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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
22章 王都カッテンクリュードへ

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 わたしに言ってよかったのですか?――眼差しで問いかけるラクティメシッス、ピエッチェがうっすらと笑む。

「俺はラスティンなら話しても大丈夫だと思った。あんたはカッチーが不利になるような動きはしない。もしそうでなかったら、俺の目が節穴だったってだけだ。あんたのせいじゃない」

「そりゃあね、そりゃあそうなんですけどね」

押さえようとする笑いを漏らしながらラクティメシッスが言った。


「それって、コメスカッチ卿には言うなって、口止めしてるってことですよね?」

「ダメかな?」

「ダメとは言ってません。でも、コメスカッチ卿の庇護をうけることがカッチーにとって不利とは一概に言えないんじゃないかな?」

確かに……コメスカッチ卿はローシェッタ国の有力貴族、裕福でもある。その継承子として迎えらることの、どこに不利がある?


「俺はコメスカッチ卿を『ローシェッタ国の有力貴族』としか知らない。だけど、邪魔だからと息子を追い出し、養子先での名も覚えていない。そのうえ、自分の都合で取り返そうとするなんで自分勝手すぎる。利益だけ考えたって、幸福になれるわけじゃない」

言い募るピエッチェ、クスクス笑うラクティメシッス、

「何が()しいんだ?」

ピエッチェがとうとう抗議した。


「いえいえ、真面目な人だと思ったら、なんだか顔が緩んでしまって――えぇ、わたしも意地悪でした。意地悪って、笑ったことを言ってるんじゃありませんよ」

それじゃ、なにを笑ったんだよ?


 ムッと(ふく)れっ(つら)のピエッチェを見て、ますます笑うラクティメシッスをマデルが

「いい加減にしなさい!」

グッときつい目で睨み付ける。慌てて真顔に戻したものの、目がまだ笑っている。


 また怒られちゃった、と呟いてからラクティメシッスがピエッチェを見る。

「だって、黙っていればいいのに、ピエッチェ、あなたは黙っていられなかった。言えばわたしがカッチーをコメスカッチ卿に引き渡せと言い出すかもしれないと判っているのに」

やはりそうか……ラクティメシッスの立場なら、そうなって()しくない。


 黙り込んでしまったピエッチェをニヤニヤと見るラクティメシッスだ。

「あんたの孫だと言ってカッチーをコメスカッチ卿に引き渡せば、上流貴族に恩が売れる。つまり、国内での支持がますます強まる。父が病床の今、わたしの支持基盤の強化にかなり有効と言えます」

今度こそ真顔になったラクティメシッスがピエッチェを見詰めた。

「国王となるなら重臣の指示を得るのは必須事項――だからって、そう簡単に結論を出したりしませんよ? 国内の有力貴族の支持と、友好国の国王の支持、どちらがより益があるか? そのあたり熟考しなくてはね」


 ピエッチェもラクティメシッスを見詰めた。自分とコメスカッチ卿のどちらを取るか考えていると言われたのだ。


 またもラクティメシッスが視線を緩める。

「そんなに怖い顔をしないでください――それよりもね、肝心なことをわたしはあなたから聞いていない。ローシェッタ国に行けば次期コメスカッチ卿となることが保証されたカッチーを、ザジリレン国はどう遇するつもりなのです?」


「あ、それは……」

「ピエッチェ、わたしはね、自分の立場を口にしたけれど、それ以上に優先しなくてはならないことを忘れちゃいませんよ」

ラクティメシッスがチラリとカッチーを見る。緊張でカチコチになっているカッチーは俯いている。自分が口出しすることではないと思っているのだろう。ただ聞いているだけ、何も言わない。


「カッチーはザジリレン国に、あなたの近くに居たいと望んでいる。だけどローシェッタ国の有力貴族の継承者への道も(ひら)けた――もちろんザジリレン国王はカッチーにコメスカッチ卿以上の身分を保証してくれるのでしょう? なにしろ前王の甥で、現国王の(いと)なんだから」

ニヤリとするラクティメシッス、ピエッチェがほっと息をつく。


 ラクティメシッスはカッチーの身分をはっきりさせろと言っているだけだ――


 カッチーをダーロミダレムの猶子にする話を聞いたラクティメシッスは、終始ニヤニヤ笑いを止められない。

「失われた王女と不遇の騎士の恋物語ですか……上流貴族はともかく、民衆の支持を獲得するのはそう難しくもありません」

王宮も無視できないほど、民衆の支持を得る? それが簡単だって?


「でも、まぁ、判りました――カッチーの父親については、わたしは知らなかったことにします。マデルも判っているね?」

「えぇ、コメスカッチ卿なんかにカッチーをいいようにさせないわ」

マデルは、ラクティメシッスがカッチーをコメスカッチ卿に渡すと言い出すのではないかと冷や冷やしていたんじゃないか? 言われなくても、と言いたいくらいの気負いを感じる。


「で、ラスティン。何を企んでいるの? 民衆の支持を得るのは簡単、なんて言っちゃって、悪巧みをしてそうよね」

「またまた人聞きの悪い……悪巧みなんかじゃありませんって。ピエッチェを心配させるようなことを言ってはいけません」

ふむ……企んでいるのは確定ってことか。


「なにを考えているのか、俺にも話せないのか?」

ピエッチェが訊けば、

「あなたは知らないほうが、巧く行きます。もちろん、あなたやザジリレン国、そしてカッチーが不利益を被るようなことにはなりません」

ラクティメシッスがしっかりとピエッチェを見て答える。

「あなたは嘘が吐けない人だ。だから知らないほうがいい」


 そう言われれば知りたくなるのが人情だ。ムッとするピエッチェ、だけどクルテの一言で気持ちが軽くなった。

「どうせいつか判るんでしょう? ラスティンの悪巧み、巧く行くかどうか見ものだね」

ピエッチェを見上げて、クルテがニマッと笑う……そうか、高みの(けん)ぶつと決め込むか。うん? 当事者なんだから『高みの見物』は誤使用か? まぁいいや、細かいことを気にしてもな。


