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「俺、なんだかすっごく現実味のある夢を見ちゃいました……目が覚めても、夢なのか本当のことなのか、よく判んないです」
居間に来るなりカッチーが訴える。
「うん、間違いなくそれは夢だぞ、カッチー」
笑うピエッチェ、クルテは
「どんな夢? 話してみたら?」
と、やっぱり笑っている。
「それがね、最初はピエッチェさんとクルテさんと話してたんですけど……」
夢の話をカッチーがしているところにマデルも起きてくる。
「お腹空いたわぁ……朝からなに話してるの?」
「俺が見た夢の話です、マデルさん。俺も腹ぺこです」
「ヘンな夢でも見た? で、泣いて目が覚めたとか?」
「違いますっ!」
子ども扱いにムッとするカッチー、マデルが面白そうに笑う。
「昨日、ピエッチェさんとコゲゼリテの話をしたせいだと思うんですけどね」
カッチーが、ピエッチェとクルテにした話を繰り返す。
「女神の森の夢を見たんです。女神の森って言うか、精霊になった娘の話」
嫌いな男に言い寄られた娘が男に追いかけられて女神の森に逃げ込んだ。女神は助けようと、娘を精霊に変えてしまった。
「それがですね、ピエッチェさんとクルテさんと三人で話してたはずなのに、いつの間にか精霊になった娘と二人で話してるんです。なんか知らないけど冗談言ったりして仲良しなんですよ。すっごく優しいし……」
カッチーがちょっと照れる。
「夢なんて支離滅裂なもんだからね。コゲゼリテに帰りたくなった?」
「マデルさんまでそんな事を……俺、ピエッチェさんとクルテさんについていくって決めてますから」
「わたしまで、ってことはピエッチェかクルテにも同じこと言われたんだ?」
マデルがコロコロと笑う。
「はい! ピエッチェさんに。で、同じように答えました。そしたら、いつかみんなでコゲゼリテ温泉に行こうってピエッチェさんが……マデルさんも一緒に行きましょうよ」
「コゲゼリテの温泉は昔から有名だもんね。楽しみだわ」
「大浴場の壁には精霊の娘の彫刻があるんです」
「女神の温泉なんだから、女神なんじゃなくって?」
「そうなのかなぁ? でも女神の娘って端っこに彫ってあったと思います」
「それじゃ女神の娘なんだね――話は変わるけど、その精霊の娘の話って、娘が魔物になったってバージョンもあるって知ってる?」
「魔物? どんな話ですか?」
例によってカッチーの顔が怖そうになり、マデルがクスッと笑う。
「男に乱暴されそうになった娘が逃れるために魔物に身を変えたって話。他にもいくつかあるみたいだよ。わたしが知ってるのは魔物に姿を変えたって話と剣に姿を変えたって話。で、どっちも男を追っ払うんだ――ザジリレンにも似たような話があるんじゃないの?」
話しを振られたピエッチェが、この話かな? と呟いてから言った。
「女神の娘って話があるにはある。女神と人間の男の間にできた娘で森に隠れ住んでいたんだけど悪い男に見付けられちまった。男に追われた娘は父親の元に逃げ込もうとした。だけど間に合わない。男に捕らえられる寸前、娘は自ら命を絶った。怒った父親は男を殺した。そんな話ならあるぞ」
「うわぁ、二人とも死んじゃったんだ?」
「娘の方は命を絶つって他に、姿を消したってのもある。父親のところに隠れて、それきり森には帰らなかったって話だったと思う」
「クルテは他の話を知らない? ピエッチェと同じザジリレンって聞いてるけど、他のパターンもある?」
マデルに話を振られたクルテがチラリとピエッチェを見て、
「そうだね、ピエッチェが言った話なら知ってるよ――伝説って、時の流れの中で付け加えられたり削られたり変えられちゃったりで面白いよね」
そう言うと少しだけ笑った。
朝食を運んできたのは昨日クルテに名を聞いた給仕係だった。カッチーと一緒にクルテも立ち上がり、チップを渡しながら、
「明日、お祭りなんだって?」
給仕係に尋ねている。
「はい、そうなんです……よかったらご案内しますよ」
頬を染めて給仕係が答える。
面白くないのはピエッチェだ。クルテが、カッチーに頼まず自分でチップを渡したことも気に入らないが、給仕係に話しかけたのも気に入らない。だいたい明日から祭りだなんて、そんな情報、いつの間に仕入れたんだ? 俺は聞いてないぞ!?
