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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
21章 語られる愛

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 寝たふりをしていたのか、ラクティメシッスの話で一気に目が覚めたのかはよく判らない。シャキッと座り直したかと思うとサックをガサゴソし始めて、クルテが出したのは小さな巾着袋だった。

「あれは何?」

話の腰を折られたラクティメシッスが、ピエッチェにこっそり訊いた。

「ミテスク村の夜香花のポプリ……じゃないかな?」

ピエッチェも小声で答える。芳香が漂っていた。


 巾着袋の口を開けると芳香はさらに強まった。中を覗き込んだクルテ、ニマッとすると巾着の口を閉めてから顔を上げる。

「それって、本当にノホメ?」

ラクティメシッスを見て訊いた。逆にラクティメシッスがクルテに訊ねる。

「疑うってことは、そのポプリでノホメの生死が判るのですか?」

ノホメの名が出た途端、出してきたのだ、そう感じるのも当然だ。

「そんなポプリがあるんだ? ノホメでポプリを思い出しただけ」

怪しさ満載だが追及したくても材料がない。


 ラクティメシッスはもの言いたげだが、

「家族を呼び出して、確認させるよう手続きを取ったそうです。グリュンパから馬車で迎えに行ったと言う事ですから、明日の深夜にはハッキリすることでしょう」

顔を曇らせそう答えた。


「家族を呼び出した?」

訝るピエッチェ、頷くラクティメシッス、

「えぇ……ノホメは自ら命を絶ちました」

クルテが溜息を吐く。

「話はもう聞けないね」


「訊きたいことがあったのですか?」

「当り前じゃん。ジランチェニシスを手に掛けた理由。それとも判ってるの?」

「尋問する暇なんかなかったようです。ですが遺体を調べたところ、遺書らしきものが見つかったとか――報告の詳細をお話ししましょう」


 クラデミステ卿の別宅に軟禁したが、監視役のほかにも世話係が必要だ。そこで信用のおけるメイドを本宅から通わせることにした。朝食を本宅から運んで別宅に赴き、夕食を本館に取りに行く以外は別宅の控室にいることにした。その間、ジランチェニシスの要望に随時応じる。夕食が終われば食器を本館に下げて、その日の仕事は終わりだ。


 ローシェッタでは指折りの大貴族クラデミステ卿宅で雇用されているのだ。メイド教育は行き届いている。加えて容姿・教養など、全てにおいて申し分がない。そして皆、それなりの貴族の出だ。そんなメイドたちにジランチェニシスはことごとくクレームをつけた。声が汚い、歩き方が悪い、体臭がきつい……言い掛かりに過ぎない。メイドたちもそんなことは判っている。聞き流していた。それでも、ネチネチと毎日何度も言われ続ければ嫌気もさす。とうとうメイドは体調を崩してしまった。そこで、当初は専任にしていたが交代制に変えた。


 交代制にしたのはジランチェニシスの気に障ったようだ。自分専用のメイドがいないとはけしからん。専用メイドを取り上げるのか?――ますますメイド虐めが激化して、ベテランのメイド長でさえも別宅に行くのを嫌がった。当番の日には急に休む者も出てくる始末だ。


『どうしても別宅に行けと言うのなら、わたしどもは辞めさせていただきます』

全員を引き連れたメイド長に言われたクラデミステ卿が、困り果てたのは言うまでもない。新たに雇い入れるからとメイドたちを説き伏せて、なんとかその場をしのぐほかなかった。


 求人すれば応募者は殺到する。だが、雇い入れても一日で根を上げる。身元の確かな者はついに尽き、この際、身分は問わないことにした。そして何人目かに採用されたのがノホメ、もちろん()めいでの応募だった。だから気付けずにいた。


 ジランチェニシスを預けるにあたり、ノホメを調査させていたラクティメシッスがクラデミステ卿に情報提供しないはずもない。ノホメと名乗っていれば雇用しないだけでなく、拘束していたと思われる。


 年の割にはシャキシャキとした受け答え、身のこなしも庶民(くさ)さもなく申し分ない。年齢が行っている分、ジランチェニシスの厭味にも耐えるのではないか? なにしろ世話係は必要だ――ノホメの前に採用された者たちもそうだが、身元調査は後回しにされていた。


「ジランチェニシスとの初顔合わせにはクラデミステ卿も立ち会ったそうです」

魔法使いの総帥クラデミステ卿でさえ気付けなかったノホメの魂胆に、誰が気付けただろうか? ジランチェニシス殺害はその日のうちに起きた。


「本館に夕食を取りに行く時刻となり、護衛がノホメに声を掛けようとメイドの控室に行ったが居ない。何か言いつかったのではないかとジランチェニシスの居室に向かったところ、すでに二人は果てていたそうです」

「うん? 二人の死に際を見た者はいない?」

「はい。ですが、ノホメの懐中に手紙が遺されていて、本当の名はノホメだと言うこと、憎いジランチェニシスを殺して自分もあとを追うことが書かれていたのだとか」

ふむ、と腕を組んでピエッチェが考え込む。


「筆跡は間違いなくノホメのものだった?」

黙り込んでしまったピエッチェに変わってクルテが訊いた。


「そのあたりは間違いないようです。魔法の痕跡もなかったと聞いています」

スラスラと答えるラクティメシッスに、クルテがニヤリと笑う。


「クラデミステ卿もしくはローシェッタ王家が仕組んだのなら、魔法の痕跡があっても『ない』って言う」

「お嬢さん!? 何を言い出すんです?」


 ジランチェニシスの祖父はローシェッタ前王弟、そして母親がザジリレン国前々王妹……そんな血筋が調査で間違いないと判明すれば、ローシェッタ王家がジランチェニシスを邪魔者と()す可能性も無きにしも(あら)ずだ。クルテが指摘したのはそこだ。


