈夫そうだな。急ぐぞ!」

駆け出したピエッチェ、マデルとカッチーもそれに続く。


 走りながらピエッチェが思う。昨日からクルテは体調が悪かった。なんで気が付かなかったんだ? 


 湯を水のようだと言い、身体がいつもより熱かった。あの時はもう、発熱してたってことだ。今日は寒いと言い、俺に背負って欲しがった。あれは冗談なんかじゃなかったんだ。


 でも、セレンヂュゲに着いてもどうしたらいい? クルテが魔物じゃなければ迷わず医者に連れて行く。だけどこいつは魔物だ。医者に診せてもいいものか?

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