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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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「でもなんで? 誰かに憑りついたってこと?」

ピエッチェにしがみついたまま顔を上に向けてクルテが問う。

「だけどそれなら魔物の気配がするはずなのに?」


 魔物の気配は感じなかった。感じたのは人の気配だけだ。穴の底に潜んでいたのは〝人間〟の魔法使いとしか考えられない。


「ヤツが()になったのは間違いないんだよな?」

「そうじゃなきゃ、封印できない。生きた人間を七百年も封印できないよ。だいたい人間サイズなら大きな箱、棺桶とか。そんなのカティの部屋にあった? そんな箱に閉じ込めたとしても、人間は七百年も生きていられない。腐るか干からびるかで、どっちにしろ生き続けられない」


「おまえ、現場にいたんだろう? 見てたんじゃないのか?」

「うん、見た。あの場で封印できるものを持ってなくって、仕方なく剣にアイツを閉じ込めた」

「剣……グレナムだな?」

「そう、グレナム姉さま」

否定するかと思ったが、クルテはあっさり認めた。さらにピエッチェを驚かせる。


「本当の名はシャルスチャテーレ、コゲゼリテの娘。グレナムはカテルクルストが剣に付けた名」

「それって……」


 シャルスチャテーレ、グレナムの精霊の名――どこかで聞き覚えがあったのは、グレナムの由来を教えられた時だ。精霊の名など、ただの伝説とあの時は覚える気にもならなかった。そうだ、そうとも、知ったところでそれがなんになる? なのになぜだろう? 心臓が音を立てている。


「封印したのは剣本体ではなく(つか)の中。軽くするために(つか)の内部が空洞になっているのをカテルクルストは知っていたから」

「それでおまえは? おまえが封印石になったのでは?」

「そうだけど少し違う――(つか)についていた房飾りをつける()、あれに使っていた()(ニキ)()が封印石。でも、それだけじゃ足りない。だからわたしは(さや)になった」

「グレナムの鞘? あのレリーフがおまえ?」

「ううん、あれはシャルスチャテーレ。わたしは表側の宝飾石。封印石が外されないよう、監視していた」


 グレナムの鞘から取り出した宝飾石を入れた黒い革袋、いつでも持っていると言っていた。離れることはできないとも言った。それはあの石がおまえ自身だったからなのか……


「カテルクルストは、二人もいけにえにしてしまった?」

「それは違うよ、カティ」

クルテが悲し気に微笑む。話すうちに落ち着いたのか、新たな涙は見られない。

「ヤツをグレナムの(つか)に閉じ込めたのは、シャルスチャテーレとわたしの意思。カテルクルストを守るのはコゲゼリテの願い。女神の願いは娘たちの願い」


 ここでカテルクルストに嫉妬するのは愚かだと、判っていてもピエッチェの胸が焦げる。同時に不安が広がっていく。もしも俺が危機に面したら、クルテ、おまえは自身を犠牲にするんじゃないのか? そんなことをさせるもんか!


 だが、俺にそれが可能か? 〝あの〟カテルクルストを追い詰めた男を相手に?


「なぁ、ヤツのことをできるだけ詳しく話してくれないか? 対策を立てる必要がありそうだ。思い出すのもイヤだろうけど、情報が欲しい」

「封印が解除されてから、なにがヤツに起きたのか、わたしにだって判らない。だけど……王宮に戻れば推測できるかもしれない」

「そう言えば、封印が解かれたのは俺の……おい?」


 ピエッチェが話している途中なのに慌てた様子でベッドに入り込むクルテ、なんだよコイツ、と思ったピエッチェもハッとする。話しに夢中でダイニングを忘れていた。どうやらラクティメシッスたち三人も寝室に来るようだ。


「おやピエッチェ、起きてたんですか?」

「なんだか寝そびれた。クルテはぐっすり眠ってる」

寝室に入ってきたラクティメシッスはいつもの微笑みを浮かべている。先ほどの気まずさや、クルテを追求しようとしたことなんか忘れているようだ。


 まぁ、忘れたふりをしているだけでもいい。いつまでもグズグズと糸を引かないのがラクティメシッスのいいところ、それだって自分の身勝手さでそうするわけではなく、相手を気遣ってのことだ――本当にそうなのかな? まぁ、そう思っておけば、こっちだって悪い気はしない。


「先にバスを使っていい?」

マデルが誰にともなく訊いた。


「あぁ……クルテは入らず寝ちまった。俺も今日はやめとくよ――日記を書いてから寝るかな」

そう言ってピエッチェが連絡用の日記帳を取り出した。これで書き物の邪魔をしないよう、ラクティメシッスとカッチーは話しかけてこない。


 二人と話すのは構わない。それどころか、話しておいたほうがいいこともある。だけど今は、少し頭の中を整理したかった――


 各所からの報告を受け、これからの動きを再検討したのは翌朝だ。これが最終決定になるだろう。


「カッテンクリュードに(はい)れさえすれば、王宮への潜入は難しくないだと?」

不機嫌にピエッチェが言った。クスリとしたのはラクティメシッスだ。

「警備はどうなっているんだ! って怒鳴りたさそうな顔をしてますよ」

図星だ。


 連絡用の日記帳にはジョネテスキとトロンぺセスから、それぞれ返信があった。起きてすぐに確認したピエッチェ、それから機嫌が悪い。


 「しかし……ジジョネテスキは策略家ですね。デネパリエル入りをこちらに合わせると言ってきたのでしょう?」

ラクティメシッスが気持ちを引き立たせようとするが、ピエッチェはムスッとしたままだ。


『カッテンクリュードに入りさえすれば、すぐにでも王宮へご案内いたします』

そう言ってきたのはトロンペセス、王宮の警備担当者を数人、既に懐柔した。いつでも侵入可能――多く弟子を持つトロンペセスだ。彼を信頼している者は多い。そんな中から、特に信用できる数人を選んで味方に引き込んだと、トロンペセスが言ってきた。引き込んだのが王宮騎士団の誰かなのか、それとも王都警備隊の誰かなのかはトロンペセスの報告にはなかったし、ピエッチェも訊かなかった。


