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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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 何かあるかと訊くように、ピエッチェがラクティメシッスを見る。すると少し迷ってから、ラクティメシッスは首を振った。()()()()()()()()()について質問するのではと思っていたピエッチェだが、訊いたところで意味はないとラクティメシッスは判断したのだろう。


 ピエッチェに遮られたことで冷静になったのかもしれない。そうでなければ魔法を駆使して王都の機能を維持している事を揶揄されたことを抗議し、あの土地はカテルクルストから取り上げたわけではないと反論していたのではないか?


【ま、いいわ。何か思いついたらいつでも訊きなさいな。呼べば聞こえるから】

「それはこの山の中だけ? デネパリエルでは?」

【山から出たら、聞こえても無視する。街中に女神が姿を現せるとでも?】

今だって姿は見えない、声だけだ。が、

「判った」

と答えた。まぁ、デネパリエルで姿がないのに女の声が聞こえるなど、部外者に知られたら厄介だ。そう言うことなのだろう。


【さっさと食事を摂ってゆっくり眠って。それと、わたし、寝室を覗く趣味はないから。寝姿を見られてるんじゃないかなんて心配しなくっていいわ――オヤスミ】


 サワーフルトの声はそれっきり、気配も消えた。まぁ、気配を感知できるのはピエッチェだけだ。暫くラクティメシッスたちはムッとしたままじっとしていた。


 最初に動いたのはカッチー、窓に走り寄り、

「よかった、ちゃんと納屋もある」

ホッとしている。

「リュネ、こっち見て笑ってる……あれ? 何か咥えてます、リンゴだ!」


「リンゴ?」

そう呟いたのはクルテ、

「わたしもリンゴ、食べたい」

ムクッと起き上がった。


「クルテ! 急に起きるな。ってか、大丈夫か?」

慌てるピエッチェをキョトンと見たクルテ、だけどすぐに思い出したようで

「カティ……怖かった」

ピエッチェにしがみついた。


「放さないと切るぞって耳元で聞こえた。切りたきゃ切れって言ったけど、ホントはね、凄く怖かった」

「うん、すぐに助けられなくてごめん。いや、そうなる前に防げなくてごめん」

「カティのせいじゃない…そうそう、リュネがね、ビューンって来た。わたしを助けに来てくれたんだよね? でも、そこからよく覚えてない」

「あぁ、おまえを助けてくれたのはリュネだ。リュネがいなかったら……」


 リュネがいなかったら、今頃どうなっていた事か? 俺にはおまえを助け出せなかったかもしれない。ヤツを消滅できなかったのは痛いとサワーフルドが言った。その通りだ。次にヤツと遭遇したら? クルテを守りきる自信がない。それでも、なにがなんでも、ヤツにクルテは渡さない。


 ギュッと抱き締めるピエッチェの腕をクルテがゆっくりと(ほど)く。放したくないピエッチェ、けれど放さないわけにもいかない。


「それでリュネは?」

「サワーフルドが納屋に入れてくれて、リンゴをご褒美に貰ってる」

「わたしにもリンゴ、あるかな?」


 バタバタとダイニングに向かったのはカッチーだ、すぐに声がした。

「クルテさん! リンゴ、ありますよ。ウサギリンゴです!」

ラクティメシッスがクスリと笑う。

「食事にしましょう……カッチー、お茶を淹れて貰ってもいいですか? マデル、一緒に食べますよね?」


 マデルはぐったりしてベッドに腰かけていたが、クルテが目を覚ましたことで俄然元気になった。

「もちろん食べるわ」

微笑んで立ち上がった――


 しかし……と、ラクティメシッスが怖い顔をする。四人は食事を終えて、あとはクルテを残すだけだ。食べている(さい)ちゅうは遠慮していたのだろう。

「ララティスチャングをカテルクルストから取り上げただなんて、聞き捨てならない言いかたでした」

ま、ラクティメシッスはローシェッタ国王太子だ、そう感じても仕方ない。


「あの土地を開いて街の基礎を作ったのがカテルクルストだからなぁ……女神は人間の事情なんか考えないから、感じたままを言ったんだろうさ。気にするな」

ピエッチェがなんとか(なだ)めようとする。

「ローシェッタ国第二王子にしてザジリレン建国の王、微妙な立場のカテルクルストの気持ちを、森の女神が理解するのは無理だ」


「そうよ、ラスティン。だいたい、女神の言うことにいちいち目くじら立ても意味ないわ」

これはマデル、食事は済んでいるのにクッキーを時どき(つま)んでいる。目に付くと、つい食べてしまうのだろう。


「それよりも、魔法がどうのってほうが俺は気になりました」

カッチーがそう言ったのは、きっと話題を変えるためだ。

「だよね、カッチー。でも大丈夫、ローシェッタ国には魔法使いが大勢いるわ。養成場もあるし、なんにも心配いらないわ」


 そのあたり、ラクティメシッスも承知していないはずがない。だから魔法の件よりもカテルクルストから取り上げたと言われたほうが気に障った。プライドを傷つけられたってことだ。そしてピエッチェが宥めても、カッチーがどうにか話を逸らそうとしても納まらないらしい。


 とうとうクルテに話を振った。

「お嬢さんはどう思いましたか?」

クルテはホイップした生クリームで飾り立てられたケーキを食べていた。


 上に乗っていたイチゴは食べてしまってもうないが、スポンジの間に挟みこんである、切ったイチゴを引っ張り出そうと苦戦していた。しかもケーキを崩したくないらしい。真剣な顔でケーキを睨みつけている。だからラクティメシッスも話しかけやしないだろうと、油断していたピエッチェだ。


「なにが?」

いつも通り答えなきゃいいのに、クルテが答える。やっと引っ張り出したイチゴを口に入れ、ニンマリしたタイミングだ。


「ララティスチャングのことです。ローシェッタがカテルクルストから取り上げたって、サワーフルトが言ったんです」

「ふぅ~ん」

興味を示さないクルテ、再びケーキに目をやって、スポンジの間をフォークで突き始めた。


「お嬢さんも、そう思いますか?」

「そう思うって、取り上げたかどうかってこと?」

「えぇ、そのあたり、お嬢さんはどう見てるんですか?」

ラクティメシッス、完全にクルテを女神か女神の娘と想定しての質問だ。いや、そうじゃないのか。単にクルテがどう感じるかが知りたいのか?


