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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
18章 ピエッチェ盗賊団

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 トロンパ村の朝は遅い。険しい山に囲まれた地形で太陽が差し込むのが遅いということもあるがそれ以前に、かつてこの村を我がもの顔で支配していた連中が昼を過ぎなければ起きだしてこなかったからだ。


 その連中は盗掘などの(とが)で先ごろ一掃されて村には居なくなった。が、そう簡単に生活習慣を変えられるものでもない。


 そしてまた、暮らしとは綺麗ごとでは収まらないものだ。罪人たちが村を経済的に潤していたことを否定できる者はいなかった。罪人たちが居なくなり、トロンパ村は急激に困窮していった。店を畳むか迷う者まで出てきていた。


 ところが、捨てる神あれば拾う神あり、盗掘一味が消えた村に、またも人が集まり始めた。驚くほどの安価で間貸しを始め物好きが居て、そこにポツポツと入居する者が出てきたからだ。間貸しに使われたのは盗掘一味の親玉が所有していた宿、買い取ったのが誰かは村人も知らない。採算が取れるのだろうかと危ぶむ村人もいたが、罪人が所有していた宿だ。買い叩いたのだろうと納得するしかなかった。


 人が集まれば村も活気づく。各店は徐々に利益が増えて行き、経済が回るようになっていった。だが不思議なことに、間借りしている新参者たちに働いている気配がない。だからわざわざ朝早くから店を開ける必要もなかった。


 どうやって日々の(かて)を入居者たちが手に入れているかの疑問は残った。狭いトロンパ村、働き口はそう多くない。もっとも新入りたちには職を探している様子も、生活に困っている様子もない。きっと裕福で金に困ってない者にしか部屋を貸していないのだと、これも村人たちは無理やり納得した。


 村人たちは知らなかった。宿を買い上げたのはジジョネテスキに依頼されたチュジャバリテ、入居人を集めたのはトロンペセスだということを――


「あれ?」

(かぶと)(かぶ)ったピエッチェを見て、ラクティメシッスが首を捻った。

「お嬢さん、いつの間に魔法を使ったんですか?」

そう言って面白そうに笑う。


「魔法?」

それを聞いてピエッチェも首を(かし)げる。

「軽量と温度調整の魔法を使うと言っていたけど、笑うようなことか?」


「あぁ、確かに。その二つの魔法も感じます――何も聞いてないんですか? 頬当てに隠されているだけじゃなく、目元や口元にも影が落ちて、人相がさっぱり判らなくなってますよ」

「へぇ……まぁ、そのほうが都合がいい」

「しかし、いったいいつの間に掛けたんでしょうか? ま、十五人も魔法使いが居るんです。誰かが魔法を使ったって、気にしません。だから気付かなかったんですね」


 先頭で降りて行くのはピエッチェとラクティメシッス、続いてラクティメシッスの部下、中間にクルテとカッチー、そして最後尾はにマデルとマデルの護衛フワッキャスだ。クルテはピエッチェの隣に並んで降りることになっていたのに勝手にカッチーの横についてしまった。その位置に着くようラクティメシッスに言われていた魔法使いがクルテに抗議しようとしたが、

「そのお嬢さんには好きにさせてあげてください」

とラクティメシッスに言われ、後ろに下がった。ムッとした表情が気になったが、ラクティメシッスの部下だ、ピエッチェは何も言わずにいた。


 そもそも決められたところに居ないクルテが悪い。どうも今朝からクルテは勝手が多すぎる。勝手に馬から(くら)を外し、勝手にそのあたりをフラフラしては魔法使いたちをじろじろ見ていたり、ひんしゅくを買うようなことばかりしている。


 外した鞍をそのへんに放置していたし、じろじろ見られた魔法使いが『何か御用ですか?』と丁寧に訊いても無視してソッポを向いていた。喧嘩を売っていると取られるんじゃないかと、ピエッチェとしては心配だ。しかも呼んだって戻って来ない。


「喧嘩でもしたのかと思ったんですが、そういうわけでもないようですね」

ラクティメシッスが、ピエッチェに寄り付かないクルテを言った。


「うん、俺にもさっぱりだ」

「騎乗する馬を決めてからですよね」

そう言われてみるとそうかもしれない。


「まぁ、俺には判らない何かがあるのかもしれないな」

「緊張してるのかな、とも思ったんだけど、そうでもなさそうだし――つくづく不思議ですよね、あのお嬢さんは」


 まぁ、確かに不思議なところはたくさんあるが、ラクティメシッスはクルテの何を不思議がっている? 下手なことは言えないと、密かにピエッチェが緊張する。


 そんなピエッチェを横目で見て、ラクティメシッスがニヤリとした。

「コテージで訊いたカッチーの話なんですが――」

ラクティメシッスが最後まで言わずに言葉を切った。

「あそこ! 合図です」


 ピエッチェも気が付いていた。ピカッと光った後にピカピカっと二回光った。それが繰り返されている。打ち合わせ通りの合図、崖くだりの始まりだ!


 ラクティメシッスが片腕をあげ、上げた腕を振り下ろした。すぐに手綱を握り、馬の腹を蹴る。ヒヒンといななく馬、ひるんだようだがそれも一瞬、すぐに足を前に踏み込んだ。


 崖をくだるルートは決めてある。ラクティメシッスにさして遅れずピエッチェも馬の腹を蹴った。背後に続く馬の嘶き、ドドドっと地響きが聞こえそうだ。砂煙くらい上がっていてもよさそうだ。


 遠くトロンパ村から叫び声が聞こえた。

「あれはなんだ!?」

一度や二度じゃない。三度? 四度? それが次第に悲鳴に変わっていった。


――トロンパの村長が難しい顔で(うつむ)いている。前村長が例の罪人との癒着によって更迭された後任、村長になって間がない。前村長はワッテンハイゼで拘留中だ。


 今、助役を呼んでいるから返答を待ってくれとピエッチェたちを恐る恐る見たきり俯いて、ずっと床を見ている。


 トロンパに入ってすぐに捕まえた村人に案内させた村長の家、捕まえたと言っても道を訊ねただけだ。逃げようとしたので、逃げるなと言ったらガタガタ震えながら従った。逆らえば殺されるとでも思ったか?


