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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
22章 王都カッテンクリュードへ

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「お嬢さん、なにが消えたんです? キャビンの気配は――」

とっくに消えている……ラクティメシッスはそう言いたかったんだろう。が、正門で起きた騒ぎに途中で言葉を止めた。

「消えたって、偽物がか?」


 カテロヘブを追ってきていた騎士と弓兵が、慌てて正門へと戻っていく。すぐそこまで来ていたが、ラクティメシッスが見えない壁を作って近寄らせなかった。だが、壁は進行方向のみ、正門に戻るのに支障はない。新たな異変に気を取られた彼らは、なぜ進めなかったのかを追及するよりもそちらに向かうことを選んでいた。


「うーん……広場にはいないのは確か」

ラクティメシッスに答えてからカテロヘブを見上げるクルテ、

「そうか」

と頷き、カテロヘブが見るのはクリオテナだ。


「爆発したキャビンに気を取られている間に逃げたってことでしょうね」

悔しそうにキャビンを見るラクティメシッス、カテロヘブは何も言わず、ゆっくり馬を歩かせた。姉クリオテナのもとに行く気らしい。


 近づく気配にジジョネテスキが振り返る――こちらも正門の騒ぎを気にして動きが止まっていた。ただ、クリオテナだけはキャビンも正門も気にすることなく、カテロヘブを目で追っていた。


「カテロヘブさま!」

嬉しそうに名を呼ぶジジョネテスキ、ネネシリスが困惑した表情を見せるのは本物と信じていいのか迷っているからだ。ジジョネテスキに頷いたカテロヘブが、クルテを残して馬から降りた。


「姉上……」

クリオテナを見詰めるカテロヘブ、クリオテナがネネシリスの手を振り解こうとする。クリオテナの腕を掴んでいたネネシリスは迷いながらも、されるがままに放してしまう。目はカテロヘブを見つめ続けている。偽物とは思えない。だけど本物だと確信が持てない。


「カテロヘブ……」

よろめきながら近づくクリオテナを支えようとカテロヘブが腕を伸ばせば、すんなりと縋るクリオテナ、カテロヘブから目を離さない。


「よかった、ご無事で」

微笑むカテロヘブにクリオテナの顔がゆがむ。

「馬鹿じゃないの? それってこっちのセリフだわ」


「お加減が良くないと、噂で聞いたものですから」

「あんたなんか、あんたなんか……」

その先が言えずにクリオテナが嗚咽を(こら)えた。そしてそのままカテロヘブの胸に顔を埋めた――あんたなんか、死んだって言われてたのよ?


 カテロヘブたちの横をすり抜けて正門に向かっていたのはラクティメシッス、馬上に置き去りにされたクルテが後を追っている。


 クルテが追いついたのはもう少しで正門と言うあたり、馬を停めてラクティメシッスが微笑む。

「珍しいですね。お嬢さんがあの人から離れるなんて」

ラクティメシッスに馬を並べてクルテが答える。

「クリオテナに嫌われた」


「おや、まぁ。いつの間に?」

「それよりも今は正門……あ、こっちに来た」

「あれは……わたしたちではなくカテロヘブ王のところに行く気のようです」

王宮正門を守っていた騎士たちが持ち場を離れて向かってくる。それに気づいたラクティメシッスの部下たちもまた、王太子を守るべく馬を走らせている。


 今のラクティメシッスはクルテと二人きり、対立する兵が近づけば護衛を兼ねた部下なのだ、見過ごせはしない。


 ところが当のラクティメシッス、カテロヘブのところに行こうとする兵たちの前にわざわざ自ら進み出る。それにクルテが付き従い、声をあげる。

「どこへ行く気だ?」


 ドレスを脱ぎ捨てたあとは男物の装束のクルテ、だが女性なのは一目瞭然、しかも小柄、ラクティメシッスが妨害してくることは予測していたものの、こうなるとは想定外の騎士たちだ。

「我らはザジリレン国の治安を預かる者、役目を果たすべく先を急いでおります。どこのご令嬢かは存じませんが、道を開けていただきたい」


 騎士がクルテに()()()遠慮を見せるのは衣装に施されたカテロヘブ王紋章への配慮だ。しかし『その紋章、信用しているわけではないぞ』と匂わせている。


 答えるクルテ、フフンと鼻で笑う。

「あなたたちが向かっているのはカテロヘブ王のもとなのでは? 王は王姉クリオテナさまとご面会中、遠慮せよ」

横柄な物言いは過分に威圧的だ。さらにラクティメシッスの部下たちが駆けつけ、正門を守っていた騎士たちと、ラクティメシッス・クルテの睨み合いは穏やかには終わりそうもなくなった。


 ラクティメシッスとクルテの後ろに控えた魔法使いたちを、ザジリレンの治安を預かっていると言った騎士がムッと見渡す。

「手荒な真似はしたくない。が、そちらがその気なら、こちらとて容赦はしない」

剣の(つか)に手を伸ばした。


 しゃくりあげるクリオテナ、それを宥めるカテロヘブ……だがクリオテナだけに気を取られているはずもなく、ジジョネテスキに頷いたカテロヘブ、頷き返して騎乗したジジョネテスキ、向かったのはラクティメシッスのところだ。


「なにを揉めている!」

「ジジョネテスキさま!」

正門を守っていた騎士がジジョネテスキを見て蒼褪める。

「クッ……果たして本物か偽物か?」

苦笑を禁じ得ないラクティメシッス、ここで〝本物〟だと言ったところでどう説明したものか?


