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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
20章 試練の理由

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 ヨシヨシとクルテの髪を撫でるピエッチェ、

「昼のメッチェンゼに行きたいのか?」

クルテを覗き込む。ピエッチェは優しいなぁとラクティメシッスは羨ましそうだ。

「甘やかしすぎなのよっ!」

マデルは気に入らないようで、プンプンしている。


 チラリとマデルを見てからクルテが言った。

「マデル、怒ってる……だから置いてく」

「カッチーと三人で行くのか?」

「カッチーは二人の護衛に残るって」


 余計に機嫌が悪くなるマデル、

「ふん! 二人で楽しんでくればいいわ!」

いったい何を楽しんで来いって言うんだ? 昼のメッチェンゼって楽しいところだったか?


 困惑するのはカッチー、

「待ってください、クルテさん。俺が二人の護衛って……」

まぁ、そりゃそうだろう。カッチーには悪いが、魔法が使えなくたってラクティメシッスはカッチーよりずっと戦力になる。むしろカッチーがラクティメシッスに守られる立場だ……と思って考え直す。カッチーは森の女神の祝福を受けている。ワイズリッヒェは手を出せない。って、これも違う。ではなんだ?


 ラクティメシッスは

「頼りにしてますよ、カッチー」

と微笑むが、カッチーにしてみれば居た堪れないんじゃないか?

「それでお嬢さん、昼のメッチェンゼに何をしに行くんですか?」

視線をクルテに移す。


 ラクティメシッスをチラリと見ただけで、クルテはやっぱりピエッチェを見上げている。

「昼のメッチェンゼにサルナシ探しに行く。アケビや山ブドウも見つかるかも」

ふぅん、空腹ってことか?……これも違うな。そんな気がする。


 自分に結び付けたリボンを解くクルテを見て、ピエッチェもリボンを解く。リボンをつけたままじゃ、他の三人を引っ張ることになる。

「行くよ」

クルテがドアを開ければ、その向こうには廊下が見えた。振り返るとラクティメシッスが微笑み、カッチーが不安そうにこちらを見ていた。マデルは拗ねたままだが、盗み見ている。クルテはさっさと部屋を出て行った。


 続いて廊下に出たピエッチェが

「後は頼んだよ……カッチー」

重いドアをゆっくり閉めた――


 ほかにはドアも曲がり角もないただ真っ直ぐな廊下だ。これで玄関の()に辿り着けなかったらワイズリッヒェに惑わされてることになる。その場合はどうしたらいいだろう? なんてことを考えているうち、玄関の()に出た。


「ヤツはこの屋敷を思いのままにはできないのか?」

できれば間取りも変えられる。


 ピエッチェの問いにクルテが立ち止まる。

「屋敷を作ったのはワイズリッヒェじゃない。アイツをここに閉じ込めた精霊……森の女神たちだ」

「だけど、移動させているのはワイズリッヒェなんだろう?」

「本来、そんなことできないはずなんだけど……アイツがメッチェンゼをこの屋敷のどこかに閉じ込めたことで可能になったんだと思う」

「で、メッチェンゼを探しに?」

ピエッチェがニヤリとすれば、

「久々に察しがいいな」

クルテがニマッと笑う……なんだよ、久々かよ? ピエッチェがこっそり笑う。


「やっぱり『昼のメッチェンゼ』なのかな?」

「この屋敷、昼のメッチェンゼと寝室しかない。寝室に居なかったんだから昼のメッチェンゼと考えるのが順当」

「本当に、他に部屋はない?」

「女神たちが作ったのはそんな屋敷だ。だから、他にはない――ただ、寝室はともかく、昼のメッチェンゼは様変わりしてる」


「なぁ……」

なんでワイズリッヒェはおまえを『姫』と呼ぶんだ? そう訊こうと思ったが、なぜか怖さを感じてやめた。

「女神たちがワイズリッヒェを閉じ込めるのに、おまえも手を貸したのか?」


 クルテがフフンと笑う。

「わたしが? 手を貸したりなんかしない。だが、一部始終を見ていた――それにしても……」

玄関の()を見渡して

「ここにも居ない。やっぱり昼のメッチェンゼ?」

左の廊下に向かった。


 クルテを追いながらピエッチェが問う。

「おまえ、魔法が使えるのか?」

足を止めることなくクルテが答える。

「カティだって使える」


 あぁ、確かに……だけど、何かしらの制限が掛かっている。その制限の答えはクルテがくれた。ピエッチェの予測通りだ。

「ワイズリッヒェが妨げられるのは〝人間〟の魔法だけだ。カティの魔法は人間の魔法だけじゃない。女神の魔法は妨げられていない」


 カテルクルストから延々と受け継がれるザジリレン王家の『魔法封じ』と『魔物封じ』を秘密にしなくてはならない理由の一つに、その二つの魔法が女神の魔法だからだと言うのもある。魔法の存在を感知できなければ『魔法封じ』は使えない。昼のメッチェンゼで食事した時にワイズリッヒェが使った魔法、薪やテーブル・食材などを出した魔法はしっかりと感じ取っていた。きっとラクティメシッスとマデルは感知できず、魔法が使えない人々の気分を味わっていただろう。


「なんでカテ()ルク()()スト()は女神の魔法が使えるんだ?」

「それをわたしに訊く?」

訊いちゃいけないのか? いや……クルテは『教えられない』と言ったんだ。俺が思い出さなきゃいけないことの一つなのかもしれない。


 やがて廊下の果ての曲がり角、昼のメッチェンゼの入り口に着く。先ほどと、何ら変わりない景色が見えた。(ため)いなくクルテが入り、ピエッチェも続く。今度は廊下への出入り口は消えなかった。

