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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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20

 父親についても打ち明けるか否か……


 実祖父コメスカッチ卿はローシェッタ国の有力貴族だ。そしてカッチーを探している。カッチーには『行かせない』と断言したが、ラクティメシッスの判断次第では前言撤回もやむを得ない状況になるかもしれない。コメスカッチ卿はローシェッタ王家にどれほどの影響力があるのか? ピエッチェの知識は〝有力貴族〟とあるだけだ。


 慎重に対応しなければ、ラクティメシッスにも迷惑をかけることになる。苦しい立場にしてしまう。


「父親も判っている。だけど、知っての通り既に故人……が、親類縁者まで居ないわけじゃないだろう。それを探すようトランぺセスに命じた。今夜にでも報告があると思う」

父親については、もう少し後に回そう。根回しが済んでからでも遅くない。


「あの()さん、トチらない?」

クルテがポケッとピエッチェを見た。このセリフ、今日はこれで二回目だ。トロンペセスにはダーロミダレムを脱獄させろと命じた、そう教えた時と同じだ。


「アイツは顔が広い、なんとかしてくれる――ってわけで、確定するのは早くても今夜、遅くとも明日の朝。暫く待って欲しい」

クルテに微笑み、ラクティメシッスに答えた。


 脱獄の話はクルテにしかしていない。馬の支度をする直前のことだ。もしも話していたら、勘のいいラクティメシッスのことだ、気付いてしまっていたかもしれない。でも……気付いても、気付いていないふりをしてくれそうな気がした。


「そうですか……カッチー、はっきりするまでドキドキですね」

ラクティメシッスがカッチーに頷き、マデルが何か言おうとしたのをさり気なく遮った。


「はい!」

カッチーがラクティメシッスに元気よく答えた。

「俺、滅多に会えなかったけど父が大好きでした――ピエッチェさんと出会えて、本当に良かった。よく判らなかった両親を、ピエッチェさんのお陰で知ることができます」


 カッチーはいつも通り明るい。だけど、どこか沈んでいるように見えたのは、ピエッチェの気のせいか? 知ることができます、ではなく『できました』と言えないことからくる陰り……それはカッチーの中にあるものか、それともピエッチェの中にあるものか?


 リュネが地上に降りたのはスナムデント街道の、ザーザングとデネパリエルの半ばあたりだ。ラクティメシッスが棺桶にだけ見えず聞こえず魔法をかけて、デネパリエル方面にゆっくり進んだ。(ぎょ)しゃ席にはラクティメシッス、助手席にマデルが座った。


 暫く行くと、デネパリエル方向から荷馬車が来て、ラクティメシッスに話しかけてきた。

「ザーザングはどんな様子だった?」

ラクティメシッスが微笑んで答える。

「あぁ……どうしちゃったのか、なんか、浮足立ってる感じがしました。兵隊が大勢いたせいかな?――ところで、荷馬車に積んでいるのはなんですか?」

「馬車に引っ張らせるキャリーだよ」


 荷馬車の男が答えると、ラクティメシッスが嬌声を上げた。

「それはそれは、いいものですね! キャビンに作りつけの貨物台では物足りなかったんです。譲って貰えませんか?」

もちろん男はラクティメシッスの部下だ。


 すぐに商談は成立、カッチーも降りてきて、男とラクティメシッスの三人でキャリーをキャビンに繋いだ。荷馬車の男とはそこで別れたが、デネパリエルに着くまでには風体を変えて、再び合流するだろう。


 リュネはゆっくりデネパリエルに向かう。(ぎょ)しゃ台の二人は変わらない。スナムデント街道を行きながら、往来の目を盗んで棺桶をキャリーに移したのはラクティメシッス、見えず聞こえず魔法は掛けたまま、移動ももちろん魔法だ。


 キャビンの中ではカッチーが、キャリーに積まれていた荷物を開けていた。中身はキャビンの窓に掛ける黒いカーテンだ。カーテンを取り付けたことなんかないカッチー、どうにかつけようとしているが、それでなくても揺れるキャビン、なかなか巧くいかない。


 そうこうするうち、馬が四頭近付いてきた。ラクティメシッスが馬車を止め、(ぎょ)しゃ台を降りる気配がした。キャビンのドアが開き、マデルとラクティメシッスが乗り込んでくる。

(ぎょ)しゃ役が来ました」

サワーフルド山を出たときと座席は同じだが座り順は逆、カッチーとラクティメシッスが出入口側だ。


 キャビンのドアが閉まるとすぐ荷馬車は動き始めた。

「キャリーに乗せた棺桶の見えず聞こえず魔法は解除しました。今は四騎ですがデネパリエルに入る頃には人数もそろって葬列にしか見えなくなりますよ――カーテンをつければますます葬列感がマシそうですね」

ラクティメシッスがカッチーの手元を見て微笑んだ。するとカッチーの手から黒いカーテンがふわりと浮いて、窓を覆い隠した。


「これで外からキャビンの中を見られる心配もありません。うん、お嬢さん、葬列っていいアイデアでした」

クルテに微笑むラクティメシッス、だけどクルテは煩そうに『フン!』と鼻を鳴らしただけだった――


 デネパリエル・スナムデント街道門で(ぎょ)しゃが声を張り上げる。

「葬列の一行だ。カッテンクリュードのご実家に向かっている」


 喪服を着た騎士が二十八騎、葦毛と栗毛の二頭建ての馬車、黒いカーテンを降ろしたキャビン、後部に棺を乗せたキャリーを曳いているとなれば、門衛が疑うことはなかった。騎手のいない馬が三頭いることもそう不自然じゃない。キャビンに乗る人が葬儀の時に使う馬なのだと訊かなくても判る。


