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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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 同時に寝室のドアが開いて、マデルを先頭にラクティメシッスとクルテが入ってくる。

「ピエッチェ、あんたね――」

「うわぁ、ご馳走が並んでる!」

説教を始めそうなマデル、それをクルテが遮って、さっさと椅子に腰かけた。


「ちょっと、クルテ……」

「早く食べよう、美味しそうだよ――カティ、わたしのオレンジは?」

「あぁ、できてる。これだ」

クルテの前にオレンジの皿を置くピエッチェ、すぐにフォークを手にオレンジを味わうクルテ、

「うん。みんなが薄皮まで()くのももっとも。皮つきよりもグンと美味しい」

ニンマリと嬉しそうだ。


「あんたねぇ――」

ピエッチェにするかクルテにするか、怒りの矛先に迷うマデル、ラクティメシッスが『まぁまぁ』と座るように促し、何かマデルに囁いた。


「そりゃあ、そうだけど……」

それでも怒りが納まらない様子のマデルがチラリとクルテを見、

「そうね、もういいわ」

(おと)しく席に着いた。


 ラクティメシッスがなんと言ったのかは判らない。けれど想像はつく。

『あんなに泣いていたのに、今は笑ってますよ』

クルテの目はほんのり赤く色づいて腫れぼったい。それでもピエッチェに微笑んでいる……それでいいじゃないか、とラクティメシッスは言ったんじゃないか?


 助かったと思っているのはピエッチェ、マデルの説教を聞かなくて済んだ。が、クルテが何に怒り、どうして泣いたのかは気になる。あとでこっそりマデルに訊いてみるか? いいや、それは自ら火中に身を投じるようなものだ。じゃあラクティメシッスに訊く? カッチーにはさっき訊いた。でも、ラクティメシッスは『お嬢さんに訊いたほうがいいですよ』とニヤッとするだけのような気がする。


 オレンジを半分程食べたところで、切っただけの生野菜のボールからトマトとキュウリだけをトングで挟んで自分の皿に乗せるクルテ、トマトとキュウリ以外も一緒に挟みこんでしまうとチラッとピエッチェを見る。見てないふりをしてやると、トングの野菜をそっとピエッチェの皿に乗せている。つい笑いそうになるが、またマデルを怒らせそうで笑うに笑えない。カッチーも気が付いていてニヤニヤしている。


 花芽のグラタンとコーンポタージュ、大量の茹で卵、これはホロホロ鳥じゃなくきっと鶏卵、パンは四角い型に入れて焼いたもので、スライスしてトマトソースを塗り、上に薄切りの野菜とハムを乗せ、チーズを掛けてトーストしてあった。デザートはカスタードプディング、ここまではカッチーのリクエストだろう。全てカッチーの好物だ。


 昨日、夕食を食べ終わったばかりだと言うのに『好きな料理は……』なんてブツブツ言っていたカッチー、サワーフルドがリクエストに答えてくれるのを見込んでの独り言だ。加えてブドウ、ウサギ型に切ったリンゴもあるが、これはうん、クルテだ。こっちは堂々と(?)サワーフルドに訴えていそうだ。


 ピエッチェもそうだが、ラクティメシッスとマデルはこれと言って何も言ってないし、ラクティメシッスとマデルは思いもしなかったんだろう。王族や上流貴族は召使が用意したものを食べる。なにが食べたいとかわざわざ言わない。そんなものだ。


 クルテがニマニマとウサギリンゴを食べているのを見て、ピエッチェが疑問を口にする。

「サワーフルドはウサギリンゴなんか、よく知ってたな」

ニマッと笑んだクルテが答える。

「この山からはザジリレン王宮が見えるからね。サワーフルド、王宮を覗いてきた小鳥たちに話を聞くのを楽しみにしてるんだって」


「ん? ザジリレン王宮でウサギリンゴなんて出たことあったっけかな?」

「デネパリエルの街中での話も聞いてるから、そっちかも」


 サワーフルド山の麓はメッチェンゼ山から離れてすぐザジリレン王宮に接し、王宮に沿ってデネパリエルに向かっている。メッチェンゼ山と反対側の山すそはデネパリエルだ。


「天気は良さそうだな」

窓を見てピエッチェが呟いた。クルテがニマッとする。

「よく見えそうだよね」

ザジリレン王宮を見降ろしてサワーフルドからデネパリエルに入る予定だ。


 食べている途中でラクティメシッスが、ふとクルテを見た。

「そう言えばお嬢さん。この山じゃなかったんですか? ほら、魔物がうじゃうじゃいるって」


 茹で卵の殻を()()()剥いていたクルテ、答えたのは剥き終わってからだ。

「居るよ。コーンレゼッチェ・メッチェンゼ・サワーフルドには翼を持つ魔物がいっぱい」


「一度も遭遇してないし、気配もありませんよ?」

「コーンレゼッチェ山とメッチェンゼ山はコーンレゼッチェの女神が制御してる。ザジリレン王に怪我させたら大変だもん。あ、メッチェンゼが戻ったから、メッチェンゼ山に関してはメッチェンゼかな?」

「サワーフルドは?」

「この山は……今はなぜか居ない」

「居ない?」

「地上が怖いらしくって、コーンレゼッチェ山とメッチェンゼ山に逃げちゃったんだって――魔物が居ないのも困るのよってサワーフルドが言ってた」


 ラクティメシッスが

「なんだかお嬢さん、話しが違ってますよ? 確か、ミテスクから山伝いにカッテンクリュードを目指しましょうって言ったら、魔物がいっぱいいるからダメって言いましたよね」

ちょっとムッとしているようだ。

「ザジリレン王を森の女神が守るなら、魔物がいるからって森を避ける必要はなかったですよね?」


「あのさ、それって最初にミテスクからトロンパに行った時の話だよね? あそこからカッテンクリュードまで幾つ山があると思ってる? 自分の森の生き物を制御しきれない森の女神だっているんだよ」

「そうなんですか?」

「それに食料をどうするかって問題もあったのを忘れた?」

「魔物の件がなければ、防腐魔法を使うってことも可能でした」

今さら言うか?


