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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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 考えたところで結論は出ないと話が行き詰ったところで、カッチーがバスから戻ってきた。

「なんの結論が出ないんですか?」

ホカホカと湯気が出そうな頬でニッコリ笑う。


「んー、いや、マデルがまだ通信中だから、それが終わってから話しましょう」

どうせマデルにも話すことになる。何度も話すのは面倒だし、同じ話を聞かされるピエッチェとクルテが気の毒です、とラクティメシッスが笑う。


「マデルさん、長話ですねぇ」

水を飲みながらカッチーが笑うと、

「長話で悪かったわね」

(ようや)くマデルが通信を終えた。


「こらこら。カッチーは、何も悪いとは言っていませんよ」

ラクティメシッスが二枚貝を受け取りながら微笑んだ。

「お父上はなんて? いったいどんなお願いをしてたんですか?」


「それがね、反対に調べてくれって話になっちゃったのよ……困ったわ」

マデルが力なく笑う。

「息子の隠し子を探しているって人がいたじゃない。わたし、ひょっとしたらカッチーなんじゃないかって……詳しい話を聞いて欲しいって父に頼んだの」

カッチーを見て『気を悪くしないでよ』と言えば、カッチーは『俺を心配してくれたんですね』とホロッとする。


「コメスカッチ卿の話ですね。わたしも小耳に挟んだことがあります。しかしグリュードラに隠し子ってのは意外過ぎて驚きました。愛妻家で、夫婦仲も良くて……グリュードラが病死した時には奥方も寝込んでしまったんでしたね」

「それがね、聞いてよ、ラスティン。隠し子ってのは、グリュードラの、じゃなくってコメスカッチ卿の、だったのよ」

「うん? コメスカッチ卿に隠し子?」

「メイドに手を付けて産ませたらしいわ。で、その子が十五の時、厄介払いを兼ねて、その……」

マデルがラクティメシッスから視線をピエッチェに移す。

「ザジリレンに送ったらしいの。で、父ったら『ザジリレンに居るのなら調べて、探して欲しい』ですって。それどころじゃないって言うのにねぇ……ピエッチェ、知らない?」


「うーーん」

唸るピエッチェ、

「隠し子ってことはコメスカッチ卿の名は出てきてないってことだよな」

確かコスメカッチ卿はローシェッタ国ココナンザップの警備を任されている上流貴族だったなと思い浮かべている。


「自分の家臣の息子ってことにしてたらしいわ。まぁ、メイドたって貴族の娘、その私生児ってことになるわね」

「そのメイドの家系は?」

「リューサンテルって下流貴族よ。でね、話しには続きがあるの。ザジリレンで騎士になった隠し子は、子が居なかった貴族の養子になったんですって」


 マデルは何を困っているのだろう?

「そこまで判ってるなら探す必要もないんじゃ? その貴族に当たればいい」


「それがその貴族、大物過ぎちゃって……養子に出したのを、今さら返せって簡単には言えないらしいの」

「大物貴族? 誰だろう?」

「それがね……」

マデルが口籠る。

「ほかにも()しなところがあってね。父も調べたらしいのよ。で、その大物貴族には息子が一人いることが判ったんだけど、年齢が合わないんだって」


「奇妙な話だな……年齢が違うって、どう違うんだ?」

「十六歳の差があるの。一人息子より養子のほうが上よ」

「十六違い? あれ?」

ピエッチェがハッとマデルを見る。


「なぁ、その隠し子の名は?」

「リューセンチラですって。でもね、養子になった時、改名してるらしいわ。なんて名にしたかは判らないらしいの。コメスカッチ卿、自分の息子なのに関心がなかったらしくって。酷い話よね」

「うーーん……大物貴族って言ったよな? それ、サンザメスク卿なんじゃ?」

「えっ!?」

マデルが息を飲む。

「どうして判ったの?」


 やっぱりそうか……ピエッチェがダーロミダレムの顔を思い浮かべる。

 

 子ができなかったサンザメスク卿、ところが貰った養子が十六の時にダーロミダレムを授かった――不思議なのは、いつの間にかサンザメスク卿の息子はダーロミダレム一人だけ、兄なんかいなかったことになっていたことだ。どうしてそうなったのか?


『兄さん、街の警備担当から魔物退治に回されることになった――魔物退治は警備隊の仕事だって判ってる。だけど心配で……』

深刻な顔でダーロミダレムが言ったことがある。子どもの頃の話だ。十六歳上の兄をダーロミダレムは慕っていた。確かあれは、ピエッチェが十一の時だ。そしてその数か月後、魔物に受けた傷がもとで兄は死んだと聞かされた。ダーロミダレムの泣き顔を見たのはその時が最初で最後だ。


 子どもだった当時は思いもしなかったが、世の中の不条理をいろいろ知った今、微かな疑問がピエッチェの脳裏をよぎる……まさか邪魔になった養子をサンザメスク卿が、巧く行けば自分の手を汚さずに始末できるかもしれないと考えて、最初は王宮騎士団だったのに王都警備隊に行かせたか?


 違う、サンザメスク卿はダーロミダレムを溺愛しているが、そんなことをする人物ではない。家督はダーロミダレムにと思うだろうが、養子とは言えいったん息子にしたのに粗末に扱うなんて考えられない。だとしたら、本人が警備隊に志願したのか? 自分の立場とサンザメスク卿の心境をおもんぱかり、そして……可愛い弟のために身を引いた?


