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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
序章

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旅立ち

 頑丈な革袋には当座必要なものが詰め込んであるという。


「ネネシリスのヤツ、どうしてもグレナムの剣が欲しいらしいね」

とクルテが笑う。


「川底を探すため、おまえが落ちた場所より上流を()き止めて干上がらせる気でいる」

「そんなことができるのか?」

「どうなんだろうねぇ? 近隣の農村から男を根こそぎ徴用してるよ」

「それって、畑仕事は?」

「そんな事にはお構いなしさ。ネネシリスにとってはどうでもいい事なんだな」


「大臣たちは何をしているんだ?」

「逆らえば粛清される。下手すれば暗殺だ」

「暗殺?」

「武人が二人、大臣が一人、立て続けに謎の死を遂げた。わたしはネネシリスが手を回したんだと思っているんだけどね。ヤツが狡猾なのはそれらの死を、未だ川底に放置されているカテロヘブの恨みが原因としたことだ」

「なんだって?」

「だから川を堰き止めてカテロヘブの遺体を探すってのが名目」

「ふざけんな!」


「わたしに怒るな……しかし、困ったな」

「うん、このまま放置できることじゃない。どうしたら民を助けられるかな?」

「違う、そっちじゃない。悔しいだろうし民が心配なのも判る。でも今は何もできない、我慢しろ――困っているのは、この洞窟から出るのが難しくなったってことだ」

「うん?」


「言っただろう? この洞窟の出入り口は滝に隠された一箇所だけ、入る時は透明な膜になって引っ張り込んだんで簡単だった」

「だったら今度もその方法で出たらどうだ?」

「透明では滝から人が落ちたと判ってしまう。色を付ければ謎の物体。とことん調査されそうだ」

「それじゃあどうするんだ?」

「でかい鳥になっておまえを引っ掴んで飛び立とうって考えてたんだが目立つだろうな」

「見られちゃ拙いか?」


「ダム工事の事前調査で周囲には人が大勢いる。滝から何かが飛び出してみろ、誰かに見られる可能性が高い。しかもそれが人間の男なら、必ずネネシリスに注進するはずだ――ネネシリスの後ろにはゴルゼがいる。滝から出てきた男がいると聞けば、ヤツはおまえが生きていることに気付く。ま、アイツはネネシリスから離れられないから国外に出てしまえば怖くもない」

「いくら国王でも力が及ぶのは自国内だけだからな」

「でも洞窟は国外に持っていけない」

「そりゃあそうだ。でも、なんで洞窟?」

「お宝が隠してあるからさ」


 カテロヘブがクルテの顔をまじまじと見る。

「……グレナムの剣!?」

「探しても無駄だ。人間じゃ探し出せないように隠してある。が、ゴルゼが探せば見つかる」

「だったら隠してないで持って出よう」

「ダメだ、よく考えろ。あの剣を欲しがるのはネネシリスだけじゃない。由緒なんか知らないヤツでも、見れば値が張るってのは判る。盗まれるのがオチ」


「おまえが見張ってても盗まれるのか?」

「剣には精霊が宿ってるって言っただろう? 苦手なんだよ。この洞窟に隠すのが精いっぱい、死ぬかと思った」

「死なないんじゃなかった?」

「死んだことがないって言っただけ――おまえがあれを身に着けたら、おまえのことも護り切れないかもしれない」


「確かに精霊と魔物って相性悪そうだな。でも、それならどうする? ずっとここにいるわけには行かないぞ?」

「滝から出て来ても、誰も何とも思わないものってなぁ~んだ?」

「なんだよ、その言い方……」

「もうね、こうなったらヤケだ。やりたくないが、これしか思いつかない。おまえを丸飲みにするしかない」

「はぁ? おまえ、人は食わないんじゃ?」


「食うとは言ってない――大蛇に化身(けしん)して飲んでやる。ありがたく思え」

「ありがたい事なのか?」

「そんな経験、なかなかできないぞ?」

「蛇の胃液でベトベトになりそうだ」

「その前に窒息するかもって心配しろよ」

「待てっ! それって生きてはここを出られないってことじゃ?」

「空気を一緒にしこたま飲み込んでやる。それでなんとか生き抜いてくれ」


 そして決行の日――持ち出し品を詰め込んだ革袋を身体に巻き付けるカテロヘブを見ながらクルテが言った。


「蛇になったら人間の言葉は発せない。だから頭の中に(じか)に語りかける。おまえは言いたいことを考えるだけでいい。ま、普通に話してもいいけどね」

「それって、おまえに知られたくないことも考えたら読み取られるってことか?」

何を今さら、とクルテが笑う。


「蛇の姿のまま国境まで川を下ろうと思っている」

「国境……とうとうザジリレンに別れを告げることになるのだな」

「鳥の姿でここを出られていたら、おまえの国……ザジリレンの地を見てから出られたのにな」

「なぁに、これが最後というわけじゃない。必ず戻ってくる」

「その意気だ」


 カテロヘブはすっかり体力を取り戻している。洞窟の住処から出口まで、クルテは五往復と言ったが半日で七往復できるまでになった。剣も依然と同じように振るえるようになっているが、左の肩は途中までしか上がらない。矢傷の後遺症だ。お陰で弓は引けなくなった。


 クルテはそれを新しい特徴だと言った。

「いずれおまえはネネシリスと対抗できる勢力の首領として名をあげる。その首領が左肩の上がらない男なら、ネネシリスがおまえだと疑うことはない。たぶん――そうだ、なんて名乗ることにする?」