「やっぱり美味しい……」

茹で卵を齧ってニンマリするクルテ、

「どっちにしろ、ここまで来た。今さらトロンパに戻ってミテスクの山に入って尾根伝いに行く気なんかないんでしょ? だったら文句言うな」

ニンマリをニヤッに変えてラクティメシッスを見る。


「まぁ、そりゃあ、そうです」

悔しそうなラクティメシッス、

「それにしても森の女神について詳しいですね。カッチーより知ってるんじゃ?」

悔し紛れに話をそっちに持って行くか? が、カッチーはクルテの味方だ。

「お言葉ですが、女神たちの魔力に差があるなんて俺だって知ってますよ? ラスティンさんだって知ってるはずです」


「えっ? わたし?」

「メッチェンゼがワイズリッヒェに力負けしたのを忘れましたか?」

「あぁ……確かに」

デザートスプーンを手にしたラクティメシッス、気まずげに黙々とプリンを食べ始めた。


 きっとサワーフルドの『至れり尽くせり』に関係あると思いながら、ピエッチェがクルテに問う。

「しかし……サワーフルドの魔物たちは何を怖がって居なくなったんだ?」


()()()居ないって、さっき言った。つまり、原因不明」

いきなり不機嫌なクルテ、でもこれは答えられないことによる不機嫌だ。

「だけど、サワーフルドが言うには何かが山に入ってきた。それがなんなのか、サワーフルドでさえ判らないって――そいつは何もしない、ただ山のどこかに居るだけ。それなのに、魔物はソイツを恐れてる」

そしてピエッチェを見上げた。

「ねぇ、なんだと思う?」

俺に判るわけない!


「山に魔物が居ないとどうなると思う? 鳥や獣が増え過ぎちゃうんだよ。それに死骸も処理しきれなくなる。いずれ山は枯れる」

魔物が居ることで均衡を保っていた山だ。もともと魔物が居なければそんなこともないのだろうが、いきなり居なくなればそうなりそうだ。


「ねぇ、行き掛けの駄賃って? サワーフルドが『そう思って』って言ってた」

サワーフルドはどうやら魔物たちが怖がっている〝何か〟を俺たちに処理させようって魂胆だ。


 プリンを食べ終わったラクティメシッスが

「ものはついでってのと同じですよ、お嬢さん」

クルテの疑問に答えてから、ピエッチェを見る。

「しかし、難題ですね。女神でさえも正体が掴めないものを、どうしたらいいんでしょう?」

ラスティン、サワーフルドの要望を聞き入れる気か?


 カッチーが、

「俺、いろいろお願いしちゃったからなぁ……問題解決しなきゃ、サワーフルド山から出して貰えなさそうです」

そう言いながらグラタンをお替りしている。

「こんなことになるんじゃないかと思ってました。森の女神が無条件でこんなによくしてくれるはずありませんから」


「それって本に書いてあったの?」

(こわ)ごわと訊くマデル、とんでもないことになったと思っていそうだ。


「えぇ、そうですよ……マデルさん、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。ラスティンさんがしっかり守ってくれるはずです。ねぇ、ラスティンさん?」

急に話を振られたラクティメシッス、少し慌てて

「もちろんですとも」

マデルに微笑む。


「それにピエッチェさんとクルテさんも居る――きっとなんとかなりますよ」

カッチー、おまえ、けっこう楽観主義だよな。胃が痛くなりそうなピエッチェだ。


 だけど経験則が、カッチーは正しいとピエッチェに教えている。サワーフルドの要請を完遂しないことにはデネパリエルには行けないだろう。フン! なにが行き掛けの駄賃だ? 片手間でできるとはとうてい思えない。


「それで?」

ピエッチェも不機嫌にクルテに問う。

「今日、俺たちは何をすればいい?」

サワーフルド山中を何かを探して(さま)うのか?


「うん? カッテンクリュードに行くんでしょう?」

クルテがキョトンとする。

「サワーフルドは〝行き掛けの駄賃〟って言った。『ものはついで』って意味だってラスティンが教えてくれた――それって、本来やることをやればいいってことだよね」


「あぁ、なるほど……」

ティーカップにお茶のお替りを注ぎながらラクティメシッスが言った。

「サワーフルドはカッティンクリュードに向かうどこかでその何かを見付けられる、もしくは向こうから姿を見せると考えているってことですね」


「そうなのかな? 判んないけど、そうなのかも」

「きっとそうですよ――しかし、ソイツの目的がますます気になりますね」


 サワーフルドが相手の居所を掴めないのなら、カッティンクリュードに向かうどこかに居るなんて判らない。つまり、向こうから出てくると考えていい。


 隠れているのに出てくる理由……俺たちに用があるってことだ。ここを通ると予測して、サワーフルド山に潜んでいた? でも、なんでそんな予測が立った?


 あ……風か? 風は未来を語る。待っているのは風読みの能力を持った人間だろうか? それとも魔物?


「クルテ、風読みは人間しかいないのか?」

「風読みは森の女神が大昔、ローシェッタ王に与えた能力。使えるのは女神と人間だけ」


 ならば人間? 魔物を恐れさせるほどの……

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