 クルテを睨みつけるラクティメシッス、ピエッチェが組んでいた腕を解いて、

「少なくともラスティンは無関係だな」

呟くように言った。

「ピエッチェ、あなたまで?」

情けなさを滲ませて嘆くラクティメシッスをピエッチェが(なだ)める。


「王家が何かしたって考えるのは無理がある。ローシェッタ王家を動かすのは国王と王太子の二人だけ、王女フレヴァンスは政治向きに関心がない。そしてラスティンが俺に黙ってこんなことをするとは思えないし、国王は病床で意識がない。二人が関与していないのは明らかだ。そして王家に忠誠を誓うクラデミステ卿が国王や王太子に相談なしに勝手をするとは思えない」


「そうです、その通りです!」

「けどな、ラスティン。王家におもねりたい誰かが何かした可能性までは否定できないだろ? そうじゃなきゃ、ジランチェニシスを使って悪事を企んでいた誰か、ってことだ」

「そりゃあそうかも知れませんが……ジランチェニシスが軟禁されているのを知っていたのはわたしたちとクラデミステ卿夫妻に()()(デミ)()(テ卿)()()、そして屋敷の使用人だけです。使用人たちは身元の確かなものばかりです。秘密を漏らすとは思えません。そうだ、監視に付けたわたしの部下もいますが疑いますか?」

王家におもねりたい誰かや悪事を企む誰かに、ジランチェニシスの居所が知られるはずがないと言っている。


 こっそり苦笑したピエッチェが

「秘密の漏洩か……」

と続けた。

「ジランチェニシスが居ると知っていてノホメが来たと考えているようだが、そうとは限らないぞ」


「だって、ピエッチェ。知らないのにどうやって殺しに来るんです?」

「ギュリュー清風の丘から姿を消したジランチェニシスをノホメが探していたとしたら? 訊いて回れば、俺たちと一緒に馬車でギュリューを離れたって情報に当たるかもしれない」


「あ……アル!?」

叫んだのはクルテだ。

「あの噂好きのお喋りが、ペラペラ喋った?」


「アルって?」

「ギュリューにある宿の(ある)だよ」

ピエッチェがラクティメシッスに説明する――ノホメがギュリューでアルの宿に泊まっていても()しな話じゃない。清風の丘の屋敷から地下水脈を通って辿り着く屋敷から、アルの宿は目と鼻の先だ。ノホメは地下水脈を知っていただろうし、もし知っていなくても清風の丘の屋敷を調べれば判る。


「しかし、清風の丘まで馬車で迎えに行ったのでしょう? 乗り込むところは見ていないはずです」

とラクティメシッス、ピエッチェが『うーーん』と唸る。

「それがさ、ジランチェニシスとララティスチャングに行く相談をしたのが、アルの宿と通りを隔てたレストランなんだ。ほら、ラスティンがマデルを口説いたあのレストランだ」

これには僅かに頬を染めたラスティメシッス、ピエッチェがいちいちあげつらうこともない。

「で、そのレストランの(ある)とアルは懇意にしてる」


 閉鎖的なギュリューの街で他から来たアルと()(スト)(ラン)(の主)()……二人は肩身の狭い思いを共有していた。一時はジョインズから離れたアルも、問題が解決してからはジョインズとの親交を修復しただろう。ジョインズにしても、アルの事情も判っているし、なにせ他に親しい友人もいない。


 ジョインズの店を窮地から救ったのは実質的にはピエッチェだ。そしてピエッチェは、二人にとって大事な客だ。何かのはずみでピエッチェの話になれば、ジョインズが『実は……』とピエッチェがこんな話をしていたよと、アルに話してしまうかもしれない。俺の話はするな、などと口止めした覚えもない。


 そして客との噂話を張りあいにしているようなアルが、ジョインズに聞いた話を客にしないはずがない。ピエッチェに迷惑が掛かるなんて、これっぽっちも思わないだろう。


「なるほど、噂を聞いたノホメがララティスチャングに来た、までは判ります。だけどクラデミステ卿のメイドに応募した理由の説明になっていません」

「そこはノホメの勘って言うか……考えてもみなよ。クラデミステ卿のお屋敷のメイドだよ? それが身分を問わずで募集されるなんてよっぽどのことだ。何かあると、思うヤツだって大勢いる。ジランチェニシスを探して居たノホメだって『ひょっとしたら』って考えたかもしれない」

これにはラクティメシッスも反論できずに黙り込む。


 自分で言っておきながら、話しを翻したのはピエッチェだ。

「だけど、これはジランチェニシスと無理心中したのが本当にノホメだって仮定してでの話だ」

「ノホメではないと考えているんですか?」

「あぁ、いくらジランチェニシスがぼんくらでも、ノホメみたいな老女に易々と殺されやしないんじゃないか?」

「ノホメは魔法使いだったのでは?」


「ノホメはザジリレン出身だって判ってる。だから魔法に堪能だと考えるのはやめたほうがいい。ジランチェニシス殺害はノホメを名乗る別人の線も消せない……もちろん遺書は保管してあるんだよな?」

「それこそ当たり前です。証拠の品を紛失するはずがありません」

「実物を確認したいところだけど、今は無理だな」

「確認ってピエッチェが? あ、お嬢さんか」

ピエッチェには魔力がないと、ラクティメシッスは信じている。

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