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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
19章 失われた王女

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 姿を消して周囲に悟られないよう気を付けてシューパナ街道を行くうちに、沿道の集落が落ち着きを失くしているのに気が付く。スワニーでの目撃情報が届いているのだろう。警備隊が街道を行き交うようにもなれば、もはや他の理由は考えられない。


 もっとも、見えず聞こえず魔法のお陰で、そこまで追い詰められていない。ちょっと何かを食べるくらいの余裕はあった。木立に寄せて、リュネが勝手に停まる。そこには()()()に実をつけたサルナシがえていた。五人とも朝から何も食べていない。キャビンから降りて、サルナシを()いでは食べた


 (ぎょ)しゃの指示を無視するリュネに手を焼いたラクティメシッスが『お(んま)さんはわたしが嫌いらしいです』と、笑いながらボヤく。スワニーで見せた怒りはとっくに治まっている。それともあれは怒りではなく、焦りだったのか?


「嫌っちゃいないと思う」

サルナシを捥いでラクティメシッスに渡すピエッチェ、受け取りながら

「そうですかねぇ?」

と苦笑したラクティメシッス、

「持ち主に了承を得てないのに採っちゃって良かったんでしょうか?」

言いながらサルナシに嚙り付く。


「コーンレゼッチェ山・メッチェンゼ山は立入自由で乱獲でもしない限り、咎め立てないことにしてるんだ」

「サワーフルド山はダメなんですか?」

「あの山は王家の山だから……でも許可があれば入山できなくもない」

「なるほど、この山は王領ではあっても王家の物ではないってことですね」


「王家の物って言っても、きっちり管理してるわけじゃない。五年おきくらいに手入れしてる程度だ」

「手入れはいつ頃?」

「一昨年したばかり」

「では、ばったり誰かに出くわすことはなさそうです――それにしても、サルナシじゃ、大して腹の足しになりませんね」

ラクティメシッスが溜息を吐く。

「空腹を実感するだけかもしれないな」

ピエッチェが、クルテたちと一緒にいるカッチーを見て笑う。


 クルテはマデルとカッチーを引き連れて、少し離れたところで『そっちはまだ早いからダメ』だの『そう、それそれ。それは甘くなってる』などと指図している。サルナシ以外を見つけ、収穫しているらしい。


「アケビは判るんだけど……ヤマブドウかな?」

「マデルが持たされてるのはヤマブドウですよね。で、カッチーはサルナシとアケビ。お嬢さんが摘んでるのはなんでしょう?」

「さぁ? でもクルテなら、山の実りに詳しいから食べられるものなんだろうさ」


「お嬢さんが山で暮らしてたってのは本当のことなんですか?」

「うーーん? 俺はそう聞いてるし、疑ったり否定したりする根拠もないからね」

面倒な話になりそうな予感に、ラクティメシッスから離れクルテの傍に移動したピエッチェだ。来なくていいのにラクティメシッスもついてきた。ま、来るなとは言えない。


「おまえが集めてるのは?」

クルテが手にした紙袋を覗き込んでピエッチェが問う。ニマッとクルテがピエッチェを見上げる。

「ムカゴ……あとで蒸すか煮るかして食べようと思って」

それだけ言うと、ムカゴ摘みを再開した。


「ムカゴ?」

「芋の茎にできる芋みたいの。(たね)じゃないけど(たね)みたいなもんだよ。これは山芋のムカゴ」

「植えとけば芋になる?」

「そう、そんな感じ。食感も味も芋とほぼ同じ」

「しかし、随分小さいな」

「茎を追って土中を掘れば大きい芋も採れるけど、すごく大変」


 ラクティメシッスはマデルの傍に行った。

「爪が赤く染まってますよ?」

マデルはクスッと笑んだだけだ。カッチーが、

「クルテさん! 良さそうなのは採り尽くしました!」

向こうで叫ぶ。するとリュネがビヒヒと返事した。出立するぞってことだ――


 シューパナ街道からわき道にそれたのは夕刻、日没まではまだ間がある時刻だ。最初の集落を過ぎてから木立に馬車を隠し、ラクティメシッスとカッチーの二人で集落に戻ることにした。ラクティメシッスはキャビンの後ろに繋いでいた馬、カッチーはリュネに乗っていった。目的は山では手に入らない鍋や食器、多少の食材を買い入れること、集落を通り過ぎるとき、そんなあれこれを扱っている店があることは確認済みだ。


