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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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「ラスティンは、わたしが読もうとしたらすぐ気づいた。でもカティは……勝手に読むなって言うくせに、遮蔽しないから変だと思ってたんだ」

「ザジリレンにはない魔法だぞ?」

「そうだったっけ?」

斜め上を向いて思い出そうとするクルテ、いつもの物忘れか?

「そう言えばそうなのかな? 思い出せないや」


 クルテが思い出すのを諦めたところで、ピエッチェが訊いた。

「カッチーはどうなんだ? アイツの心は読めるのか?」

フフンとクルテが笑う。

「スワニーの女神の祝福のあとは読めなくなった。カッチーの心を読めたほうが良かった?」


「どうなんだろうって思っただけだ。女神の祝福のせいで、おまえは俺が読めないんだろう?……でもさ、スワニーって女神としては格下だったんじゃ?」

「スワニーの祝福自体は大した力じゃない。でも、それまでの分があるから、わたしでも読めないほどの力になったってこと」


「で、カッチーは……って、アイツも俺と同じか」

「同じって?」

「読まれていることに気がついてないだろう?」

「魔力の使い方を知らないんだから当然」

そっか、心への侵入を感じ取るのにも魔力が必要ってことか。


「それじゃあさ、俺もその、心を遮蔽する魔法を覚えたほうがいいかな?」

「カティには必要ないじゃん。ラスティンが入り込めないんだよ?」

そう言えば、ララティスチャングのサロンでそんなことを聞いた覚えがある。変装したラクティメシッスを初めて見た時だ。


 ピエッチェの心に入り込めないのはなぜかと聞かれ『判らない』と答えたと、クルテが脳内会話で言ってきた。女神の祝福のお陰で間違いないのだろう。


「反対にさ、俺が誰かの心に侵入する魔法を覚えるってのは?」

ピエッチェの提案にクルテがあっさりと

「無理」

と答えた。


 苦笑するピエッチェ、

「そうか、俺の魔力じゃ無理か」

するとクルテ、

「魔力は充分。でもカティには向かない」

気まずげに俯く。


「わたしみたいに強い感情が飛び込んでくることなく、読みたい相手だけ、読みたい時だけ、心を読めるようにはなる。でもそんなこと、カティには必要ないし、苦しむだけ」

「苦しむって、俺がってことか?」

「人っていろんなことを考えて、その中から選んで言葉にする。考えてることと言葉にしたことが全く別ってことも多い」

「うん、判ってる。だから本音を知れればいいなって思ったんだけど?」

「それを知ってどうする? 心に潜む矛盾、醜さ、苦悩……それって、誰にもどうすることができない。自分で解決するしかないものだ。手助けできない辛さを味わいたい?」


 クルテが俯いていた顔を上げ、ピエッチェを真直ぐに見た。

「カティ、(カテ)(ルク)()(スト)(おし)えを思い出せ。相手の言葉はそのまま受け取れ」

「あ……」

「なぜカテルクルストは子どもたちにそんな言葉を遺したか? 家族や臣下、民人たち、そして自分自身の平穏のため。多分ね」

ここで多分ですか?


「まして王たるもの、コソコソ他人の思惑を探ってどうする? 気高く居てこそ王だぞ」

うーーん……それを言われると反論できない。


「まぁ、おまえの心を読めるヤツなんか、女神にだっていないんだ。読まれるリスクがないんだから、読む必要もないだろう?――お茶、もうない」

「え、あぁ。ポットにまだある」

ピエッチェがポットを手にしてクルテのカップに注ぐと、クルテがニマッとした。


「明日、サワーフルドは何を食べさせてくれるかな?」

「腹が減ったのか?」

「食べるのが好き」

「大して食わないくせに」

「美味しいものが少しあれば満足。種類は多いほうがいい」

オレンジがまだ五個あるはずだな、なんて思っているところにラクティメシッスが入ってきた。


「サワーフルドはわたしが嫌いらしい」

情けない顔で愚痴った。


「湯に浸かってたら、急に水に変わってびっくりです」

「それ、ひょっとして眠りそうになってたんじゃ?」

クルテの指摘にハッとするラクティメシッス、

「そう言われればそうかも……あれは眠るなって警告ですか?」

クスッと笑った。


「サワーフルドは森の女神の中では比較的意地悪じゃない」

「ふぅん。女神って意地悪なんですか?」


 そこにダイニングからマデルまで顔を見せる。

「あら、ラスティン、出てたのね」

「今、出てきたところです」

「そうなんだ? それでかな?……なんかね、人数分の飲み物が出てきたの。氷が入った、あれはミルクかな?」

それでピエッチェとクルテを呼びに来たのだと言う。


 行ってみるとテーブルにグラスが五つ、中身は白い飲み物だ。氷が浮いている。

「うーーん……お嬢さん、本当に女神は意地悪?」

「どうして?」

「身体を拭いている時、冷たいものが飲みたいなって思ってたんです」


 グラスの中身は甘くして水で薄めたヨーグルトだった。自分の分を飲み終えたクルテが物欲しそうにピエッチェを見上げる。

「飲み足りない?」

苦笑いするピエッチェ、ニマッと笑むクルテ、けれどピエッチェがクルテにグラスを渡す必要はなかった。クルテのグラスが再び満たされたからだ。

「お替り自由ってことですか!? 俺ももう一杯欲しいです」

途端にカッチーのグラスも満たされる。


 カッチーは喜んだけれど、ピエッチェは落ち着かない。甘い飲み物を楽しみながらも、心は不安でいっぱいだ。サワーフルドがこれほど俺たちを優遇する理由が気になった。何もしないでサワーフルド山から出して貰える気がしない。


