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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
20章 試練の理由

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13

 クスンとメッチェンゼが泣きまねをする。

「小娘ったら、なんか怖いわ……カテロヘブちゃん、助けて」

甘え声を出したって知るもんか! ピエッチェがソッポを向く。


 いつもニマニマしているクルテが、大真面目な顔でメッチェンゼを見て言った。

「ふむ、やはり見間違いでも、どこかに隠しているわけでもないらしい……メッチェンゼ、おまえ、魔法を幾つかワイズリッヒェに()られたな?」


 ヒッと小さな悲鳴はメッチェンゼ、蒼褪めたところを見ると、まずいことをクルテに見破られたらしい。それにしても魔法って、盗ったり盗られたりできるものなのか?

「それに魔法だけじゃない、魔力も盗られてる。基礎魔力に()きが見えるけど、これは……うん。魔力使用や魔力の譲渡によるものじゃない。このままでは回復することのない()きだ」


 むっとメッチェンゼが唇を尖らせた。

「さすがに判っちゃうよねー」

くねくねと拗ねるような仕草、

「わたし、騙されちゃったの。自分から引き受けたのに、監視役は荷が重すぎたみたい……謝るから怒んないで」

腰を(かが)めて頭の位置を下げると、上目遣いにクルテを見た。


 クルテは本気で怒っているようだ。(はす)に構えて腕を組み、メッチェンゼを睨みつけている。いつものクルテとまるきり雰囲気が違う。メッチェンゼが『怖い』と言ったが、うん、確かに怖い顔だ。どこか抜けたような表情がすっかり影を潜め、気迫が滲み出ている。こんな表情のクルテは初めて見る。それなのに、これが本来のクルテなんだと思った。そして……いつにも増して美しい。


 はぁと溜息を吐いて組んでいた腕を解いたクルテが、メッチェンゼから目を逸らして言った。

「それで? ワイズリッヒェはどんな方法でおまえの魔力をどれほど奪った? それに奪われた魔法はなんだ?」

メッチェンゼが少しホッとした顔になる。


「取り返してくれるのね?」

「だから! さっさと答えろ!」

縋るメッチェンゼに、クルテはイラついている――


 メッチェンゼの話が終わると、クルテがサックから紙袋を出してメッチェンゼに渡した。メッチェンゼは首を傾げたが、クルテが『ブルーベリー』と呟けば合点がいったようだ。紙袋がなにかで満たされる。まぁ、ブルーベリーの実だろうな。受け取った紙袋を覗き込んでクルテが嬉しそうにニマッと笑み、袋の口を閉じた。


 クルテが袋の口を開けたのは玄関の()、立ち止まって袋の中に手を突っ込んだ。

「ここで食うのか?」

「あぁ、おまえも食え」

(ひと)つかみのブルーベリーを差し出してくる。


 掌に乗せた実を摘まみながらピエッチェが問う。

「これからどうする?」

「訊かなきゃ判らない?」

「うーーん……」


 判らなくはない。ワイズリッヒェに魔法封じを仕掛ける、それで解決する。メッチェンゼがあの場所に封じられた経緯を思い出す。


 寝室地下に結界を張ってくれたメッチェンゼに喜んだワイズリッヒェ、素晴らしい魔法だと誉めそやした。特に魔法封じ、外部から完全に遮断されるなんて感動するわと言ったらしい。


『魔法封じをかけたら、術者以外には存在が判らないのでは?』

クルテの疑問に、

『あら、カテロヘブちゃんから聞いてないの?』

優越感を滲ませてメッチェンゼが言った。

『施術する様子を見た者には、いくら魔法封じを使っても検知できるのよ』

ワイズリッヒェの目の前で結界を張り、魔法封じを使ったってことだ。


『わたしのこと、尊敬するって言ったのに……ワイズリッヒェったら「魔法封じは素晴らしいけど、屋敷の中に森を出現させるなんて無理よね」なんて失礼なこと言ったのよ』

余程悔しかったのだろう、そう言いながらメッチェンゼが頬を膨らませる。ふむ、この女神を騙すのは物凄く簡単そうだ。


 そんなこと簡単よ……メッチェンゼはワイズリッヒェの企みに気付くことなく屋敷の居間に森を出現させた。

『これってメッチェンゼの森?』

問うワイズリッヒェ、

『もちろんでしょ。わたしが出せるのは自分の森だけに決まってる』

メッチェンゼは自慢たらたら胸を張る。


『本当にメッチェンゼの森?』

『だから! わたしの森の一部をここに持ってきたの!』

『ってことは、繋がってる?』

『えぇ、森の外れまで』

『凄い! やっぱりメッチェンゼ、大したものだわ。さすがよね』


 またも褒められてますます気を良くしたメッチェンゼ、やめときゃいいのにワイズリッヒェにこう訊いた。

『他に何かして欲しいことはない?』

するとワイズリッヒェが急に悲しげな顔で答えた。

『そりゃああるけど……無理よ。いけないことだわ』

メッチェンゼが見せてくれた魔法を使ってみたい……


 お気楽精霊メッチェンゼも、これには躊躇した。けれど、領域魔法を手放さなければよかったと涙ぐむワイスリッヒェに同情してしまう。褒めて貰って気が大きくなっていたのも過分にあるだろう。


