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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
23章 王家の森

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 何も言えなくなってしまったマデルに微笑んだラクティメシッス、視線をカテロヘブに移す。

「どうですか? クリオテナとネネシリスをよくご存じの、あなたの意見は?」

カテロヘブは面白くなさそうな顔をしたが、

「まぁ、姉が話す相手はせいぜいネネシリス……で、ラスティン、しっかり口止めしたんだろう? クリオテナはネネシリスに『口外無用』と釘を刺す。あんたの思惑通りに展開しそうだ」

と答えた。そして続ける。


「だけど、ザジリレン国王姉夫妻のローシェッタ国王家、特に王女フレヴァンスに対する印象は(はなは)だ悪いものになる。この先、目の敵にされたらどうする気だ?」

「フレヴァンスは国政に興味を持っていないとご存知でしょう? わたしとの関係が良好なら問題ないと思っています」

「なるほど。重大な秘密を打ち明けてくれた相手だ、好意を持つと見込んだな?」

カテロヘブがニヤリと笑えば、ラクティメシッスもニヤリと返す。


「国政に関与しているのは王姉クリオテナではなく夫君()リア()()ート()()。クリオテナの好感度が上がったところで意味はありませんよ」

「ネネシリスがクリオテナに影響されるとは考えなかった?」

「グリアジード卿は(おおやけ)の場に私情を持ち込むような人物なんですか?」

「いや、それは……ないな」

それでも不満を隠せず唇を尖らせるカテロヘブ、ラクティメシッスは少し目を細めただけで、深追いする気はないようだ。

「あなたの姉上の話はこの辺でいいでしょう? わたしの作り話をどう生かすかはお任せします――それより本題に移りましょう」


 父であるローシェッタ国王が病床にあるにも関わらず、ラクティメシッスがわざわざザジリレン王宮に自ら出向いたのは、なにもカテロヘブを送り届けるためだけではない。むしろもっと重要な目的がある。


 カテロヘブにしてもそれは同じだ。王宮に戻れればいいわけではない。王宮内外で暗躍している何者かを(あぶ)りだして断罪する……それはラクティメシッスの目的とも合致するものだ。


 二重、三重……いくにも張り巡らされた罠に気付くことなく、ずっと振り回されてきた。だがこれからは、そう易々と引っ掛かるもんか。敵対する何者かの存在すら知らなかった時とは違う。『敵が存在する』ことだけは現時点で確定している。


 それでも、こちらの()の悪さは否めない。なにしろ敵の正体が掴めていない。それを特定しないことには捕らえようもない。


 話しに来たはずなのに、カテロヘブの口は重い。考え込んでしまって、ラクティメシッスの催促になかなか答えようとしない。


「カテロヘブ?」

「いや……主犯は誰なんだろうと、考えてしまった――王宮正門前に現れた偽カテロヘブは首謀者じゃない。国王を(かた)ったのは誰かに命じられたからだ」

「まぁ、そうですね、そうも考えられますが……ヤツの言動だけで判断するのも危険かもしれません。あの場を逃れるため愚鈍さを装い、誰かに命じられたフリをしたのかもしれません」


 ドロキャスを幽閉していた馬車の爆発、その混乱に紛れて魔法封じ・魔物封じを駆使したカテロヘブには判っていた。偽カテロヘブはただの人間だった。多少の魔力はあったが、それだけだ――ザジリレン王家秘密の魔法の使用は一瞬のみ、魔物の気配とその魔物が魔法を使ったことは検知できたが、魔物の位置は特定できず、魔法を解除する余裕もなかった……爆発直後に偽カテロヘブを消したのは〝あの広場〟もしくは〝至近距離〟に居た何者かの魔法だ。爆発のどさくさに紛れて魔法を放ったのは確かに魔物だった。


