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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
18章 ピエッチェ盗賊団

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 コッテチカの宿の窓から、ジジョネテスキは眼下の大通りを眺めていた。大通りでは行軍訓練が行われている。


 街で一番大きな宿を丸ごと借り上げ、軍本部として使っている。この部屋は最上階の三階、指令室兼ジジョネテスキの私室だ。居間を指令室とし、寝室を私室としていた。


 コッテチカの街は軍兵で満杯だ。もっと兵が欲しいとゴネていたが、いくらなんでもこれ以上、ここに留まるわけにもいかなくなっている。とりあえず、新参はキャルティレンぺスで待つよう指示した。だが、向こうに留め置ける数も限られている。順次コッテチカを出て(はら)から街道をローシェッタ国に向けて出立するしかない。


「では……明日早朝、コッテチカの関所を通過するということで?」

傍らで副官がジジョネテスキに確認する。

「そうしてくれ、ドロギャス」

答えながらジジョネテスキが思う。ドロギャスってどこの出身なんだろう?


 僅かな訛りはどこの地方だ? ザジリレンではないような?――ドロギャスに初めて会ったのはカッテンクリュードだった。連れてきたのは軍関係の仕事に就いたことがない()(リア)()(ート)()

『軍を離れていたから勝手の判らないこともあるんじゃないか? ドロギャスに訊くといい』

ジジョネテスキを見ずにそう言った。


 もともと痩せ型だが、ネネシリスはまた痩せた。そして(やつ)れていた。やっぱりコイツも誰かに脅され、自分の意思では動けずにいる。そしてドロギャスは脅しているヤツの配下に違いない。つまりドロギャスはわたしの監視と言うことだ。


 日誌を書くのは僅かな隙間時間を使っていた。ドロギャスに見られてもいいようにレシピに見せかけた。

「こんな時に料理ですか?」

ドロギャスの厭味に

「これで心に余裕ができるんだ。趣味ってのは役に立つぞ」

笑って答えた。

「そんなもんですかねぇ」

怪しまれたとは思えない。本当に、趣味ってモンは役に立つ。密かに(ほく)()()むジジョネテスキだった。


 カテロヘブからの返信は私室で一人きりの時に確認していた。突然文字が現れるのを見られるわけにはいかない。不思議なことにカテロヘブが書いたはずの文字もジジョネテスキの筆跡になっていた。もちろん暗号、しかもレシピに対応したメモに見える。日誌を落としてページが開いてしまっても心配ない。


 日誌は常に手近に置いた。書き込みがあると、やはり不思議だが頭の中で『早く読め』と声が響く。もっとも、不思議はローシェッタの魔法だと判っていた。


 もちろん、ドロギャスのこともネネシリスのことも日誌に書いた。だがカテロヘブは『判った』としか言ってくれなかった。それに不満があるわけではない。が、警戒するしかないのは判り切っているものの、ドロギャスをどう扱えばいい? 難しい案件に、指示が欲しいと感じていた。 


 大通りでは行軍演習がまだ続いていた。ドロギャスはすぐそこで、同じように窓の外を見るふりをしてジジョネテスキを監視している。そして……ジジョネテスキの頭の中で『早く読め』と聞こえた。


「暑くなりそうだ。着替えるかな」

「どうせこの部屋にいるのだから我慢したらどうです?」

「硬いことを言うなよ」


 ブツブツ言うドロギャスを無視して私室に入る。さすがに追ってくる様子はなかった。が、きっとドアの向こうでこちらの様子を窺っていることだろう。けれど日誌を捲るだけだ。せいぜい少し書き込むだけだ。気付かれやしない。


 日誌の新たな書き込みを読んで()()笑いそうになるがドロギャスを憚って、笑う替わりに心の中で呟いた。

(王よ――頼もしい仲間を手に入れましたね)


