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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
19章 失われた王女

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 朝食中だというのに愚痴っているのはラクティメシッスだ。メニューが気に入らないなんてことはない。

「まぁ、そりゃあね。ミテスクとは状況が違いますから。この山にキャビンを置いて行けないと、わたしだってそう思わないわけじゃない。でもねぇ……」


 ピエッチェたち五人は山中を行き、馬たちとキャビンは見えず聞こえず魔法をかけて上空を移動させる。当然のように『魔法を使うのはラスティン』とクルテに言われたのがご不満らしい。


「馬車があるんだから、山の中を行こうなんて考えないで街道を使えばいいじゃないですか」

これにはピエッチェが『スワニーで目撃されたからなぁ』と言い訳めいたことを言った。追手が掛かっているのは明らかだ。情報はカッテンクリュードまで、街道沿いの集落に伝わっている。それにウイッグを紛失した。(かぶと)を被っていたらいろいろと怪しまれる。


「荷物を積むために買ったキャビンなのに、〝お荷物〟になっただけです」

これもピエッチェが『飲料や食材を買い込む計画がダメになったのは、俺の不注意のせい。申し訳ない』と謝り、ラクティメシッスは何も言えなくなった。


「いっそ、馬もキャビンもこのまま置いていきましょう。デネパリエルで必要になるでしょうから、馬もキャビンも部下に命じて用意させます」

するとカッチーが『こんなところにおいてったら、馬たちが可哀想です!』と大声を上げた。リュネはともかく、キャビンの後ろに繋いだ二頭は()()の馬だ。結界で魔物は防げても、水や食料を自分で調達できそうにない。


「だからって、なんでわたしが? お嬢さんだって同じ魔法が使えますよね」

チラッとラクティメシッスを見たクルテ、ニンマリと『毒キノコ、見分けられないよね?』と言ってから、ピエッチェを見上げた。


「ラスティンが虐める……カティ、なんとかして」

「虐めちゃいませんっ!」


 なんでラクティメシッスを煽るようなことを言うかなと思いつつ、

「山の中で食料や水を探すのは、クルテの指示があったほうがよさそうだ」

ピエッチェがラクティメシッスから目を逸らす。横でマデルが『言えてるわ』と呟けば、カッチーが頷いている。


「お(んま)さんに任せたらどうですか?」

やっぱりクルテが却下する。

「コーンレゼッチェの森はキャルティレンぺスよりすっと深い。いくらリュネでも上空からは地上が見えない。わたしたちを見失う」


 クルテの嘘だと思いながらピエッチェは何も言わない。リュネはどこに居ようと気配を察して、降りるべき時は地上に戻る。きっとクルテと脳内会話が成立している。


「四対一でわたしの負けってことですか……」

悔し気なラクティメシッス、クスッと笑ったクルテが

「いっそ、リュネかキャビンに乗ってけば?」

妥協案を出すが、

「地上に魔物が出ない保証は?」

ラクティメシッスが怖い顔をする。


「出ると思うよ。だけどカティとカッチーがいるし、わたしもいる」

マデルが『戦力外通告されたわ』と苦笑すると

「ラスティンが心配なのはマデルだけ」

クルテが笑う。


「一番心配なのはマデルだけど、マデルのためだけに言ってるわけじゃありません」

「自分は要らない子だって言われた気分?」

「要らない子……」

口をあんぐり開けたラクティメシッス、ピエッチェが

「クルテ、おまえのほうが虐めてるように俺には見えるんだが?」

(たしな)める。


「そう? やっぱり冗談って難しい」

久々に聞くセリフ……自分を見上げるクルテに、なんて言えばいいか迷っているうちにラクティメシッスが吹き出した。

「ったく、お嬢さんは敵いません」

グチグチ言いながらもラクティメシッスは、馬とキャビンを引き受ける気になっている。クルテがニンマリ笑んだ。


「多少はリュネに任せても大丈夫だと思う。ラスティンは、こっちがどこに居るのかをリュネに教えてあげて」

「なるほど、魔法で繋がっていろってことですね」


 カッチーが不思議そうな顔をする。

「魔法で繋がってるってどういうことですか?」


「魔法をかけた相手がどこに居るか、術者には判るのよ」

マデルが答えた。

「それに、いざとなったら施術中の魔法で自分のほうに引っ張ることもできるの」


「もし対象が嫌がった場合は力比べになって、魔力の弱いほうが引っ張られることになりますがね」

「大丈夫です、ラスティンさん。相手がラスティンさんなら、リュネは逆らったりしませんよ」

「ふふん、カッチー。それって、わたしよりリュネの魔力が強い設定ですね」

「あっ!……いや、俺、そんなつもりじゃ」

冗談だよと笑うラクティメシッス、クルテがボソッと『ラスティンも冗談が下手ってこと?』とピエッチェを見上げた――


 魔力は温存させたほうがいいと、サウゼンまでは人道を使おうと思ったが、すぐに諦めた。木材や家具を運ぶ荷馬車が昨日より多いうえ、昨日は見かけなかった警備隊も行き来している。警備隊は(たみ)びとに聞き込みをしているようだ。


「見慣れないヤツが来なかったか聞いてるんでしょうね」

道の脇に結界を張って、見えず聞こえず魔法をかけた中でラクティメシッスが呟いた。目の前の道を警備隊が、サウゼンに向かって通っていくのを眺めていた。

「金物屋やパン屋は、わたしとカッチーのことを話しますよね」


 だろうな、とピエッチェが溜息を吐く。

「だが、向こうが探しているのは五人連れだ。すぐに断定したりしない」


「そうでしょうか? コイツは木こりになる、だからサウゼンに送っていくんだって言いました。そんな二人連れは来なかったとサウゼンで聞いたら……山狩り?」

「コーンレゼッチェを山狩りするには王家の許しが必要だ――カテロヘブが居たって話なんだからすぐに許可は出るだろうけど、どんなに急いでも始められるのは三日後だ。それまでにメッチェンゼに入る」


