表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

398/436

10

 こうなると、施術者……サワーフルドが手を焼いている『得体の知れない何か』と早く遭遇したい。何か、って言うのはヘンか? 人間と断定した。


 サワーフルド山から魔法封じを(はな)てないのは明らかだ。ラクティメシッスとマデルがいるのもあるがそれ以上に、肝心の王宮に、魔法の威力を及ぼせる自信がピエッチェにはない。もちろん、自信があったって魔法封じは使えない。遠すぎて微調整ができず、カテルクルストが施術した結界まで消し去ってしまう。あるいは王宮結界内からの施術ならなんとかなるかもしれない。けれど王宮結界内に入れば、王家警備隊に察知されるのは王族だろうが同じだ。


 王家警護隊がカテロヘブ王をぞんざいに扱うことはない。同行者に対してもだ。けれどそのあとは? 王宮で覇権を握っているヤツがカテロヘブ王を生かしておくとは思えない。何か言い掛かりをつけ拘束し、あるいは警護隊の目を盗んで命を奪いに来るだろう。ともに居るラクティメシッスたちにだって類が及ぶ。だから王宮には()()入れない――国王なのに王宮に入ることすら(はばか)られる。自分の不甲斐なさに、心の中で唇を噛む。


 やはり施術者との直接対決しか方法はないか? 施術者に魔法封じを掛ければ、ソイツの魔法を無効化できる可能性がある。あくまで可能性なのが情けないところだ。相手の魔力次第、施術能力次第、そしてどんな術を使ったかによるから現時点では断言できるものじゃない。判断は対峙してからだ。


 それにもしかしたら、王宮結界の上に結界を張った理由によっては話し合いで解決できるかもしれない。なさそうな展開だが、そうなって欲しいと本気で思う。術者が自ら解術するのが一番手っ取り早いし確実だ。


「考え込んでいるようですが……気掛かりはなんでしょう?」

ラクティメシッスが穏やかに問いかける。

「場合によっては、わたしやお嬢さんがアドバイスできるかもしれませんよ? それにマデルとカッチーも居ます。それぞれ、知識や経験、得意な事も違う。一人で考えるのもいいけれど、頼ってみるのもいいんじゃないでしょうか?」


「うん? あぁ、そうだな……」

一番の気掛かりは、ラクティメシッスたちを巻き込んでしまうこと。だけどそれを言えば『今さら何を』と言われる。ピエッチェが危険な決断をしたとしてもラクティメシッスは一緒に行くと言うだろう。反対に、ラクティメシッスが同じことしたら、ピエッチェだって一緒に行く。互いに協力して困難に立ち向かおう、ともにローシェッタ国を出たとき、そう覚悟したはずだ。


 少し考えてからピエッチェが言った。

「王宮結界が別の結界に覆われたこと、王宮は気付いていないのだろうか?」

ふむ、とラクティメシッスが唸る。

「結界の上乗せは王宮の意思だと考えましたか?」


 ない話じゃない。でも……


 ピエッチェが木立の隙間から王宮があるはずの方向を見る。王家の森も王宮もほんの少しも見えはしない。サワーフルド山に入った時と同じ景色が続いているだけだ。後方を見ればメッチェンゼ山が見えたままの奇妙さに、なぜ今まで気付けなかったのか?


 結界が上乗せされたことに『王宮』は気付いていない。これは確実だ。なぜならピエッチェはクルテから『小鳥のお喋り』を聞かされるまで、上書きされた結界に気付けなかった。ピエッチェが気付けなかったと言うことはクリ()テナ()も気付いていないと思っていい。もちろん王家警護隊の担当者が気付くはずがない。いや、そう断じるのは早計か? 上乗せされた結界が王宮の意思だとしたら、気が付く付かないを論じる意味がない。知っていてしかるべきとなる。


 王宮の意思だとしたら、強力な魔力を持つ者をサワーフルドに行かせて施術させたと言うことだ。でも、それこそ理由が判らない。なんのためにサワーフルド山から王宮内部を隠した? サワーフルドに何かあるのか? いったい何があると言うんだ?


 王宮ではなくヤツの意思だったら? カテロヘブ王がサワーフルド山を通ると予測して待ち伏せするにも、王宮を隠しっところで役に立ちそうもない。


 またも黙り込んでしまったピエッチェに、ラクティメシッスが苦笑する。

「取り敢えず、手にしたオレンジをどうにかしたほうがいいと思います」


「えっ?」

ハッとして自分の手に目をやれば、オレンジの房を一つ握りつぶしている。他のはどうしたんだろうと探すと、ピエッチェを見上げるクルテの手の中だ。


「あぁ、悪かった……今、剥いてやる」

クルテからオレンジを一房受け取り、薄皮を剝いてクルテに渡そうとするが、

「あとはカティの分」

受け取ろうとしない。

「食べれば気分転換になる。疲れも取れる――みんな一緒」

クルテが言った『みんな一緒』はオレンジの効能を言ったのか? それとも『一人じゃない』と、俺を励ましてくれたのか?


