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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
17章 選択された祖国

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16

 夕食が終わると

『明日はなるべく早く出立しましょう』

気分が良くないと言ってラクティメシッスは早々に寝室に籠り、

『ピエッチェも早く休んだほうがいいわ』

マデルの勧めもあって、ピエッチェも寝室に入ることにした。後片付けはマデルとカッチーに任せた。ティーセットはコテージの備物だからキッチンで洗うが、使用済みの食器は通い箱に入れて玄関の()に置いておけばいい。だから大した手間でもない。


 通い箱に『明日の朝食は早めに』と書いたメモを入れるようカッチーに言い置いて、ピエッチェはクルテを連れて部屋に戻った。深夜、ベスクの女神に会いに森に行く。仮眠を取ろうと思っていた。


「女神が現れるのは、夜香花になる満月の夜だけなんじゃ?」

「どうだろうね? 森の女神は気紛れだから」

「夜香花と話なんかできるのか? 口がないぞ」

「経験から学んでないな。女神は心の中に話しかけてくるものだ」

そう言われてみると、口を動かし声を出して喋る女神っていたっけ?


「コゲゼリテの女神は?」

「あぁ。母さまは人間大好き、カティのことも好き。だからじゃないかな?」

「俺のことが好き?」


「そうだよ。だから、普通はしない祝福の二重掛けもした」

「二重掛けなんてした?」

「……カティの察しの悪さも相当だね。もういいよ、早く寝ないと時間がない」

納得いかないピエッチェを残しベッドに潜り込むクルテ、なんとなく同じベッドに入る気になれないピエッチェは、かと言ってもう一台にも行けず、ソファーで腕を組んで目を閉じた。


 そして深夜――


 ソファーに腰かけたままのピエッチェがフワッと目を覚ます。横になっているならともかく、腰かけたまま腕を組み、時おり舟を漕ぎはしたが熟睡などできるはずもない。何か夢を見ていたような気もするが、はっきりしない。いい頃合いに覚醒した、そんな気がした。


 コテージ内の気配を探ると、ラクティメシッスとマデルはベッドに入っている。動かないところを見ると多分眠っている。カッチーは心配不要、鼾が聞こえる。そろそろクルテを起こして森に行くか――立ち上がり、ベッドのクルテを覗き込むとぐっすり眠っている。起こしたら可哀想だ……一人で行くか?


 いや、起こさなきゃダメだ。森にはピエッチェだけで行ったところで意味がないように思えた。なりそこないとは言え元々は女神の娘、クルテの助力なしに森の女神に接触できないと感じていた。


 そっと肩を揺すろうとして、ピエッチェがハッとする。今、窓の外で何かが動いた。いや、何かではなく〝光〟だ。離れたところにある光源が移動し、窓をぼんやり照らす光が動いたのだ。


「探す手間が省けたね」

クルテも気付いたらしい。ベッドに上半身を起こして言った。


「あぁ、起こす手間も省けたよ」

ニヤッとピエッチェが笑った。


 そっと窓を開ける。光源を探すと、いつかクルテが夜香花を追った時と同じ動きをしているようだ。建屋の影から光が延びている。ピエッチェが窓から飛び降り、クルテが降りるのに手を貸した。姿を消せなくなったクルテは運動能力もかなり減退している。窓から飛び降りられなかった。


 再度コテージ内部の気配を探るが、誰も気が付いていなさそうだ。ひょっとしたら女神が魔法で眠らせているのかもしれない。ミテスクやバースンの森の女神はピエッチェとクルテ以外を眠らせた。同じ魔法をベスクの女神が使えても()しくない。そう思ったが、なるべく音を立てないよう気をつけて建屋の横手に回った。

 

 角を曲がったところで、ハッと息を飲んでピエッチェが立ち止まる。庭に出てから光源は動いていない。だからそこに目指す相手がいることは予測していた。けれど、こっちを見ているとは思わなかった。


 銀色? いや、白色なのか? 白く輝く長い髪はところどころ金色の光を放っている。涼やかな緑色の瞳は真っ直ぐこちらを見ていた。背はピエッチェより少し高い程度、きっとクルテが遭遇した夜香花の高さと同じなのだろう。


 すらりとした肢体に(まと)っているのは、腰を(こん)じきの紐で絞っただけの長い白布のようだ。そして光の粒が弾けて輝いている。裾は長く、地面に広がっていた。まるで根っこみたいだ……


 ピエッチェの後ろにいたクルテが飛び出して、女神に駆け寄った。あっという間に女神に抱き着くクルテ、女神が腰を折ってクルテを抱きとめる。

「会いたかった……いつかは枝をありがとう。凄く役に立ったよ」

女神はクルテの言葉に微笑んでいる。


【礼を言うのはわたしのほうです】

やはり女神の口は動いていない。なぜか甘い芳香を思わせる声が脳裏に響く。


【本来の命を逸脱した(アリ)()(ゴク)、存在だけでも醜悪なのに、わたしが大切に育んでいる森に恐ろしい窪みを作った。それを追いやってくれました。どれほど感謝していることか】

ピエッチェの身中が不意に熱くなる。女神に祝福されたに違いない。クルテが振り向いてフフンと笑んだ。


「それでね、今日は教えて欲しいことがあってきたんだ」

クルテが女神に向き直って言った。

「ベスクなら、そこのコテージに住んでいた母子のことを知っているでしょ? 母親が誰なのかと、子の父親が誰なのか教えて」


【コテージの母子? 三十五年前にこの村に住むようになった母子のことですね。母親はザジリレン国王女、住み始めて程なく子を産みました。けれど、母親はすでにこの世にいません】


