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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
22章 王都カッテンクリュードへ

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 正門に居るミルクティー色の髪の男の正体を見極めたい。果たして魔物なのか人間なのか? それによっては大きく対処法を変えなくてはならない。ラクティメシッスが何も言わないところを見ると、魔物の気配を検知したということはなさそうだ。


 大門広場は大勢の兵でごった返している。兵の中には魔力持ちも多い。雑多な魔力が入り乱れていて、特定の人物の気配を探るのは難しい。その上、カテロヘブを護る騎士たちが右に左に動いて、決してジッとしていない。向こうの視界を遮るためだ。つまりカテロヘブの視界の邪魔にもなっている。


 しっかり目視できなければ、見極めるのは困難だ。いっそ、馬を走らせ護衛を無視し、ヤツの眼前まで行くか? 至近距離に近付きさえすれば、判るはずだ――とは思うものの、実行すれば騎士たちも必ずついてくる。ラクティメシッスだって(おと)しくしちゃいない。


 顔を見に来たと言っても通用するはずがない。とうぜん向こうだって動き出す。弓兵は矢を射かけ、騎士は剣を抜くだろう。そうなれば、こちらだって反撃することになる。戦闘が始まってしまう。敵を認定できないうちに、攻撃を仕掛けるのと変わらない……あの男はともかく、他は自国の民だ。攻撃なんかできない。


 どうしたものか考えあぐねているところにクルテが来て、空腹を訴えた。空腹は口実だと思った。こんな緊張状態が続けばそれだけで疲弊する。兵の緊張を緩和しろ、クルテはそう言っているんだ。


 ニンマリ笑むクルテを見て、想像は当たっていたのだと思う。さらに、こんな時でもクルテはなんて可愛いんだろうと思った。この笑顔は俺のものだ……そして感じた一瞬の閃き、仲の良さを見せつけたら? もしもあの、俺と同じ顔をした男がアイツだとしたら、怒りに任せて冷静ではいられなくなるんじゃないのか? サワーフルト山でクルテを連れ去ろうとしたアイツ、ゴル()()だとしたら……


 特別な反応がなくてもいい。ゴルゼでないと〝はっきり〟する。


 ずっとマデルの侍女のフリを続ける気はないと言ってニヤリとしたクルテ、手招きされて打ち明けられた内緒話……それに答える仕草でクルテの耳に口元を寄せて計画を話した。

「ゴルゼでなければ魔物じゃないってのは短絡的。ワイズリッヒェはもう一人、魔物に変えた」

と言いつつクルテがニヤリと笑う。

(から)うのは楽しいかも」


「って、おまえ、怖くないのか?」

心配材料はその点だった。もしもゴルゼとはっきりしたら、クルテが恐怖に震えるんじゃないか?


「どんなにイラついたって、衆目の前でアイツだって正体を現せない。つまり襲ってはこない、多分」

おや、『多分』かよ? まぁ、クルテの言うことも一理ある。自分で言い出したことでもある。物は試しだ。


 うまい具合にジジョネテスキたちやラクティメシッスを追っ払えた。クルテと顔を近づけてはニヤニヤと、これ見よがしにベタベタと互いの身体に触れあい抱き締め合い、微笑みあった。クルテはともかくカテロヘブが、正門の男から注意を逸らすことはない。男は怖い顔でこちらを見ている。


 怖い顔で見ているのはラクティメシッスもか? 痛いほど視線を感じる。きっと他の連中も、王は何をしているんだと呆れていることだろう。でもいいか、どうせいずれクルテを妻にする。その伏線だとでも思えばいい。


 正門の男に動きはない。

「反応が鈍い、ゴルゼじゃなさそうだな」

クルテの耳元で呟くカテロヘブ、するとクルテが

「くすぐったい……」

身体を(よじ)った。


「えっ?」

(あご)に感じた柔らかさはクルテの唇か? ついカテロヘブの瞳がクルテを探した。そして――


「くそッ! 射かけてきた!」

カッチーの叫び声、ガタンと椅子を倒して立ち上がったラクティメシッスも叫ぶ。

「カテロヘブ!」


 カテロヘブの注意がクルテに向かった瞬間、男が動いた。いつの間にか手には弓がある。それどころかすでに矢は放たれている。こんなに早く動けるものか、きっと魔法だ!