 知らされた計画は間もなく実行されるだろう。了解、と暗号で書き込んでからクローゼットを開ける。

「さてと、どれにしようか?」

服を選びながらジジョネテスキは、ニヤニヤ笑いを止めるのに苦労していた――


 いっぽうピエッチェはラクティメシッスたちと離れて、クルテと二人きりで行動していた。二人きりではないか、リュネも一緒だ。相乗りし、見えず聞こえす魔法をクルテが使った。ラクティメシッスたちと部下の魔法使いはコッテチカ間近の木立の中に、やはり見えず聞こえず魔法で隠れたままだ。こちらはラクティメシッスが魔法をかけた。


「あの建物が国軍本部だな――窓際にジジョネテスキがいる」

クルテの呟き、促された先には大通りの行軍訓練を眺めるジジョネテスキがいた。

「横に居るのがドロギャスだろう――どう思う?」

ピエッチェがクルテに訊いた。

「ただの人間。判ってるんだろう? 訊くな」

フン! とクルテが鼻を鳴らした。


「しかし……真っ赤な軍服? 何か式典でもあるのかな?」

「今の政情だと、もしあるなら開戦時の宣戦布告式。でもそんなはずはない」

クルテの疑問にピエッチェがニヤッと答える。

「ジジョネテスキのヤツ、できるだけ目立つ服を選んだんじゃないかな?」

「なるほど、それほどわたしに射抜かれたいって?」

「まぁ、そんなところだろうさ」


 リュネが軍本部、しかもジジョネテスキの真ん前で止まった。ピエッチェが降り、クルテの下馬を手助けする。もちろん魔法は解除していない。


 コッテチカの区画割は複雑だが、建物はすべて三階建ての平屋根だ。高さも決められている。ないとは思うもののローシェッタからの侵攻を懸念しての街づくりだった。有事に建物の高さが均一で平らなら、屋根の上での水平移動が可能となる。ピエッチェはそこに目を付けた。そう、リュネが停まったのは軍本部正面の建物、もちろん屋根だ。空を飛べるリュネがいるから可能なことだ。


 行軍は部隊ごとらしい。今、前を通った部隊の後方には、距離を置いて次の部隊が続いている。

「前にいるヤツ等の最後尾が向こうの建物に着いたら、だ」

ピエッチェが言うと

「判った」

とクルテが弓の張り具合を確かめる。背中の矢筒にあるのは十数本、侵入経路の検討に行った時、摘んできた花を矢に変えた。


 夕刻とは言え、日没にはまだ早い。夏の暑さは消えていない。こんな暑さの中での行軍はきついだろうな……つい兵に同情するピエッチェ、それでも厳しい視線は揺らがない。

「そろそろだな」

クルテが弓に矢をつがえ、キリキリと狙いを定める。狙うのは国軍総司令ジジョネテスキ、

「今だ!」

ピエッチェの号令、途端にピエッチェの見えず聞こえず魔法が解除された。見えないクルテが矢を放つ。が、弓を離れた途端、矢だけが見えてヒュン! と風を切る音を立てた。


「ジジョネテスキ!!!」

ピエッチェの叫び声、窓辺のジジョネテスキが視線をあげ、迫る矢に気が付く。


 大通りの兵たちが浮足立って行軍を止める。誰かの叫び声、これからこちらに来ようとしていた部隊が一斉に走り出す。過ぎ去った部隊では最後尾から最前列にいるはずの部隊長への伝令の声が上がった。


 咄嗟にしゃがみ込んで矢を回避したジジョネテスキ、部屋の床に突き刺さった矢を見て蒼褪める。

「指令、お怪我は!?」

ドロギャスがジジョネテスキに駆け寄って庇う姿勢を見せた。が、二本目の矢が床に刺されば、二人して窓の下にへばりつくしかない。


 外部で聞こえる喧騒、近づくのは軍靴の音、が、それが急に止まった。近寄る兵たちの足元の地面には次々と矢が飛んでくる。射ているのは一本だが、途中で何本にも分裂している。この距離なら、最初から数本の矢が居られたと思うだろう。その矢を恐れて進めなくなった。歩兵ばかりだ。これが騎士なら矢など叩き落として先へと進む。


