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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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 風読みと聞いてラクティメシッスが心配そうな顔になる。

「風読みがどうかしましたか?」

そうだった、ラクティメシッスの妹フレヴァンスは、強力とは言えないまでも風読みだと聞いた覚えがある。


「ソイツがどこに居るか判ならいのになんでサワーフルドは、俺たちがカッティンクリュードの道筋で遭遇すると考えたのかなって思ってさ」

ピエッチェが『風読み』と口にした理由を説明した。


 なるほどと言ったものの、ラクティメシッスの考えはピエッチェとは違った。

「ピエッチェの仮説の一番の穴は、得体の知れないヤツの目的を『ザジリレン王』と限定しているところです」

いつもの薄笑みは消えている。

「これはザジリレン王ではなくわたしたちの中の誰か、でも同じです。誰でもいいってのだってありです。目的が判らないのだから、狙いを絞るのは早すぎますね」


「ピエッチェの言ってることにも一理あると思う」

これはマデルだ。

「サワーフルドはわたしたちの進路にソレが出てくるって思ってる。その説明には充分だわ」


「だけどマデル、サワーフルドが『行き掛けの駄賃』と言ったことを考えると理屈が合いませんよ?」

ラクティメシッスが微笑む。確かに、ヤツの目的がピエッチェたちならそんな言葉は出そうにない。


 プディングを食べ終わり、茶を飲み干したクルテが全員を見渡す。

「オレンジ、誰も食べない?」

テーブルにはオレンジが四個、ごろんと置かれたままだ。ラクティメシッスが

「持って行って、休憩の時にでもいただきましょう」

と提案する。


 オレンジをサックにしまい込んでからクルテが訊いた。

「みんな、お腹いっぱい食べた?」

クルテ以外は食べ終えて、茶も飲み終わっている。

「えぇ、もう充分食べたわ」

代表して答えるマデル、クルテがニマッと言った

「ごちそうさま」

すると途端に、テーブルの上の物が綺麗に消えた。


「ワイズリッヒェと同じ目的で『カテルクルストの息子』を狙うってことはないと思う。それに、ラスティンが言うとおり、狙いがこの中の誰かだって思い込むのも短絡的――だけど用心に越したことはない」

クルテが立ち上がる。

「そしてカティ、サワーフルドも風読みだよ」


「あ……」

顔が赤くなるのを感じるピエッチェ、そう言うことなら、カッティンクリュードに向かう途中での遭遇をサワーフルドが予測しても()しくない。


「でもね、わたしも得体の知れない何かは風読みだと思う。サワーフルドもそう言ってた――さて、出発しよう」

全員が立ち上がったところで、テーブルも椅子も、建物ごと消えた――


 木漏れ日が眩しく光る中を進む――サワーフルド山が王宮に並ぶ辺りの裾野は鬱蒼とした森だ。王宮を築いた時にはただの原っぱ、カテルクルスト手ずから植えた木が最初の一本だったと伝承される。王宮の庭に含まれ、王宮全域に張られた結界内部にある森だ。管理するのは王家警護隊、王家警備隊が編成されるまでは王宮騎士団だった。


 管理と言っても不審者に対するもので、魔力の強い騎士が数名、専任として従事している。王家の森と呼ばれることもあるこの森に、王宮外から足を踏み入れれば侵入者がいるとザジリレン王宮に知られてしまう。回避するにはサワーフルド山を少し登る必要があった。


 サワーフルドが用意してくれた納屋で過ごした馬たちとキャビンは、今日も上空を行かせた。ピエッチェたちがいた建屋とともに納屋も消えた。リュネ以外の馬は消えた納屋に驚いたようでキョトンとしていたが、リュネが制したのか、暴れるようなことはなかった。


「デネパリエルに入るちょっと前にまた会える」

心配そうに見送るカッチーに、クルテがそう言った。何もなければ今日中、でもクルテ、今日中に辿り着くのか? そう訊きたいピエッチェだったが、カッチーの心境を考えて何も言わなかった。


 充分な高さまで登り、デネパリエル方面に進路を変えた。

「そろそろ少し休憩しませんか?」

ラクティメシッスがそう言ったのはマデルのためだ。マデルを見ると顔色が悪い。ひょっとしたら、昨日から機嫌が悪いのは体調不良……月に一度の、と思ったがもちろんこれも口にしない。


 できればもう少し先まで行きたい。王宮側の木立は()()()、このまま進めば王宮が()ろせる。そろそろ見えてきてもいいはずだ。だが……

「そうだな。休憩にしよう」

ピエッチェは、マデルを見てそう言った。


 ほっとするラクティメシッス、クルテがすぐにサックをゴソゴソし始めたかと思うとオレンジを出した。マデル、ラクティメシッス、カッチーと配り、最後の一つをピエッチェに渡すと、ニンマリ笑んだ。ふむ……その笑顔は、半分寄越せって意味か? それとも剝いたら全部寄越せってことか? とりあえず皮を剥くピエッチェだ。


 思い思いの場所に腰を下ろしオレンジを食べ始めれば、匂いにつられたのか小鳥たちが近くの枝に集まってきた。ピエッチェたちをおろろしては、ピヨピヨ、チッチと囀っている。クルテが鳴き真似すると『ピヨピヨピヨチチチ』と楽しげな小鳥たち、どうもクルテに答えたようだ。だけどなんだか、変なヤツ等だと笑われている気がした。


「笑われた?」

「うん。皮ごと食べるほうが美味しいのに、だって」

ピエッチェとクルテの会話を聞いたラクティメシッスが『お嬢さんは小鳥ともお喋り?』コソッとマデルに訊いている。マデルの返事は『そんな気分を味わってるだけ』と素っ気ない……うん、そう思っててくれたほうがいい。


