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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
17章 選択された祖国

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 同じ経験をしても、誰でもそれを()にできるとは限らない。カッチーは着実に、さまざまなことを学び、自分の力にしている。それも一つの才能だ。きっとクルテはそれを見抜いていた――まぁ、心が読めるクルテのことだ。相手の本質を見定めるなんて簡単なのかもしれない。


 最初の休憩はカテール街道を行けばララティスチャングまで半日の街ヤッパリイネで取った。ラクティメシッスと合流してザジリレンに向かう際、最初の宿と計画していた街だ。あの時はフレヴァンスに手こずって、一つララティスチャング寄りの街ゴイングウッドに泊まったからヤッパリイネは通過しただけだ。そして今回もサロンに入っただけで、通過したのと大差ない滞在だった。


 そしてララティスチャングの一つ手前の街で二回目の休憩を取った。ここからは空ではなく陸路を行くことにしている。思ったよりも早く到着できそうだ。


 サロンでの休憩中、ローシェッタに入ってからは栗色の髪のウイッグをつけ女装をしていたラクティメシッスが

「女装するのも今日で最後になるんでしょうね」

と少し残念そうに言った。けっこう気に入っていたらしい。


「マデルの父上の屋敷ではなく、先に王宮に行くのか?」

ピエッチェの問いに、

「王宮にいくのはマデルのパパと相談してからですね――不在中の情勢や父の容態などが判らないと『登場の仕方』を決められません」

そうだった、ラクティメシッスは姿をくらませていたんだった。


「どう言い繕うんだ?」

「体調不良でマデルのパパの屋敷で静養していた、ってことにできるかなと。病名を訊かれると苦しいけど、他人には言えない病気だとでも言おうかな」

他人に言えない病気ってなんだろう? まぁ、ラクティメシッスは王太子だ。病名や病状で国政が左右されないとも限らない。


「非難するヤツが居そうだ」

「もとより覚悟のうえです――しかし、間に合ってよかった」

「間に合う?」

「父のことです。部下からの報告によると、いよいよ危ないらしい」

「……ノンビリ茶なんか飲んでる場合じゃないな」

「こんな時こそゆったり構えたほうがいいんです」


 ラクティメシッスはそう言うが、ピエッチェとしては居た堪れない。すぐにでも父親の病床に駆け付けたい、そんな思いを隠していると感じていた。隠すためにラクティメシッスはおっとりと見せている。それは今だけじゃなく、きっと普段からだ。そんな気がした――


 カテール街道口からララティスチャングに入る。が、前回と少し違っていた。入る時も出るときもちょっと見ただけだったのに、今回は入都の目的を訊かれた。

「キャビンに乗ってる女性二人を送ってきたんだ。ついでだから観光しようと思ってる」

ピエッチェの説明に一人の門兵がキャビンを覗き込む。キャビン内にはカッチーとマデル、女装したラクティメシッス、見ただけなら『女性二人』が通用するはずだ。


 (ぎょ)しゃ台の近くに残ったもう一人の門兵が続けてピエッチェに訊いた。

「どこまで送るんだ?」

門兵はもう一人、そっちは貨物台に積んだ荷物を改めている。


「二人はこの街の住人で、家までだよ」

「住所を聞いてるんだが?」

「うーーん……この先三つ目を右に曲がって四つ目を左、そこからしばらく行った先だ。住所は判らない」


「そのあたりだと王室魔法使い総帥のクラデミステ卿のお屋敷だが?」

「あぁ……おっきなお屋敷の門がずっと先にある。それがそのお屋敷かな? 二人の家はその手前だ」


 その時、貨物台のほうから『不審物はありません』と声が聞こえた。同時にキャビンを覗いていた門兵も戻ってきて、

「あの二人って姉妹なのか? 同じ家に住んでる? (なり)わいは?」

と声を潜めて訊いてきた。


「それを聞いてどうする?」

ムッと答えるピエッチェ、

「やめておけ」

と同僚を諫めたのは、ピエッチェにいろいろ聞いてきた門兵だ。


「いや、二人ともいい女でさぁ……もし何か商売してるなら、(ひい)にしたいと思ってさ」

「親が遺した財産で食いつないでるって話だ。あいにくだったな――なぁ、まだ何かあるのか? そろそろ行ってもいいだろ?」

「あぁ、済まないな、行ってくれ――コイツにはヘンな気を起こすなって釘を刺しとくよ」


 声が届かないほど門から離れたところでクルテがクスクス笑った。

「あの門兵、マデルたちの商売をなんだと思ったのか判る?」


「さぁなぁ……まあ、お陰で(しつ)い質問責めから解放された。良かったよ」

「だけど、巧いこと誤魔化したよね。あれで仕立てだの髪結いだの言ってたら、探されちゃってたよ」

「ふぅん……心を読んだのか?」

それには答えずクスクス笑い続けるクルテ、何がそんなに()しいんだろう?


 門兵の勤めがあるはずだから来ないとは思っていたが、念のため二回目に曲がる時、後方を確認した。

「来るわけないじゃん」

またもクルテがムフっと笑う。

「あの門兵、自分の給料じゃ買えないだろうなって考えてた」


「えっ?」

思わず、聞き返すピエッチェ、それって二人を商売女と間違えたってこと? 怖いもの知らずにもほどが……いや、そうじゃない。そこじゃない。どこから見たって貴族のご令嬢だろ?