『コイツをサウゼンまで送って行くんだけどね』

ラクティメシッスが言う〝コイツ〟とはカッチーのことだ。金物屋の親爺はカッチーをじろじろ見て、

『木こりになるのか? 辛い仕事だぞ』

と言っただけで希望の品を揃えてくれた。山の中でも使いやすい鍋や食器だ。だがそれはカッチーの分だ、だからとうてい足りない。必要数を用意するため、数軒の店を回った。


 村の中をウロウロし過ぎれば怪しまれる。だから食材は諦め、寄ったのはパン屋だけだ。

『コイツ、大喰らいなんだよ』

二人にしては大量のパン、ラクティメシッスの言い訳に

『食い盛りだもんねぇ』

パン屋は愛想よく笑ってくれた――


 馬車に残ったピエッチェとクルテは周辺……人道から見れば山奥のほうの野営場所を眺めていた。マデルはキャビンで眠っている。コーンレゼッチェの森の女神の仕業だ。


 ラクティメシッスが出かけるとほどなく現れ、いきなり言った。まぁ、出現もいきなりだ。パッと木が輝いたかと思うと女の姿になった。ピエッチェより僅かに背が高い。


『なりそこないのチビ、こんなところで何してるのよ? あんた、自分の森を離れてウロウロしているらしいよね』

普通に〝声〟として聞こえた。ピエッチェが慌ててマデルを見ると、すぐそこで横たわっている。キャビンに運んだのはピエッチェだ。それを見届けてからクルテが答えた。

「ここに野営したいと思ってる」


 ここの女神は人懐こそうだとピエッチェが思う。タスケッテの女神のような上から目線を感じない――いや、待てよ。タスケッテの女神は物すごくデカかった。あれは背の高さも関係してるのか? まぁ、どちらにしろ、コーンレゼッチェの女神はきっとコゲゼリテの女神と同じタイプだ。


『あら、そう。いいわよ別に。でも次からは、先に挨拶くらいしなさいよ』

「さっき、サルナシや山ブドウ、ムカゴを採っても怒らなかった。だから野営も許してくれると思った」

『まぁね。山芋掘りを始めるかもってワクワクしてたのに』

「それ、凄く大変」

『必死な人間を見るのは楽しいものよ。途中で折れちゃったときの残念そうな顔ったら……ウフフ』

やっぱりコゲゼリテの女神と同じタイプだ。優しいふりして底意地が悪い。そしてクルテは図々しい。


「ねぇ、せっかく出てきたんだから、野営できるようにこの辺りを(なら)してよ」

『はい、お安い御用よ』

瞬時に木々が移動し、狭い原っぱになった。中央部に土がむき出しになって小石がごろごろしているのは火を(おこ)すことを考えてだろう。


『五人ならこの程度あればいいのでは?』

「うん、充分」

『あんた、他にも頼みがあるんじゃないの?』

「それ、わたしが頼まなくたって昔っからの約束でしょ?」

『あら、あんたがみんなに頼みまくってるって聞いたけど?』

「頼んだのは、そんな約束してない相手だけ」

『それでもお願いされれば嬉しいもの』

「じゃあ、お願い、コーンレゼッチェ」

瞬時に身体が熱くなるのをピエッチェが感じた。女神の祝福か。でも〝約束〟ってなんだ?