 偽カテロヘブを消した魔法は魔力が強く高い知性を持った魔物の仕業だ。だからラクティメシッスは検知できずにいる……けれど〝ザジリレン王家に伝わる秘密の魔法〟で断定済みだ、なんて言えない。


 どうしたものかと再び考え込んだカテロヘブの横で、菓子皿のクッキーを睨みつけていたクルテが

「カティに化けてたのはただの人間」

サラリと言った。


 おい、クルテ。おまえ、自分の正体を隠す気、失くしてる? ラクティメシッスに検知できない魔力を検知できるなんて、おまえは女神の娘だと、ラクティメシッスはますます確信するじゃないか。それ、後々を考えるとエラく面倒だぞ? 内心慌てるカテロヘブ、これも言葉に出して言えない。


「だけどあそこから瞬時に消えたのは魔物の魔法」

さらに断言するクルテ、興味がなさそうな顔をしてきっちり話を聞いていたらしい。不満そうなのはラクティメシッス、ムッとした顔で訊いた。

「お嬢さん、魔物の魔法って?」


「魔物の魔法は魔物の魔法……ラスティン、知能の高い魔物は魔法が使えるって知ってるよね?」

「あの広場に魔物の気配は感じませんでしたが?」

「だけど、人間が魔法を使った気配も感じなかったんでしょ?」

「えぇ、まぁ、そうなんですけど」


 クルテに遣り込められたラクティメシッス、不満そうだがしぶしぶ黙る。クルテがニヤリとして言った。

「魔物だって知能と魔力が強ければ魔法が使えるし、それどころか意思の疎通も図れる……ジョーンキの森で遭遇した大ヘビを思い出して。頭が八つもあるのに、図体がデカいだけだったじゃん。本能の(おもむ)くままに動いてるって感じだった。だけどさ、ワイズリッヒェが魔物にしたヤツはもともと人間。少なくとも()()()の知能はきっと持ち合わせているだろうし、ワイズリッヒェは〝魔力も与えた〟と言っていたはず――まぁさ、魔物も人間と同じ。個体差ってもんがある」


 うーーん、と唸るラクティメシッスから視線を逸らし、小さいな声でクルテがカテロヘブに囁いた。

「あ、でも、ヘビって全部が全部あんなに愚かってわけじゃないから、その点は勘違いしないように」

またそれかよ? ついニヤけてしまったカテロヘブだ。ま、それも個体差と考えておこう。


「まぁ、魔物だろうが人間だろうがどうでもいいです。問題は敵か味方か……もちろん王宮正門に姿を現した偽カテロヘブをどこかに隠したのも、ドロキャスを馬車ごと吹っ飛ばしたのも、敵で確定と思ってますが」

話を戻したのはラクティメシッスだ。

「正門前に現れた偽カテロヘブは、いったいいつから王宮内にいたんでしょう?」


 カテロヘブがそれに答える。

「あぁ、突然、現れたらしいよ。さっきネネシリスから聞いた」

クリオテナがお茶を淹れている間に聞き出していた。


「んん? 急に、ってことですよね。湧いて出た? あ、さっき、あなたとお嬢さんが壁から出て来たみたいに?」

「へぇ、そんなふうに見えたんだ?」

「あれはお嬢さんの魔法でしょ? やはり偽カテロヘブの後ろには魔法使いがいるってことですね」

「いや、俺とクルテはクルテの魔法でこの部屋の壁から出てきたけど、偽カテロヘブが議場に入った方法は違う」

クルテの魔法と、嘘を吐くことに後ろめたさは感じたが仕方ない。


「会議中の部屋に堂々と、扉を開けて入ってきたって――だけど、その時まで偽カテロヘブがどこにいたのか、どうやって王宮内に入ったのかが判らないって話だ。明日、廊下とかで目撃者がいないか探ってみるけど、多分いないだろうね」