「父親はまだ生きている?」


【さぁ、そこまでは……父親がこの地に足を踏み入れた最後は子が三歳の時です。それ以降、どこで何をしているのか、わたしには判りません】


「えっと……ここのコテージの(ある)のことは知っている?」


【儚き早暁の精霊――今は別の名でしたね。わたしがデッセムを祝福したことに、気が付かないあなたではないでしょう? デッセムがどうかしましたか?】


「彼の父親の父親が誰だか知りたいの」


【それを知ってどうします? デッセムに報せるのですか?】


「まさか! デッセムは何も知らない。それに彼に罪はない――わたしが知りたいのはコテージの母子の母の素性と父親が誰かってこと」


【そこにデッセムの祖父が出てくるということは、デッセムとコテージの少年に同じ血が流れていると勘付いている……】

女神が溜息を吐いた。


【あの男は……わたしの目の前で、子を産ませた女の世話をさせていた女を犯しました。わたしにもっと力があったなら、止められたのに残念でなりません】

ノホメはジランチェニシスの父親に森の中で乱暴された……


【それを知った母親は、女をあの宿の(ある)の息子にあてがいました。わたしの夫を誘惑するなんて、そう女を罵りました】

罵られるのは乱暴を働いた男のほうなのに? ひょっとしてノホメはその恨みを、ジランチェニシスの魔力を歪めることで晴らしたのかもしれない。


【けれど女は気付いていました。これ以上女を苦しめないため、男から引き離したのだと……宿の息子が女に思いを寄せているのを察していた母は、愛が女を守ってくれると考えたのです】


 ん? 思わずピエッチェが女神を見る。それなら話が違ってくる。ノホメはジランチェニシスの母親に感謝していたと、女神は言いたいのだろう。これでジランチェニシスの歪みの原因が、また判らなくなった。


「それでベスク、その男は誰なの? ローシェッタの王族なのでしょう? だからデッセムを祝福した。それなのに、なんでコテージの子は祝福しなかった?」


 女神はすぐには答えなかった。クルテはジッと女神を見詰め答えてくれるのを待っていた。ふっと女神が溜息を吐く。


【男に純潔を奪われたうえ()ごもされた、そんな女への同情が最たるものです】


「最たる、と言うことは他にも理由があると?」


【あなたが思っている通り、男はローシェッタ王に繋がる者でした。けれども男は女神の祝福を一つも獲得していなかった】


「なるほど……」

女神は自分の領域に住む王族を無条件で祝福する、クルテはそう言った。それなのになぜ、ジランチェニシスの父親はローシェッタの王族でありながらどこの女神にも祝福されていない?


 答えはクルテがくれた。

「男は魔物に祝福されてしまっていたのですね?」


 えっ? 魔物に祝福!?


【その通りです。強力な魔物は女神の祝福さえ弾き飛ばし、男を自分のものにしていました。その男の血を引いた子です、わたしはノホメの子に祝福を与えることも(ため)いました――魔物の祝福がどんな形で血に表れるか? それが恐ろしかったのです】


「デッセムの父親は祝福しなかった?」


【祝福したのはあの子が十歳になった誕生日です。魔物の気配は感じられませんでした。けれどコテージの子が漂わせる魔物の匂いは強烈でした。精霊と言え低位のわたしに祝福できるはずがありません】

そう言うと女神がフワッとクルテを放して立ち上がった。そして森を見た。


「それで? コテージの子の父親は誰!?」

クルテが叫ぶ。女神の服を掴もうとしているようだが、クルテの手は虚しく宙を擦り抜けている。ベスクの女神は男の名を言わず森に帰るつもりだ。

「お願い、教えて!」


 女神の真っ白な髪がざわざわと揺れる。揺れるとともに女神の身体は森に引き込まれて行く。歩いているわけではないらしい。服の裾は広がったまま、身体が上下することもない。


「ベスク!」

クルテの叫び、女神を追おうとするがピエッチェの足は動かない。きっとクルテの足も動かないんだ。己を支配する森の女神にベスク村の地が逆らうはずもなく、ピエッチェとクルテを足止めしている。森の中を照らす光がスーッと遠ざかり、そして消えた――


 女神が見えなくなるのとほぼ同時に、コテージの中で誰かが動く気配がした。動いたのはラクティメシッス、ベッドから降り、窓を開けて庭を見た。息を潜めていたってヤツなら気付く。クルテに近付き肩を抱くと

「部屋に戻ろう」

と寝室に向かった。


「そんなところでどうしたのですか?」

「夜香花の魔物が出た」

ケロッとクルテが答えた。


「魔物の気配は感じませんでしたが?」

「もう居なくなった」

「退治したんですか? 見逃せって言ってたのはお嬢さんだったんじゃ?」


「森に帰ったんだ――いろいろ話が聞けた。今がいい? それとも朝にする?」

「いろいろ聞けたって、デッセムの見通し魔法のことですか? だったらどうでもいいことなんで、わざわざ話してくれなくてもいいですよ」


 興味を示さないラクティメシッスにホッとしたピエッチェ、ところがクルテが

「ジランチェニシスの父親の件も聞いたけど、話さなくっていい?」

ニヤリと笑い、ラクティメシッスの顔色が変わる。


「それは……聞いてからじゃなきゃ気になって眠れなくなりそうです」

「だったらさ、玄関の鍵を開けてよ」


 クルテはどこまで話す気なんだろう?

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