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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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 なるほど……


 サンザメスク卿を継承するなら、妾腹だろうが王女と婚姻できる可能性もないわけじゃない。だが、ダーロミダレムの誕生によってアランロレンスには相続権がなくなった。つまり、上流貴族でも傍系、サンザメスク卿よりグッと格下になってしまう。王女相手に結婚を申し込める立場を失ったのだ。


 アランロレンスがザジリレンに来たのは十五の時、サンザメスク卿の嫡子として待遇されただろうから、王宮に出入りしていたと思っていい。王女と知り合う機会もあっただろう。そして恋に落ち、いつか結婚しようと約束を交わした……その時はサンザメスク卿を継承する予定、だから問題はない。


 ところがダーロミダレムの誕生で事情が変わった。改めて自分の立場を振り返ったアランロレンスは諦め、王女に別れを切り出したとしたら? それが王女のためだと思えば、いくらでも嘘が吐けそうだ。でも、それでも納得いかない。


「だがクルテ、それじゃあ正式な婚姻は避けられても、肝心なことは避けられないぞ」

ピエッチェがクルテを見て言った。

「結婚できないと言いながら、王女をコゲゼリテに連れて行ったのはなぜだ?」


「勝手に王宮を抜け出した王女がアランロレンスを追って、たった一人でゲリャンガに来ちゃったら? 追い返せやしないだろ? しかも王宮に送って行くわけにもいかない」

「なぜ送って行けない?」

「王女が居なくなりゃあ、王宮は大騒ぎさ――ゲリャンガに居るって知らせようが送って行こうが、なんで王女がゲリャンガにって追及される」

「ふむ……原因がアランロレンスだと知れれば、サンザメスク卿にも迷惑が掛かると考えた?」

「やっと察しが良くなった」

なんで楽しそうなんだよ?


 ニマニマとクルテが続ける。

「だからってゲリャンガにいつまでも隠しておけるもんじゃない。何しろザジリレン王女、国内では顔が知られている。だから、とりあえずローシェッタに連れて行き、実家に助けを求めようとした」


「うーーん、それはどうだろう? コメスカッチ卿は、ザジリレンで改名してからの名さえ覚えていなかったんだぞ?」

「実父はそうかもしれない。でも、よく思い出せ。コメスカッチ卿の息子はアランロレンスだけじゃなかったはずだ」

「ん? あ、そうだ。最初は息子の隠し子って話だったんだ……ラスティンが言ってたな、グリュードラに隠し子なんて驚いたって」

「そのグリュードラ、愛妻家だったみたいだけど、妻だけに優しかったのかな?」

「異母弟アランロレンスにも情けをかけていたと?」

「可能性を言ってるんだよ」


「あの……グリュードラさまはコゲゼリテによくお()でになりました」

遠慮がちに言ったのはカッチーだ。

「コゲゼリテの温泉が好きだって聞いてます。以前はうちの近くに別宅をお持ちで、奥さまと村を散策されているのを見かけたことがあります」


 ムッとピエッチェがカッチーを見た。

「なんでラスティンがグリュードラと言った時、何も言わなかったんだ?」


「それは……」

「言えるわけないじゃん」

口籠るカッチーをクルテが庇う。

「あのタイミングでグリュードラなら知ってる、会ったことがあるって言ったら、隠し子は自分だって名乗り出たように思われるんじゃないかって心配になる。だいたい、カッチーの父親がアランロレンスだとしても、それをラスティンたちに知られるのはどうかと思う」

確かにそうだ。マデルも言っていたが自分勝手なコスメカッチ卿にカッチーを渡せるものか。


 クルテの言葉にカッチーが不安そうに言った。

「もしも……父ちゃんがアランロレンスって人だとしたら、俺、コスメカッチ卿のところに行かなきゃダメですか?」


「行かせないってクルテは言ったんだ。俺だって行かせない」

ピエッチェが即座に答える。

「アランロレンスならサンザメスク卿の縁者ってことになる。王都警備隊に配属されるとき、養子から猶子ってことにされたけど息子には違いない。おまえはサンザメスク卿の孫だ。しかも母親は前国王妹ってことになれば、向こうも諦める」

そう簡単に行けばいいけど、と思ったが、それは口にしない。


 どちらにしろ、今はカッチーの父親がアランロレンスかそうじゃないのかをはっきりさせたい。気になるのはグリュードラが頻繁にコゲゼリテに来ていたことだ。クルテはアランロレンスがグリュードラを頼ったと考えているようだし、そうだとしたらコゲゼリテに来ていたのには何か意図があったのかもしれない。スカーシレリとカッチーを見守っていた?

 

「グリュードラと会って話したことはあるのか?」

「面と向かってお顔を見たのは一度だけです。もうみんなババロフの宿に集まって暮らしてて、ババロフの宿に来たんです。ピエッチェさんも知ってますよね? 他の家は全部()き家ですから――ご病気で、コゲゼリテでご静養をとお考えだったようです。二年ほど前です。でも、コゲゼリテはあんなですから。諦めてすぐにお帰りになりました」