 王宮の現状を憂いていないか? このままでいいと思っているのか? そう(そそのか)したらしい。カテロヘブ王を擁しているとは、さすがに明かさなかったようだ。もしも明かしていたならピエッチェは、今回の計画を一から練り直すことを考えたかもしれない。


 それにしても、いくら相手がトロンペセスだからと言って、王宮警備の任をそう簡単に放棄していいのか?――ピエッチェの不機嫌の原因はそこにある。確かに今の王宮は国王不在で混乱し、政情に不安を覚えるのは判る。その原因を作ったのは自分だと、ピエッチェとて責任を感じている。


 だが、王宮騎士団・王都警備隊の最重要事項は王宮警備、それが外部からの侵入を手引きするとは(なに)ごとだ? そんなことが許せるものか。裏を返せば、国王の政治に不満を持つ者が現れた時、王宮を破るのも()やすいということだ。まったく、トロンペセスは先走り過ぎる。


 トロンペセスが集めた同志たちを利用していると考えれば後ろめたさを感じなくもないが、行動するならこちらの指示に従うだけにして欲しい――とりあえず、王宮への侵入は考えていないと伝え、別の仕事をトロンペセスには与えた。


 ジジョネテスキはコッテチカ街道を(のぼ)ってきてはいるが途中、様々な理由をつけて王都到着を先延ばしにしていた。馬車の故障を理由に足止めしたのを始め、帰都命令の確認の後はスワニー沼でのカテルクルスト王目撃情報の確認などで進軍を遅らせていた。


 こちらはピエッチェを満足させている。カテロヘブ王子誕生から王家警備隊に勤務し、王子担当だっただけはある。ピエッチェの求めを的確に理解し、なおかつ出過ぎた真似もしない。かと言って消極的でもない。


『つまるところ、帰都命令が本物かどうかは判らなかった。だけど、考えてみれば渡りに船の話だ。とりあえずローシェッタ国に攻め込まなくて済むし、デネパリエルでカボチャパイを作ることも可能だってことだ――レシグズームの警備隊はスワニー沼での目撃談の真偽を確認せよと、シューパナ・デッチェンカ両街道の集落を隅から隅まで探る命令が出た。情報収集のため、王宮に(はか)らず援軍として行かせた配下の報告によると、終点デネパリエルに捜査が及ぶのにはあと三日はかかるとのことだ』


 王宮に諮らず援軍を組織した件には少し引っかかったが、コッテチカ派兵にさいしてジジョネテスキは『ザジリレン国軍総帥〝代理〟』の肩書を手に入れている。さらに国王の警護は国軍の仕事でもある。そのあたりで現王宮の追及に対応できると考えているのだろうと思った。むろんピエッチェにジジョネテスキを咎める気など、あるはずもない。


 情報はトロンペセス・ジジョネテスキの二人からだけではない。ラクティメシッスの部下たちもそれぞれ報告を寄こしている。


「同志隊をどう動かすか? 思案どころはここでしょうね」

ラクティメシッスがピエッチェの考えを遠回しに確認してきた。

「総兵数千五百、国王の警護隊には充分だと思います。周辺の街に分散させていますが、デネパリエルに集結させますか?」


 するとピエッチェ、ニヤリと笑う。

「その国王の警備ってのは、他国に攻め入ることを想定しての兵数だな」

すっかり機嫌は直ったようだ。

「自国内だ、五十も居れば充分だ」


「えっ?」

驚くラクティメシッス、

「当初の計画と違うのでは?」

戸惑いを隠せない。


「いや、計画通りさ。だが、まぁ、トロンペセスには怒られそうだ――アイツにも言ったが、内戦状態になんかさせない」

「うーーん……王都の玄関口に王宮と対峙する兵千五百、確かに内戦ぼっ発かと民衆を動揺させるかもしれません」

「しかも現王宮に交戦の口実を与えることにもなる」

「しかし五十ではいささか心もとないのでは?」

「五十も居れば充分とは言ったが、五十騎で王宮入りするとは言ってない」


 フフンとラクティメシッスが鼻を鳴らす。

「何を考えているのです? あなたは時どき、わたしには想像もできないことを考え付く。今度は何を企んでいるのですか? それに、どう考えても計画とは違いますよね?」


「内戦を起こさせないのは計画通り、デネパリエルから堂々とカッテンクリュードに入るのも計画通り」

「その時、カテロヘブ王を名乗るって話はどうなったのです? 兵を率いて入都するはずでした」

「あぁ、そうするさ。ザジリレン国王カテロヘブは国軍を率いて王都カッテンクリュードに帰還する。そんな計画だったはずだ」

「王が率いる軍ならば国軍、だから同志隊に国王名で『国王を警護せよ』との書付を送った……うーーん、五十じゃないとしたら何騎を考えているんですか? わたしにまで隠さないでくださいよ」


 ラクティメシッスの困惑に、ピエッチェがニッと笑んだ。

「隠してなんかない。俺は……ザジリレン国正規軍を率い入都し、王宮に戻る」

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