「馬を走らせろ!」

クルテの叫び、反射的に馬の腹を蹴るカテロヘブ、が、ぱっと目の前に何かが広がった。


 広がった何かが飛んできた矢を叩き落とす。

(はや)わざだな」

カテロヘブの呟き、広がったのはクルテのドレス、瞬時に脱ぎ捨てて矢を(はた)いた。こちらも魔法を使ったに違いない。


 ドレスの下には男物の衣装、背中と襟にザジリレン国王紋章が刺繍されている。侍女のフリを続ける気はないと、クルテが言ったのはこのことか。ローシェッタ貴族の侍女から、今は……まぁ、王の紋章を身に着けているのだからカテロヘブに関係する何者かだ。


 正門では偽カテロヘブの動きに騎士も弓兵も慌てている。

「カテロヘブさま!? 攻撃開始でよろしいのですか?」

指示を出すことなく偽カテロヘブは二の矢を放つ。周囲の兵の動揺など気にならないらしい。


 ()()()カテロヘブの後方でも、急な動きに動揺が広がっている。が、こちらはしっかりとした指揮官がいる。

「待機を命じられている者は動かずそのままで!」

そう叫んだジジョネテスキ、が、慌てて騎乗する。もちろん指名された騎士たちはジジョネテスキに続く。


 誰よりも早く騎乗したのはラクティメシッス、

「カッチー、マデリエンテを頼む」

視線をカテロヘブに向けたままの指示、馬に駆け寄ろうとしていたカッチーがグッと足を止め、マデルに寄り添った。


 三の矢、四の矢……クルテが振り回すドレスは次々と矢を落とす。なぜ矢はドレスを(つらぬ)かない? 決まっている、クルテの魔法だ。


「カテロヘブさま!」

正門前の騎士の叫び、

「どうした、何かあったのか!?」

答えるのはクルテを抱いた『本物の』カテロヘブ、既にすぐそこまで進み、馬を停めて微笑んでいる。


「えっ? いや……」

騎士だけじゃなく弓兵も偽物と本物を見比べ始める。クスリと笑むのは本物のカテロヘブだ。

「あぁ、よく似ている。わたしでさえ間違えそうだ」


「おのれ……」

偽カテロヘブが次の矢をつがえ、ぎりぎりと弓を引き絞った――


 時刻は少し前に戻る――王家の森の外れの木の枝から大門広場の脇に生えた木の枝に移ったダーロミダレム・クリオテナ・ネネシリスの三人は、植栽の茂みに隠れて大門広場の様子を窺っていた。

「迂闊に出られないな」

ダーロミダレムが小さくボヤく。


 大門広場はジジョネテスキがコッテチカから連れてきた兵五千でごった返しているものと思っていた。それなのにほとんどの兵が広場の隅、繁みの影から見えるのは騎士が三十余り、噴水前になぜか馬のついていないキャビンが放置され、そこに数名の歩兵と騎士が一人いる。キャビンは臨時の牢代わり、捕縛されたドロキャスが閉じ込められ、歩兵と騎士は看守の役目を任されている。が、そんなことはネネシリスやダーロミダレムに判りはしない。


「ジジョネテスキがいるわね。で、あの金髪がローシェッタ王太子ラスティメシッスで、隣がカテロヘブ? 見た目だけなら間違いなさそうだけど……ジジョネテスキだって、それは同じなんだけどね」

