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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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13

 カッチーがリュネの首に飛びついた。声を殺して泣いている。


【昨日と同じ建物でいいよね?】

聞いておきながら、サワーフルドに返事を待つ気はないらしい。いきなり壁に囲まれた。


「リュネ?」

抱きついていたのに消えてしまったリュネに、カッチーが戸惑う。


【馬は納屋って決めてるの。もちろん飼葉も水も用意したし、あの()には特別なご褒美もあげるわ。なにしろ一番()がらはあの()だもの】

サワーフルドの声、

【ついでだから、あなたたちのいる場所を寝室にして建物を作っといた。早く横にしてあげたら?】

確かにベッドが並んでいる。昨夜と同じ位置にドアがあるのはダイニングにバスルームだろう。

【食事はダイニング、バスも使える――今夜は安心して眠って、朝になったらデネパリエルに向かうといい】


 サワーフルドの声を聞きながら、クルテをベッドに運ぶ。気を失っているが大丈夫だ、腕はちゃんと二本ある。足にも傷はない。服が破れたりなんてこともない。泣きたい気分でクルテを見詰めて頬を撫で、そのまま床に膝をつく。


「あの穴に居たのは何でしょうか?」

ラクティメシッスがサワーフルドに訊いている。

「魔法使いなんじゃないかと思っているのですが……ローシェッタが懐かしいと言っていました」


 ややあってサワーフルドが答えた。

【ローシェッタ国の騎士だった男。カテルクルストとともにザジリレン国成立に尽力した一人】


「カテルクルスト? そんな……生きてるはずがない」

【ほんとにねぇ。生きているはずがないのに生きていたのはなぜかしら?】


「それをわたしが訊いてるんです! あれ? 確か、得体の知れない何かって言ってましたよね? 騎士だって、知ってて(とぼ)けてたんですか?」

【あらら、そんなことするわけないじゃない】

サワーフルドは話しかたからして()っ惚けてる。


【ローシェッタが懐かしいって聞いてカテルクルストを連想したの。よく言ってたからねぇ。でも、あれはカテルクルストじゃない……それで思い出したの。カテルクルストに匹敵するほどの魔力を持っていて風読みだった男。カテルクルストと一緒に居ることが多かった男】


「だからってカテルクルストの時代の人間が生きてるはずがありません。思い違いなのでは?」

【そう思いたければ思えばいいわ。ローシェッタのボウヤ】

サワーフルドがクスクス笑う。『ボウヤ』と呼ばれたラクティメシッスは悔しそうな顔で黙ってしまった。なぜ生きているかの答えをサワーフルドは言いそうもないし、女神と口論しても意味がない。


 ピエッチェはクルテを見詰めて手を握るのに忙しく、サワーフルドとラクティメシッスの話に関心を示す様子はない――そう見えるだけで実は、新たな緊張で身動きできずにいた。危険を察知しての緊張じゃない。


 カテルクルストの家臣で今も存在している。だとしたら、それはゴルゼ? 七百年前に封印され、最近解放されている。でもヤツは魔物のはずで、襲ってきたのは〝人間〟の魔法使いで……


【でも、まぁ、ボウヤたちのお陰で面倒は追っ払えた。ありがとう、お礼を言うわね】

サワーフルドの含み笑い、

【だけど、ヤツを消滅できなかったのは痛いわね。この森から居なくなったけど、今度はどこに行ったのかしら?】

惚けているのか、本当に判らないのか読み取れない。


「どちらに向かったかもお判りにならない?」

【デネパリエルに入ったのは判ったんだけど、そこから先はよく判らないわ。カッティンクリュードかな?】

「かな、なんですね」

苦笑するラクティメシッス、とうとうピエッチェが口を挟む。

「カッテンクリュード()管轄しているのでは?」


 うふふ、とサワーフルドが笑う。

【そうね、デネパリエルはわたし。でも、カッティンクリュードは違うのよね】

「サワーフルドが違うなら……メッチェンゼかコーンレゼッチェ?」

うふふ笑いがクスクス笑いに変わる。


【あらあら……本当に忘れちゃってるのね、どっちも違うわ】

ギョッとするピエッチェ、忘れてる? そうだ、カッテンクリュードの四つの森、その一つが『王家の森』あるいは『女神の森』と呼ばれる王宮の庭の一画じゃないかと考えていたんだった。でも、まさか?


「どちらも違う? でも、カッティンクリュード三山が違うとなると、いったいどこの森の女神が?」

四つ目の森……もしもそうだとして、女神の名はなんだ? まさか『王家』だとか『女神』だとか? だいたいあの森に女神が居る? とても居るとは思えない。さすがに王宮内だけあって魔物はいないが荒れ放題、季節は巡っているようだけど豊かな実りは望めそうもない。


【うーーん……まぁいいわ。一つだけヒントをあげる。だからさっさと思い出しなさいよ】

「ヒント?」


(うる)いなぁ、あんたは厳し過ぎる。これぐらい見逃しなさい】

「へっ?」


【ローシェッタの温泉娘が()うるさいことを言ってきたの、気にしないで】

それってコゲゼリテのことか? 女神は意識を共有できるってやつか?