「俺はピエッチェだ!」

屋根の上でピエッチェが大声で宣った。もちろん兜と鎧を着用している。あそこにいるぞ! 大通りで誰かが叫び、みなが一斉に屋根を見上げた。

「ローシェッタと戦だと? ふざけるな!」


 窓に隠れたジジョネテスキ、難しい顔で唸った。そうしなければ笑いそうだ。カテロヘブだと判ったいるからかもしれないが、声はどうしたって誤魔化せないんだなと思っていた。


 ピエッチェの叫びは続く。

「今すぐカッテンクリュードに兵を引き上げろ! でなきゃおまえの命はない!」


 大通りには弓兵が来たようだ。ピエッチェを狙っているのが見える。軍本部の他の窓からも兵が顔を出した。クルテがそちらにも矢を放つ。矢が宙から飛び出し、何本にも分かれるのが見える距離だ。


「ローシェッタの魔法使いでしょうか?」

ビクビクしながら外をそっと覗き込んでドロギャスが呟いた。

「おい、頭を射抜かれるぞ」

ジジョネテスキがドロギャスを引っ張った。途端に、覗き込んでいた窓の外壁に矢が刺さり、ドロギャスが『ヒャッ!』と尻餅をつく。ジジョネテスキがとうとうニヤッとした。ドロギャスは自分が笑われたと思っただろう。だが違った。


 窓に背をつけていたジジョネテスキ、部屋の中がよく見える。一番最初の矢が消えていた。目を凝らして床を見ると一片の花びらがあるだけだった。


 街中に広がってきた兵たちが、一報を聞きつけて軍本部に集結してくる。見えはしないが気配や靴音、伝令の声でそれが判る。ピエッチェとクルテが陣取った建物にも大勢の兵が入った。屋根のハッチが開けられるのもすぐだろう。


「そろそろ行こうよ」

クルテがリュネに飛び乗った。ピエッチェは周囲を見渡してもう一声あげる。

「おまえら! カッテンクリュードへの行きかたを忘れたのか!? こっちだ、ついて来い!」

ピエッチェもリュネに飛び乗った。と、リュネに掛けられていた見えず聞こえず魔法も解除される。よほど魔力の強いものでなければ、リュネに乗っているのはピエッチェだけにしか見えない。


 あの馬はいつ、どうやって屋根の上に現れたんだ? 見上げる人々が息を飲む。そして屋根につけられたハッチが開く。ピエッチェが手綱を引いた。

「こっちだ! ついて来い!」

屋根上を行く馬、それに乗りニヤニヤと笑う男、しかも人相がよく判らない。ハッチから最初に出てきた兵は唖然とし、動けなくなった。


 動けなくなるのは軍本部の窓から矢を狙っていた弓兵も同じ、だが、こちらのほうが気を取り直すのが早かった。次々に矢を射かけてくる。が、届かない。やっと届いてもピエッチェの剣が次々に叩いては落としてしまう。


 建物の端にリュネが辿り着く頃、やっとハッチからぞろぞろと兵が出てきた。剣を振り翳しピエッチェを追う。追い詰めたぞ! 叫ぶが聞こえる。もちろん追い詰められやしない。ピエッチェがニヤリと笑い、リュネが屋根を蹴る。軽々と隣の建物に飛んでいく。


「王都に行くなら、コッテチカ街道だ!」

ピエッチェが高笑いとともにゆっくりリュネを歩かせた。屋根にあがった兵たちが降りるためにハッチに殺到している。地上では『コッテチカ街道口だ!』と伝令が走り、兵も走る。


 それを見てニヤニヤするピエッチェ、国軍は狙い通りに動いてくれた。あとはラクティメシッスたちだ――

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