「ワイズリッヒェはここにもいないようだな」

クルテの呟き、

「居たら出入口が消える?」

ピエッチェの問いにクルテがうっすら笑んだ。


「それもあるが、気配を感じない――メッチェンゼを探すには好都合。だけど、そうなるとワイズリッヒェのヤツ、どこに隠れたんだろう?」

「屋敷の外ではなく?」

「アイツは玄関のテラスより先には行けない……屋敷に掛けられた制約で、テラスに居れば扉を閉じることができない。玄関扉は開いていなかった」

つまりワイズリッヒェは屋敷内にいる。


「しかし、寝室と玄関の()、そしてここ『昼のメッチェンゼ』しか屋敷にはなかったようだが? 階段もなかったから、二階はなさそうだし」

「階段がないから二階はないってのは短絡的だが、屋敷に二階は作っていない。この屋敷はワイズリッヒェを閉じ込めるためだけにある。二階なんか不要だし、作れば面倒なだけ」

言いながらクルテはどんどん奥に進み、木立の中に入っていく。


 アッとピエッチェが思い出す。結んでいたリボンは解いてしまった。

「おい、待て。離れたらまずいんじゃ?」


「ワイズリッヒェはあれでも森の女神。カティには手を出せない」

「俺が、幾つもの森の女神の祝福を得ているからか?」

「それもある」

「ほかにも何が?」

「それだけならラクティメシッスにも手が出せないことになる。なんでわたしがカッチーを置いてきたか考えろ」

ふむ、やっぱりカテルクルストの血か。


「しかしクルテ、ワイズリッヒェはローシェッタだ。だったら、ローシェッタ王家のラクティメシッスにも手出しできないんじゃないのか?」

フンとクルテが鼻で笑う。

「ワイズリッヒェはローシェッタにあった自分の森を捨てた。その時点でアイツはどこの国も精霊でもなくなった」


「なるほど、ローシェッタ王家への義理立てはないと? ではなぜザジリレン王家に義理だてる?」

「ザジリレンじゃない」

そうか、カテルクルストに関係するのか……そう言えば、ローシェッタでも女神たちはやたらとカテルクルストに拘っていた。わざわざ俺の顔を見にきたと言った女神もいる。それに、無条件とは言えないまでも、俺に祝福を施してもくれた。


「なぁ。女神たちにとってカテルクルストって、どんな存在なんだ?」

この質問には足を止めたクルテ、ピエッチェを見上げるが、いつもの甘えるような(まな)()しではなく嫌そうな、怒りさえ感じる冷たい目だ。


「子ども返りか? (おさな)でもあるまいに、質問責めはよせ」

おい、そこまで言うか!? はいはい、判ったよ。訊いちゃいけないことだったんだな。


 木立の中を進みながら、クルテは時おり上を見ている。梢にでもメッチェンゼはいるのだろうか? クルテの視線を追うピエッチェに、気付いたクルテがボソッと言った。

「ここには天井がない。上を見ても空しかない」


「空? 梢を見ているのかと思った」

「……天井がないってことは天井裏もない。まぁ、いい。先にメッチェンゼを見付ける。どこに居るかは判ったか?」

「あぁ、この先、三本目の木の(うろ)。食事の時から判ってたんだろ?」

「ワイズリッヒェがいたからな、気付かないふりをしていた」


「ワイズリッヒェって、どの程度の女神なんだ? メッチェンゼは自分の意思で木の洞に隠れている。ワイズリッヒェに閉じ込められてるわけじゃないよな?」

「また質問……知らないなら教えてやろう」

ニヤリと笑うクルテ、これは訊いても良かったようだ。だけど……なんだよ、その偉そうな態度は? ピエッチェがムッとする。それでも教えて貰う手前、黙っていた。


 なぜか溜息を吐いてクルテが立ち止まる。

「精霊が……森の女神が自分の力を最大限に生かせるのは自分の森だ。女神が居なくなった森が枯れてしまうのと同様、女神だって森を離れれば存在が危うくなる」

傍らの木の肌に触れながらクルテが言った。


「だから女神は森を離れない」

「それ、前にも聞いた気がする……なんでワイズリッヒェは森を出られたんだ?」


 抱きつくように木に(もた)れるクルテ、どう答えるか考えているように見えた。

「ワイズリッヒェは願った。カテルクルストの居るザジリレンに行きたい……女神が存在を維持したまま森を出るには方法が二つある。一つは自分の力の一部を放棄すること。捨てた力と引き換えに、森を離れると言うことだ。ワイズリッヒェはその条件を選択した」


「力って言うのは魔法か?」

「あぁ、領域魔法の力を放棄した」

領域魔法……結界を張ったり消去したり、検知する魔法か。だからワイズリッヒェはメッチェンゼを見付けられない? そうか、ワイズリッヒェがこの空間から出られないのも、そこに原因があるんだ。この空間は複数の女神が複雑に張り巡らせた結界、だから出られないんだと思っていたが、それだけじゃないんだ。


「放棄したのは領域魔法だけか?」

「領域魔法だけだなんて、簡単に言うな。結界が張れなければ、姿を隠すことも気配を隠すこともできなくなる」

「ん? それじゃあ、ワイズリッヒェの気配を追えないのはなぜだ?」

「メッチェンゼを騙して、結界を張らせたんだと思う。安心して眠れないから、とか言ってね。多分、寝室の天井裏」

「寝室に結界の気配はなかったが?」

「メッチェンゼは『魔法封じ』が使えるからね。女神の中でもメッチェンゼだけが使える魔法だ」

魔法封じを使えば、魔法の痕跡が検知できないのも当たり前だ。


「ワイズリッヒェの執念は大したもんだな」

力を失ってでも、カテルクルストを手に入れたかったか……

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