 警備隊に配置換えになり地方に行けば、弟は自分に遠慮することなくサンザメスク卿を継承できるだろう。その結果、不運にも落命することになった。そう考えたほうがしっくりくる。


「サンザメスク卿の息子は確かに一人、実子だ。だけど、九年ほど前に亡くなった養子がいた」

「亡くなった?」

「うん、魔物討伐で負った怪我がもとで亡くなった。取り返そうったって……無理な話だ」

ピエッチェが途中でいったん言葉を切ったのは、カッチーの様子が気になったからだ。


 ふと目に入ったカッチーは蒼褪めて、何か考え込んでいる。それを見てピエッチェも思い当たる。


 ローシェッタからザジリレンに来て、九年ほど前に亡くなった騎士、そしてローシェッタでの名はリューセンチラ……リュース?


 身分をどうするか相談した時、カッチーはこう言っていた。

『母は父をリュースさまと呼んでいました』

生まれた時に付けられた名がリューセンチラならば、カッチーの母親が『リュースさま』と呼んでいても()しくない。カッチーの父親はコスメカッチ卿がメイドに産ませ、サンザメスク卿が養子にした男か? だけど……ダーロミレダムの兄は妻帯していなかった。カッチーの父親には正式な妻がいる。ならば全て偶然か?


 しかし、こんな偶然があるか? ローシェッタ出身でザジリレンの騎士、リュースと呼ばれる可能性が高く、九年ほど前に落命している。


「そっか、ってことはサンザメスク卿の息子さんは別人ってことね。納得だわ――ねぇ、ピエッチェ。その亡くなったかたに奥さんは? お子さんが居るなら引き取りたいんじゃないかな?」

引き取りたがるのはコメスカッチ卿か。


「ん? いや、いなかったはずだよ。子どもどころか、妻帯していなかった」

マデルに答えるピエッチェの目の端に、カッチーがホッと息を吐くのが映った。カッチーも、養子に出された男が自分の父親なのではと考えていたのは明らかだ。


 そして別人だと、自分の父親ではないと思ったのだろう――本当にそう決めつけていいのか? あまりにも偶然が過ぎる。もっと材料を集めよう。結論を出すのはそれからでも遅くないぞ、カッチー。


「そっかぁ……ま、勝手な話だものね。父も親戚から養子を貰えば済む話なのにって怒ってたわ。でも、ピエッチェが知ってて良かった。どうやって調べようって思ってかたから」

ラクティメシッスが気を利かせて淹れたお茶を、マデルが嬉しそうに受け取る。

「ありがと、咽喉が渇いてカラカラよ」


「カッチーにもお茶を淹れましょうか?」

「いえ、俺、水を飲みましたから」

「そっか、バスを使ってたんだったね――お茶をいただいたら、わたしも入ってこようかな?」


 するとクルテが立ち上がった。

「カッチーとマデルはラスティンから話を聞いて――わたしとカティはもう寝る」

寝るのかよ? バスには入らないのか? いや、一緒にって意味じゃなく。


 引っ張られるように寝室に行くとクルテはベッドの一つに腰かけた。

「ベッドは五台、一人に一台。でもわたしはカティと一緒がいい」

みんな同室なのに? まぁ、今さらか。


「で、話がある。入浴はそのあと」

「話ってなんだ?」

「決まってる、カッチーの父親の話」

ふぅん、おまえもサンザメスク卿が養子にした男がカッチーの父親だと思ったか?


「サンザメスク卿の実子って、牢に入れられてるダーロミダレムだよね?」

「そうだけど、それがどうかしたか?」

よく覚えていられたな。


「カティ、ダーロミダレムとは仲良しだったんでしょう? お兄さんに会ったことないの?」

「ないよ。ダーロンは俺の遊び相手ってことで、子どものころから王宮に出入りしてた。で、俺が生まれたころにはアランロレンスは王都警備隊だった。王家警護隊なら顔くらい知ってるけど、王都警備隊ってなると立太子する前は殆ど関りがなかった」

「王都警備隊……王家警護隊とは別」

はい、正解です。


「それでアランロレンスって?」

「リューセンチラのザジリレンでの名だ。改名したって、さっきマデルが言ってたよな?」

「あぁ……で、なんでサンザメスク卿の、養子とは言え息子が魔物退治? 上流貴族が地方ってヘン」

「うん、もともと王宮騎士団だったんだけど王都警備隊に配置換えになったんだ」


「カッティンクリュードって、魔物なんか出た?」

「王都警備隊ってのは地方に派遣もされるんだよ。地方の警備隊も、例えばワッテンハイゼなら正式名称は『王都警備隊ワッテンハイゼ分隊』ってなる」

「ワッテンハイゼはトロンペセスが居たところ。王都じゃないのに王都?」

「王都で管理してるんだよ。王宮にしなかったのは、王家と混同されるから。国営って意味で『王都』って言葉を使ってると思えばいい」

「思えない」

ああ、そーかい! 我が国の事情だ、おまえに文句は言わせない!


 ムッとしたピエッチェだが、クルテはまったく気にしてない。

「で、なんだっけ? アランロレンスが亡くなったのは九年前。カッチーのお父さんが亡くなったのはいつだった?」

「ん……カッチーが七つの時」

「何年前?」

「十年近く前」

クルテがジロリとピエッチェを見た。


「誤差の範囲内?」

誤差ねぇ……父親が亡くなったのは七歳ってだけで七歳になってすぐなら十年だろうし、八歳になる寸前なら九年過ぎたところとなる。だから、まぁ、

「そうだな、誤差の範囲内だ」

と答えるしかない。

「だけどな、クルテ。アランロレンスに妻はいなかったんだ」

だから違う……本当に?


「そう思っているだけかも?」

クルテがボソッと呟いた。って、いったい誰が?

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