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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
16章 継承される流れ

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17

 イーグルとの睨み合いはきっとわずかな時間だ。だけど、ピエッチェの(ひたい)には脂汗が滲んでいた。


 ヒュン! ピエッチェのすぐ横を矢が飛んでいった。クルテが放ったのだろう。思った通り狙いは逸れて、イーグルからは遠く離れていた。だが……


(その手があったか)

イーグルを通り過ぎた矢が、その先で迂回する。狙ったものをどこまでも追跡するクルテの矢だ。迂回した矢が狙ったのはイーグルの二つの頭の片方の首元だった。もちろん命中、イーグルが雄たけびのような鳴き声を上げた。イーグルは通り過ぎた危険に関心を持たなかった。首に刺さった物が何か判らず驚き焦っている。


 叫んでいるのは矢が刺さったほうの首だけ、もう片方は怒りの籠った目でピエッチェを睨んだ。どうやらピエッチェの仕業だと思ったようだ。そして胴体は、片方の頭だけでも制御できるらしい。


 大きく羽搏くと、ホバーリングをやめて突っ込んできた。(あい)かた(?)を傷つけたピエッチェに報復する気だ。ギャンギャン叫んで藻掻き続ける傷ついた頭を横に、真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。避けきれるかリュネ!?


 イーグルの二本足の(かぎ)づめが見えた。あの爪でピエッチェもろともリュネを(わし)づかみにする気だ。と、すっと落下する感覚にリュネの首にしがみ付くピエッチェ、リュネは飛翔をやめることでイーグルを回避した。イーグルは行き過ぎて、居なくなったピエッチェたちを探している。でも、このままじゃ激突、地面はすぐそこだ。それにイーグルに見付かった。向こうも翼を閉じて、急降下を始めたぞ!


 リュネの首にしがみついて後ろを見ると、イーグルのほうがやっぱり早い。追いつかれそうだ。


 イーグルも気になるが、地面も気になる。再び下方を見たピエッチェ、

「ぶつかる!」

思わず叫ぶ。同時にトン!とステップを踏んだリュネの、首がすっと持ち上がり一歩前に進んだ。激突は回避、すぐにイーグルを確認する。もちろん向こうも地面に気付かないはずはない。バサバサとホバーリングして鉤爪を突き出してくる。


「コイツっ!」

咄嗟に剣を振るピエッチェ、刃先が爪にあたりカチンと音がした。だがそれくらいじゃイーグルも怯まない。ガシガシと鉤爪を握ったり開いたり、何とかこちらを捕まえようとしている。


 もちろんリュネもじっとなんかしていない。ひゅんひゅんと動き回り、回避している。その背中でピエッチェが、爪の奥、イーグルの指を狙う。きっと、本来なら太いと感じる巨大イーグルの足の指が、あの大蛇の後となるとヤケに細く頼りなげに見える。これなら一太刀で行ける、そう思った。


 ガリッ! 指が一本吹っ飛んだ! イーグルの二つの頭がギーーッと叫ぶ。いったん僅かに後退し、キッと二つの頭がピエッチェを睨んだ。首に刺さったクルテの矢はどこかで抜けてしまったらしく、もう見えない。足掻いていたのはなんとか抜こうとしていたからか?


 バッサバッサと続くホバーリング、襲うタイミングを計っているのだろう……あれ、でも()しいな? 大した風力を感じない。もちろん強い風が吹きつけてくる。だけどちょっと強い嵐程度だ。


 そうか、地上に降りた狙いはここにもあるか。上空と違ってここは木々に囲まれている。思いっきり()ばたけない。イーグルは特性を生かしきれなくなる。


 リュネの馬体は拡大されて、足は地に着いているのに頭の位置は周囲の木の中ほどだ。そしてイーグルはリュネと同じくらいの大きさ、鉤爪をリュネの頭と同じ高さで構えている。


 リュネが(いなな)いてイーグルに突進した。ピエッチェが大きく剣を振り被った。その二本の足、切り落としてやる! 指ではなく、今度は羽根の生え際を狙った。

「なにっ!?」


 狙った足がすっと消え、代わりに出てきたイーグルの頭、(らん)らんと光る眼がピエッチェの頭上に、目の前にあるのは大きく開かれたクチバシだ。曲がっているが先端は恐ろしく鋭い。噛まれたら深手は避けられない。どうする!? なんて迷っていられない近さ、えいっ! とピエッチェが剣を振り切る。ガシッと動かなくなる剣、その衝撃に手が(しび)れ、迂闊にも手を剣から放してしまった。剣はイーグルのクチバシに挟みこまれている。万事休す!