「あれ?」

と首を傾げたのはカッチーだ。

「魔物は怖がって逃げたのに、小鳥は怖がらないんですね」

うん、それ、言われるまで気が付かなかったけど、確かにそうだ。


 クルテがムフッと笑む。

「これで得体の知れない何かの正体が人間だってのははっきりした」

なんでだよ? ピエッチェだけでなく、ラクティメシッスたちもクルテに注目した。


 クルテ以外の心境を代弁したのはカッチーだ。

「どうして人間だって判るんですか?」

「集まってる小鳥はキツツキやメジロ、ヒヨドリ。人間に狩られることがないから、人間を怖がらない。魔物がいないから、むしろ遣りたい放題」

遣りたい放題って、小鳥たち、なにをしてるんだ?


「この辺りの魔物って、小鳥を捕食するんですか?」

もっともな疑問はラクティメシッス、

「魔物はたいてい動物食。まぁ、効率がいいのはクマやイノシシだろうけど、小鳥だって食べちゃう」

ピエッチェが剥いたオレンジを頬張りながらクルテが答える。剥いては渡しで、ピエッチェはまだ一房も口に入れていない。って言うかさ、クルテ、おまえ、朝、一人で一個食べたよな? なんの断りもなく、よく平気で食えるよな? ま、いいけどさ。


「小鳥もオレンジが食べたいのかしら?」

薄皮を剥きながら枝を見上げるマデル、クルテが

「置いておけば食べるかもしれないけど、オレンジを狙ってきたわけじゃないよ」

と言ってから、ピエッチェを見上げた。

「小鳥たちはザジリレン王宮を見にきた。やっぱり今日も見えないって言ってる」


「今日も見えない?」

「ンッと……例のヤツが来てからってもの、ザジリレン王宮が消えたって小鳥たちが言ってる」


「王宮が消えたって!?」

ピエッチェだけでなく、ラクティメシッスも声をあげる。

「どういうことですか?」


 チラッとラクティメシッスを見たが、やっぱりクルテはピエッチェを見上げ続けた。

「王家の森もなくなってる。見えないんだって。王家の森を越えることができないから、サワーフルドの小鳥たちはデネパリエル経由で王宮に行ってる」


「王家の森……」

なんとなく引っ掛かりを感じるピエッチェ、王家の森のことを何か忘れている気がした。が、それよりも今は

「王家の森を越えられないって、どういうことだ? それでデネパリエルからなら行けるのか?」

この二つが重要だ。


「見えないから入れない。とうぜん抜けられない。どこまで行っても同じ景色――いったんデネパリエルに出てしまえば、いつも通りに王宮も王家の森も見える。そして王宮に入ってしまうとサワーフルドとは反対に、サワーフルドが見えない。王家の森からサワーフルドに行こうとしても行けない」


 ラクティメシッスがフフンと鼻を鳴らす。

「王家の森と王宮に、条件付き結界を掛けたってことですね」


「条件付き結界? 発動条件を付加した結界ってこと?」

マデルが問えば、

「しかもおそらく二重結界、サワーフルド側の条件と王宮側の条件を別にしてあると思います」

ラクティメシッスが説明する。

「しかも、無限結界にしてる――相手は相当の魔力量、サワーフルドが困惑するのも判ります」


 どこまで行っても同じ景色……ワイズリッヒェを閉じ込めた屋敷の〝昼のメッチェンゼ山〟と、女神と人間の違いはあるが同じ魔法だ。女神のほうは同じ景色が続くわけでないところが違う。


「王家の森はサワーフルド山の一部と思っていいんでしょうか?」

ラクティメシッスがピエッチェに確認すれば、ピエッチェが難しい顔で答える。

「もしそうなら施術者が潜んでいるのは王家の森かもしれない、と? あいにく王家の森は王宮の庭で、サワーフルド山じゃない」


「あくまで施術者はサワーフルド山中に居るってことですね」

「そもそも王家の森に少しでも入れば、王家警護隊が察知する」

「うん? 王宮には領域魔法を使っている? まぁ、そりゃあそうですよね」

それには答えないピエッチェ、ラクティメシッスが結界とは言わず『領域魔法』と言ったことが気になった。


 ラクティメシッスがまたもフフンと笑う。

「魔力の強い者にできるだけ外部を守らせているんでしょうが、森の女神を(ほん)ろうするほどの魔力に対抗できるのでしょうか?」

王宮の結界が破られ、しかも術者が気付いていない可能性もあると、ラクティメシッスは言いたいらしい。


 その可能性はない。だけど、そう言い切る理由は明かせない。ザジリレン王家の魔法の秘密に抵触してしまう。


「王宮結界はカテルクルストが施術した。王家警備隊は管理方法を継承しているに過ぎない――たとえどんなに魔力が強くてもソイツが人間なら、カテルクルストを出し抜くのは無理だと思う」

「なるほど、それならそう簡単に破れそうもありませんね」

半分は真実、半分は虚偽の説明を、ラクティメシッスは信じたようだ。


 カテルクルストが施術し、彼の死後は王族、今ならカテロヘブ王やクリオテナ王姉が必要に応じて修繕し補強した。そうやって建国以来、破られたことのない結界でザジリレン王宮は守られてきた。そして今、その結界を覆う別の結界が存在している。放置なんかできない。なんとしてでも排除する――だが魔法封じを使えば、カテルクルストの結界まで吹き飛ばしてしまう。


 さて、どうする?

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