【あのね、森の名は女神の名、でもね、幾つか違う森もある。既存の森に女神が入った時がそう】

「森は女神が作るのでは?」


【基本的にはそうよ。だけどそうじゃない時もある。たとえば、そうね、キャルティレンぺス――えっ? そうだった、あそこは逆ね。もともと別の名前だったんだけど、キャルティレンぺスが入って森の名も変わったんだった】

また別の女神と話してる……


 と、サワーフルドが溜息を吐いた。

【これ以上は言えないわ。タスケッテさまが『干渉は許さない』って怒ってる】


「タスケッテ『さま』? えっと、森の女神には格があると聞いているけど、タスケッテのほうがサワーフルドよりも上?」

【んーまぁ、ちょっとだけね――タスケッテの森はローシェッタでは最古。だから温泉娘よりずっと格上。それにタスケッテだけじゃなくヤッパリイネまでの広い範囲が彼女の管轄。もともとララティスチャングもそうだったけど、あそこはカテルクルストに譲って、女神が居ない土地になったけどね】


「んんん? ララティスチャングに女神はいない?」

【そうよ、あそこに森はないでしょ。魔法で自然すら支配してる。日差しや降雨を調整しちゃってる。森が存在できるはずないよね】


「それは、いけないことなのでしょうか?」

ラクティメシッスが遠慮がちに訊いた。が、どことなく怒りを感じる声音だ。


【いけないなんて言ってないわよ? でも、魔法が途切れたら滅びる。それが判っているから、ローシェッタは魔法を(だい)にしてるんでしょ? まぁ、せいぜい頑張りなさいよ。カテルクルストから取り上げたんだもの。ローシェッタの義務よ】

サワーフルドの嘲笑、言い募りそうなラクティメシッスを先制して、質問を重ねたのはピエッチェだ。


「カッテンクリュード三山で格上なのはあなた?」

サワーフルドが(くすぐ)ったそうに笑う。


【まぁね……ザジリレン王宮の場所はわたしが提供したの。それがなければこの辺りでは一番の森だった】

あぁ、それはザジリレンの歴史書にもある。


【メッチェンゼはちょっと可哀想だったけどね――カッテンクリュードの街や王宮を造るために丸裸にされちゃったから。木を全部()られちゃったの】

その話も知っている。三山の中でも標高の低いメッチェンゼ山から木材を切り出した後、カテルクルストは山を崩すことも考えていた。


 隣国スットイッコとの国境の街レシグズームから王都カッテンクリュードに行くにはシューパナ街道を進み終点ゼレンガに出る。そこからコーンレゼッチェ山を回り込むデッチェンカ街道を行きデネパリエルに入るのだが、なにしろコーンレゼッチェ山は横に大きく張り出して長い道のりになる。そこでメッチェンゼ山を崩して街道と街を造ることを考えていたらしい。


 もしも完工していたのならレシグズーム・カッテンクリュード間は今の半分の時間で往来できたと予測される。だが、その計画は着工されることなく頓挫した。


 理由として、メッチェンゼ山を崩せばサワーフルド山中腹にあるクッシャラボ湖崩壊を招くからだと歴史書にはあるが、いささかこれは不自然だ。確かに湖はメッチェンゼ山に近い。だが、もしも街や街道を作るのなら崩すのはメッチェンゼ山のコーンレゼッチェ山側になる。サワーフルド山側を手つかずで残せば解決できるのではないか? 


【一本残らず伐採されちゃうなんて女神にとっては丸裸にされたようなもんよ。まぁさ、カテルクルストにそんなつもりはないでしょうけど】

少しだけサワーフルドは怒っている。

【山を崩して道と街を造ってって考えてたみたいだけど、メッチェンゼもさすがにそれは許せなかったみたいね。知った途端に妨害に出たわ――あの時のカテルクルストの顔ったら。今思い出しても笑っちゃう。ま、ちょっとは気の毒だったけど】


「妨害って?」

【切り株だらけの山だったのを一晩で苗木いっぱいに変えたの。カテルクルストは暫く呆然と見てたわねぇ……切り株を引っこ抜く手間が省けましたって言った家臣がいたけど、なんにも答えなかった。暫く黙り込んでたけど『森の女神の意思だ。苗木を抜くのは許されない』て言って、工事を中止したの。そのあたりの(さと)さが、彼が女神に愛される理由かもね】


 歴史書に苗木の記載がないのはなぜだ? あ……そうか、英雄であり女神に愛された王カテルクルストが女神に背かれたとは書けなかった。


【でもさ、メッチェンゼも焦ってたのよ。あのヘンな木、一種類しか植えなかったのはそのせい。だからあんな変わった森になっちゃった】

なるほど……ブロッコリーみたいってやつか。


「そう言えば、クッシャラボ湖を見ていない」

【あら、見たかった? この建物を作る時、ついでに歩いた分だけ建物ごと移動させちゃった。余計だったかな? まぁ、見たいなら、朝になったらメッチェンゼ方向に戻るといいわ。それとも、また建物ごと戻す?】


「ここはサワーフルド山のどのあたり?」

【建物を出ればデネパリエルが見降ろせる場所。どうする? クッシャラボ湖の畔に移動させることもできるけど?】


「デネパリエルが見えるなら、カッテンクリュードや王宮も?」

【ちょっと遠くなるけどね】

チラリとラクティメシッスを見てからピエッチェが答えた。


「だったらここのままで」

今夜、サワーフルド山で過ごすならデネパリエル入りは五日遅れたことになる。もう寄り道はしたくない。


【判った、手間が省けてよかったわ――他に聞きたいことはある?】

そう言っておきながらサワーフルドが続けた。

【そうそう、王宮とカッテンクリュードを守る女神、今は不在】


「女神が不在……って?」

【もうずーっと不在。早く戻らないとカッテンクリュードも王宮も、誰かに乗っ取られちゃうかもね】


 きっとサワーフルドは意地悪な笑みを浮かべている……そんな気がしたピエッチェだった――

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