「どちらにしても魔法ですね。きっと門衛の目も騙しているでしょう……サワーフルト山に出現した穴との関連は?」

「ん……それについては材料が足りなくてなんとも言えない。偽カテロヘブについては、王宮内に入った時は元もとの姿だったんじゃ? 王宮内で魔法が使われ、化けたんだと、俺は考えている」


「だとしたら、入場を許された誰かってことになりますよ?」

ラクティメシッスの指摘に、カテロヘブが少し考える。そしてポツンと言った。

「王都警備隊なら無許可だし、騎士団ほど『きっちり』身元を調べたりしない」


「王都警備隊?」

「昨日、俺たちが姿を現したことで()ッテ()()()()ュー()()は混乱した。警備を強化するため、通常は担当ではない王都警備隊が王宮内に配置されても不思議じゃない」

「いつもそうしてるんですか?」

この質問にはカテロヘブ、苦笑いする。

「こんな異常事態、未経験だからな。〝いつも〟なんてのはないよ」

ハッとしたのはラクティメシッスだ。気まずく顔を(しか)めた。つい、ザジリレン王宮の体制に非難がましいことを言ってしまった。


 が、そのあたりには触れず、

「つまり、我らは未体験の危機に追いやられていると言う事ですね」

絞り出すように言った。


 ラクティメシッスの言うとおり、我らは追い込まれている――カテロヘブがさらに考え込んだ。


 王宮に戻ったところで、これからどう動けばいいのか思いつけない。自分の〝国王としての(ちか)()〟はどこまで通用するのだろう? 重臣たちとの接触で感じた手応えは悪いものではなかった。


 王宮騎士団を引き連れ、堂々と王宮正門に姿を現した偽カテロヘブについては重臣たちが放置するはずもない。(ゆく)()を追い、身分を明らかにしようと王都警備隊を動かすはずだ。けれど、そう簡単に敵が尻尾を掴ませるとは思えない。では、どうしたらいいか?


 罠にはまり、一度は王宮から出された。そして、カテロヘブ王は死んだと思われていた。敵はカテロヘブが協力者を得て戻ってくるなど想像もしていなかっただろう。きっと慌てて居るに違いない。再び何か仕掛けてくる。仕掛けてきたその時こそ反撃のチャンス、できれば首謀者を捕らえたい。


 だがそれも、首謀者自身が動けばだ。偽カテロヘブやドロキャスを使ったことを考えれば、自らは出てこない可能性が高い。


「罠を仕掛けよう」

ポツリとカテロヘブが言った。

「思い返してみれば、俺たちは罠にかけられてばかりだ。馬鹿なヤツだと思われていることだろう。こちらが罠を仕掛けてくるなんて、きっと考えちゃいない」


「いや、それはなんとも……さすがに警戒しているんじゃないでしょうか?」

難色を示すラクティメシッスに、ここでもカテロヘブはニヤリとした。


「カテロヘブは頭が固く堅実、冒険を好まず正攻法を常に選ぶ。それが王宮での俺の評価だ……そんな評価とはかけ離れた行動をすればいい」

「でも、具体的には? わたしから見てもあなたはその評価通りだ。そんなあなたが裏をかけるとは思えませんよ?」

「うーーん、それを言われると困る。まだ思いつけない。ラスティン、何かいい案はないか?」

「おや、他力本願ですか?」

ニヤッとしたラクティメシッス、だが笑っている場合ではない。そうですねぇ、と思案顔になる。


「ねぇねぇ」

クルテが場を読むことなくカテロヘブの袖を引く。

「舞踏会はいつやるの? 盛大な舞踏会。楽しみにしてるんだけど?」

今、それを言うのかよ? カテロヘブは呆れるが、クルテはいたって真面目な顔だ。それに……


「クルテ、()()なんて前から言ってたか?」

「だって、『カテロヘブらしくない』ことをするんでしょ?」

ニヤッとクルテが笑う。微笑むカテロヘブ、なるほど、そう来ましたか……ラクティメシッスと見交わして頷きあった――

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