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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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「マデルの意地悪……」

クルテの恨み言、涙ぐんでいる。マデルがフンと鼻を鳴らした。

「あんたの泣き落としには騙されない」

背後からクルテを羽交い絞めにしている。怒っていると言うよりも、(から)って楽しんでいるように見えなくもない。


 きょろきょろと落ち着かないカッチー、

「俺、挙動不審になってます」

どこに注意を向けたらいいのか判らず、不安でいっぱいなのだろう。


 無理もない。ラクティメシッスだって悪意も敵意も、敵の存在すらも認識できずにいる。クルテを持って行こうとした突風、あれがなければピエッチェを疑ってしまったかもしれない。


「カッチーは、俺とラスティンの指示にすぐ対応できるようにしておけばいい」

ピエッチェがラクティメシッスの真後ろになる位置へと、じりじりと移動しながら言った。二人で三人を守る気と察したラクティメシッスが、

「マデルとお嬢さんを近くで守るんです。離れてはいけませんよ」

ピエッチェを補足する。補足に見せかけてカッチーへの配慮だ。カッチーに『おまえの気負いなど不要』とピエッチェから言われたと、思わせたくない。


 それに……予測される襲撃を前にただでさえ緊張している。役割が明確にされるだけで落ち着くはずだ。


「なかなか仕掛けて来ないのは、わたしたちを疲れさせようって魂胆かもしれませんね」

再び呟くラクティメシッス、

「そうだとしたら(こん)くらべ。負ける気がしないな」

ニヤリと笑むピエッチェ、我慢強さには自信があるが、今の言葉は半分以上強がりだ。


 夜の闇が深くなる中、ピエッチェたちの周辺は木立を含めてまだ明るい。

「お嬢さんが魔法を使っているようですね」

ってことはラクティメシッスじゃない、それなら

「マデルってことは?」

仕返しのように言うピエッチェ、ところが背後からマデルの声、

「わたしじゃない。思いもつかなかった」

まぁ、マデルが魔法を使った気配なんか感じちゃいない。


 情け容赦なく時は流れる。この体制でどれほど過ごした? 集中力もそう続くものじゃない。こっそりマデルが(あく)を漏らす。

「地面で申し訳ないが、三人は座りなさい」

前を見たままラクティメシッスが言った。


「お嬢さんも! マデル、しっかり手を掴んでおくんですよ」

隙を見せればピエッチェの傍に来そうなクルテをけん制するラクティメシッス、カッチーが、

「クルテさんのこと、俺も捕まえておきますから!……ピエッチェさん、いいですよね?」

ラクティメシッスに答えてから、ピエッチェにお伺いを立てる。ピエッチェに無断でクルテに()れられないと考えているらしい。


「おう! 暴れるようならぶん殴ってもいいぞ」

「はいっ! 任せてください!」

元気よく答えるカッチー、ちょっとした冗談でかなりリラックスしたようだ。


「ほら、クルテさん! 座って!」

カッチーがクルテを促す。グズグズ言いながら腰を下ろす気配、きっとクルテは頬を膨らませ、ムスッとしているのだろう。マデルが『怒った顔も可愛いわね』と笑っている。


 フッと微笑むピエッチェ、つい気が緩む。が、ヒヤリとしてグッと身体を強張らせた。ずっと感じていた異変が消えた――とうとう敵はを上げたか? でも、本当に?


 さらに強まったピエッチェの緊張を感じ取ったラクティメシッス、何か起こるのかと警戒を強めるが、ピエッチェと違って何がどう変わったのかがさっぱり判らない。


「ピエッチェ?」

ラクティメシッスが振り返りピエッチェを見る。顔を見れば何か判るんじゃ?


 だが、背中合わせで中の三人を守っていた。見えるのは後ろ姿だけだ。それでも神経を研ぎ澄ませているのは判る。じっと耳を澄ませているようなピエッチェ、心持ち下を向き、微動だにしない。


 きっと目玉は(せわ)しなく、左右に揺れ動いているに違いない。そうやって、周囲に気を張り巡らせている……ピエッチェを見て、ラクティメシッスがそう感じたその瞬間、パッとピエッチェが顔を上げて振り向いた。


「来るっ!」

ピエッチェの叫び、振り向いたのなら背後からかとラクティメシッス、クルテ・マデル・カッチーに背を向けて身構える。今度も突風か!?


「地下だ、ラスティン――クルテ!」

ピエッチェの叫び声がクルテに向かっているのを感じ、振り返るラクティメシッス、足がもつれるのを感じたがそのままマデルに手を伸ばす。


 グラっとしたのは焦りじゃなかった。地面が揺れたせいだ。地震? 違う!


 バン! 何かが突き破られる音、同時にクルテが地に飲み込まれる。

「クルテ!」

「クルテさん!」

マデルの悲鳴、カッチーの叫び、

「マデル、放すな!」

ラクティメシッスがマデルの身体に後ろから抱きついた。ピエッチェは、既にカッチーを捕まえて加勢している。クルテは……ぽっかり空いた穴の中、マデルとカッチーに左右の腕を掴まれ、蒼褪めた顔で見上げている。