「どんなお祭りなの?」
「ギュリューの街ができたお祝いの祭りなんです。今年は千年祭で盛大です。いろんな屋台が出たり、山車の引き回しとか、花火もあります」
「人がいっぱい来そうだね」
「えぇ、毎年けっこう賑わいますよ」
「やっぱりね……人ごみは嫌い。屋上から見るだけでいいや。ありがとう」
「あ、いや……」
言い募ろうとする給仕係、部屋から出そうとするクルテ、ピエッチェが咳払いし、給仕係はすごすごと出て行った。
「なんで祭りがあるなんて知ってたんだ?」
顰めっ面で訊くピエッチェに、クルテがケロッと言った。
「名前を聞かれた時、メモも渡された。明日のお祭り、一緒に行きませんか、って」
「なにっ?」
カッチーが目を丸くし、マデルが笑い転げ、ピエッチェが憤る。
「そんなの聞いてないぞ!?」
「あれ? 言ったほうが良かった? えっと、言ったほうが良かったのは、メモを渡された事? 明日がお祭りだってこと?」
「それは、両方だ、両方!」
「そっか、次からはすぐに言うよ。判った」
「判ったって、おまえなぁ……」
マデルが横から
「ピエッチェはクルテを盗られるんじゃないかって冷や冷やしてるんだよ」
と笑えば、
「そんなんじゃない!」
とピエッチェが怒鳴り、
「盗られるって?」
クルテがキョトンとする。カッチーはオドオドと見ているだけだ。
「だから、そんなんじゃないって言ってる! そもそも昨日も言ったが、宿の従業員が宿泊客に手を出そうなんて、心得違いだろうが」
「確かにね」
同意はするものの、マデルの笑いは止まらない。クルテが『手を出すって?』と言ったが、カッチーが『今は何も訊かないほうがいいです』とそれを止める。
「でもさ、あんたが面白くないのは、従業員よりもクルテでしょ?」
「ク、クルテ? あぁ、情報があるならちゃんと報告しろ!」
ピエッチェがクルテを見るが、マデルがクルテに返事をさせない。
「ピエッチェ、あんた、お祭りに行きたかった?」
「そうじゃなく!」
「そう言うことにしときなって」
ますます笑うマデル、ピエッチェはますます面白くない。さらに
「俺、お祭り行ってみたいです」
カッチーが呟いて、収まりが付かないのはピエッチェだ。
「だったら三人で行けよ。俺は行かない」
こうなったら意地だ。
もちろんマデルは面白がって
「そんじゃ、カッチー、一緒に行こう。ピエッチェ、クルテも連れてくからね」
と言えば、
「あぁ、いちいち俺の承諾なんか要らない。好きにしろ」
ツンとしている。ところが
「僕は行かないよ。ピエッチェと一緒にいる」
と、クルテが言うものだから〝ツン〟のやり場を失ってしまった。
クルテの顔を見たいが素直には見れない。マデルが、
「おやまあ、クルテは行かないか。人ごみは嫌いって言ってたね……カッチー、二人で行こうね」
と言った後、ボソッと『やっぱりクルテか』とニヤリとした。
「はい、明日が楽しみです! でも、今は朝飯にしましょう」
配膳を始めたカッチーにマデルが『あんた、二人の扱い、巧くなってきたんじゃないの?』と肘で軽く小突いて言った。
クルテの『一緒にいる』で幾らか機嫌が直ったピエッチェ、それでもモヤモヤは消えていない。黙々と料理を口に運ぶ。
そんなピエッチェにお構いなしに、今度はクルテを揶揄うつもりか、
「それにしてもクルテ、一時もピエッチェと離れたくないんだ?」
とマデルがクルテを見る。
「ピエッチェを守るって決めてるからね。離れてると無事かどうか心配なんだよ」
パンを千切りながらクルテが答える。
