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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
22章 王都カッテンクリュードへ

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 激しく叩かれる居室のドア、クリオテナの目は恐怖の色を宿している。この苦境を乗り越える方法が思いつかない。


 ダーロミダレムを隠す? でもどこに?


 この部屋にはネネシリスが叩いているドアか、寝室に通じるドアしかない――窓の外に気配を感じ、見たらダーロミダレムだった。


 ダーロミダレムが屋内に入ってきたのは、ネネシリスが(いま)居る廊下にある出入り口からだ。だから来た時と逆のルートは使えない。


「クリオテナ!?」

廊下のネネシリスが妻の名を呼ぶ。

「なぜ開けてくれない? それほど……体調が悪いのか?」

強気の声が最後は不安でいっぱいだ。


 つと立ち上がったのはダーロミダレム、ドアに向かうのだと察したクリオテナも立ち上がり、行く手を阻む。


「まさかドアを開けるつもり?」

「開けるしかありません。開けない限り、ずっとドアを叩き続けますよ」

「でも……部屋に入れたらきっと、あなたを疑う」

「わたしを疑う?」


 ダーロミダレムが不思議そうにクリオテナを見る。

「疑うも何も、わたしは脱獄犯です。観念し――あっ?」

話す途中でクリオテナの恐れに気が付いたのか、視線をドアに向けた。クリオテナがドアを開けないのは脱獄したダーロミダレムを匿っているからだけじゃない?


「わたしとあなたの仲をネネシリスが疑うと、あなたは思っているのですね?」

「だって、ダーロン。部屋で二人きりだなんて……言い逃れのしようがないわ」

「そうですか。うん。そうですよね……王姉さま、愛されているのですね」

「なに悠長なこと言ってるの!」

うっすら微笑むダーロミダレムに、クリオテナは焦りを募らせるだけだ。ネネシリスがドアを叩く音はいったん収まっている。クリオテナの反応を待っているのかもしれない。


 愛されているのですねと(から)うようなことを言ったのに、クリオテナは頬を染めるでもなくドアを気にしている。そりゃあそうか、恋焦がれて一緒になった夫だ。誤解されて夫婦仲が(こじ)れたらと心配なんだろう。匿ってはくれたものの、わたしのことなんか二の次だ。それに……


 それに、とダーロミダレムが思う。クリオテナはネネスが疑うと考えている。それってネネスもまた、クリオテナを愛しているということだ。ベッドでよろしくやっているところに踏み込んだのならともかく、愛していなければ他の男と二人きりでいようが気にしないだろう。今は朝の早い時間とは言え昼間だし、朝食をご馳走になっているだけだ。ましてわたしはネネスとも幼馴染、それなりにクリオテナとも親しかった。


 そうか。そうか、ネネス。クリオテナに思われて、仕方なく一緒になったわけじゃなかったか。


「判りました。ここはわたしがなんとかしますよ」

ダーロミダレムがニッコリとクリオテナに微笑んだ。

「その代わり、必ずわたしに妻を世話してくださいな」


「こんな状況でよくそんなことが言えるわね!」

「あなたはわたしに脅されて、仕方なく部屋に入れたことにしましょう」

「えっ?」

「わたしは脱獄囚です。ネネスだって納得するはずです……叫び声を上げなさい。やっとわたしから逃れ、ドアを開けることができたと言えば疑われません」

クリオテナがマジマジとダーロミダレムを見た――


 ラクティメシッスの呼びかけに馬を止めたカテロヘブ、ジロリとラクティメシッスを見て難しい顔をしたものの、すぐにまた馬を歩ませ始めた。

「どうするつもりですか?」

馬を並べてラクティメシッスが小声で問う。カテロヘブはチラリとラクティメシッスを見たが答えない。


 ラクティメシッスの部下……隊列には加わらず、街人に紛れ込ませた魔法使いからの報告は『王宮内から正門に騎士が向かった』と言うものだった。


 もともと配置されていなかった騎兵が二騎ほど正門に立つようになったと聞いている。さらにそれを増やすらしい。騎兵ではなく〝騎士〟と言っているところを見ると、王都警備隊ではなく王宮騎士団ってことだ。あるいは、王家警備隊か? 何しろ王宮内から現れた十三騎が、正門の守りに加わった。


 カテロヘブを不機嫌にさせたのは十三騎がどこに所属するかと言うことよりも、率いてきた男の存在だった。


 ラクティメシッスの部下の報告によると、王宮が正門に回した騎士を率いているのは『ミルクティー色の髪の男、軽装だが鎧を着用、その鎧にはザジリレン国王の紋章がある』という。それをラクティメシッスから聞いた途端、カテロヘブの顔色が変わった。


 なんのつもりだ? カテロヘブが唇を嚙む。本人を目の前にして、自分こそがまことの王だと主張する気か?


 判った。そっちがその気なら化けの皮を剥がしてやろうじゃないか。王位がどうのと言うよりも、カテロヘブは俺だと言ってやる――そこまで考えて不意に笑いが込み上げた。急に馬を止め、カテロヘブがクックと笑う。


「どうしたのです?」

ラクティメシッスがますます案じる。だけどカテロヘブはまたもチラリと見るだけだ。


 もし同じカテロヘブと言う名だったらどうするか? そんなことを思いつき、急に笑いが込み上げた。ない話じゃない。そう言われたら俺は、返す言葉を失くすんだろうな。


 ひとしきり笑ったカテロヘブ、ラクティメシッスを見て言った。

「いいや。要はその男、王を(かた)っているんだろう? どれほど似ているのか、見てみようじゃないか」

ホッとしたのはラクティメシッス、カテロヘブに限ってないだろうとは思ったが、怒りで暴走しないかと冷や冷やしていた。


 カテロヘブとラクティメシッスのヒソヒソ話は聞こえずとも、何かがあったと察しているカッチー、気掛かりだったが内緒話に口を挟むことは遠慮していた。が、笑った後のカテロヘブの声ははっきり聞こえている。