 宿についたのは日没直後だ。正面には回らず厩口から入った。予約を入れた時、そうしてくれと宿から言われていた。

「お気の毒だけど、他の客の手前があるからさぁ……申し訳ないね」


 むしろこちらにも好都合、受付にはラクティメシッスの部下一人が代表で行き、予約を入れた部屋の鍵を預かってきた。ピエッチェたちが使うベッド二つの寝室が三室ある部屋が一部屋、魔法使いたちが使うための部屋が三・四人用が八部屋、人数としてはピエッチェたちを含めて三十八人としていた。


 ラクティメシッスの部下たちの分も含め部屋は充分に広く、厩も一行専用のスペースを用意してくれた。宿としては上客だが、葬列なのだから他の客たちの目になるべく触れないようにしたい。お陰で誰にも不審がられることなく、カッティンクリュード入りの支度を進められる。が、それでも、万が一を考えて、馬たちの支度は翌早朝とした。


 食事はその宿で普通に出しているもの、他の客と同じものにして貰った。ただ少々細工した。実際の人数より多く注文した。三十八人分だ。これから葬儀、喪に沈んでいるはずなのに食欲旺盛では怪しまれる。明日に備えて十分な食事を摂り、余分は食べ終わった皿に散らかして盛り直した。食物を粗末に扱うのは心苦しいが仕方あるまい――厩から部屋に入ったからこそできる工作だ。


 食事が済むころ、ラクティメシッスの部下が二人、ピエッチェたちの部屋を訪れた。男たち三人の髪を整えるという。朝には髪結いが女の髪を結いに来る。


 ところがクルテがムッとして言った。

「ううん、明日は男の服装で行く。だから髪は結わない」

どうしますか? ラクティメシッスがクルテではなくピエッチェに問う。

「そうだな……明日は好きにさせよう。王宮に入ればそうもできなくなる」

判りましたと頷くラクティメシッス、部下は苦笑して

「承知いたしました」

と言うほかない。髪結いの担当者に伝えてくれるはずだ。


 入浴し、衣装を合わせ、明日の予定をラクティメシッスと確認し、ジジョネテスキと日記帳で打ち合わせ……あとはトロンペセスからの報告を待つだけとなった。果たしてダーロミダレムの『脱獄』は巧く行ったのか?


 ラクティメシッスの部下たちもピリピリしている。なにしろ明日はローシェッタ国として()()()(ンク)()()()()に入る。一方的とはいえ、ローシェッタ国はザジリレン国から宣戦布告を受け、それはまだ取り消されていない。そのザジリレン王都、つまりは敵国の本拠地に堂々と名乗りを上げて乗り込むと王太子が言っている。


 内心、止めたくて仕方がない。国王が病床に伏しているのだ。ここで王太子に何かあったらローシェッタ国はどうなることか? 王太子妹フレヴァンスは魔力こそ期待できるが、為政者としてはまったくもって頼りにならない。


 だけど王太子は聞く耳を持ってくれない。父国王が意識不明だと知っても帰国を拒んだ。こうなったら気の済むまで、結果を見るまで帰らないつもりだ。それには〝王太子として〟ザジリレン王宮に乗り込む必要があると、あの聡明なラクティメシッスが判断したのなら、部下としては従うしかなかった。そしてこの計画を成功させるしかない。


 そんな魔法使いたちがさらに緊張を高めたのは深夜、日付がもうすぐ替わる頃、宿の受付係が代表者の部屋に来た時だ。

「その……来客です」

喪服を着こんだ男を連れている。


「ほかにもまだ来るのかな? こんな使われ方は困るんだけどね」

「済まないね。なんでここが判ったんだか……厩に入るところを見られたのかもしれないな。えっと、夕食はいいから朝食は一人分追加して欲しい。ベッドは足りてる。宿泊代は要らないよね?」

愛想笑いはラクティメシッスの部下だ。グズグズ言う受付係を、多めのチップで黙らせた。


 喪服を着こんだトロンペセスが宿に来ることは、事前にラクティメシッスから言われていた。受付係が廊下から消えるのを待って、すぐピエッチェたちの部屋に連れていく。


「遅かったな。巧く行ったのか?」

「もちろんです」

「そうか、ご苦労――今日はもう休め、部屋を用意している」

来いと言われたから来たのに、早々に部屋から追い出されたトロンペセス、納得いかないが国王には逆らえない。逆らわなくてはないほどのことでもない。ラクティメシッスの部下に伴われて用意された部屋に下がっていった。


「それで? カッチーの父親のあたりはついたのですか? なんで何も訊かずにトロンペセスを休ませたんです?」


 腕を組んでニヤニヤしながらラクティメシッスの苦情を聞くピエッチェ、珍しく隣にクルテがいない。食事が終わった後、部屋に運び込まれた花籠を自分たちが使う寝室に運び込んだきり戻って来ない。運ぶのを手伝ったカッチーとマデルも一緒だ。そのまま寝室でお茶でも楽しんでいるのかもしれない。


「今から、トロンペセスを呼び戻しましょう。明日のカッチーの衣装も事と次第によってはザジリレン王家仕様にしなくちゃですよね?」

「いや、その心配はない」

さすがに慌てるピエッチェ、実のところ、どうラクティメシッスをはぐらかすかを考えていた。まずはカッチーとクルテの三人で意思を確認しておきたいと考えている。


「その心配はない? では、カッチーを前王甥とは認めないと?」

「いや、そうじゃなくって……」

すでにクルテが用意したカッチーの衣装は確認済みだ。


 ザジリレン国内でザジリレン王家の紋章を知らない仕立屋はいない。軽々しく注文できるものじゃない。ラクティメシッスだって判っているはずだ。

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