「どんな話をした?」

「……苦労があるだろうけど、頑張るようにって。いや、なにも俺にだけって言うんじゃなくって」

カッチーが暗い顔で俯いた。

「コゲゼリテからお戻りになって(ひと)つき経たないで亡くなったって聞いてます」

カッチーにとってグリュードラの死はショックだったようだ。


「そうか、グリュードラは優しい人だったか」

目を細めるピエッチェに、

「はい……俺たちみんな、一人一人に贈り物をくださいました」


「贈り物?」

ピエッチェの声が、咎めだてするような口調に変わった。


 カッチーが慌てて言い繕う。

「あ、いえ、物をくれたから優しいってわけじゃなくって、声とか、話しかたとか、眼差しとか……何しろ穏やかな人でした」


「そうか――で、何を貰ったんだ?」

「え、いえ、全員、違うものです。だけどきっと高価なものなんじゃないかと」

「ほかの人はどうでもいい。カッチーは何を貰ったんだ?」

それが知りたい。

「俺は……」

カッチーが恐々とピエッチェを見る。

「俺はペンダントって言うんですか? 細いチェーンで首から下げるアレです」


「そのペンダント、今はどこにある? 売り払ったか?」

「いいえ、そんなことしてません――グリュードラさまが、もうどうしてもだめ、生きていけないって時まで絶対手放さないようにって。サラスンは()さんの医者代にしちゃったらしいけど」


「それで? 売ってないならどこに? コゲゼリテの家に置きっぱなしか?」

「二か月分の給料になったってサラスン、凄く喜んでました――それを聞いて思い出したんで、家に仕舞ってたのを持ち出しました」

カッチーが、手元に置いていたカバンをちょっと持ち上げた。


 サラスンに聞いたってことはコゲゼリテ温泉で女神の娘像を封じた時か……それまで忘れてたってことは、大した品ではないのかもしれない。俺の思い違いだろうか?


 それにしてもカッチー、持ち出したのは俺やクルテが文無しになったら売るつもりだったからか? 


 とりあえず手元にあることに安心したピエッチェが、

「見せて貰うわけにはいかないかな?」

と口調を(やわ)らげて言えば、

「はい!」

カッチーがすぐさまカバンをゴソゴソ始める。


「なんだか綺麗なもので、女の子だったら喜ぶだろうになぁって不思議でした。友達にはナイフを貰ったのも居て、羨ましかったです」

カッチーが出してきたのは小さな木箱、鍵が掛けられている。

「鍵付きだなんて、かなり高価な物なんだろうってババロフが言ってました――あれ、鍵は……あ、あった、あった。これです」


 カッチーがテーブルに置いた鍵を見て、クルテがフフンと鼻を鳴らす。ジロリと見るのはピエッチェだ。おもむろに手を伸ばすと、まず鍵を手にしてジロジロと見た。カッチーが不思議そうに問う。

「鍵がどうかしましたか?」


 チラッとカッチーを見ただけで答えないピエッチェ、鍵を手にしたまま木箱を取った。木箱の金具は金細工、鍵は銀製のようだが持ち手部分は金細工に小さな()(ニキ)()が埋め込まれている。


「ふむ……この箱をくれたのはグリュードラで間違いない?」

木箱を開けることなくピエッチェが訊いた。


「はい、間違いないです。他にそんな箱、持ってないです」

「そうか……グリュードラは、他には何も言わなかった? くれた時の様子を詳しく話してくれ」

「うーーん」

考え込むカッチー、ピエッチェが箱を開けたのは木箱と小さな鍵をもう一度マジマジと見てからだ。


「他には何も言ってなかったと思います。これはキミのものだからね、いざと言うときのために大切にするんだよって……全員にいちいち言うもんだから、暫く子どもたちの間でそのセリフが流行りました」

「そうか」

箱の蓋を開けながらニヤリとするピエッチェだ。


 箱の中には、厚めだが柔らかな布に包まれたペンダント、黄金を土台に()(ニキ)()(ダイ)(ヤモ)(ンド)(ルビ)()(サファ)(イア)の欠片が散りばめられている。横から覗き込んでいたクルテがニマッと笑んだ。


「ピエッチェさん?」

カッチーが、表情を(こわ)()らせたピエッチェに不安を募らせる。やはり答えず、ペンダントを手に取るピエッチェ、しげしげとペンダントトップを眺め、チェーンを眺め、トップの裏側まで見ている。挙句、包んでいた布までじっくりと隅々まで見ている。


「クルテさん?」

ピエッチェに何を言っても無駄だと思ったのか、カッチーがクルテに(すが)る。

「大丈夫、なんにも心配ない……カッチー、このペンダントはスカーシレリのものだと思う。そうなんでしょ、カティ?」


 ペンダントを丁寧に箱に納めていたピエッチェにクルテが訊けば、ピエッチェがムッと答えた。

「間違いない。ザジリレン王家で娘が生まれると守りとして作るペンダントだ。クリオテナも似たようなものを持っている――木箱の蓋裏とペンダントの裏に小さくザジリレン王家の紋章もある」


 大切にしろ……木箱の上に鍵を乗せて、カッチーの前に押しやるピエッチェ、

「ペンダントにはグレナムの宝飾石と同じ種類を使うって決まりだ――売ろうと思わなくって良かったよ。これを買い取れる者は滅多にいない。目利きが見ればザジリレン王家の物だと判ってしまうし、そうなるとカッチー、今頃ここに居なかったな」

クスッと笑うと、カッチーもホッとする。けれどカッチーは箱を取ろうとしない。


「ピエッチェさん、そうなると俺の父親は? それが母のものだとして、信用のおける人としてグリュードラさまに預けたってことも考えられますよね?」

なるほど、それもありか。でもカッチー、その場合、スカーシレリはどうやってグリュードラと知り合ったんだ? 近所に住んでるってだけで、打ち明けられる秘密じゃない。


「いや、アランロレンスで間違いない」

きっぱりそう言ってから再度、ピエッチェは木箱に手を伸ばした。

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