「国王の偽者って、ザジリレンでも流行しているんですか?」

ピエッチェが笑っているなら心配ないとホッとしているのがありありと判る。


「ヘンなもんを流行させたのはどこの誰だろうね。そのほうが気になるな」

カッチーの軽口に、笑って答えるカテロヘブ、さらにカッチーが、

「安心してください。王より王らしい人はいませんし、それに王のほうがきっと男前です」

またも軽口を叩いて笑う。


 ピエッチェさんと言ってしまいそうだし、カテロヘブさまとかカテロヘブ王ってなんだか畏れ多くて言えませんと言っていたカッチーだ。だから『王』でいいですか? それならトチらず言えそうです。


 なんとでも好きに呼べ、そう答えたカテロヘブ、だけど『カッスゥダヘル』と呼ばれたら、ちゃんと反応しろよ、と笑った。これにはカッチー、『大事な真の名を忘れたりしません』と答えている。


「うん、騎乗しているのが十三騎、歩兵が十……十五ってとこですね」

正門の向こうから増員された者たちが表に姿を現し、あっという間に正門を隠してしまった。

「もともといたのを加えれば騎兵が十五、歩兵が十七……本気でわたしたちを止める気はなさそうですよ?」

ラクティメシッスが苦笑する。


 コッテチカからジジョネテスキが率いてきた五千のうち、大門広場に入場完了しているのはざっと千五百、これに三十数人で当たるのはどう考えたって無謀だ。


「止まれ! 全軍停止!」

前方でジジョネテスキが叫び、将校が後続に伝えていく。最後部まで声が届く頃合いに、馬を走らせてジジョネテスキがカテロヘブの傍に来た。


「正門前の連中、弓を使う気です」

ジジョネテスキの言葉にカテロヘブが正門を見るが、この位置から弓兵かどうかは判別できない。少なくとも今のところ弓を構えている様子はない。

「背に弓と矢筒を負っています。奥から出てきた騎士は全員、簡易的とはいえ鎧を着用しています。なにしろ胸糞悪いのが……」

魔法使いの報告を聞いていないジジョネテスキ、を吐きそうな顔で言った。

「それらを指揮している男、鎧に王の紋章を付けています」


 フフンとカテロヘブが鼻を鳴らす。

「それで? わたしに似ているのか?」

訊かれて口籠るジジョネテスキ、

「いや、それが……」

随分と言いずらそうだ。ってことは

「似ているんだな?」

カテロヘブが笑う。


 口をへの字にヒン曲げたジジョネテスキにカテロヘブが問う。

「もしも……わたしとアイツが並んだとして、見分けがつくか?」


「付きますとも!」

叫ぶようなジジョネテスキ、カテロヘブがフッと笑む。

「そうか、見分けがつかないほど似ているか」

考えもせず即答したのはジジョネテスキの気持ちの問題、現実はどうあれ見間違うものかと言った。ならばそっくりだと思ったほうがいい。


「まぁ、いい。混戦になったら鎧を付けているのが偽者だ」

進むべき先を見やるカテロヘブ、ラクティメシッスも正門を見て考え込む。


「弓を射られた場合、どうします?」

問うラクティメシッス、答えるカテロヘブ、

「それを聞くか? 思う存分働いて欲しいと思ってる」

互いに顔を見合わせニヤリと笑う。


「どうせ兵たちには怪我をさせないようにって、あなたは言うんでしょうね?」

「先を考えたら、それが互いのためだと思うぞ」

「ま、こちら側の兵は保証しましょう。でも、通路の左右の兵たちは少し下げたほうがいい」

ラクティメシッスの依頼に、カテロヘブがジジョネテスキを呼ぶ。王と王太子が相談を始めてからは少し離れて正門を睨みつけていた。


「通路脇の兵たちは退避させろ。ここから正門までの間でいい――正門に引き連れるのは二十五騎だ。選抜してこの場に集結させろ」

「カテロヘブ王、二十五騎で正門に向かうと?」

「あぁ、あそこで邪魔をしているヤツ等を散らすにはその程度で充分だ」

「だって、弓兵が――」

「動け、ジジョネテスキ!」

カテロヘブの一喝に、ジジョネテスキが息を飲む。


 複雑な心情に泣き出しそうなジジョネテスキ、だがカテロヘブは微笑んでいる。

「大丈夫だ、ジジョネテスキ。わたしを信じろ」

あぁ、そうだ。わたしの王は、もはや守られるだけの存在ではなくなった――ジジョネテスキが馬の手綱を引くと隊列の後方に向かった。すぐに将校の声が響く。


『ジジョネテスキ隊は中央通路から退避! 後退して大きく道を広げろ!』

同時に後方から聞こえる蹄音、ジジョネテスキ率いる二十五騎だ。カテロヘブたちを擦り抜けて前方に向かった。


「では、魔法使いは五人?」

ラクティメシッスがカテロヘブに訊いた。


「いいや」

カテロヘブがニヤリと笑う。

「残り五人は俺たち五人だ――ラクティメシッス、一人じゃ心細いか?」


 ちょっと目を見開いたが、すぐにクスクス笑い始めたラクティメシッス、

「こんなに人使いが荒かったっけ? あれ? 人使いが荒いのはお嬢さんだったはずですよ?」

楽しそうに言う。

「わたしだけじゃない。お嬢さんとマデルもいます。充分ですよ」


 頷き交わすカテロヘブとラクティメシッス、目指す先に視線を向けた――

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