 ピエッチェがクルテに微笑んだ。

「食べたら出発しよう」

ニマッとクルテが微笑み返した――


 デネパリエル方面に歩を進める。


 歩き始めてからピエッチェは、『現時点での』見解を話している。それは、王宮結界に上乗せされた結界は少なくとも王家が関与しているとは考えられないこと、だが王宮が関与してないとは言い切れないこと……そして上乗せされた結界を施術したのは、サワーフルド言うところの得体が知れない人物と考えていること。ソイツをサワーフルド山から追い出すか、上乗せ結界を解術しない限りデネパリエルには行けないと推測いること――理由も説明したが、王家の秘密を気取られないよう配慮したもので、いまいち説得力に欠けたかもしれない。


 ピエッチェが話し終わるとクルテが、『デネパリエルに行けないのは得体の知れないヤツの仕業じゃなくって、きっとサワーフルドの仕業』と言ってクスッと笑った。笑い事じゃないわ、と愚痴るマデル、立ち止まったラクティメシッスが後方を見透かした。


「ピエッチェの言う通り、メッチェンゼ山がさっきと同じように見えています」

ウンザリ言ってピエッチェを見た。

「このまま進んでも、同じところを歩かされ続けるだけではありませんか?」


「それはなんとも言えないな」

歩みを止めずにピエッチェが答える。するとカッチーが、

「小鳥たちはデネパリエルに行けるんですよね?」

口を挟んだ。

「だったら、俺たちもデネパリエルには行けるんじゃないんですか?」


「デネパリエルを望むことはできるかもしれない。でも下山できない」

「あら、ピエッチェ、それはなんで?」

マデルがそう訊いたのは、閉じ込められたと思いたくなかったからかもしれない。


 歩みを再開したラクティメシッスが、マデルと並んでから言った。

「行き掛けの駄賃でしたっけ? そのせいですよ」

既に報酬は受け取ってしまった。女神の要請は拒めない。それなりの成果を見せない限り、解放してはくれないだろう。


「まぁ、飲食に困ることはないし、寝床も必要ならサワーフルドが用意する」

ピエッチェが断言する。面白くはないがそのあたり、サワーフルドに抜かりはないだろう。

「魔物はいない。森の獣は女神に逆らわない。だから、危険は……俺たちが探している魔法使いだけだ」


 俺たちが探している? 俺たちが探されている? どっちなんだと一瞬迷った。


 実際、サワーフルドは相変わらず至れり尽くせりで、休憩時にマデルが『チーズタルトが食べたい』と呟き、カッチーが『俺はアップルパイがいいです』と笑い、クルテがジンジャークッキー、ラクティメシッスがワインが欲しいなと冗談を言ったら、次の休憩ではテーブルと五脚の椅子が現れた。テーブルにはチーズタルト・アップルパイ・ジンジャークッキーを乗せた皿と人数分のティーセットが用意されている。


 ラクティメシッスがテーブルを見渡して

「ワインはありませんねぇ」

と言えば、

()なのがバレてるんじゃないですか?」

アップルパイを頬張りながらカッチーが笑う。アップルパイもチーズタルトも五人分、もちろんジンジャークッキーも五人で食べるのに充分な枚数があった。


 カッチーが淹れてくれた茶を啜りながら空を見上げるピエッチェ、気付いたカッチーが

「リュネなら心配ないですよ」

自分の心配を隠すように笑んで言った。本心は心配で仕方ないんだと判る。

「そうだな、なにしろリュネだもんな」

ピエッチェも笑顔で返す――空を見上げたのは太陽の位置を確認したかったからだ。少しばかり傾いていた。


「ジンジャークッキーは二十枚、一人四枚。わたしは四枚食べたい」

いつも通り、数に拘っているクルテ、

「全員クッキーは四枚でいいわよ」

面倒臭がらすにマデルが相手をしている。


「ううん、カティは二枚しか食べない――マデルは六枚」

「なんでわたし?」

「今のマデルにはジンジャーがお似合い」

「似合っちゃうんだ?」

マデルがコロコロ笑う。ま、ジンジャーの効能に鎮痛作用があるなどと、ここでいちいち言う必要もない。


 ピエッチェが食べたのはクッキー二枚とアップルパイ、チーズタルトはいつの間にかクルテが食べてしまっていた。まぁ、果物と菓子は食えと言わなくても食べるクルテだ。そしてクルテは、ピエッチェが文句を言わないと知っている。


 二度目の休憩がそんな感じで、三度目の休憩には冷たい飲み物が出た。カッチーが『昨夜のヨーグルトドリンク、旨かったなぁ』と言ったからだろう。そしてなぜか、焼いただけの芋が皿に盛られて出てきた。湯気を立ててはいるが程よい熱さ、ほくほくした食感でとても甘いが自然な感じだ。


「なんて言う芋かしらね?」

食べながらマデルが芋を眺める。

「もっと丸くって黄色とか白っぽい芋しか見たことないわ」

焼き芋は濃いめの赤で細長かった。


「でも美味しい。サワーフルドが用意したんだもの。きっと体にいい芋」

ニコニコのクルテが太鼓判を押す。それからキュッと真面目な顔になった。

「痩せた土地でも大きく育つ芋だってサワーフルドが言ってる。名前は判んない」

痩せた土地か……ザジリレンでも育つだろうか? なかなかの食べ応えだ。きっと(たみ)びとたちの腹を満たしてくれる。


 カッチーに見られないよう気を付けて、ここでもピエッチェは空を見上げた。日没にはまだ幾分あるものの、それほど余裕があるわけでもない。なのに……前方の山裾に目を向けてもデネパリエルは見えてこない。後ろにはメッチェンゼ山がやっぱり見える。


「どうも、まったく進めていませんね」

近付いてきたラクティメシッスがこっそりピエッチェに耳打ちした。

「移動できていないのなら、探せもしませんよ」


 それはどうだろう? ピエッチェが微かな異変に身を固くする。けれどラクティメシッスは何も気づいてなさそうだ。

「移動できないのはサワーフルドの女神のせいでしょうか?」


 探す必要もなければ、探されてもいない。だから俺たちは……ここから動けなかったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