 次のイチゴはすんなり引っ張り出せたクルテ、ニマッと笑むと言った。

「生まれる前の出来事を訊かれても判んない」


「あ……?」

鼻白むラクティメシッス、それを気にせず続けるクルテ、

「ローシェッタ国では第二王子が開いた街を父国王に捧げたってなってるんじゃないの? だったらそれでいいじゃん。わたしはそう思う」

パクっとイチゴを口に入れ、再びニマッとした。


 ラクティメシッスは暫くクルテを睨み付けていたが、再び矛先をピエッチェに向けた。

「ザジリレンではどう伝えられているんですか?」


「ん? ララティスチャングの街を開いたのはって話なら、ラステルレスト王の命で第二王子カテルクルストが建造したって教えられた」

ラステルレストはカテルクルストの父だ。


「ラステルレスト王はカテルクルストに『自分自身が住みたいと思える街を造れ』と命じた。だが街が完成した時、カテルクルストはこう言っている。自分が住たい街よりも、兄上がいかに居心地良く過ごせるかを考えて造った――そして街の名を提案している。兄の名ラティクテストに(ちな)んでララティスチャングはいかがか?……こんな具合だ」


 ラクティメシッスが露骨に嫌な顔をした。

「ラティクテストじゃない――ラステルレスト王を継いだのはラティステーナム王だ」

しまった……ピエッチェが冷汗をかく。王位を継承する際、ラティクテストは改名している。うっかりそれを失念していた。


「まぁ、いいです。いくら兄弟国と言っても、他国。歴史を学ぶより、実情や将来に向けてを考えるものです」

ラクティメシッスが溜息を吐く。


 どうせ王太子の気持ちなど、誰も理解できない……ピエッチェ自身もそう感じることが何度もあった。即位してからもそれは変わらない。同じ立場の人間は、二人といない。きっと今のラクティメシッスもそう感じているんだろう。


「それにしても……カテルクルストの時代と言えばおよそ七百年前、お嬢さんを襲った男はその頃から生きていると言ってましたね」

ギクッとしたのはピエッチェだ。が、ラクティメシッスはクルテに注目していて、気付いた様子がない。カッチーはさりげなくピエッチェから目を逸らした。気付いたに違いない。


「お嬢さん、何か心当たりがありませんか?」

「ラスティン。クルテが知ってるわけないでしょ」

抗議したのはマデル、

「生まれる前のことを訊いたって判るはずないって、また言われるよ」

かなり呆れている。


「七百年前じゃなくたって、どこかで会っているんじゃないかってことです。自分のものだって主張してましたから」

「クルテさんを物扱いするな!」

怒ったのはカッチー、ラクティメシッスが

「わたしが言ったわけじゃない」

むっと反論する。


 険悪な雰囲気のラクティメシッスとカッチー、ところがクルテは

「わたしを自分の物って言ったんだ?」

クスッと笑った。

「思い込みの激しいヤツだってのは判った。でも誰だろう? ジランチェニシスは落命したんでしょう?」


「え……えぇ、まぁ、そうですね」

「でもさ、ジランチェニシスみたいに、見ただけで欲しがるヤツって結構いっぱいいるのかもしれないね」

「つまり、心当たりはないと?」

「誰かに思わせぶりなことをした覚えはないし、カティ以外から好きだって言われたこともない。でも、ヤツはカティじゃないよ」

「ピエッチェじゃないことは判ってますってば!」


 カッチーがピエッチェを見て、今度はさっきより慌てて目を逸らす。ボソッと『好きだって言ってるのねぇ』と呟いたのはマデルだ。


 何か言いたげに口をパクパクさせるが、何を言えばいいのか決められないラクティメシッス、クルテは涼しい顔でケーキをほじくって

「イチゴ、もうない」

とピエッチェを見上げた。


「ん? 俺の分は手つかずだ。食うか?」

ピエッチェがケーキの皿をクルテの前に置いた。真っ白なクリームの上に丸ごとのイチゴが三個乗っている。ニマッとしたが

「ううん、もうお腹いっぱい。カッチーが食べてくれる」

皿をカッチーの前に押しやった。


「それより眠い――カティ、寝るよ」

立ち上がるとピエッチェの手を引いた。仕方ないヤツだなぁと愚痴りながら、クルテに引かれるまま、二人で寝室に向かった。


「カティ……」

寝室に入るとドアを閉める。そのまますたすたと歩いていたかと思うと、一番奥のベッドの前で立ち止まったクルテが振り向いた。真っ青な顔で目には涙が溢れている。黙ってピエッチェが抱き締めると、クルテの身体は小刻みに震えていた。


「穴から聞こえたのはヤツの声だった」

「うん、判ってる。大丈夫だ、俺がいる。二度とおまえに触れさせない」


 間違いない。襲撃してきたのはゴルゼだ――

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