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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
18章 ピエッチェ盗賊団

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「カテロヘブ王が魔物になったって噂の出どころはザジリレン王宮です!」

血相変えて居間に戻ってきたラクティメシッス、座りもせずにそう言った。

「しかもローシェッタの王室魔法使いのせいにされてます」

なるほど、ラクティメシッスが慌ててるのは、王室魔法使いにあらぬ嫌疑が掛けられているからか……慌てているというより、憤慨しているが正しいか?


「クリオテナ王女の体調が思わしくないと聞いて、部下を王宮医のところに助手として潜り込ませたんです。その医師がクリオテナ王女から聞いた話として言いふらしているらしいんです」


 諜報活動の内情を俺に話していいのか? そう思うピエッチェ、だが何も言わずにいた。ラクティメシッスもラクティメシッスで、ピエッチェに断りもなくザジリレン王宮内部を探らせていたことを思い出したらしい。落ち着きを取り戻し、気まずげな顔でようやく腰掛けた。


 気まずさを小さな咳払いで流し、ラクティメシッスが話を再開する。

「部下が王都に入ったのは昨日、すぐにその話は耳に入ってきたようです。俄かには信じがたい話、わたしへの報告は少し調査してからと思い、昨日の定時連絡では報告しなかったと言っていました」

荒唐無稽過ぎて多忙なラクティメシッスの耳に入れるほどでもない、と言うのが部下の本音だろう。しかし調べてみると話の出どころは〝とんでもない〟人物、それで慌てて報告してきた。


「助手の勤めは今日が初日、初顔合わせの際、医師が部下に『クリオテナ王女から聞いたんだが、カテロヘブ王は魔物になったそうだぞ』と言ったそうです。その後も患者が来る度、同じ話を繰り返していた――ただ、ジャムジャンヤの街で聞いた噂話とはまた違う話でした」


 首を(かし)げてピエッチェが訊く。

「違う話?」


「えぇ……山犬なんて話は出てきてないし、ピエッチェ盗賊団とも無関係。そのあたりはいいのですが」

「別の問題があるってことか?」

「魔物になった原因です。カテロヘブ王を捕らえたローシェッタの王室魔法使いが魔法の実験台にした、だから魔物になった」


「ふぅん……で、どんな魔物になったんだ?」

「詳細は不明です。気になるのはクリオテナ王女がそんなことを口にしたこと」

「本当にクリオテナがそんなことを言ったとして、情報源はどこなんだろう?」

そう言いながらピエッチェが思う。王が魔法でとは言え、魔物になったなんて重要事項をクリオテナが軽々しく口にするだろうか?


「それが……ローシェッタ国からカテロヘブ王返還の条件を提示されて、その通達文の中に書いてあったから判ったと言っています」

「どんな条件を出したんだ?」

「そこまでは医師も知らないようですよ」

「ローシェッタ国王太子なら知っているのでは?」

「はい? その通達文が本物だと思っている?」

「その反応、間違いなく偽物ってことだな」

「そもそも『本物』のカテロヘブ王がどこに居るかを考えれば、すぐ判ることでしょう?」


 ムッとするラクティメシッスをチラッと見たピエッチェ、

「偽物だろうが、どんな条件を出してきたのか気になるな」

真面目な顔で言った。


「条件の詳細は判りませんが、クリオテナさまが『ローシェッタ国王女を王妃にするしかないのかしら』と呟かれたのだとか」

「フレヴァンス?」

「ってことですね――で、医師の推測ですが条件の中にフレヴァンス王女とカテロヘブ王の婚姻があるんじゃないのか?」

「それ、()しくないか? カテロヘブ王は魔物になったんだろう? ローシェッタ国が自国の王女を魔物の嫁にしたがるもんか」


「医師もそう思ってクリオテナさまに訊ねたそうです。答えは『術を掛けた魔法使いが落命すれば人間に戻るそうよ』だった」

「なるほど、カテロヘブに掛けられた魔法を解術してからフレヴァンスの配偶者にするってことか。殺される魔法使いって誰なんだろう?」

「何も考えなければわたし以外の誰かですね」

「そうだな、さすがに王太子の命を奪えやしないからな」


「でも、そう考えると、魔法使いを殺したことにしてしまえば済む話です」

「魔物になったカテロヘブをザジリレン側に見せなきゃならないわけじゃない」

「そもそも、人間を魔物に変える魔法なんかない――でも魔法に(うと)いザジリレンなら信じると見込んだ」

「本当にクリオテナは信じてるのかな? もし信じたとしても、そんな重要事項を王宮医なんかに漏らすだろうか?」

「えぇ、そのあたりも不自然ですね」


「医師の名は?」

「スリメンテランドです。ご存知ですか?」

「あぁ、そんな名の王宮医がいる。会ったこともある。皮膚疾患が得意だ……王宮医と言っても街中で開業してて街人も診るから、身分に左右されない名医って言われてるな」


「部下の下調べと一致してます――部下は薬剤師としてスリメンテランドに雇用されました。皮膚用の軟膏の調剤が得意だと売り込みました……診療のために王宮に出向いた時にでも、クリオテナさまから話を聞いたのでしょう」