「たぶんなのかよっ!?……名前なんてなんでもいいや。本音を言えばカテロヘブ以外になんかなりたくないしな」

「どんな名になろうがおまえはおまえ――そうだな、ピエッチェでどうだ?」

「なんか、軽い名前だな。まぁ、それでいいぞ」


「素性がよく判らない男になるんだ、軽いほうがいいさ。そのくせ盗賊の首領でも()()しくない」

「ピエッチェ盗賊団? うーーん……」

「なんでもいいんだろ? これで決定、おまえはピエッチェ。判ったな?――そろそろ日の出だ、準備はいいか?」

「あぁ、いつでも飲み込んでくれ……それにしてもなんで夜の内にしなかった?」

「夜は魔物がうじゃうじゃで面倒なんだよ――日の出とともにヤツら元気がなくなるし、起き出してる人間は少ない。それに、わたしは日の出を見るのが好きだ」

「おまえの趣味か? ツクヅク人間臭いヤツだ」

「それじゃ、変化(へんげ)するぞ」


 言うなりクルテの姿が見えなくなった。人の姿が徐々に蛇に変わるのかと思っていたカテロヘブ、もといピエッチェ、肩透かしを食わされた気分でいるが、すぐに現れると思った大蛇がどこにも出て来ない。


(ここにいるぞ)

頭の中でクルテの声がした。蛇になっても声は変わらないらしい。


「どこだ?」

(足元を見ろ)

「えっ?」

するとそこには蜷局(とぐろ)を巻いたちょっと大きめの蛇がいる。

「クルテ、おまえ、俺を飲み込めるのか?」

呆れたピエッチェが笑いを噛み殺して言う。


(おまえを怖がらせないために、最初は普通サイズにしたのさ――これから大きくなるからビビるなよ)

と、見る見るうちに巨大化していく。思わず一・二歩退くピエッチェ、押し潰されそうな気がした。


(ぐわっ!)

と、急にクルテの叫び声、

「どうした!?」

化身(けしん)に失敗したかと危ぶむピエッチェに、クルテが(わめ)く。


(でかくなり過ぎて、尻尾が滝に飲み込まれた! 早くわたしの口に飛び込め!)

「ええぇえっ!?」

大きく口を開く大蛇、その高さは優にピエッチェの背を超える。

(早くしろ! 流されるっ!!)


 そうは言われても、大蛇の口には鋭く長い上下二本の歯、先が細く割かれた舌、その奥に暗い穴が見えてはいるが……

「そこに飛び込むのかよ、自分で?」

(早くしろってばっ!)


 ええい、ままよ!――ピエッチェが飛び込むと同時に口は閉じられ、大蛇がズルズルと後退するのを感じた。


 それが急激な落下感に変わり、すぐにドボンと着水する感触、クルクルと暫く旋回したが、ようやく体勢を立て直したのだろう、水平に移動し始めた。


「酔いそうなんだが?」

(わたしの腹の中で吐くなよ?)

「そう言えば、何かに化身(けしん)してる時って消化能力はないのか? 食わないって言ってたよな?」

(必要ないから食わないだけだ。食おうと思えば食えなくもない。が、消化が終わるまで他の姿になれない。だから食わない)


 なるほどね、と思いつつ、ピエッチェが周囲を見渡す。

「これが蛇の腹の中? 空洞なんだな?」

(わたしが頑張って空洞にしてるだけだ。ふざけたことを言うと絞め殺すぞ)

「絶対そんなことしないよな。いいや、できないよな。おまえってそんなヤツだ」

(無駄に空気を使うな。窒息しても知らないからな――ひと眠りしといたら? 早くから起きて、寝たりないんだろう?)

「蛇の腹の中で横になるのか。でも確かに眠い」


 立っているよりも横になったほうがクルテも楽なんじゃないか、とピエッチェが思う。立っていればそれだけ大きく腹を膨らませなきゃならなさそうだ。

「蛇の腹の中ってほのかに明るいんだな」

そう呟いたピエッチェ、クルテの返事がないまま眠りについた――


 眩しさに目を覚ます。木漏れ日に照らされ、小鳥の(さえず)りが煩いほどに聞こえている。目の前を黄色い蝶々がゆらゆらと横切った。


「やっとお目覚めか? 無事に国境を越えたぞ」

少し離れた河原でクルテが火を焚いている。ピエッチェが寝かされていたのは小川の近く、木の下のちょっとした草むらだった。


「その小さな川があの流れの成れの果て?」

「成れの果てって言えばそうか? 支流に入った――ここはローシェッタ国ワイズリッヒェ、近くに小さな村がある」

クルテは串に刺した魚を火の横に立てている。

「腹が減っただろう? すぐに焼ける……水もある。飲むか?」

「うん」


 起き上がってピエッチェが気が付く。身体に(くく)り付けておいた革袋がない。クルテが取ったのだろうが全く気が付かなかった。そんなにグッスリ眠っていた……いや、待て?


「おまえ、俺を吐き出したんだろう? それなのに俺は眠り続けてた?」

するとクルテがクスッと笑った。

「そんな面倒なことをするもんか。おまえはすぐに、わたしが精神体だってことを忘れる」

「あ……実体をなくしただけ?」

「そ、そう言うこと――まぁ、こっちに来いよ。ヤマモモもあるぞ」


 ヤマモモを食べているうちに魚も焼けた。ピエッチェが食べ終わるのを待ってクルテが言った。


「さて、村に行ってみよう――冒険の始まりだな」

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