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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
17章 選択された祖国

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 なに言ってるのよ、とマデルが呆れる。

「王の立場でクルテを妻にしない可能性があるって言ったばかりよ? ほかの人を王妃にするって打算以外のなにものでもないわ」

するとラクティメシッスがフフンと笑う。


「王妃にするからと言って愛するとは限りませんよ?」

「何それ?」

「打算では愛せなくても、打算で妻にすることはできるってことです」

むっとマデルがラクティメシッスを睨む。愛のない結婚は珍しいことじゃない。まして王族貴族ではそれこそ日常茶飯事だ。


「でも……ピエッチェがそんな結婚を選ぶとは思えない」

「そうですね。でも立場を捨てることもできない――まぁ、お嬢さんを妻に迎えるために知恵を絞り手を尽くす、だろうなとは思っています」

「そうよね、ピエッチェはそんな人」

マデルが溜息を吐いたのは安堵したからか?


「ラクティは、ピエッチェがクルテを好きになった理由をどう考えているの?」

マデルの質問に、視線をサイドテーブルの本からゆっくりとマデルに戻したラクティメシッスが

「そうですねぇ……運命、かな?」

と笑う。


「はっ!? なによそれ?」

呆れるのを通り越して怒りを見せるマデル、ラクティメシッスが愉快そうに笑う。


「だってね、お嬢さんは保護されたい、そしてきっとピエッチェは保護したい――保護されたい保護したい、そんな二人が出会ったんです、まさしく運命の出会いだとは思いませんか?」

「ピエッチェは保護したい?」

「えぇ……」

真顔に戻ってラクティメシッスが頷く。


「彼の本質は『保護する者』なのだと思います。先ほど彼を王そのものと言いましたが、それも彼が保護する者であることから来ているのではないでしょうか? 国を守り領民を守るってことですね」

そう言いながらラクティメシッスはサイドテーブルの本の一節『カテルクルストは森を守り女神を守ることを望んだ』を思い出していた。


「でもそれじゃあ、対象はクルテでなくてもいいことになるわ」

「ここで王そのものと言ったのはマデルを混乱させてしまいましたね――ピエッチェをザジリレン王ではなく、カテロヘブ個人として考えてみましょう。彼は個人としてはもっぱら守られる者だったのではないかな?」


「まぁ、確かに王子や国王は警護される側だわ」

「そんな彼が、初めて個人として守りたい対象ができた。それがお嬢さんです。しかもお嬢さんは彼を王としてではなくカテロヘブ個人としか見ていない」

「確かにクルテって身分とか全く気にしていないね」

「はい、わたしにもタメ口です」

ラクティメシッスが楽しそう笑む。

「結構それが嬉しかったりしますがね。どこに行っても王族と言う肩書が付いて回るのは、ありがたいのと同時に重苦しいものです」


「ラクティって、思った以上にクルテを気に入ってる?」

「えぇ、あのユニークさに最初は面喰ったし、ピエッチェにいい影響を与えないような気もしていました。だけど一緒に旅をするうち気が変わりました……できることなら沿わせてあげたい。何しろ『運命の出会い』ですから」

「できることなら、なのね」

「わたしがどうにかできることじゃありませんからね」


 お嬢さんは人間じゃないから……そう言えればマデルも納得するだろう。だけど言う必要はないと思うラクティメシッスだ。マデルはクルテを人間だと信じているし、クルテが人間ではない証拠を提示するのは難し過ぎてできない。それじゃあなんなのかと訊かれても困る。それにラクティメシッス自体、自分の推測が荒唐無稽だと感じていた。


 ラクティメシッスがまたもサイドテーブルの本を見る。本に書かれていることはただの伝説だ。だけど伝説にはそれを生み出した史実が隠れている……荒唐無稽と自分でも思うクルテの正体が、ラクティメシッスの中では確信に変わっていた。


「それで?」

マデルの声にラクティメシッスが視線をマデルに戻す。

「ラクティはわたしに何を求めているの?」


「わたしですか?」

困ったなと思うがそれを照れ笑いで誤魔化すラクティメシッスだ。

「さっき求めたのに、まだお化粧を落としてないだのなんだのって拒まれました」


「まっ!」

真っ赤になって怒るマデル、

「あんた、わたしにそんな事しか求めてないの!?」


「さぁ? でも、今すぐ欲しいのは間違いないかな? 早くこっちにおいで」

ゆったりと笑んで両手を広げるラクティメシッスに

「ったくもう! だからクルテにスケベって言われるのよ!」

怒りながらも笑ってしまうマデルだ。


「マデルに嫌われないならなんだっていいです。スケベだろうがドケチだろうが、むしろそのほうがマデルに見捨てられなさそうだし」

「そんなこと言って、油断しないほうがいいわよ?」

「えぇ、油断する暇なんかありません。いつもあなたにドキドキしていますから」


 そう、いつもドキドキしている……マデル、おまえは自分で思っているよりもずっと自由気ままで大胆な人だ。だって、わたしの知らないうちに、わたしに相談することもなく、国王の許しを得てフレヴァンス探しの旅に出てしまった。どれほどわたしを不安にさせたか知っているかい?