「それってさ、恋愛感情なんじゃなくって?」
「恋愛? したことないから判んない」
「そっか!」
ケラケラ笑うマデルに、
「可笑しなこと言った?」
クルテはキョトンとしてる。
「クルテはこう言ってるよ? ピエッチェ、これって、あんた次第ってことなんじゃないの?」
「そんなんじゃないし。だいたい俺は男には興味ない」
「あらあら、クルテは自覚がないだけよ。可哀想なことになりそう」
「マデルさん、朝から酔っぱらってる?」
気まずいのかカッチーが止めようとする。が、決定打を出したのはクルテだ。
「ピエッチェは故郷に恋人がいるよ」
「へっ?」
驚くマデル、ギョッとするピエッチェ、
「今んところ片思いみたいだけど。名を挙げたら国に帰って、その人にプロポーズするんだって」
クルテがニッコリとする。
「そうなんだ? 本当なの、ピエッチェ?」
「えっ? あぁ、まぁな」
ナリセーヌのことだ。確かにクルテの言うとおり、帰ったら速攻で申し込もうと考えていた。
「そっか……あぁあ、なんだか旅の楽しみが一つ減ったわ」
「結婚式には俺も呼んでください!」
マデルは残念がるがカッチーは大喜びだ。
「綺麗な人なんでしょうね」
「まあな……でも、まだオーケーして貰えると決まったもんでもない」
そう言いながら、果たして自分が帰るまで、ナリセーヌは一人でいるんだろうか、と思うピエッチェだった。同時に『きっとプロポーズはしない』とも感じていた。
食事が終わるころクルテが、
「今日は何か予定はあるの?」
マデルに訊いた。何もないよ、と答えるマデルに
「だったらカッチーを連れて買い物に行って貰ってもいい?」
と、いくらかの金を渡した。
「文字を書く練習に使う石盤と石筆が欲しいんだ。石盤と石筆の代金はカッチーに持たせるから」
「クルテさん……俺のために?」
声を震わせたのはカッチーだ。
「文字を教えるのが中途半端になってたと思って。随分と読めるようになっているけど、書くのは苦手なんじゃない?」
微笑むクルテ、マデルが、
「あれ? カッチー、読み書きを覚えたのはいつ?」
と不思議そうな顔をした。それに答えたのはクルテだ。
「女神の娘って彫られてたって話でしょ?――コゲゼリテ温泉は七年くらい前に枯渇して、大浴場も閉鎖されてる。カッチーは九歳くらいだと思うけど読み書きは習ってなかったんじゃない?」
「あ……そう言われればそうです。でも、ヘンだなぁ。女神の娘で間違いないんだけど」
「誰かがそう言ってたのを聞いたとか、コゲゼリテの人は誰でも知ってることだとかじゃなくて?」
「なるほど! きっとそうですね」
「代金はこれで支払うんだよ。釣銭はカッチーにあげるね」
クルテから渡された金を見てカッチーが、
「石盤と石筆って幾らくらいするんですか?」
と怪訝な顔をする。マデルが横から覗き込んで、
「これだけあれば五セットは買えそうだけど? 買えるだけ買ってくる?」
とクルテを見る。
「買うのは一セット、カッチーが使う分だけだよ。どんなのが使い易いか、一緒に選んであげて」
慌てたのはカッチーだ。
「こんなに頂けません。俺、ただで食わせて貰ってるし」
するとソファーで本を読んでいたピエッチェが
「いいから取っとけ」
と面白くもなさそうに言った。
カッチーを甘やかすなと言われていたのにと、クルテが珍しいものを見るようにピエッチェを見る。けれどすぐ理解して、ニッコリとカッチーに言った。
「ピエッチェもああ言ってるんだから遠慮しなくていいよ」
「でも、俺、貰っても使い道ないですし……」
するとまたピエッチェが、