「ラスティン! 魔法で引っ張り上げろ!」

「判ってますって!」

オッチンネルテがマデルを突き落としたミテスクからトロンパに向かう階段地下道、あの時は冷静さを失ったラクティメシッスも、今度はすぐに施術している。


「ダメです! 引っ張り込む力のほうが強い!」

真っ赤な顔のラクティメシッス、クルテと一緒に落ちていきそうなマデルを支えるのに必死だ。それはピエッチェも同じ、気を抜けば、カッチーもろとも転落しそうだ。


「クルテ! おまえの魔法は? 魔法でなんとかならないのか!?」

ピエッチェの問い掛けに、クルテの返事はない。穴の中を覗き込みたいが、この状況ではバランスが崩れて危険だ。


 悪意はクルテの真下から感じる。敵はそこに居る。やっぱり狙いはクルテ……


「クルテさん、しっかりしてください!」

カッチーが叫ぶ。

「ピエッチェさん、クルテさんが気を失いそうです!」


「クルテ!」

できる限りの大声で、ピエッチェがクルテを呼ぶ。カッチーが、

「クルテさん? なんて言ったんですか!?」

と訊いている。クルテはなんて言った? 少しも声が聞こえなかった。


「大丈夫! 負けませんから!」

カッチーの身体に力が籠る。クルテを引き上げようとしている。

「向こうは足一本、捕まえているだけでしょう!? こっちは、四人がかりです。絶対負けない!」


 クルテの足を捕まえている?――何かがピエッチェの中で弾けた。俺のクルテに(さわ)るな!


 後ろから抱きつくようにしていたカッチーを離すことなく前に回り込んだピエッチェが、体勢を低くしてカッチーの腹に肩を充てて、押し戻し始める。

「グッ!」

息を止めて堪えるカッチー、もちろんクルテの腕を放しはしない。


 じりじりと歩を進めるが、なかなか動かない。穴底の悪意は……笑っている?


 ピエッチェの頭の中に密かな笑いが響く。それが不意に耳から聞こえた。聞こえたのはピエッチェだけじゃなかった。


「なんなのっ!?」

マデルの叫び、

「気にするな。それよりお嬢さんの手を放すなっ!

ラクティメシッスも叫ぶ。カッチーはさらに身体に力を込めて、後ろに倒れそうなほどクルテの腕を引いている。


【真の名も知らず、助けられるものか】

消えることのない笑い声、その中で男の声がする。やはり敵は男、前に進もうと足に力を籠めるピエッチェ、ふくらはぎはパンパンだ。


「ひっ! 笑いながらしゃべってる!」

マデルの小さな叫び、ラクティメシッスの舌打ち、バシッと音がしたのはマデルが放したクルテの腕をラクティメシッスが受け止めた音か? 急にグッと、重くなったのを感じる。


 笑い声は止まることなく続いている。

「幻聴だ、マデル! 落ち着け!」

ラクティメシッスの指摘、笑い声の中に別の笑い声が混じる。


 新たに聞こえた笑い声が含み笑いに変わり、

【なるほど、検知術が得意……ローシェッタの王子か。懐かしいものだ】

言葉に変わった。


【ザジリレンなど目障りだろうに、なぜ助けようとする? 物好きだな】

そして哄笑が、最初から聞こえている笑い声に重なる。ラクティメシッスは完全に無視する気だ。反応している気配がない。


 ローシェッタが懐かしい? この魔法使い、ローシェッタ出身、そしてしばらく離れている。では、サワーフルド山に出没する前はどこに居た? ザジリレン国内か? それとも?


 カッチーを押しながらピエッチェが考える。敵はクルテに執着している……ってことはジランチェニシス? いや、アイツは死んだ。ノホメに殺された。だいたいそれから何日経った? 死んだことにして監視を潜り抜け、ザジリレンに向かったとしたって時間的に無理だ。


 あ? 誤報? ローシェッタの記録が書き換えられていたのなら、ラクティメシッスに誤った情報を送ることもできるだろう。


 でも、声が違う。ジランチェニシスの声じゃない。それに、アイツがこんな魔法を使えるとは思えない。


【いい加減、諦めたらどうだ?】

笑い声をBGMに、男が蔑みを含んだ声で言う。

【この女は俺のものだ。返して貰う】


 グッと、ピエッチェが腕に力を込める。カッチーの腕も硬くなる。なに言ってんのよ、マデルの呟き、背を向けているピエッチェにはラクティメシッスがどう反応か判らない。でも想像はつく。きっと、さらに強く、クルテの腕を掴んだに違いない。なにしろ四人にクルテを手放す気なんかない。


 穴底から男の声、少しイラつき始めている。

【放さないなら女の腕を切り落とすか……腕はなくても弄ぶには充分】


 コイツっ! ピエッチェの足が地面を蹴る。カッチーが後ろに倒れ込んででも引こうとする。だが動かない。クルテはすっぽり穴の中だ。


「このッ!」

ピエッチェの怒声、それに重なって小さな破裂音が『ポンっ!』と聞こえ、いきなりカッチーごと倒れ込んだピエッチェ、すぐに振り返ったその耳に

「リュネ!」

カッチーの泣きそうな声……


 尻餅をついて呆けた顔のラクティメシッスが少し上を見ている。視線の先にはリュネ、輝く翼、頭部に長い(つの)、その角に(すく)い取られてぐったりしているのはクルテ――急激な上昇に、カッチーもラクティメシッスも手を放してしまっていた。


「クルテ!!!」

すぐさまピエッチェが立ち上がる。リュネの翼が優雅に揺れて、その足が地面についた。クルテに手を伸ばし、リュネの背からクルテを降ろす。


「穴が……消えてます」

ラクティメシッスの呟き、見るとクルテを飲み込んだ穴は跡形もない。周囲と変わらない〝地面〟だ。


 ラクティメシッスがマデルを立ち上がらせようとするが腰が抜けて立てずにいる。すると今度は、

【少し休ませてあげなさいな】

女の声、サワーフルドだ。あっという間に周囲の木立が後退して、ちょっとした広場になった。そこにリュネ以外の馬二頭とキャビンがゆるゆると上空から降りてくる。


(そら)でその()が暴れてたわ。だからキャビンを外してあげた】

サワーフルドがクスリと笑う。

【可愛い()ね。友だちを守ろうと必死だったわ】

姿は見えない。だけど、サワーフルドの微笑みを感じた――

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