三十騎余りの集団を見てクリオテナが呟いた。

「ローシェッタの王太子は噂通りの金髪。でも会ったことがないから、よぉ~く見たところで判らない。だけど遠目に見る限り、縁談を断ったのは間違いだったかもね」

クスクス笑う。


「ここからだと正門は見えないな」

ボヤいたのはネネシリス、あえてローシェッタ王太子の話題は避けた感がある。

「正門を見るには繁みから身を乗り出すしかない。今はまだ隠れていたほうがいい」

するとクリオテナが、

「正門に居るのは偽者で間違いないから、見る必要もない」

そんなことも判らないのかと嘲笑する。


「念のため確かめて貰おうかと思っただけです!」

ネネシリスが声を荒げる。慌ててダーロミダレムが、

「ここで揉めるな」

と釘をさす。


 しかし、どうする?……ネネシリスが困惑する。ローシェッタ王太子と一緒にいるのが本物と確定できないうちは、ここから出たら危険だ。二人の偽物が王姉クリオテナ争奪戦を始めないとも限らない。争奪戦ならまだいい。クリオテナに危害を加えはしない。怖いのは、争奪戦と見せかけて王位継承権を持つ王姉の抹殺を企てないかと言うことだ。


 ダーロミダレムがチラリとネネシリスを見る。金髪の男と一緒にいるのはカテロヘブで間違いないと言ってしまおうか? 実はトロンペセスから、魔法の連絡具を預かっているんだと、言ってしまえば話は早い。だが……トロンペセスが騙されていないと、どうして言い切れる? とりあえず日記越しの指示に従っているが、そんなの様子見だ。もしも騙されていたとしても、自分ひとりなら窮地に立たされても構わない。けれどもネネシリスや、ましてクリオテナを巻き込めない。


「あら、ジジョネテスキが呼ばれたわ――って、あの女は誰かしら?」

クルテがカテロヘブのところに行って空腹を訴え、それに応じたカテロヘブがジジョネテスキを呼んだのだが、繁みの中の三人には判らない。


「ジジョネテスキに命じられた将校が部下を連れて街中に散っていきましたね」

「なにをする気かしら? そう言えば、街人がいないわね」

「危険を感じて広場から退避したのでは?」

いつもは多くの街人が行きかう大門前広場だ。


「取り敢えず、ここに居れば見付かりそうもありません――腹ごしらえしておきましょう」

クリオテナの部屋を出る際、手つかずだった朝食の中から持ち出せるものを袋に詰めて持ってきていたダーロミダレムだ。もちろん飲料の瓶もある。


「ネネス、朝食は?」

「あぁ、まだに決まってる……そうだな、(しばら)(こう)ちゃく状態が続きそうだ。食える時に食っておこう」


「ダーロンって、気が利くわよね」

クリオテナが嬉しそうにレモン水の瓶を受け取った。チラリとネネシリスを見たのは『それに引き替え』とでも言いたかったか? が、言わなかったのは、ダーロミダレムに揉めるなと釘を刺されたからかもしれない。


 立ったままで何かを食べるなんて初めて、とクスクス笑うクリオテナ、

「王姉さまに、立ったまま食事をさせて申し訳ない」

ダーロミダレムが恐縮する。

「ダーロンのせいじゃない」

取りなしたのはネネシリス、

「あら、わたし、楽しんでるのよ」

クリオテナは屈託ない。


 クリオテナが、と言うより三人が、広場に居る男がカテロヘブで間違いないと確信したのは、食事を終える直前だった。


「ジジョネテスキの部下が街中に入っていったのはこのためだったのね」

大門前広場で飲食料の配布が始まったのを見てクリオテナが言った。

「正門の分もあるみたい」


「カテロヘブならそうするでしょうね」

とはダーロミダレム、

「ジジョネテスキとラクティメシッスらしき男も後方に下がったな。先に休めってことか……本物っぽいな」

これはネネシリスだ。が、

「まだ判らないわ」

クリオテナが静かに言った。

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