「祭りに行くんだろう? 遊びに行くのに小遣いがないと惨めだぞ――マデル、祭りでは悪いヤツに騙されないよう、カッチーを見ててやってくれよ。小遣い貰ったからって自分のことに夢中になるなよ」
と、マデルを見る。
「そっか、わたしに子守りの駄賃をくれたのは明日の小遣いのためなんだね」
子守りと言われたカッチー、一人でも行けます! と抗議するが、
「一緒に行って貰え、買い物にも祭りにも。子どもだからじゃない、知らない街を一人でうろつくな――頼んだぞ、マデル」
ピエッチェに却下される。
「判ったよ、任せて。カッチーのことだから、あれも食べたい、これも食べたいって言い出して、食べ物にしか目が行きそうもないけどね――それよりピエッチェ、何を読んでるんだい? 面白いの?」
するとピエッチェがマデルをチラリと見た。
「ギュリュー千年史――クソつまらん」
「へっ? そんな本、いつの間に買ったのさ?」
驚くマデルに、クルテが
「昨日の夕飯のワゴンに、メモと代金を封筒に入れて置いておいたんだ。そしたら朝食の時に持ってきてくれたんだよ」
と説明する。
「あぁ、朝、チップを渡す前に受け取ってたのって、本だったんだ? ヤケに分厚いラブレターだなって思ってた」
とマデル、ケラケラ笑いが出そうだったがピエッチェに睨まれて肩を竦めた。
自分で『勝手に』取り寄せたくせに、クルテが本に関心を示したのはマデルとカッチーが出かけて暫くしてからだ。
対面のソファーでまったりしていたクルテがモゾっと動いて立ち上がったと思うと、すぐそばに座り込みピエッチェを覗き込む。
「なんだよ?」
「なにが?」
「なんでわざわざこっちに来た? 何か用事か?」
「何も用事はないよ。ピエッチェの傍に居たいだけ」
「ふぅん、ヘンなヤツ」
「ヘンかな? それよりそろそろ読み終わるんじゃ? 何か気付いたことは?」
クルテをジロリと見てから上体を起こし、ピエッチェが腰かける。するとクルテがすぐに動いて、ソファの空いた場所に座った。
ピエッチェがクルテにも見えるように本を開く。
「建物の外壁が今のように塗られたのが十年くらい前らしい」
「へぇ……以前は?」
「以前の外壁の色ってことか? 特に記述はないな。が、きっかけは大火事だったって書いてある――火元は大きなお屋敷、近隣にも延焼し死者多数ってある」
「火事が切っ掛けで建物の色を塗り替えちゃう? 普通、そんなことするの?」
「聞いたことないなぁ……塗料が難燃性だとかなんだろうか?」
「そうだとしても、なにもあんなカラフルにしなくてもいいんじゃ?」
「だよな」
クルテが本から目を離すのを待って、開いていた本をピエッチェが閉じる。
「おまえも読んだら? 俺とは違う発見があるかもしれない」
するとクルテが
「一緒に読んだからいいよ」
と答えた。やっぱりコイツ、頭の中を覗いていやがった、と思うピエッチェ、今さらなので何も言わなかった。
「消化不良を起こすほど画商や画材店、金貸しの心を読んだんだろう? 少しはなんか、なかったのかよ?」
「なくもなかったよ。例えばギュームは殺されたんだってこととか」
「おいっ!」
「それを街ぐるみで隠してるらしいね。だけど、誰がなぜ殺したのかは誰も知らなかった」
「なんでそんな重要なことを黙ってたんだよっ?」
「怒んないでよ。結論が判らないのに言っても迷惑かと思ったんだ」
「これからは結論が出てなくてもいいから俺には話せ」
「マデルとカッチーには?」
「うーーん、俺にだけ話せ。マデルはともかく、カッチーはおまえが心を読めるなんて知らないからな」
