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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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 ラクティメシッスが部下にデネパリエルの宿を押さえるように連絡した後、

「しかしそうなると、デネパリエルには葬列を組んで入る必要が出てきましたね」

とクルテを見た。

「それに喪服も必要です」


 クルテがピエッチェを見上げる。

「サワーフルド山からはデネパリエルに出るしかない?」


 不貞腐れていたピエッチェ、フン! とソッポを向きたいところだが、それも大人げないと()()()答えた。が、不愉快を隠そうともしない。


「街を囲む塀の外に出ればいい――デネパリエルのサワーフルド山に面していないところには塀がある。カッテンクリュードはデネパリエルと隔てる塀以外は全面防壁、その防壁には門が二つ、トロンパ街道門・コッテチカ街道門だ。で、コッテチカ街道はデネパリエルを横目に見て、王都に向かっている」


「横目に見る?」

「すぐ近くを通るんだ。もちろんデネパリエルに向かう脇道がある。が、軍を進めるには道幅が狭い」

「それで直接デネパリエルに入るのは避けるってことですね」

「うん。で、デネパリエルからスナムデント街道に出て、そこから軍を展開するって、ジジョネテスキは王宮に報告している」

「スナムデント街道……ムスケダムに続いてる街道ですね。ってワッテンハイゼから同志隊の騎士が進んだんじゃ?」

「そう、そのスナムデント街道」

ピエッチェがニヤリと笑む。


「デネパリエルを出て最初の街、ザーザングに逆族の部隊が駐留している。一番大きな部隊だ。指揮官の名はケッチャジョ」

「はい、部下から報告が来ています。そこから先に進ませないよう指示しておきました」

「ジジョネテスキは手始めにこの部隊を討伐する気でいた。まぁ、俺たちとの合流で中止になったけど」

「って、本気で同志隊を討伐する予定だった?」


 ピエッチェが、またもニヤリとする。

「ジジョネテスキはそのつもり……正確に言うとターゲットはケッチャジョ」

ラクティメシッスもニヤッとした。

「やはりあの男は怪しいと? わたしの部下もそう睨んでいたようです」


「だけどなかなか尻尾を掴ませない。そうだろ?」

「えぇ、表面上は実直な男、だけど何か違和感がある。その違和感の正体を探っていたようです」

「ジジョネテスキも似たようなことを言ってたなぁ……アイツ、副官ドロキャスの素性を探ったらしいんだけど、ドロキャスに異母兄がいることが判った」

「ふぅん、その異母兄がケッチャジョ?」

「あぁ、父親が妾に産ませたのがケッチャジョだ――二人の父親はゴランデ卿の屋敷に出入りする商人。まぁ、今は他界して店も畳んだらしいけど、仕立屋だったそうだ」

「ここでもゴランデ卿が出てきましたね」

ラクティメシッスが苦々しげな表情を浮かべた。


「それにしてもなぜ、今までそのことを話してくれなかったんですか?」

「あぁ、反国王派と言い切るだけの証拠が見つかってないからだ。ザーザングの部隊を攻めて、抵抗してきたら捕らえる口実ができる。拘束してから締め上げるってジジョネテスキは言ってたな。まぁ、ラスティンには、はっきりしてからと思って言わなかった」

「締め上げても何も出なかったらどうするつもりだったんでしょうね」

「その時は国家反逆罪で、国王の裁定待ち。牢に繋いどきゃいい話だ。トロンペセスにドヤされるのは俺の仕事かな? それとも、ジジョネテスキに押し付けちまうか?」

軽く笑って、話しを元に戻す。


「まぁ、ジジョネテスキ軍はデネパリエルから出ない――それで、俺たちはどこからデネパリエルに入るかだが」

「スナムデント街道でしょう?」

ニヤリとするラクティメシッスに、ピエッチェもニヤリと返す。


「魔法って便利だよなぁ……サワーフルド山中から見えず聞こえず魔法、リュネにキャビンを牽いて貰って空中を行く」

「お(んま)さんに任せておけば安心ですね。頃合いを見て地上に降りてくれる。そこからは普通に馬車で行き、わたしの部下たちと合流する」

「そうだ、喪服の用意はどうする?」

「部下たちだけでいいでしょう。どうせ、宿に入るまでの仮装です。わたしたちは全員キャビンに乗り込み、部下の誰かに(ぎょ)しゃをさせます」

「俺が棺桶に入るのは、スナムデント街道で合流するときでいいのかな?」


「棺桶には入らなくっていいよ」

いきなりクルテが口を挟む。

「棺桶があるのが肝心。入るのはイヤなんでしょう?」

そりゃあ助かった、ニヤッと笑うピエッチェには反応しないクルテ、ラクティメシッスを見て言った。

「部下に頼んで、棺桶に入れるお花を用意して貰える?」


「いいけど、なんで? 花籠も用意できますよ」

クルテがたびたび花籠を嬉しそうに抱いているのを思い出してラクティメシッスが問えば、答えるクルテ、

「カティが棺桶に入らないならわたしが入ろうかなと思って」

冗談ではなさそうだ。が、ラクティメシッスとカッチーは笑いだし、マデルは呆気にとられる。舌打ちしたのはピエッチェだ。


「棺桶が(から)じゃまずいってこともないだろう? なんでそんなに拘る?」

「拘ってなんかないよ?」

詰問調のピエッチェ、クルテはケロッとしている。

「せっかくあるから使おうかなって……棺桶に入ってお花に囲まれて眠るのも気持ちよさそう」


「花に囲まれて眠りたいならベッドに花を散らせばいい」

「ベッドじゃ花が零れちゃうじゃん」

まぁ、そりゃそうだけど……

「ダメだ、縁起でもない。俺は――棺桶の中のおまえなんか見たくない」

しかし、果たして棺桶は寝心地がいいのか、そのあたりはチョイと気になる。


 まぁまぁまぁ、とラクティメシッスが割って入った。

(から)でも問題ないならお嬢さん、ここはピエッチェの気持ちを汲んでおきましょうよ。棺桶には一緒に入れませんよ?」

内心、これって揉めるようなことかよと思っている。


 クルテがハッとして、床に置かれっぱなしの棺桶を見た。

「そうだね、カティと二人は無理そう」

おまえっ! 俺は入らなくっていいんだろ!? 二人は無理って言われて、急に寂しくなっちまったか?