 ようやくドレッサーからベッドに来たマデルの腕を引いて抱き締めた。

「わたしの傍を離れたら許しませんよ――放っておけないと思うあなたと、放っておかれたくないわたし。これも運命の出会いかもしれませんね」

ラクティメシッスがマデルの髪に顔を埋めた――


 夕食後の打ち合わせの後、カッチーはピエッチェとクルテの寝室に行っている。ピエッチェに来いと言われたからだ。


「今後、俺はザジリレン王として行動しなくちゃならない場面が出てくるかもしれない」

ピエッチェが、対面に座るカッチーを真剣な顔で見詰めた。


 寝室には大きめのベッドが二台、壁面には文机と椅子、大きな窓があり、ベッドの足元に広くとった空間にはソファーセットが置かれていた。入り口の正面にある小さめのドアはバスルームだろう。ピエッチェとカッチーはソファに座り、クルテは文机の椅子を窓のところに運んで腰かけていた。


「それでだ、そうなるとカッチーのことを取り沙汰する者が必ず出てくる。だから身分を決めなくちゃならない」

「身分って、俺のですか?」

「うん、弟子ってのは通用しない。家臣ってことでもいいが、どんな家臣なんだってことになる」


「俺、(こだわ)らないんで、ピエッチェさんの都合のいいようにしてください」

「そうはいかない――いいか、決められた肩書で見る人は多い。ほぼ全ての人がそうだと思っていい。トロンペセスやジジョネテスキ、チュジャバリテやジャルジャネが俺に跪くのは俺が王だからだ」

「それだけだとは、俺には思えません」


「そうかな? ならばなぜカッチーは、俺が王だと知ってあんなにショックを受けたんだ?」

「あ……」

気まずげに俯くカッチーにピエッチェが穏やかに微笑む。

「カッチーが言うとおり、最後に残るのは人と人としての関係だと俺も思う。だけどな、身分や立場がある限り、それも無視できないんだ」


 はい、と小さく答えるカッチー、国王の家臣、その身分が決められた後のことを考えていた。自分がそう高い位置に置かれるとは思えない。現状を考えればリュネの世話係、馬番が妥当に思えた。そのことに不満なんかない。だけど……きっと馬番では今のように気安くピエッチェと話すことは許されない。少なくとも他者の前では、近くに立つことさえ禁じられるだろう。


「それでだ……」

そんなカッチーの不安を知っているのか、ピエッチェの声は優しく、噛んで含めるようにゆっくりと穏やかな口調だ。

「カッチー、おまえ、両親がどこの誰だか本当に知らないのか? バカバカしいと思うかもしれないが、身分を決めるには素性を考慮しないわけにはいかないんだ」


「えっ?」

驚いたカッチーがピエッチェを見る。決められた身分を一方的に言い渡されるのだと思っていた。

「あ、いえ、あの……父には他に正式な妻がいたようで、今さら俺の存在を知られても、向こうだって困るんじゃないかって――どうしても親が誰なのかが必要なんですか?」


 その様子を見る限りカッチーは、母親がザジリレン国王女だとは知らないのだろう。だが、父親が誰かは知っている。

「うん。おまえの話からすると、父親は騎士でそれなりの身分のあるもの、察するに上流貴族……俺が心配しているのは、おまえを引き取りたいとローシェッタの上流貴族から申し出があれば、俺でも無視できないってことなんだよ。だから、その貴族が誰かを知りたいんだ」


 するとカッチーの表情が明るいものに変わった。

「それなら! 俺の父親がザジリレン国の騎士なら問題ないですね? ピエッチェさんはザジリレン王なんだから、誰も文句は言えないでしょう?」

「えっ? ザジリレン?」

「はいっ! 俺の父親って、ザジリレン国の騎士なんです。で、正妻さんから隠すためにローシェッタ国コゲゼリテに母を隠して、それで俺、コゲゼリテで生まれたんです」


 呆気に取られてカッチーを茫然と見るピエッチェに

「ピエッチェさんがザジリレン王だって知った時、俺、これって運命なんだって、強く感じました。このまま俺を臣下にしてくれるって判った時、父の祖国ザジリレンの王に俺も仕えるため、俺はピエッチェさんに巡り合った、偶然じゃなく必然だって思いました」

カッチーが目をキラキラさせて訴える。が、ピエッチェが言葉を失しているのに気が付くと、

「まさか……父がザジリレン国の騎士だったのは問題ですか?」

と急に顔を曇らせた。


「いや……」

口籠るピエッチェに、窓際のクルテが言った。

「ババロフも本当のところは知らなかったのかもね」


 そうだ、ババロフからは、コゲゼリテに静養に来た騎士とカッチーの母親が知り合って恋に落ちた、と聞いている。カッチーの母親がコゲゼリテ出身だとはっきり言っていなかったが、その時はそう受け取ってしまった。そして王の騎士と言うのも、カッチーの父親が自分でそう言っていただけで、本当のところはババロフも知らなかったんじゃないのか?


 それに、今さら思い出す。カッチーが所有するコゲゼリテの屋敷には女神の魔法が使われていた。森の女神は王族にしか手を貸さない。そしてクルテはあの時言った。カッチーは女神の祝福を受けている――父親が関係していると思い込んでいたが、関係していたのは母親のほうだったのだと今なら判る。ザジリレン王家に連なる母親とカッチー、だからあの屋敷には女神の魔法が施されていた。


 しかし、カッチーの父親がザジリレンの騎士となると、新たな問題が起きる。父親がローシェッタの国民なら他国と言うことで目を瞑ることもできる。だがザジリレンの貴族となれば看過できなくなってくる――

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