「山狩りはコーンレゼッチェだけで済みますか?」

「そうだな、済みそうもないな――その時は見えず聞こえず魔法で(かわ)すしかない。仕事を増やして申し訳ない」

「何を言うのやら?」

この時のラクティメシッスは、自分の魔法を()てにされても苦情を言わなかった。


 そこからは人道を使わず、道に沿って山の中を進んだ。もっと進んでからの予定だったが、馬とキャビンは上空を行かせることにした。


「マデルはキャビンに乗る?」

リュネたちを上空にあげる直前、クルテが訊いた。

「山の中を行くと凄く疲れるよ。道じゃないんだから歩きずらいし、ずっと登り続ける」


 クルテの気遣いにマデルが微笑む。

「そうね、本当はそのほうがいいのかもね――でも、キャビンに一人は寂し過ぎるわ。今日は一緒に居させて。もしダメそうなら明日はそうする」


「うーーん……今日は道沿いを行くからそこまで大変じゃない。明日は今日とは比べものにならないと思う。まぁ、ラスティンとも相談して」

サウゼンまでは人道脇を行くことにしていた。そしてサウゼンを通り抜け、尾根伝いにメッチェンゼ山に入る予定だが、それにはコーンレゼッチェ山頂まで登ることになる――山頂に今日、辿り着くのは無理だ。


 その話をしたとき、

「山肌を回り込めば少しは楽なんじゃ?」

ラクティメシッスが訊いてきたが

「コーンレゼッチェは山肌も起伏が激しい。山頂を目指したほうが移動距離は短い」

とピエッチェが答えている。


「コーンレゼッチェ山頂からメッチェンゼは割と緩やか……メッチェンゼからサワーフルドに行くには少し降りてまた登る。だけど山頂まではいかない」

「サワーフルド山は斜面を横切るわけですね?」

「ただ、どちら周りにするかは迷うところだな。カッテンクリュードを望むほうにするか、裏側にするか」

「お嬢さんはカッテンクリュードの様子を見降ろすようなことを言っていたと思うのですが?」


「サワーフルドは王宮の庭にも面しているんだ。見つからないとは思うけど、危ない橋は渡らないほうがいいかなと」

「見えず聞こえず魔法をかけておけば見付かりませんよ」


 ラスティン、済まない。魔法封じはクリオテナも使える。アイツなら、見えず聞こえず魔法を検知するだろう。その中に俺がいるとも知らず、こちらの魔法を解術するに違いない。


「大丈夫だよ」

と、ピエッチェを見上げて言ったのはクルテだ。

「サワーフルド山と王宮の間には小さい森があるから見えない」


「ん? 小さい山?」

そんな山があるなんて記憶にない。

「そう、正確には王宮の庭の一部。でもちょっと山になってる」

「あぁ……そう言われれば。山ってほどのものでもない。だけど木がたくさんで、山って言うより森――」

森? 何かがピエッチェの中で音を立てた。これはなんだ? ピエッチェが懸命に記憶の断片を探る。


 そうだ、あの小さな森の木の(うろ)に黒い小鳥は隠れたんだ。入り口には古い女神像があって……女神像の足元で小鳥が逃げて居なくなったと泣いていたら、誰かが現れて『女神の森を真っ直ぐ行けば洞のある木が見つかる。そこに隠れてるよ』って言って頭を撫でてくれた。あれはいったい誰だ? 大切な誰か、女性なのははっきり判る。だけど母じゃない、姉でもない。そんな()()があの頃の俺に居たか?


 ダメだ、思い出せない。顔を思い出そうとしても、どうしてもクルテと重なってしまう。俺が五歳の頃の話だ。クルテは封印されていた。あの場所にいるはずがない。クルテを見ているから思い出せないのか?


 マジマジとクルテの顔を見るピエッチェ、クルテもピエッチェを見上げ続けている。ラクティメシッスがピエッチェを(いぶか)って

「どうかしましたか?」

と声をかけてきた。


「いや、うん……王宮の庭にこんもりとした森がある。それが邪魔をして俺たちを隠してくれるってクルテは言いたかったらしい――まぁ、見えず聞こえず魔法があるんだ。そんな心配はいらなかった」

クルテから目を逸らしたピエッチェが答えた。納得したようではなかったが、ラクティメシッスもそれ以上は追及してこなかった。


 慌ただしく人が行きかっているサウゼンを通るのは無理そうだった。仕方なく、村の外周を伝った。それでも声高に話す人の声は切れ切れに聞こえてきていた。


 予測通り、ラクティメシッスとカッチーが金物屋やパン屋に来たことが話されていた。立ち話をしている村人の多くが『その二人はどこに消えたんだ?』と首をかしげている。そして最後には、山狩りをしたほうがいいと誰もが結論付けていた。


 村を抜け、(しばら)く登るとポカッと木立が途切れた。クルテが立ち止まり空を見る。

「日の入りはまだだけど、今夜はここ」

上空からスーッとリュネとキャビン、二頭の馬が真っ直ぐに降りてくる。


「あれ? わたしは何もしていませんよ?」

ラクティメシッスが唇を(とが)らせ、クルテが笑う。


「ラスティンばかりじゃ気の毒だから、わたしが魔法を使った」

「だと思いました」

ラクティメシッスも微笑んだ――

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