 ちょっと待っててくださいね、とラクティメシッスが姿を消した。スナムデント街道に集合できる時刻はいつ頃になるか、部下と連絡を取るのだろう。カッチーが『お茶でも淹れます』と席を立った。


「それにしても、棺桶で眠ってみたいだなんて、ねぇ?」

今頃になってマデルがクスクス笑う。

「そんなに()しなこと?」

クルテは不満そうだ。


「ねぇ、ひょっとして、棺桶って知らない?」

「初めて見た。なんだか綺麗な箱だね……ケヤキ材で蓋は屋根型、丁寧な彫刻、磨き込まれてツヤツヤ」

ん? 昨夜、人間を閉じ込めるには棺桶くらいの箱がなきゃ、って言ってなかったか?


「パパが怒ると『おまえなんか棺桶に入れてやる』って怒鳴ってた。こんなに綺麗な箱なら、入るのもイヤじゃないよね?」

「クルテのパパがクルテにそんなことを言ったの?」

「わたしに言ったわけじゃないよ」

「そっか、喧嘩の相手に言ってたってことね――でもちょっと行き過ぎかも」

「行き過ぎ?」

「棺桶って、亡くなった人を納める箱よ。棺桶に入れてやるって、殺すぞって言ってるのと同じ」

「そうだったんだ……だから縁起でもないって、入りたくないってカティは言ったんだね」


 ふむ……まぁさ、女神が森の生き物の死骸を棺桶に入れる、なんて事はなさそうだ、うん。


 カッチーがお茶を配り始めるのと、ラクティメシッスが姿を現したのはほぼ同時だ。

「宿の手配は完了です。夕刻にはデネパリエル・スナムデント街道口近辺に部下が二十八人、騎乗にて集まります。他にキャリーを用意しました。二頭の馬に牽かせています」


 ピエッチェたちが連れている馬はリュネを入れて三頭、そして人数は五人、二頭の馬は不足分だ。キャリーは棺桶を運ぶためのもの、明日には不要となる。


「花を十籠ばかり用意しましたよ、お嬢さん」

ラクティメシッスがクルテに微笑む。ところがクルテ、

「今は花より甘いもの……チーズケーキが食べたい」

情けない声で言う。


「あいにく菓子の手持ちは……って!? サワーフルドか?」

とつぜんポンとテーブルに出てきた皿にラクティメシッスが苦笑する。皿には焼菓子がこんもり盛られている。マドレーヌだ。


「チーズケーキじゃないね。でも美味しそう」

ニンマリと、皿に手を伸ばすクルテ、

「わたしも貰っていい?」

クルテが答える前にマデルが菓子を摘まむ。カッチーは

「いただきます!」

の一声だ。クルテとカッチーはともかく、マデルも今日はよく食べる。三人とも、さっき朝食を済ませたばかりだぞ?


 三人がマドレーヌを堪能する横で、詳細を打合せするピエッチェとラクティメシッス、時どきチラッと菓子皿を見るラクティメシッスに、クルテが取り皿に一つだけ乗せて差し出した。

「食べたがってるってバレちゃいました?……ご相伴に預かります、ありがとう」

あんだけチラチラ見てりゃあ、気付くさ。それにしても、なんで俺にはない? ふふん、遠慮するって判ってるからか。


 いい加減、検討事項も底をついた。ラクティメシッスの部下たちとの待ち合わせの時刻にはまだまだだ。リュネに牽かれて空中を行けば、あっという間に目的地に着くだろう。談笑を始めた四人を残し、外の空気を吸ってくると建屋を出た。


 眼下にはデネパリエルの街が見える。視線をずらせばカッテンクリュードが見え始め、その奥には王宮が陽光を受けて(きら)めいている――


 ピエッチェの背後で建屋のドアが開く気配、クルテだ。

「いよいよだね」

「あぁ、明日には王宮……巧く行けばな」

「そのためにいろいろ手を打ったんでしょう?」

答えるピエッチェの声はない。


「トロンペセスに何を頼んだ?」

「あぁ、アイツにはダーロンを脱獄させろって命じた」

ピエッチェの返事にクルテがクスッと笑った。


「あの()さん、トチらない?」

「そそっかしいところはあるが、剣を持たせりゃ別人だ。看守と遣り合ったって負けっこない」

「看守さん、気の毒」

「大怪我だけはさせるなって念を押したから大丈夫……でも、そうだな、当番には運が悪かったと諦めて貰う」

「あとで何か手当を?」

「治療費と慰労金を出すことにしよう――リュネにキャビンを繋げとくよ」


 厩に向かうピエッチェ、クルテも当然ついてくる。だけど、チラッと振り返ったのに気付いたピエッチェ、クルテの視線の先を見る。


――何かヘンだ。なんだ、この違和感は?


「あ……王家の森が、見えない? 消えている?」

思わず元いた場所に駆け寄ったピエッチェ、木立の影? いや違う、王宮があの場所に見えているなら、見えるはずなのに?


 クルテがピエッチェをチラリと見て言った。

「サワーフルドが言ったじゃないか……あの森に今、女神はいない。だから見えないだけだ」

そして厩に行ってしまった。

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