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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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 再び木箱の蓋を開けたピエッチェ、カッチーに中が良く見えるような位置に置き直した。

「ペンダントを包んでいる布をよく見てごらん。小花模様のように見えるかもしれないけれど、これはサンザメスク卿の紋章なんだ」

布は黒い生地、深紅の模様がいくつも並んでいる。


 食い入るように見詰めたあとカッチーが、

「サンザメスク卿の紋章をアランロレンスは使えたんでしょうか?」

ピエッチェに視線を戻した。


「これは憶測になってしまうけれど……きっとこの布は、サンザメスク卿が見ればアランロレンスのものだと判るんだと思う。養子にしたときはサンザメスク卿だって、アランロレンスに愛情を注いでいただろう。家紋入りの物を与えるのも当然のことだった。隅のほうにはアランロレンスの頭文字が刺繍してある」

「これは、ハンカチ?」

「そうだろうね」


 ふっとクルテが寝室のドアを見た。

「マデルがバスから出てきた――カッチー、急いで仕舞って」

仕舞うのはもちろん木の箱、だが、

「クルテさん、お願いです! これ、預かってください」

慌てた様子で蓋を閉じ、鍵を掛けようとするカッチー、

「怖くて持っていられません」

手が震えて巧く掛けられない。高価なものだと知って怖じ気づいたか? それとも木箱の持つ意味が怖いのか?


「判った、貸して」

サッと木箱に手を伸ばしたクルテ、途端に木箱も鍵も消えた。

「えっ?」

茫然とするカッチーに、

「サックに入れたから心配しなくていいよ」

ニマッとクルテが笑う。


 寝室のドアが開き、

「ふぅ……サワーフルドの女神に感謝だわ」

満足そうな顔のマデルが入ってきた。髪を乾かす魔法の気配を感じると同時に、クルテが掛けた声をくぐもらせる魔法の気配は消えた。


「ラスティンは定期連絡、まだ終わらない?」

シレッとマデルに話しかけるクルテ、

「あら、アイツ、連絡具を使ってるんだ?――どこに居るのかな? 遮蔽結界を使われちゃうと、わたしにもさっぱり掴めないよ」

マデルが苦笑いする。


 クルテが例によってピエッチェを見上げる。

「眠い……」

嘘吐けよ、と思いながらピエッチェが答える。

「ラスティンが寝室にいると安心して眠れないのか?」

カッチーが、吹き出しそうなのを堪えてマデルに訊いた。

「お茶、入れますか?」


 お願いするわ、と答えて腰かけるマデル、

「ピエッチェ、いくらなんでもそれはラスティンが可哀想だわ」

半ば本気で怒っている。入れ違いに立ち上がったカッチーは

「でも、誰かに見られてると落ち着いて眠れませんよね」

言うなり逃げるようにキッチンに行ってしまった。


「まっ! あんたたちねぇ!」

「何もラスティンがクルテを襲うとは、俺もカッチーも思っちゃいないって」

宥めるものの、笑ってしまうピエッチェだ。するとクルテがムッとして言った。

「それって、わたしが貧相だから?」

おい! またそれかよ?


 うんざりするピエッチェ、けれどマデルの毒っ気は抜かれたようだ。

「えっ? いや、なに言ってるのよ、クルテ?……まぁ、そうよね、ウロウロされたら落ち着かないよね」

カッチーの意見に賛同することにしたらしい。ニマッとクルテが笑う。


「まぁいいや。もう少し起きてる――カティがまだバスを使ってない」

「あ、そうよ、ピエッチェ、今のうちに入浴しちゃえ。アイツを待ってることないから」

マデルのお茶を運んできたカッチーがピエッチェを見て言った。

「いいお湯でしたよ。薬草がプカプカしてて」

「そうか。それじゃあ、俺も入ってくるかな」


 ピエッチェが立ち上がればクルテがニマニマしてマデルに訊いた。

「マデル、腰の具合はどう?」

「気のせいかもしれないけど、楽になったような?」

と答えるマデル、クルテが

「それ、気のせいじゃない。そんなこと言うと、サワーフルドが悲しむよ」

抗議する。


「そんなこと言われたって、そうすぐに良くなるもんじゃないわ」

マデルだって黙っちゃいない――クルテとマデルに巻き込まれないうちにと、さっさと寝室に入ってしまったピエッチェだ。


 寝室に人の気配はない。けれど魔法の気配は感じる。黙って通るのも気が引けて

「先にバスを使うよ」

と言って通り過ぎた。バスルームのドアを閉める寸前、

「お気になさらず、ごゆっくり」

ラクティメシッスの声が聞こえた――


 入浴を済ませてバスルームから出ると寝室にはクルテが一人、ベッドに腰かけていた。


「ラスティンの定期連絡は終わったのか?」

「うん。マデルと一緒にダイニングでカッチーの話を聞いてる」

「カッチーの話?」

「コゲゼリテの昔話。つまんないから寝るって言った」

「おいおい……つまんないなんて言ったらカッチーが傷つくぞ」

「カティが居ないとつまんないって言った」

おやおや……まぁ、そのほうがまだマシか。


「お風呂、どうだった?」

「ん? おまえ、入ったじゃないか」

「わたしが入った時は湯船、空っぽ――シャワーにするって言ったから、入れて貰えなかった」

「いちいち湯を入れ替えてるんだ?」

「サワーフルドはマメだから。カッチーには疲労回復、マデルには血行促進と鎮痛作用のあるハーブ」


「俺のは何だろう? なんか、いい匂いがしてたぞ」

「きっと疲労回復とリラックス効果」

「ラスティンは何だろうな――出たって言ってくるよ」

「じゃあ、ついでにお茶」

はいはい。


 ダイニングではコゲゼリテの温泉の話になっていた。

「あ、ピエッチェさん! ピエッチェさんも見ましたよね、大浴場の娘像」


「ん? 娘像がどうかしたのか?」

夜な夜な歩き回っていると言う噂を聞いて、封じに行ったあの娘像か。


「あの女神の娘もカテルクルストに恋い焦がれてたって話をしてたんです」

「へぇ、そうだったんだ?」

「ピエッチェさんって、カテルクルストにそっくりだって話ですよね。やっぱりモテるんだろうなぁ」

モテるのはカテルクルスト、俺のことを言ってるなら、それは違うぞ、カッチー。


 しかし……大浴場で娘像が何を探し回っていたのがこれで判った。あれ? でもあれは人間が作ったものだ。俺の思い違いか?