「うん。クリオテナは子どものころから皮膚が弱かった。すぐに湿疹ができるし、(あせ)()にもなり易い。スリメンテランドが呼ばれることもしばしばあった」


 ここで暫くピエッチェが黙り込む。考え事をするとき黙り込むと、いい加減気が付いているラクティメシッスが、

「何を考えているのですか?」

とピエッチェに問う。


「いやね……スリメンテランドが本物だとしたら、クリオテナが偽者なのかなと思ってね」

「例の人間に化ける魔物だと?」

「それも考えにくいかなぁと。クリオテナは王家警護隊が常に守っている。私室に不審者を入れるはずがないんだ」

「うん?」

ラクティメシッスがハッとする。


「王家警護隊って、ジジョネテスキが隊長だった?」

「あ……そうだった。後任は誰なんだろう?」

「えぇ、それによっては警護に穴があるかもしれません」

「うーーん……」

またもピエッチェが考え込んだ。だが、今度はラクティメシッスが問いかけるより早く口を開いた。


「なにしろ! 今はレシグズームだ。決行は明後日、同時に各所の同志に行動を起こさせる」

「いや、ピエッチェ。明後日は急すぎるのでは? 我らはともかく、各所の同志は準備が間に合わないんじゃないでしょうか」

「トロンパが動いたことにより次は自分たちだと、言われなくても準備を進めていると思う。もしも不足なら、少しくらい遅れたっていい――チュジャバリテへの伝言を部下に頼めないか? アイツに言えば各地に散っている同志に連絡が付くはずだ」


「部下に命じることならできますが、チュジャバリテがわたしの部下を信じてくれるかどうか……」

「チュジャバリテに『カボチャが決めた』って言えば、必ず信じる」

「カボチャ?」

「カボチャって硬いだろう? だから頭の固い俺はカボチャなんだってさ」

苦笑するピエッチェ、『あっ!』とカッチーが声をあげた。


「それで『得意料理はカボチャパイ』って入隊志願書に書くよう言ったんですね?」

カッチーがピエッチェを見るとラクティメシッスも

「あの時、トロンペセスも『旨いカボチャパイがある』とかって言ってましたね」

半ば呆れて笑う。


「あぁ、カボチャをパイで包む。つまりカテロヘブを守ってるってことさ」

ニヤリと笑うピエッチェ、ラクティメシッスがチュジャバリテへの伝言は任せてくださいと微笑んだ。


「ですがピエッチェ、同志たちをどう動かすのですか? そのあたりを明確に指示しないことには、彼らだって動きようがないでしょうね」

「んー……そうだな、隊列を組んでカッテンクリュードを目指すだけでいい。が、手前までだ」

「国軍に阻まれて合戦になるのでは?」

「ザジリレン国紋章旗を掲げさせよう」

「国軍を騙らせる?」

「騙りじゃない」

ピエッチェがフフンと鼻を鳴らす。


「ザジリレン国王カテロヘブの名で動かす――それなら同志たちは国軍だ」

なるほど……ラクティメシッスがニヤリと笑った。

「しかしピエッチェ、カテロヘブ王に命じられたと、どうやって証明させるつもりなんですか?」


「あ……」

痛いところを突かれ、ピエッチェが悔しそうな顔になる。

「書付を渡せばいいと思うんだけど、それをどうやってそれぞれの隊に届けるかが思いつかない」


 ラクティメシッスにもいい考えがなさそうだ。すると、

「鳥さんに頼めばいいよ」

と言ったのはクルテだ。ローシェッタ国・聖堂の森で、クルテの手紙をキジが運んで来たことを思い出したマデルが、

「でも、相手が判らなきゃ届けられないって言ってなかった?」

とクルテに訊いた。


「街中に居る小鳥は人間の事情に精通している。それに鳥は知能が高い。自分が知らなくても、他の鳥に訊いて探し当てる知恵がある」

「そんなものなんだ?」

信じていいのか迷うマデル、ピエッチェはクルテを疑わない。


「それじゃあ、書付が出来上がったらクルテに預ける……うーーん、隊がいくつになるのかが判らなきゃ、何通用意すればいいかが判らないな」

「それこそトロンペセスかチュジャバリテに訊けばいいんじゃ?」


 同志たちの隊をどう動かすかを話した後は、レシグズームへと話題が移った。


「ジャムジャンヤとレシグズームを隔てる山は、コッテチカの山よりも低い」

とピエッチェが言えば、

「レシグズームに潜入させた部下からは、これと言った変化はないと報告が来ています」

ラクティメシッスが続く。


「やはり山から襲撃しますか? もちろん十七騎でですよね?」

「もちろん。多ければ多いほうが印象に残る――山から入って山に逃げ込む」


「コッテチカと違って、レシグズームを駆け抜けた先はスットイッコ国との国境。出てきた山に戻りますか」

ラクティメシッスがうっすら笑う。

「キャビンを道具屋に取りに行かなきゃなりませんもんね」

「うん、レシグズームの街中をあちこち走り回った後は、ばらけて森に入る。魔法使いたちはそれぞれ次の目的地に、思い通りのルートで向ってくれ」


「わたしたちは馬車に乗り換えるってことですね?」

「問題は、俺たちが使った馬をどうするか、だな」


「不要の馬は部下に任せます――どうします? 馬車を牽かせるのはリュネだけでも充分そうですが?」

「馬車を牽かせるだけならばな。この先、騎乗して動かなくちゃならない時もあるかもしれない。でも五頭も連れて行くのはどうだろう?」

「あぁ、それで三頭建てってことだったんですね――道具屋も言ってました。二頭でも三頭でも好きなだけ繋げって。二頭だけ引き取らせましょう」

ラクティメシッスが決めてしまった。


 寝室に戻ってジジョネテスキとトロンペセスに連絡するピエッチェ、ラクティメシッスも自分の寝室で部下と連絡を取っているだろう。


 さて、王の命令だと証明する書付はどんな文面にしたらいいか? 紋章印を隠した指輪を撫でながら考えるピエッチェだった――

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