 不意打ちのように村長の家に入り込み、要求を突き付けた。だが煮え切らない答えしか返ってこない。


「なぜすぐに返事ができない? わたしたちは十七人、今夜この村に宿泊したいと言っている。十七人分くらいの部屋と飲食物の用意くらいできるだろう? それと馬付きの荷馬車も一台欲しい。それとも馬車を扱う店がないのか?」

「いや、しかし……」


 しかしなんだと言うのだろう? まぁ、村長が縮こまるのは判らなくもない。女五人を含めた十五人にグルリと囲まれ、『どうなんだ?』と詰め寄られている。男の中にはごついのも数人いるし、首領らしき若い男はがっしりした体つき、しかも(かぶと)を被っていて人相がよく判らない。きっと、自分の中の恐怖心が、見えない顔を()()恐ろしく想像させてしまっている。さらに家の前では馬番をしている男が二人いる。村長に逃げ道はない。


 と、ピエッチェの後ろで

「お(なか)がぺこぺこ。お菓子でいいから何か食べたい」

と声がした。クルテだ。


「は、はい! 今すぐ何かお持ちします!――おい、誰か! グリンピレ菓子店に走って行って来い! (かね)は後で渡す!」

村長が声を裏返して言った。すぐさま部屋の隅に居た村人が大急ぎで部屋を出て行った。


 部屋には他にも四・五人の村人、これも途中で拾ってきた。ラクティメシッスの部下たちがどこに何屋があるか訊こうとしたが、村長に教えてもいいか確認してからじゃなければ教えられないと、やっぱり震えながら答えた。だからここに連れてきた。


 村長の家も店の在り処も、実は判っていた。先行潜入したラクティメシッスの部下が調査済みのことだ。道を尋ねたのは村人たちにピエッチェ盗賊団を印象付けるための芝居だ。村人が揃って『あの盗賊団は恐ろしかった』そう思ってくれればいい。そして村を去った後、なにひとつ自分たちは被害にあっていないことに気付けばいい。だがこんな展開だ、ピエッチェたちがトロンパにいる間、可哀想だが村長は全責任を負わされることになる。


 まぁ、大した責任じゃない。何しろ本来は警備隊の仕事だ。だが、その警備隊は不在、村人は村長を頼るしかない。頼られた村長はなんとかするしかない。それが村長を任じられた者の役目だ。


 菓子店に走った村人が、大きな包みを抱えて戻ってきた。

「グ、グリンピレ、事情を話したら(かね)は要らないって」

包みを村長に渡しながら震える声で言った。

「な、なんでわたしに渡す?」

苦情を言う村長の声も震えている。


 ラクティメシッスが苦笑し、部下の一人に向かって顎をしゃくった。するとその部下、村長に近付くと包みをひったくるように取り、ピエッチェの後ろにいたクルテに渡した。村長は恐怖で悲鳴も上げられず固まっている。


 ニマッと笑んで包みを開けたクルテが、例によって中身の数を数えている。それから背負ったサックの中から赤い革袋を出した。手を突っ込むと()()()と掴み、掴んだ物をピエッチェの掌に握らせた。


 自分の手の中にある物を見たピエッチェがラクティメシッスに耳打ちする。クスリと笑むラクティメシッス、部下の一人を呼び寄せる。呼ばれた部下は何か命令されたらしい。頷くと部屋を出て行った――


 村長が呼んだのに、助役はなかなか来ない。村で噂を聞いて、行けば自分も危険だとでも思っているのだろう。


「おぉい、どうするんだ? 助役なんか来ないじゃねぇか」

男の中でも特別ゴツいのが凄味のある声で言った。

「いい加減にしねぇと、日が暮れちまうぞ」

今度はニヤニヤと言う。却ってそのほうが不気味で怖い。


 するとまた別の誰かが

「なんだったらここに泊めてくれたったいいんだぜ?」

なぜか腰に下げた剣を鞘から抜いたり納めたりしながら言った。シュッ、シャキンと金属音が何度か続く。


「そ、村長!」

そこで一人の〝勇気ある〟村人の登場だ。

「あ、あ、あ……あの、あの元宿屋、あそこに空き部屋がありますよ?」


「な、な、何を言う。あの宿の持ち主は誰だか判んないんだぞ? 勝手に部屋を使えるもんか!」

「でも村長……もともとこの村にはあの宿しかなかったんだ。以前は宿で、今は(かし)だ。今夜だけのことなんでしょう? 持ち主はこの村に居ないんだ。バレたりしません!」


 それでも踏ん切りのつかない村長、臆病な善人なのだ。ラクティメシッスがクスリと笑う。

「村に宿はない? 野営の場所を提供してくれるなら、それで手を打ってもいいですよ……焚火してもかまいませんよね?」


 すると村長がますます蒼褪めた。焚火と聞いて、村に火を放つと脳内変換したのだろう。


「わ、判りました! もう助役は待っていられません――心当たりがあるので、すぐ確認させに行きます」

男たちの何人かが『だったら最初からそうしりゃいいのに』とクスクス笑う。


 村長の指示で村人が、部屋から駆け出して行った。

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