「で、お気に召したのはラスティンのほう。正体を知ったら、どんな顔するだろうなって考えたら()しくって……マデルには内緒だよ」

なるほどね、それで笑ってたのか。

「あぁ、マデルが知ったらショックを受けるだろうからな」

ラクティメシッスのほうが女として魅力があると思われたことと自分が商売女だと思われたこと、どっちがよりショックか? そのあたりは微妙だ。


 ()()()ミス()()()の屋敷を通過して、敷地沿いに行く。だが、マデルを連れ出した隠れ通路ではなく、堂々と裏口から入っていった。隠し通路はリュネとキャビンには狭すぎる。ラクティメシッスが部下を通じてクラデミステ卿に連絡を取っておいたからできることだ。裏口を入ればすぐに大きめの納屋、リュネのために用意された厩だ。キャビン置き場でもある。


 クラデミステ卿の屋敷の厩舎は家人と来客用が棟続きだ。見慣れない、しかも美しい馬が居れば目に留まり、誰の馬だと取り沙汰される。それを避けるためだ。屋敷に出入りする者の多さを考えると必要なことだった。


 建屋に入ったのは隠し扉からだった。

「この扉からだとわたしの私室に行けるのよ」

他にも隠し扉があるってことか。


 薄暗い通路の先は階段、上りきるとただの壁、その壁は横にずれる仕組み、開けるとそこは広い部屋……マデルの部屋だった。

「非常用の通路だから寝室にあるの。ごめんね、いきなり寝室なんてびっくりしたでしょ?――居間はこっちよ」

(てん)がいで隠されたベッドを横目に、次の部屋に通された。


 さすがはローシェッタ国が誇る王室魔法使い総帥の令嬢の部屋、広さはもちろんのこと、置かれている家具は当然のことながらカーテンや壁紙・カーペットにソファーやクッションなどの小物、照明に至るまでどれも選び抜かれた物だと一目で判る。すべて高価だろうが厭味を感じさせることもない。


「なんか、いい匂いのする部屋だね」

ニコニコのクルテ、勧められてもいないのにソファに腰を下ろした。

「ねぇ、マデル。いつもこの部屋で何をしてるの?」


「休暇の時ってことかな?」

クルテの向かいにマデルも腰を下ろしてニッコリする。

「刺繍したり本を読んだり……改めて考えてみると、大したこと、してないわね」


「ふふん、それでマデルは癒されるのでしょう? だったら大したことなくない。(だい)なことだよ――ねぇ、読書するってことは本棚もあるの?」

「えぇ、向こうの隅に書斎コーナーがあるわ」

「読んでもいい?」


 マデルが『もちろんよ』と微笑むと、

「カッチー、本があるって」

とクルテ、なんだ、自分で読むんじゃないのか。


「えっ? 俺が読んでも?」

「クルテが良くてカッチーがダメな理由が思いつかないわ」


 ところで、と言ったのはラクティメシッス、

「着替えたいんだけど、どこで?」

と訊いた。マデルがドレスルームを教える。


「ラスティン、この部屋には来たことないんだ?」

クルテが訊けば、マデルが

「わたしに会いに来ても、いつもティールームに通してたから」

ちょっと複雑な表情で答えた。するとカッチーが

「マデルさんに会いに来たことはあるってことですね」

なぜか嬉しそうな顔をする。


「そりゃあね――魔法使いの打ち合わせとか、ね」

「お付き合いしてたんですよね?」

「そんなんじゃないのよ」

「そうなんですか? じゃあ、お付き合いなしでプロポーズ、で、それにOKしたってことですか?」

少し考えてから、

「そう言うことになるわねぇ」

とマデルが笑った。


 ドレスルームから出てきたラクティメシッスはいつもとは全く違う服装だった。

「さてマデリエンテ姫、父上の部屋にご案内願えますか?」

どうやら王太子として会いに行くらしい。

「あぁ、でも、姫の支度がまだのようですね」

マデルが慌てて寝室に消えた。


 ラクティメシッスがマデルを待つ間、腰を下ろしたのはカッチーの隣だった。

「うん? カッチー、なんだかいつになく緊張していませんか?」

顔を覗き込まれ、ますますカッチーが固くなる。

「あ、いや……今さらなんですが、ラスティンさんって王太子さまだったんだと思って」

顔が赤くなるカッチー、ラクティメシッスはきょとんとしたがすぐ笑いだす。


「こんな格好しないと、王太子には見えませんよね?」

「そうじゃないです!」


「ラスティン、カッチーを(から)うなよ」

つい(たしな)めるピエッチェに、

「気をつけないとピエッチェ、あなたもカッチーに同じことを言われますよ」

ラクティメシッスは楽しそうだ。


 確かにそうかもしれない。カッチーは『王としてのピエッチェ』を見たことがない。


 と、そこに着替え終わったマデルが戻ってきた。もちろん貴族の令嬢に(ふさ)しい服装だ。

「なんだ、カッチー。わたしの時と反応が違うんじゃないですか?」

「だって、マデルさんのドレス姿は前にも見たことありますから……でも、やっぱりいつにもまして綺麗ですよね」


「何を言ってるのよ。お世辞の練習?」

そう言いながらもマデルは嬉しそうだ。するとクルテが

「お世辞じゃないよ」

と怒ったように言った。


「確かに、いつもより豪華な服だけど、中身はマデルだもん。マデルはいつでも素敵。服が変わってもそれは変わらないよ」

「そうですね、お嬢さんの言う通りです――わたしも中身はいつもと同じラスティンのままです。カッチー、見た目で嫌ったりしないでくださいね」

「も、もちろんです! 俺、ラスティンさんが王太子だから尊敬してるわけじゃないです!」

カッチー、それって、ラクティメシッスを尊敬してるって言ったと同じだぞ?


 少しだけ目を見張ったが、フッと微笑んで、

「では、行ってきます」

マデルをエスコートして、ラクティメシッスは部屋を出て行った。

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