「カッチー、魔物だって知ったらわたしを嫌うかな?」
「うん?」
ピエッチェがクルテの顔を見る。
「嫌われたくないか?」
「どうなんだろう?」
「なんだよ、自分でも判らないのか? 気にするってことはイヤだと思ってるんだと俺は思うけどね」
「カッチーの態度が変わるのがイヤなのは判ってるんだ。一緒に旅をしてくれなくなったら困るし。カッチー、魔物を凄く怖がってるから」
「そう言えばさ、なんでカッチーを連れて来たんだ? 本気で雑用係が欲しかったとは思えないんだけど?」
「雑用は、カッチーがいなければピエッチェにやって貰えばいいもんね」
「なんだよ、それ?」
苦笑するピエッチェに、クルテが真面目な顔で言った。
「二人だと意見が対立した時に収拾つかなくなるかなって思っただけだよ――それよりさ、恋愛感情ってどんなもの?」
「恋愛感情?」
「マデルに訊かれて答えられなかった。経験がないから判らないって言ったら『噓吐き』ってマデルは思ってた。嘘じゃないのに」
「うーーん……」
ピエッチェが口籠る。さて、なんて答えよう?
「まぁさ、マデルは時どきおまえが魔物だってこと、忘れてるんじゃないか? だからおまえが俺のそばから離れない理由を恋じゃないかって、勘繰ったんだと思うよ」
「あぁ、魔物じゃなくって、強力な魔法使いだって思ってるみたいだね」
「魔法使いか……」
「それに女だと思ってる」
「だろう? だからお前が俺に惚れてるって勘違いしてるんだよ」
「ピエッチェには故郷に恋人がいるって言ったら『つまんない』って言ってたね。他人の恋愛沙汰って面白いものなんだ?」
「そりゃあ人によるだろう? そう言うのを面白がるヤツもいれば興味のないヤツだっている」
「カッチーはピエッチェに恋人がいるって聞いて喜んでたね――でもさ、不思議なんだ」
「不思議?」
「ナリセーヌを嫌いになった?」
「えっ?」
「怪我で動けなかった時、ずっとナリセーヌのことを考えてたよね。早く治して会いに行きたいって。ネネシリスと決着つけたらプロポーズするって――だけどさっき、『きっとプロポーズしない』って感じてた。それはどうして?」
「おまえ、また俺を読んだな?」
「仕方ないじゃん。それがわたしなんだから」
「それがおまえ?」
「近くにいる人間……見える範囲にいる人間の意識はわたしの意思に関わりなく飛び込んでくる。だから人ごみには行きたくない」
「って、読もうと思って読んでるんじゃないんだ? 人間限定?」
「人間の姿の時はね。鳥に化けてれば鳥の気持ちが飛び込んでくる」
「おまえさ、スズメに化けたって言ってたよな? スズメの数って半端ないんじゃないのか?」
「慣れるまではパニック」
「梯子になったら梯子の気持ちが判るのか?」
「ピエッチェ、梯子に気持ちはないと思うよ――で、姿を消している時は読みたい相手だけが読める。実体を持つことで力の制御が難しくなるみたい」
「やっぱりさ、精神体だっけ? で、いたほうが楽なんじゃないのか?」
「楽かどうかはよく判らない。精神体だと移動が難しいんだ」
「移動が難しい?」
「何かに憑かないと移動ができないのさ」
「なるほどねぇ……」
何がなるほどなのか、よく判らないのにそう呟くピエッチェだ。それを見透かしたのだろう、クルテが少し悲しそうな顔になる。
「ピエッチェが理解できないのは仕方ないよ。わたし自身、自分がよく判ってないんだから――それより、ナリセーヌのことは諦めちゃったの?」
クルテが話を元に戻しピエッチェを見詰めた。