 ところがそれは杞憂だった。ジジョネテスキが蒼褪めた騎士に微笑んだ。

「ラーリエナク、おまえ、王家警備隊を辞めたんじゃなかったのか?」


「え、いや……」

「辞めなくて良かった。わたしの左遷は冤罪によるものだと、いずれは判る。うん、よく思い(とど)まってくれた」

「……ジジョネテスキさまで間違いないのですね?」

ラーリエナクと呼ばれた騎士が息を詰まらせる。セーレムに送られたジジョネテスキと二人きりで交わした言葉を思い出していた。こんな理不尽が通るのなら騎士など辞めてしまいたいと、言った相手はジジョネテスキだけだ。


 騎士がジジョネテスキを本物と認めたと察してホッとするラクティメシッス、

「おまえたちは持ち場に戻れ――マデリエンテ姫を護れと言ったはずだぞ」

部下たちに微笑む横で、今度はクルテが馬を走らせる。カテロヘブの傍に行きたいらしい。同時にカッチーのそばに居た馬が一頭駆け出して、クルテを追いかけた。

「追うな!」

ジジョネテスキの一声で、クルテを追おうとしていた騎士たちの足が止まる。


「あの女性は?」

ラーリエナクの問いに、答えたのはラクティメシッスだ。

「それはザジリレン王に訊ねるのが一番だろうね」

そしてジジョネテスキに頷くとクルテを追った。


 ラクティメシッスが追いつく頃には下馬していたクルテ、手綱をカテロヘブに渡している。自分はやってきた馬に乗るらしい。クルテが朝から乗っていた馬だ。


「お嬢さんが呼び寄せた?」

「自分が必要とされていると、感じてここに来てくれた」

クルテの答えにラクティメシッスがニヤリと笑う。そう言うことにしておきますかとでも言いたそうな笑みだ。


「カテロヘブ、王宮に入る時間だ」

しっかりと(くら)に納まったクルテが正門方向を見ながら言った。

「あそこにジジョネテスキがいる。隊列を整えろと命じたらどうだ?」


「いや、その必要はない。ジジョネテスキも動き始めた」

自分も馬に乗りながらカテロヘブが答える。そして

「姉上はどうしますか?――って、どこから王宮を出たのです?」

クリオテナを見て笑う。


 本当は『ダーロンは?』と訊きたかったが、状況が判らない。下手に聞いて(やぶ)へびになっては拙い。


「庭から出てきた。あとで話す――塀の補修をしなきゃならないわ」

なるほど、塀に破れがあったってことか。


 そこに馬を引いてきたのはジジョネテスキだ。二頭連れている。

「こちらをお使いください」

クリオテナとグリアジート卿のために用意したらしい。


「あら、ありがとうジジョネテスキ。久しぶりね。クリンナーテンは元気?」

「ご無沙汰しております、クリオテナさま。妻とはしばらく顔を合わせておりませんが、つつがなく過ごしていると聞いております」

「それは寂しいわね。早く呼び寄せなさいな――ところで、馬は二頭じゃ足りないわ」

ジジョネテスキからカテロヘブに視線を移してクリオテナが笑う。

「ダーロンがいるの……無実の罪で牢に入れられてたんだけど、脱獄したんですって」


 うん、知っているよ……カテロヘブが答える前にネネシリスが叫ぶ。

「本物のカテロヘブなら、ダーロミダレムを罰したりしないはずだ!」

あぁ、そうか、ネネシリスも本物で間違いないようだ。


 カテロヘブが微笑んだ。

「姉上、お嫌でなかったらわたしの馬に同乗しませんか? その馬はダーロミダレムに。いいな、ジジョネテスキ?」

ジジョネテスキが『ご随意に』と微笑んだ――


 開門! かいもーーん!!


 大門前広場に声が響く。開門を促されているのは王宮正門、大門を通りカッテンクリュードに入場した隊列は元通りに整えられ、先頭はジジョネテスキだ。


 歓声が広場に響く。国王が無事にご帰還された――ジジョネテスキがコッテチカから率いてきた兵たちによる封鎖も解かれ、広場は民人でごった返し歓声が渦巻いている。封鎖は解いたものの、今度は民衆の整理で兵たちは大わらわだ。


 その傍ら、噴水横でキャビンの残骸を検分しているのは、やはりジジョネテスキの部下の将校だ。隊列に加われないのは残念だが、おまえに任せたいとジジョネテスキに言われれば、それもまた名誉なことだ。しかもラクティメシッスの部下の魔法使いを三人ほどつけて貰った。


「ローシェッタに監視されてるってことですか?」

こっそり訊いてきた部下にジジョネテスキが苦笑する。

「カテロヘブ王の指示だ――キャビンの爆発と、正門で偽物が消えたのは魔法によるものだとのお考え、ならば魔法に()けているローシェッタに協力を仰ぐのが得策と仰った」

と答えたものの、ジジョネテスキとしてもローシェッタ国にしゃしゃり出られるのは面白くない。


 だがジジョネテスキはラクティメシッスを信用している。なにしろカテロヘブが信用している相手だ。そしてそれ以上に、ケインズの屋敷にカテロヘブとともに忍び込んだ……大国ローシェッタの王太子ともあろうおかたがだ。


 だからこそ、カテロヘブ王はラクティメシッスを信用したんじゃないのか? どうして知り合ったのか、どんなふうに親しくなったのか……事が落ち着いたなら、ゆっくり聞かせてくれるだろうか? きっとカテロヘブ王はぼそぼそと、聞けば答えてくれる。その時は、できればラクティメシッスさまも一緒がいい。あの人ならスラスラと、こちらの聞きたいことを察して話してくれそうな気がする。だけど無理か? 自分は隣国王太子と国王の歓談に、同席できるような身分じゃない。


 それにしても気になるのはあの女性だ。ジジョネテスキがクルテを盗み見る……ケインズの屋敷にも同道していた。カテロヘブ王とどんな関係なんだ? それにきっと、魔法使いだ――

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