『祝福は、ボウヤ二人でいいのよね?』

「うん、村にいる子にもしてくれたんでしょ?」

『もちろんよ。またあとで「約束でしょ」って来られても面倒だわ』

ボウヤって……森の女神から見れば、そりゃあ、俺やカッチーは赤ん坊みたいなもんだろうよ。うん? それって七百年前から生きてるクルテから見ても同じか?


『それにしてもそっくりだねぇ……』

コーンレゼッチェの女神がピエッチェを見て言った。そんなに俺はカテルクルストに似てるのか。


『あんたが執着するのも判る』

クスッと笑った女神、

『せいぜい大事にするんだね』

現れた時と同じように輝いて、次にはもとの木に戻った――


 マデルが目を覚ましたのは、一頭残っていた馬をキャビンに繋ぎ終わったピエッチェが、(ぎょ)しゃ席から降りようとしている時だった……実はマデルが目覚めるのを(ぎょ)しゃ席で待っていた。

「あら、移動させたのね」

覗き窓から顔を出してマデルが呟く。


「あぁ、クルテが野営にちょうどいい場所を見つけたんだ」

実は少しも移動していない。ラクティメシッスたちが帰ってきたとき、出かける前とのあまりの違いを誤魔化すために移動したことにした。もっとも、ここまで整地されているんだ。ラクティメシッスが怪しまないはずがない。まぁ、惚けとけばいい。


「クルテは?」

(たきぎ)を拾いに行った」

「ラスティンたちは?」

「まだ戻ってない。そろそろじゃないか?」

「ここが判るかしら」

「さっきの場所からそんなに離れてない。リュネが一緒だから心配ない。すぐに見つけるさ」

「それもそうね」


 ピエッチェが(ぎょ)しゃ台から降りるとマデルもキャビンから出てきた。そこへクルテが薪を持って戻ってくる。

「なんだ、もう随分拾ったんじゃない」

原っぱの隅に今夜一晩持つ程度の薪が積み上げてあった。


 クルテは持ってきた薪を原っぱ中央の地面に積み上げている

「マデル、よく眠れた?」


「なんでだろう? いつの間にか眠っちゃってた。キャビンに乗った覚えもないんだいけど……ごめんね、全部二人にやらせちゃったね」

「いいの、ピエッチェは働き者だから」

いや、俺は馬をキャビンの後ろから前に出し、そして今度は後ろに繋ぎ直してるだけだ。


「でもクルテ、それじゃあ、お料理はできなさそうよ」

薪を積み上げるのを見て、マデルがダメだしする。


「大丈夫。火の向こうとこっちに先端が二股になった枝を立てて別の枝を渡し、鍋の持ち手を通して吊るす」

「鍋の持ち手を通した枝が燃えちゃうんじゃ?」

「そこは火加減次第」


 案の定、戻ってきたラクティメシッスが首を(ひね)る。

「お嬢さんが魔法を使ったのかな? 魔法の痕跡がないんだけど……」

女神の魔法は検知されていないらしい。


「魔法なんか使ってないよ」

ケロッとクルテが答える。


「でも、かなり様変わりしてます」

「場所を移動したもん」

「行った時の逆をちゃんと戻ってきましたが?」

「どこかで間違えてるんだよ――リュネが先を行かなかった?」

「あ……えぇ、先にどんどん行ってしまうから心配したけど、お(んま)さんが間違えるわけないと思ったし、わたしもチェックしたんですが」

クルテに誤魔化されたラクティメシッス、納得できなさそうだが、こんなことで争ってもと思ったのだろう。


「すぐ食べられるよう、パンを買ってきました。まずは『腹ごしらえして』から夕食を作りましょう」

おい、ラスティン。それは何かの冗談か? でもまぁ、気持ちは判る。


 カッチーが嬉しそうな顔でパン屋の包みを開ける。

「レモン水もパン屋にありました。五本だけしかなくて、買い占めちゃいました」

カッチーがパンを配り、マデルが薪に火を()けた。

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