表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
22章 王都カッテンクリュードへ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

415/436

 カッテンクリュード大門前広場にざわめきが広がっていく――


 大きく開かれた大門の向こうに見えるのは騎乗した数人だ。先頭のジジョネテスキがゆっくりと馬を歩かせて門をくぐる。続くはザジリレン国軍紋章旗を掲げた将校、その後ろは騎乗した四人の将校、そして……


 広場のざわめきがさらに大きくなった。

「王家紋章旗だ!」

「国王の紋章もある!」


 紋章旗を掲げた二騎が通り過ぎ、兵たちの心が騒ぐ。次には誰が通るのか? 大門から王宮正門に向かう一行を守れとジジョネテスキは命じた。確かそれはローシェッタ王太子だったはずだ。でもあの紋章旗は?


 次の二騎も紋章旗、だが見覚えがない。誰かがポツリと呟いた。

「ローシェッタ王家紋章旗と王太子紋章旗だ」

ではやはり、この隊列はジジョネテスキが予告したとおり、ローシェッタの? 肩透かしを食わされたような虚無感、興奮が波紋のように醒めていく。


 が、それも束の間、大門に近い場所から歓声が沸き起こる。入り口近くに居たのは左右に別れた総勢五十一騎の有能な騎士、多少のことで動揺しないはずが、この時は(うろ)えている。だが、それも寸時、すぐに居住まいを正し、自分の出番を誇らしげに待った。


 その五十一騎の前を通り過ぎて行ったのは、ミルクティー色の髪の威風堂々とした若い男、

「カテロヘブ王だ!」

誰かが叫ぶ。が、その叫びはあっという間にうねりのような歓声にかき消された。


 カテロヘブと馬を並べるのは黄金の髪の男、その男とカテロヘブ王を挟んでいるのはかなり若い男、この二人に見覚えのある兵はいない。が、噂は聞いている。あの金色の髪の男はローシェッタ王太子だ。見惚れるほどの美形と言う噂は真実だったらしい。


 だが、もう一人は誰だ? 随分と若い。成人前と言われたら『そうか』と思うような若さだ。身体も出来上がっていなさそうな? おぉ、衣装に使われている紋章はサンザメスク卿のもの、だが馬の胴飾りにあるのは国王の紋章……ではサンザメスク卿の縁者、そしてカテロヘブ王の側近だ。


 続く二騎は女性、一人は栗色の髪、優美な衣装に刺繍されているのは見たことのない紋章、だが馬の胴飾りにはローシェッタ王家の紋章がある。では王太子の……侍女? いいや、あの雰囲気はそんなんじゃない。王太子の寵愛を得ていると思っていい。婚約者が妥当だが、ローシェッタ王太子が婚約したとは聞いていない。どちらにしろローシェッタ王太子に近しい。


 もう一人は黒髪、こちらもどこぞの姫ぎみか? 栗色の髪の女性より、僅かに劣る衣装だが……衣装には栗色の髪の女性と同じ紋章が使われている。だが、馬の胴飾りの紋章はローシェッタ王家ではなく衣装のものと同じ。ならば栗色の髪の女性の侍女なのだろう。


 女性二人の後ろは、ザジリレンの衣装ではない三十騎弱、そうか、この風変わりな衣装はローシェッタの魔法使いたちだ。全員が、首から同じペンダントを下げているがローシェッタ王家の紋章入りだ。音に聞くローシェッタ王室魔法使いたちに違いあるまい――ローシェッタ王太子自身が王室魔法使いだと聞いている。その部下たちを護衛として随行させたのだろう。


 その後ろにザジリレン国騎士が二騎、大門から入ってきたのはこれが最後部、門の内部に控えていた左右二十五騎が二騎の後ろに付き従い、その後ろに大門広場に残された兵たちに指示を与えていた将校が加わった――