 どのみちラスティンが俺たちを裏切ることはない。

「期待しているからな」

ピエッチェがラクティメシッスに微笑めば、

「帰国する前に二枚貝の連絡具を用意します。随時、情報をくださいよ」

ラクティメシッスも微笑み返す――もう帰国の話、気が早いことだ。


「それじゃあカッチーは明日、国王の側近と言うことで?」

ラクティメシッスの質問に答えたのはクルテだ。話しの切れ目にカッチーがお茶を淹れ、マデルがどこかに隠していたクッキーを出してくれた。


「リュネ用の(くら)にはザジリレン王家の紋章を入れた、胴飾りと(ひたい)飾りにもね」

「ザジリレン王家の?」

「うん。だけど王族個人を示す紋章は入れてない。カッチーの紋章は決められてないから」

クッキーで口をもぐもぐさせながら答えるクルテ、面倒臭そうな顔をしている。そろそろ眠いのか? いつもはとっくに眠っている時刻だ。


「まぁ、王家の紋章が入っていて、ピエッチェと馬を並べていればカテロヘブ王の側近だと誰もが思うでしょうから充分ですね――衣装は?」

「同じ」

「靴もありますか?」

「同じ」

「靴に紋章は入れませんよ」

「うん、同じ」

ダメだコイツ、半分寝てる……


 ラクティメシッスが

「お嬢さんを寝室に連れてったほうがいいんじゃ?」

苦笑する。


「おい、クルテ。もう寝るぞ」

立ち上がるピエッチェ、クルテがポカンと見上げ

「抱っこ」

と両腕を伸ばしてきた。

「はい?」

言われたことがすぐには理解できないピエッチェ、

「おい!」

それでもクルテの身体がぐらりと倒れ込めば、見捨てられるはずもない。反射的に動いてクルテを抱き支えた。


「おい、しっかり立て……って、おまえ、マジで眠ってる?」

唖然とするピエッチェにカッチーの笑い声が追い打ちをかける。ラクティメシッスは辛うじて笑わずにいられたっぽい。さっきマデルに窘められたばかりだ。


「このままもう休んでください。明日……じゃなかった、もう今日でした。忙しい一日になりますから」

うかうかしてたら夜が明ける。


「あぁ、そうするよ」

仕方なくクルテを抱き上げたピエッチェ、カッチーが寝室のドアを開け、ピエッチェが中に入ると閉めてくれた。ドアが閉まる寸前、マデルの呟く声が聞こえた――完全に保護者よね……


 大して寝た気がしないまま、窓の外が白み始める。小鳥が盛んに(さえず)っているのが聞こえた。ピエッチェがダイニングに行くと、既にラクティメシッスとカッチーが起きていて、クルテが用意した馬具を見ていた。


 ピエッチェを見るとラクティメシッスが訊いた。

「うっかりしてたんですが、お嬢さんのことはどうするつもりですか?」

そう言えばアイツ、どうするんだろう?


「いつも通り、男の服装でって言ってたけど」

「男の服装ったって、どんな? カッチーと二人でカテロヘブ王の左右を固めるつもりなんですよね?」

「あぁ、アイツは俺の左だ。カッチーは右だな」

「そうじゃなくって!」

苛立ちを募らせるラクティメシッス、カッチーがクスッと笑って言った。

「クルテさんの身分をどうするかってことですよ」


「アイツの身分?」

「はい、婚約者として連れて行きますか? それとも、ちょっと無理があるけど、側近ってことにしますか?」

これにはラクティメシッスが、

「いくら男装したって、お嬢さんは男には見えませんよ」

鼻で笑う。


 ピエッチェたちの寝室のドアが開き、

「ラスティンは女装すれば女に見えるのにね」

クルテがそう言って笑いながら出てきた。ドアの向こうで立ち聞きしてたか?


「ラスティンにお願いがある――わたしをマデルの護衛役ってことにできない?」

「マデルの護衛?」

「マデリエンテ姫には護衛が居ても()しくない。そして護衛は女性のほうが好都合、非公式でもローシェッタ国王太子の婚約者だもん」

「いや……ダメとは言いませんが、ピエッチェの隣でなくても?」

「カティの右にはカッチー、左にわたし、その左にマデル」

「ふふん、さらに左にわたしが立てと、そう言うことですね――あいにく承知できません。その並びでは中央に立つのがお嬢さんだ」

「あ……」

ポカンとラクティメシッスを見るクルテ、そこまでは考えていなかったらしい。恨みがましい目でラクティメシッスを睨みつけた。


「それじゃあ、右からカッチー、カティ、ラスティン、マデル。わたしは四人の後ろにする。護衛だからウロウロしてていいよね?」

クルテの提案に苦笑するラクティメシッス、

「まぁ、いいでしょう。マデルの護衛ってことで――いいですよね?」

ピエッチェの了承を取ると、姿を隠しもせずに二枚貝の連絡具を取り出した。

「クラデミステ卿ご息女マデリエンテ姫に護衛をつける。クラデミステ卿の紋章入りの馬具一式の用意を頼む」


 その傍らでマデルがクルテに訊いている。

「衣装はどうするつもりなの?」

どうやら手持ちの服を見るらしい。クルテはマデルと一緒に寝室に戻っていった。

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