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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
18章 ピエッチェ盗賊団

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 ジャムジャンヤ街道をひたすら走る。とは言っても、周囲に人影がある場所での疾走は避けた。集落や農地の傍を通る際はのんびりと馬を歩かせ、気ままな旅行者を演じた。馬を疾走させてジャムジャンヤに向かう一行が居た、などと役人に報告させないためだ。


 懸案だった馬車の購入はジャムジャンヤでと考えている。レシグズーム襲撃前に購入し、どこかに預けておきたい――


 いったい誰が発想したのか?……ジャムジャンヤの街で訊いた話に愕然とするピエッチェ、ラクティメシッスでさえ顔色を変えた。

「それ、本当なの?」

クルテがピエッチェにしがみつく。宿の受付が聞かせてくれた噂話の恐ろしさに震えあがっている……が、クルテが怖がっているのは見せかけだ。


「いやね、わたしだって()に聞いた話だから、そのあたりはなんともねぇ」

聞かせてくれたのは宿の(おか)だという初老の女、

「だってさぁ、あのお優しいって評判のおかたが魔物に? 誰だって信じたかないよ」

暗い顔で『これが部屋の鍵』とカウンターに乗せ、置かれていた(かね)を拾って片付けた。


「でも……人が魔物になるなんてあるのかしら?」

「そんな難しいこと、わたしにゃ判らないよ。でもさ、みんながそう言ってる。それに理由ももっともだ」

「理由って?」

「未だに冷たい水の底、それを恨んでる――だいたい、湖に落ちたのだって魔物に憑りつかれたから、そしてその魔物に対抗するために魔物になった。ありそうな話だろう?」


「それにしても、全身が輝いている?」

「あぁ、身体が()がねいろの毛で覆われたデカい山犬、長い尻尾を振り回して背中にはタテガミもある。だけど二本足で立つし、剣や弓も使えるんだってさ」

「それが元は人間だった? 初めから山犬なんじゃなくって?」

「あんた、山犬が人間を従えるはずないだろう?――あ、いらっしゃい。三名さまでいいのかな? 部屋はいくつ必要だい?」

次の客が入ってきて、そちらに声をかけてから女将はクルテに言った。

「お茶の用意はそこにあるから自分たちで好きにしとくれ……この話がもっと聞きかかったら街に出るといいよ」


 部屋に荷物を置いてすぐ街に出た。宿の女将の様子から、話はどこででも聞けそうだ。まずは馬車を確保することにした。


「三頭建ての馬車にする? あんた、馬は?」

「なければ二頭建てでも構いませんよ。馬はあります――八人乗れるキャビンはありませんか?」

栗色のウイッグをつけたラクティメシッスが微笑む。ピエッチェ盗賊団には金髪の男がいる、そんな噂が流れているのを知って、念のため髪を隠した。


「フン! 今あるキャビンは六人乗りまでだ。二頭だろうが三頭だろうが好きに繋ぎゃあいい。八人乗りが欲しいなら、王都から取り寄せるしかない。十日かかる。急ぐなら駅馬車みたいに荷馬車を改造すりゃあいい。荷馬車ならたくさんあるぞ」

道具屋は、どうにもラクティメシッスが気に入らないらしい。


 マデルとクルテ、二人の女を連れている。さらに従者も二人、どちらも若い。すぐにでも隣国との(いくさ)が始まろうってときに金持ちの貴族さま、しかも若いのに軍人になりもせず、女を連れてご旅行ですかと呆れている。


「ほかの店に行っても同じだぞ。ジャムジャンヤで貴族が乗るような馬車を扱ってるのはうちだけだからな。取り寄せてくれるだろうが、待ち時間はどこも一緒だ」

その言葉にピエッチェが頷くのを見て、ラクティメシッスが購入を決めた。


「判りました、六人乗りで構いません――で、数日預かって欲しいのですが、お願いできますか? 代金はこの場でお支払いします」

「馬を連れて取りに来るってことだな。数日って、何日くらいだ?」

「それはまた連絡します。ジャムジャンヤを見て回って、飽きたらって頃ですね」

舌打ちする道具屋、さらに反感を買ったらしい。飽きるまでご遊行ですか? それでも、

「いいさ、どうせ置いとくだけだ」

預かりを了承してくれた。


 道具屋を出てから菓子屋・パン屋・果物屋・花屋に行って、居酒屋で夕食を摂った。居酒屋で聞こえてきた話も宿屋の女将が言っていたのと同様の話、中には黄金の山犬は山ほどの大きさだってのもあった。そんな話、誰が信じるんだ?


 山ほどデカい魔物に襲われれば街は瞬時に崩壊するぞ? が、それでもジジョネテスキ率いる国軍が追っ払ったって話になっている。さすがはザジリレン国軍だジジョネテスキさまだと、感心している者もいる。


 コッテチカ襲撃から四日目だ。ジャムジャンヤに着くまでに、噂話の尾鰭がどんどん大きくなるのを感じていたがこれほどまでとは思っていなかった。宿に戻ると重苦しい疲労を感じて、ぐったりとソファーに腰を下ろした。クルテだけはピエッチェの隣にちょこんと座り、買ってきた花籠をニマニマと嬉しそうに眺めている。他はみな『どんより』していた。


「それにしても、凄いことになっていますね」

ラクティメシッスが苦笑する。

「ピエッチェの正体が魔物だとは……突然姿を消したからでしょうか?」


「ラスティンの部下の仕業ではない?」

ピエッチェの疑問に

「まさか! コッテチカが盗賊団に襲撃されたと言いふらせと命じましたが、それだけです」

ラクティメシッスがウンザリと答える。

「だいたい、ピエッチェが実はカテロヘブ王だなんて噂をわたしが流すと? 自分の首を締めるようなものです」


 水底に沈んだままなのを恨んで、カテロヘブは魔物になった。そして盗賊団を率い、コッテチカを襲った――ジャムジャンヤではそんな話になっていた。トロンパ襲撃の噂は届いていないのか無視されたのか、いっこうに聞かない。切り離されているようだ。