 お茶のカップを二つ持ってベッドルームに戻り、クルテに訊いてみた。するとピエッチェの想像通りだとニマッとした。


「でもクルテ、あれは人間が作ったものだろう?」

「人間が作ったものだけど『女神の娘』には違いないから」

その説明、判るようで判らない。


「母さまが人間の様子を見るために、自分の娘の一人をあの像に閉じ込めた」

「それじゃ、あの像が動いたのはコゲゼリテの仕業? コゲゼリテは違うって言ってたけど」

「母さまはね、人間の様子を像の目を通して見守ってただけ――動かしたのは別の誰か」

「ジランチェニシス?」

クルテが首を傾げる。


「娘像が動き出すようになる少し前、薄気味の悪いヤツがコゲゼリテ温泉に行ったって母さまが言ってたよね? でも、ジランチェニシスって言ったわけじゃない。女神だって名乗らない相手の名前は判らない」

そうだ、コゲゼリテはジランチェニシスを知らないようだった。薄気味の悪いヤツがジランチェニシスじゃないとは言い切れないが、そうだとも断定できない。


「でも、俺の名は知ってたし、ワイズリッヒェだってラクティメシッスがローシェッタの王子だって判ってたぞ」

「王族はたいてい判る。生まれてすぐに住処を管轄する女神が祝福する。それによって、より血の匂いが鮮明になる」

「ふむ。ジランチェニシスは女神の祝福を受けられなかった。だから王族と認識されず、女神たちに名も知られていない?」

「そ、女神のネットワークから弾かれてる」

ネットワークと来ましたか。でもそうか、森の女神たちはいろいろ共有してるって言ってたな。


 と、誰かが寝室に入ってくる気配がして、ここでいったん会話が途切れた。すぐにドアがノックされ、入ってきたラクティメシッスが

「なんだ、お嬢さん。寝たんじゃなかったんですか?」

ニヤッと笑う。クルテもニマッと笑んで答える。

「カティが戻ってきたから、嬉しくって目が冴えちゃった」


「なるほど、それでティータイムですか。二人っきりがいいってことですね――ごゆっくり」

疑う様子もなく、ラクティメシッスはバスルームに入っていった。


「アイツ、俺がバスに入る時も『ごゆっくり』って言ったぞ」

「自分もゆっくりするつもりなんじゃ? 湯船で寝なきゃいいけど」

「大丈夫だろ?」

「ラスティン、ああ見えて、けっこう疲れてると思う」

「あぁ……キャビンでマデルに回復魔法を使ってたみたいだな。アイツの回復魔法ってどのタイプなんだろう?」


 魔力を行使するだけでも疲れる。もし相手のダメージを自分で引き受けるタイプだったら、ラクティメシッスの疲労はかなりのものだ。だけどラクティメシッスにそんな素振りはない。疲労を顔に出しもしない――マデルが気にしないよう無理しているのかもしれない。


 ラクティメシッスがバスルームに入ってから充分な時間を取って、コゲゼリテの娘像の話を再開した。


「それで、娘もカテルクルストに恋してた?」

「そんなの知らない」

「だって、あの娘像はカテルクルストを探し回ってたんだろって訊いたら、そうだって言ったじゃないか」

「何か用事があったのかも」

「七百年近くも前に死んだ人間に?」

ムッとクルテがピエッチェを見る。そして溜息を吐いた。


「あの娘が探していたのはカテルクルストじゃない」

「それじゃあ誰だ?」

「温泉の客の噂話でも聞いたんだろうね、ザジリレン王がローシェッタにいるらしいって」

「へっ?」


「だから心配してザジリレン王を探した――コゲゼリテの娘たちはカテルクルストの息子、つまりザジリレン王を守る。そして大浴場の娘はコゲゼリテの領域から出るのも可能」

「うん? 女神の娘が森から出るときの条件って、女神とはまた別だった?」

「女神の娘じゃなくなりゃあ、どこにでも行ける。女神の娘()になったから、理屈としてはどこにでも行ける……あの娘像は『森を離れられる娘は自分だけ、自分がザジリレン王を守らなくちゃ』って思った、多分」


「多分なのか?」

「だって、心が読めなかったんだもん。想像するしかないじゃん」

「ラスティンとかマデルの心は読めるんだよな?」

「読もうと思えば読める。でもラスティンと『読まない』って約束したから読んでない。向こうもこっちを読もうとしなくなったしね」


「なぁ……」

ピエッチェが訊かないほうがいいかと迷いながら、結局クルテに訊いた。

「おまえ、本当に俺が読めないのか?」

キョトンとピエッチェを見るクルテ、

「そっか、やっぱりカティは心に潜入されても判らないんだね」

少し心配そうな顔になった。

「最初から()しいとは思ってた。読まれてるのが判ってて、なに言ってるんだろうって」


 俺に言わせれば、脳内会話ができるほうがヘンだけど?

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