 ジジョネテスキが馬を止めたのは噴水広場のあたり、左右に別れた兵たちの中から躍り出る者がいた。ドロキャスだ。松葉杖をついている。紋章旗の後ろにいた四騎の将校がジジョネテスキの前に出てくる。それを制するジジョネテスキをドロキャスが睨み付けた。

「なに勝手なことをしているんだ!」


 馬上から見下ろすジジョネテスキ、フッと笑いを漏らす。

「勝手と言われても……判断し、指示を出すのがわたしの仕事。それを果たそうとしているだけだ」


「わたしに許可なくそんなことは許さない! デネパリエルに行って逆族を討伐するんじゃなかったのか? 行き先が逆じゃないか。どこに行く気だ!?」

「うん、ザーザング行きは中止だ。もっと重要な任務が発生した」


「重要な任務だと?」

ドロキャスが舌なめずりするような目をジジョネテスキに向けた。駆け付けた将校がジジョネテスキに耳打ちしている時だった。耳打ちしたのは大門内に残った兵たちにジジョネテスキの指示を伝えた将校、停止した隊列を不審に思い、最後部から急いで確認しに来たのだ。


 将校に頷いてからジジョネテスキがドロキャスに答える。

「あぁ、それはそれは重要な任務だ」

ニマニマと笑みを浮かべているのは、ドロキャスを挑発しているように見える。


「王宮からの命令以上に重要な任務などあるものか! あるなら言ってみろ」

ドロキャスもジジョネテスキを挑発する。ふんぞり返って『どうだ、言えやしないだろう』とニヤついている。が、これは芝居だとジジョネテスキが心の中で笑う。


 ジジョネテスキが何をしようとしているかドロキャスが知っていると、将校の耳打ちで聞いているジジョネテスキだ……デネパリエルでローシェッタ王太子と遭遇し、王宮まで護衛することになった、ドロキャスが知っているのはそこまでだ。


「デネパリエルで意外なかたと出くわした。そして王宮まで護衛するようご下命があった――ドロキャス、邪魔だ。道を塞ぐな」

「何を言うか! 意外なかたとは誰だ!? それに『ご下命』だと? きさま、ザジリレン王宮以外の命令に従うつもりか!?」

「軍人たるもの、王宮の命令に背くことなどありようもない――王宮まで護衛するのはローシェッタ国王太子ラクティメシッスさま、そしてラクティメシッスさまと婚約が内定しているクラデミステ卿ご令嬢マデリエンテ姫のおふたかた。ドロキャス、無礼は許さんぞ」

「ぶっ! ぶはははは!」


 高笑いを始めたドロキャス、ジジョネテスキは腹の中で笑う。やっぱりコイツ、ローシェッタ王太子の護衛とわたしに言わせたかったか。(げん)を取ったつもりかもしれないが、おまえの思惑通りになんか行かないぞ。おまえ、わたしの発言をきちんと聞いていないだろう?


「語るに落ちたなジジョネテスキ! ザジリレン王宮の命に背くものではないと言いながら、敵国ローシェッタの王太子に従うとは!」

大興奮のドロキャス、憤りの表情を作りたいのだろうが、どうにも歓喜を隠せずにいる。ジジョネテスキに罵声を浴びせているくせに、口元がニタついている。


 対するジジョネテスキ、こちらは落ち着いたものだ。落ち着いているというより呆れているのか?