『使いたいのは領域魔法だけ? 一度だけ結界を張れるようにしてあげようか?』

『領域魔法だけじゃないわ。魔法封じも使ってみたい』

『あれはダメよ。あなたの魔力じゃ無理だし、そもそも魔法封じは特殊魔法、決められた施術者しか使えないのよ』

『魔力をたっぷり持ってるって、さぞかし気分がいいんでしょうね』

羨ましげに見るワイズリッヒェに、ますます優越感を(くすぐ)られるメッチェンゼ、

『いいわ、一時的にわたしの魔力をあなたに分けてあげる。でもすぐに返してね』

とうとう自分の魔力を削ってワイズリッヒェに渡し、一度きりの結界魔法を許してしまった。


 魔力が増幅されたワイズリッヒェはすぐさまメッチェンゼを結界に閉じ込めた。閉じ込めたものを外に出さない結界だ。力が弱まっていたメッチェンゼはワイズリッヒェに対抗できない。ワイズリッヒェがメッチェンゼに魔力を返すはずもない。まんまとワイズリッヒェの罠にかかってしまったのだ。


 だが、ワイズリッヒェにも誤算があった。森の外れまで繋がっていると聞いて、てっきり空間の外に出られると思いこんでしまった。

『森の外れには行けるわよ。でも、そこまで。先には行けない。アイツ、悔しがって大泣きしてた』

外部不干渉にされていない結界の中でメッチェンゼは、ワイズリッヒェの気配を追っていたらしい。


『アイツも間抜けよね。わたしがアイツを外に出すわけない。そんなことにも気付けないなんてね』

メッチェンゼはワイズリッヒェを笑ったが、おまえがそれを言うかと思うピエッチェだった――


 メッチェンゼが嘘を吐くはずがない。全面的に信用できる話と考えれば、ワイズリッヒェが不当に手に入れた魔力を取り上げるだけで事は足りる。それには魔法封じを使えばいい。まぁ、この空間に閉じ込められた時から、魔法封じを使う機会を探していた。けれどラクティメシッスとマデルの前で、魔法封じは使えない。それが問題だった。


 そして問題はもう一つ、どうやってワイズリッヒェをおびき出すかだ。


 ワイズリッヒェはおそらく寝室の地下、メッチェンゼが作った結界の中に居る。

『安眠したいって言うから、結界外部からは干渉されないように作ったわよ』

メッチェンゼはそう言った。ピエッチェとクルテがメッチェンゼと接触し、事の顛末を聞いたことに、ワイスリッヒェは気づいていないはずだ。同時に、いくら呼んだところで呼ばれている事にも気づかない。


「出てくるのを()てもなく待つのは気が重いな。俺たちが死んだって出てこない可能性もある――精霊は食事とか、不要なんだろ?」

「うん、肉体があるわけじゃないから」

ブルーベリーを口に放り込みながらケロッと言うクルテ、

「おまえは良く食うな」

呆れるピエッチェ、

「肉体を維持するには食事と睡眠が必要だってのを実感してる」

クルテがニマッと笑う。いつものクルテに戻っている。うん、俺を癒してくれるのはこのクルテだ。さっきのクルテもいいけれど、俺の前ではこのままがいい。


 そして問題はあと一つ。メッチェンゼが施術した魔法封じに、俺の魔法封じが太刀打ちできるか? メッチェンゼはあれでも森の女神、俺の魔法封じが果たして通用するだろうか?


 それにしてもクルテの謎は深まるばかりだ。ワイズリッヒェが『姫』と呼び、メッチェンゼはクルテを恐れた。そしてクルテは二体の女神に、いや、今まで遭遇したどの女神が相手でも、上からものを言っていた気がする。少なくとも(へりくだ)ったことはない。それにどの女神もクルテを知っていた。


 それは俺も同じか。俺をカテルクルストの末裔だと認知していた。だけどそれは血の匂いがするから? クルテの身体は作り物、血の匂いは関係なさそうだ。もっとも、クルテは七百年前から存在している。他の女神はそれよりもっと前からの存在、クルテを知っていたって()しくない。()しくはないが、クルテの偉そうな態度はやっぱり()しい。


「地下結界からワイズリッヒェを出す方法ねぇ……」

クルテが例によってブルーベリーの粒を数えながら言った。紙袋の中身はとっくに諦めて、自分の掌に乗せたブルーベリーの数だ。さっきは八個だった。今度は……十個か。


「十二個欲しかったのに、二個足りない」

クルテが袋の中を覗いて手を突っ込む。

「一つ、二つ……これで十二個。適当に掴んでいたら、十二個掴めるのはいつになることか――いつになるか、判らないなら行けばいいよ」


「へっ?」

「待ってないでこっちから行こう」

「だってクルテ。寝室の地下って言ったって広い。寝室の床、全面を掘り返す気か?」

「掘り返せば?――ドアのところに立って、床板に『消えろ』って命じればいい」

「それでも魔法封じを使ってるんだ。どこに結界が張られてるかは判らないぞ」

「だけど、床板の下に結界はある」

「おまえ……部屋全体、いや、この場合は床板を剥がした全面に、魔法封じを使えって?」

「あぁ、メッチェンゼの魔法封じとカティの魔法封じ、どちらが優位なのかもこれで判る。一石二鳥だ」

「うむ……」


 クルテの言うとおり、迷ってばかりじゃ(らち)が明かない。でも、ラクティメシッスとマデルをどうする?


「ラクティメシッスたち三人は、なんとか理由をつけて昼のメッチェンゼに行かせよう」

クルテがピエッチェを見上げる。そうか、カッチーに秘密の魔法を見せるのは時期尚早だとおまえは考えているんだな?


「カッチーに、カティも魔法が使えるってことを教えたい?」

ピエッチェの表情を読んでクルテが言った。

「お母さんが『失われた王女』だってことも言う?」


「クルテは、まず母親のことを明かしてからのほうがいいって考えてるのか?」

「カティはなんで魔法封じをカッチーに見せたい?」


 カッチーの魔力はどんどん強まっている。カッチーの感情が高ぶれば、不用意に魔力を暴走させかねない。そうなる前に魔力の制御法を教えたい。


 教えられるのは俺だけだ。

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