 翌朝、目を覚ますとクルテは起きだした後か、寝室に居ない。


 耳栓を外すと部屋に響いているカッチーの鼾が聞こえた。ラクティメシッスが寝返りを打ったのはピエッチェの気配に気づいたのだろう。が、起きる気にはならなかったらしい。マデルはぐっすり眠っている。


 ダイニングにはオレンジの香りが漂っていた。クルテが必死の形相でオレンジを剥いていた。外皮と房分けは終わっていて、薄皮を剥いている。皿に乗せられたオレンジはズタボロ、必死の形相なのは薄皮剥きに苦戦しているからだ。そう言えば、昨日は薄皮をそのままで食べてたっけ。


「今日は剥くんだ?」

「昨日、みんな剝いて食べてた」

「それで自分も同じようにしたくなった?」

「この皮、あんまり美味しくないよね」

「どれ、貸してみろ――ここに爪を立てて、こうするんだよ」

真剣な眼差しでピエッチェの手本を見ると真似しているが、やっぱり巧くできないようだ。


「やってやろうか?」

「うん、半分お願い」

「半分でいいのか?」

「あとは自分で……練習しなきゃ、いつまで経っても自分でできない」


 やっぱりコイツはまだまだ子どもだ……クルテを眺めてピエッチェが思う。子どもも子ども、(おさな)みたいだ。


 それもそうか。十四って言ってもそれまで森で暮らしてた。森の女神が人間の子どもが受けるような教育を、こいつにしたと思えない。人間の生活を教える必要なんてないと思っていただろう。だからこいつは、森や魔法や女神については豊富な知識があって実践も積んでいるけれど、誰でも知っている生活の技術や知恵がほとんどないんだ。


「そう言えばさ、おまえ、いつ十五になるんだ? 七百年前とかって言うなよ」

「封印されて成長が止まった。その期間を考えに入れないのなら、十五になるのは七日後。それがどうかした?」

「いや、いつなのかなって思っただけだ――誕生日の祝いに何か欲しいか?」

「要らない」


 ムッとするが気を取り直したピエッチェが再び問う。

「何か贈りたい。なにがいい?」

クルテがチラッとピエッチェを見る

「なんでもいいの?」


「俺に用意できるものならなんでもいいぞ」

ちょっと嬉しくなってニヤッとするピエッチェをジッと見てクルテが言った。

「それじゃあ女になりたい」


「へっ? 女になりたいって、おまえ、『一応』女だろう?」

「一応、で悪かったね! もういい、なんでもいい。ビワ持ってこい」

なんだよ、それ?


「だいたい、俺に性別をどうこうできるわけないし――ビワはもう時期じゃないから難しいぞ」

「じゃあ、なんでもいいから果物」

「食べ物じゃないほうがいいんだけど?」

「なんでもいいって言ったのに?」

「そりゃそうだけど……」

訊いた俺が馬鹿だったか。


「あぁ、もう、面倒臭い! これ、全部剥いといて」

剥きかけも含めてオレンジの房を寄こすクルテ、立ち上がったかと思うと

「マデルはそう言えば判るって言ったのに! ちょっと文句言ってくる!」

怒っているのに泣き出しそうな様子で寝室に行ってしまった。


「なんだよ、あれ?」

呆気に取られて見送るピエッチェ、仕方なくオレンジの薄皮を剥き始めた。


 大して経たないうちに来たのはカッチー、お茶を淹れると自分とピエッチェの前にカップを置いた。

「ピエッチェさん、いったい何をやらかしたんですか?」

寝室で、クルテがわんわん泣いていると言う。


「いいや、さっぱり判らない。誕生日のプレゼントは何がいいか訊いたんだけど、わけの判らないこと言ってた」

「そう言えばクルテさん、いつ誕生日?」

「七日後だってさ」

「もうすぐですね。その頃にはザジリレン王宮かな? それで、なにがいいって言われたんです?」

「ビワって言うから時期じゃないって言った。そしたら果物ならなんでもいいって言うから、できれば食べ物じゃないほうがいいって答えた」

「確かに誕生日のプレゼントに果物じゃ、味気ないですね」

たいていの果物には味があるぞ、と思うが、もちろん言わない。


「アイツ、泣いてるだけか? なんか、マデルに文句言うって言ってたけど」

「マデルさんが慰めて、それでも足りなくってラスティンさんも慰めてました」

「ふぅん……」

ラクティメシッスも一緒になって慰めている? なんだか面白くない。


「ピエッチェさん、早く謝っちゃった方がいいんじゃないですか?」

「謝るって何を? アイツがなんで泣いてるのか判らないのに、謝ったって(やぶ)(へび)だよな」

「いや、俺もよく判んないけど……クルテさんの果物好きは判ってるのに、果物はダメって言われたのがショックだったんじゃ?」

そうなのかな? 違う気がする。


「でもなぁ……」

今、寝室に行けばマデルがエラい剣幕で説教してきそうだ。それをニヤニヤ見ているラクティメシッスの顔さえ目に浮かぶ。気まずいし、俺は何も悪いことはしていないぞと思ってしまう。


「悪いと思ってないのに謝るって、不誠実なんじゃないか?」

「嘘も方便って言いますよ。それに女の人って、割とその手の嘘には寛大で、気を良くしてくれるものです」

カッチー、おまえ、俺より女性経験が豊富そうだな。それ以前にその考え方、いつか身を滅ぼしそうだし、女性蔑視にならないか?


「ほら早く。さっさと済ませちゃった方がいいですって」

急かすカッチー、考え込むピエッチェ、すると急にテーブルが揺れて湯気を立てた料理の皿がずらっと並んだ。

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