「おいおい、誰がローシェッタ王太子に従っているって? 護衛していると言ったんだぞ?」


「煩い! えぇい、面倒だ! ジジョネテスキを捕縛しろ!」

周囲には成り行きを見守るたくさんの兵たち、だけど誰も動こうとしない。

「おーーい、おまえたち! わたしの命令が聞けないのか? ジジョネテスキは失脚した。これでわたしがザジリレン国軍のトップだ、判っているのか!?」

ドロキャスががなり立てるが誰も動かない。兵たちのどこかで『わが軍のトップはモバナコット卿だよなぁ』と声がする。


「モバナコット卿も更迭に決まってる! 長子ジジョネテスキが反逆を企てた、責任を取って貰う!――いいから、さっさとアイツを捕らえろ!」

苛立ったドロキャスが、松葉杖を振り上げてジジョネテスキを指し示す。


「アイツ、負傷してたんじゃないんだ?」

ジジョネテスキがとうとう吹き出した――


 ジジョネテスキの後方では、前に出たザジリレン将校四騎の穴を埋めるべく、ローシェッタ王室魔法使いがカテロヘブたち五人を取り囲んでいた。

「ドロキャスあたりでしょうかね?」

前を見透かすようにラクティメシッスが呟いた。左右に広がって通り道を作っているザジリレン兵たちの歓声は未だ消えることなく、ジジョネテスキたちの声は届いていない。


 カテロヘブが小さな溜息をつく――ジジョネテスキから聞く限り、副官ドロキャスはお世辞にも有能とは言えない。そんな男が総司令の副官だなど、兵たちが納得するはずもない。上官に反発し、軍の統率が乱れるだろう。が、ジジョネテスキは巧くやっているようだ。ドロキャス以外はジジョネテスキに従っていそうだ。ドロキャスが糞野郎だから、却ってジジョネテスキ支持が強くなったとも考えられる。


 ゴランデ卿はなんでドロキャスなんかを軍に行かせたのだろう? ほかにもっとマシなのはいなかったのか?


 カテロヘブが今度は大きなため息を吐く。

「いつまでも足止めされたままでもいられないな――」

グイっと手綱を引いて魔法使いの狭間を前方に抜けていく。急なこと、予測していなかったことに魔法使いは戸惑い、反射的に道を開けてしまった。なにしろ相手は他国とは言え国王だ。不敬があってはならない。


「ピッ……カテロヘブ王!」

ラクティメシッスが慌てて後を追う。ついピエッチェと呼びかけそうになってしまった。

「すぐ戻る、ここでカッスゥダヘルさまとマデリエンテ姫を守れ」

ラクティメシッスも通し、魔法使いたちは改めて護りを固めた。


 兵たちが自分を捕らえることはない――そんなこと、ジジョネテスキには判っていた。自分に忠実な者だけを選りすぐり王都に連れて来た。ドロキャスに従うもんか。まぁ、末端までは判らないにしろ、司令官は気心知れた者ばかりだ。


 ドロキャスが誰かれ構わず噛みつくが、

「総司令は解任されておりません」

と無視を決め込んでいる。それをのんびり構えて眺めるジジョネテスキが、ますますドロキャスをいらつかせる。しかし、焦っているのはジジョネテスキも同じだ。


 すべての兵がドロキャスをジジョネテスキの副官だと()()()している。事実はどうであろうと、ジジョネテスキが任命した副官だと思っている。ザジリレン国軍では、副官を決めるのは本人だ。


 だからこの場で罪人にはできない。罪人にするほどの罪状がない。上官を諫めただけと言われれば否定しきれない。ドロキャスはジジョネテスキに意見する権利と義務がある。そう考えれば、ジジョネテスキの副官の位置を認めてしまったのは失策だった。しかし、ドロキャスを連れてきたのはネネシリスだ。国王代理の許可は下りていると言われれば、ジジョネテスキには拒否できない。


 そうは言っても、いつまでもここで足止めされるわけにもいかない。うかうかしていれば王宮がこちらの動きに気が付いて、何か手を打ってくるかもしれない。遅くなればなるほど、王宮正門の門衛が開門する確率は低くなる。さて、どうする?


 思案を巡らせるジジョネテスキの耳に、近づく馬の蹄音が聞こえた。振り向くジジョネテスキ、すぐそこで馬が足を止める。


「なぜ隊列を止めた?」

ミルクティー色の髪の男が穏やかに尋ねた――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