 溜息を吐いてマデルが立ち上がり、宿に入るとき持ってきたティーセットに手を伸ばす。菓子袋を覗き込み、クルテがムフッと笑んだ。


「もしもだ」

ピエッチェがにがにがしげに言った。

「カテロヘブ王が魔物になってザジリレンで暴れているんなら、ローシェッタに攻め込む理由がなくなるな」


「そうですね。ザジリレンがローシェッタに攻め込む理由は『王を返せ』ってことですから。でも、王宮がこんな噂を鵜呑みにするとは思えません」

マデルからカップを受け取りながらラクティメシッスが答える。

「ピエッチェ盗賊団とカテロヘブ王を結び付けて考えている点が気になります。わたしは部下にピエッチェが王だとは明かしていません」


「カッチーを()()()()()()ュー()()に送り届けるのが任務だったな……なんでカッチーを護送することに?」

「ザジリレン王家に繋がる人物だとしました。前王の妹王女が行方不明になっていますよね? それを利用させて貰いました」


 危うく表情を変えそうになるピエッチェ、クルテが

「型焼きケーキでいい?」

と見上げ、寸でのところで回避する。


 クルテに『おまえが食べたいものでいい』と答えてから、ラクティメシッスに言う。

「確かに父には妹がいた。だが病死している。行方不明ではない」


「えぇ、公式にはそう発表されていますね――ジランチェニシスやノホメについて調査させていた部下からこんな報告がありました。ザジリレンでは数代おきに『失われた王女』と言う〝現象〟が起きている」

「なんの話だ?」

ピエッチェがラクティメシッスを睨みつける。だがラクティメシッスは気にせず続けた。


「失われた王女……王の娘が生きているのか死んでしまったのかさえ判らない。それを恥とした数代前の王が、いなくなった自分の娘を病死したことにした。まぁ、真偽のほどを追及する気はありません」

フッとラクティメシッスが微笑む。

「カッチーを王都に送り届ける口実に使っただけです。死んだはずの王女が産んだ子がカッチー、カテロヘブの所在が判らなくなったことで王位継承権を主張するため、ザジリレンに帰国させる。辻褄の合う話でしょう?」


「魔法使いたちは信じていると?」

「もちろんです」

「でも、それだと自国で育ったカッチーを利用して、ローシェッタがザジリレンに干渉しようとしている話になるが?」

「カッテンクリュードに入る時は、カッチーではなくカテロヘブを護送してきたと真実を告げます。あなたとの約束です」


 そうだ、そうだった……ラクティメシッスがカッチーの素性を探るはずがない。探る理由がない。動揺した俺が馬鹿だった。


 クルテのお陰でラクティメシッスは俺の動揺に気が付いていない。カッチーも目を白黒させていたが、そう言うことかと落ち着きを取り戻している。だけど……カッチーの父親を突き止めてからの話だが、実は今の話の一部は真実だと、いつか教えなくてはならない。


 クルテがピエッチェを見上げる。

「ねぇ、この型焼きケーキ、切り分けるんじゃなくって、一個分ずつ型に入れて焼くんだって。いろんな形の型があるんだよってお菓子屋さんが言ってた」

「ん? あぁ、貝とか星とかいろいろあるな。箱に入れて焼く型焼きケーキより、バターや卵を多く使ってる。少し甘めだ」


 貝と訊いてラクティメシッが立ち上がった。

「ほかの街ではどんな噂になっているか、部下に訊いてみます」

二枚貝の連絡具を使うのだろう。寝室に入っていった。


「ねぇ、マデル?」

クルテがマデルにケーキの皿を差し出しながら訊いた。

「なんでラスティンは貝殻を使うとき、いつも隠れちゃう?」


 あぁ、とマデルが笑う。

「恥ずかしいらしいよ。なぜかラスティンって、あの連絡具は苦手らしくってね。使うときムスッとした顔になっちゃうの」

「へぇ……ラスティンにも苦手があるんだね」

「そりゃそうよ」


「ほかにもある?」

「どんな魔法が苦手かなんて、クルテにだって教えられないわ」

「魔法じゃなければ?」

「そうね……犬が苦手」

クスッとマデルが笑う。

「子どもの頃に追い掛け回されて、それ以来怖いらしいわよ。少しの間なら平気な顔してるけど、近づいてきたら真っ青になって逃げちゃう」


「あ、それ、小型犬だろうが子犬だろうがダメなんでしょう?」

カッチーが型焼きケーキを頬張りながら言った。

「俺の友達にもいます。どうしてもだめだってヤツ。こんなに可愛いのに? って言うと、可愛かろうが怖いんだよって涙ぐんでました」


「そうなのよ。ラスティンも泣きそうになってる」

マデルが笑う。

「でもね、猫は全然大丈夫。幼児体験って怖いよね」


 犬が怖いんじゃ、でっかい山犬なんてとんでもないな、とピエッチェが思っていると、乱暴に寝室のドアが開く。ラクティメシッスが戻ってきたのだ。


 慌てて口を閉ざすマデルとカッチー、だがそれどころじゃなかったらしい。

「ピエッチェ! カッテンクリュードが大変なことになってます!」

ドアを閉めもせずに叫ぶラクティメシッス、顔つきも厳しい。


 王都で何が起きた?――ピエッチェが茫然とラクティメシッスを見上げた。

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