 いや、まだだ! こうなったらラスティンたちが居たって魔法を使う。なのにリュネが動きを止めてくれない。首を振り回し、イーグル相手に暴れている。念じるだけで使える魔法じゃ()(ーグ)()には歯が立たない。掌を翳す必要がある――リュネ、動きをせめてもう少し抑えてくれ。いや、これじゃあ魔法どころじゃない。このままじゃ振り落とされる。


 ぐさっ! 何かが刺さる感触が、リュネの身体を通してピエッチェの全身に行き渡る。一瞬の静寂、次いで湧き起こった怒涛のような身震いはイーグルのものだ。そして急激な上昇、(せわ)しなく動くイーグルの翼がリュネごとピエッチェの身体を大きく揺らす。もはやリュネもイーグルのなすがまま、上へ上へと持って行かれている。


 どうしたって言うんだ? さっきのあの不気味な音、グサッと突き刺さったのはなんだ?


「リュネ……」

ピエッチェが呆気にとられる。ぐさりとした感触はリュネの(ひたい)から延びる(つの)、イーグルの胸に深々と刺さっている。リュネの(つの)が刺さったまま、上昇するイーグルにリュネは引きずられている。リュネに抜く気はないらしい。そんな状態でもぐいぐいと、さらに深く突き刺している。いいや、よく見れば、(つの)はどんどん太く長く変化し、イーグルの身体に食い込んでいく。あの角度なら、胸骨を避け、いずれ心臓に達するはずだ。


 もちろんイーグルもただ上昇しているわけじゃない。何とか引き抜こうとクチバシでリュネを咥えようとしている。だがそれを阻むのはリュネの翼、いつの間にかリュネの翼は左右三対、しかもそのうち二対の翼は羽根が鋭く光る(やいば)となって、イーグルの攻撃を寄せ付けない。残り一対は、ピエッチェを包み込み、イーグルから守っている。


「カッ!」

大きく息を吐くイーグルの叫び、瞳から光が消えた。リュネの角が心臓を貫いたのだ。すると始まるのは急降下、気を失いそうな落下感、イーグルの身体と一緒に落ちる――のが止まった。リュネが、元のリュネに戻っている。角がない。ずっと下のほうでズドンと音がした。


 これで終わりの〝はず〟はない。ろせば、七体の大蛇の動きが筋のように見えていた。そしてピエッチェがイーグルの相手をしている間にキャビンは魔物たちに囲まれていた。ウジャウジャな小物たちだ。


 キャビンの屋根にはクルテ、次々に矢をつがえている。ラクティメシッスとカッチーは? キャビンの横で、群がる魔物たちに剣を振るっている。時どきラクティメシッスがカッチーのいる方向にタガーを投げる。クルテの矢もカッチーのすぐそばに飛んでいく。その度、カッチーに向かっていた魔物が倒れていく。決まって他の魔物にカッチーが手こずっている時だ。


 カッチーは気付いているだろうか? うん、気付いていてもいなくてもいい。気付いていれば自分の実力を知り、いなければ自信に繋がる。どちらも必要なものだ。間違った自信でも、カッチーなら(おご)り高ぶることはない。


 蛇行を続けるヘビたちは、徐々にキャビンに近付いている。しかも(しっ)は同じはずなのに、七体全部別の方向から来ている。どうなっているんだ?


 一瞬、(しっ)をやってしまえば一挙に片が付くんじゃないか、そんな考えが脳裏に浮かぶ。だがそれはやはり愚策だ。クルテが言っていたじゃないか、(しっ)を斬れば八体(すでに一体、片付けたから七体か)の魔物を相手にすることになる。


 リュネに跨ったままじっくり地上を見降ろせば、蛇行する木々の揺らぎは時どき戻って迂回している――(しっ)があるから機動性が悪い。分岐が木に引っ掛かり、辿るルートによっては目的地に辿りつけずにいる。ならばこちらから出向いて、一体ずつ始末するか?


 ヘビが向かっているのは、間違いなくピエッチェたちがいるあたりだ。弱小魔物の群れを狙ってか、それとも人間を狙ってるのか? あるいは地に落ちて息絶えたイーグルか?


「リュネ、とりあえず降りてくれ。剣を取りに行きたい」

ピエッチェが言い終わるより前に始まる落下感、リュネはそのままの姿勢で宙を降りて行く。


 クルテ、確かにリュネは戦力だった。この際、この森に降りてからと言うもの、リュネの魔力がドンドン強くなっていったことは不問にするしかないな。おまえ、自分の魔力をリュネに分けてやったんだろう?


 地上に降りたリュネの身体がまた少し小さくなった。ピエッチェが手を伸ばせば下馬しなくても、イーグルのクチバシから剣を回収できる高さだ。もはや元もとのリュネの大きさが判らなくなっている。今のサイズはいつもより大きいのか小さいのか?


 ヒュン! と風を切る音、背後から飛んできた矢が通り過ぎ、すぐ目の前で止まった。そして旋回ではなく直角に曲がると森の中へと飛んでいった。


 あぁ、気付いているさクルテ。そっちから繁みを掻き分け這いずって、こちらに向かってくるが()()が居る。それに、その左側、すぐ後ろにももう一体……


 リュネがピエッチェを乗せたまま、クルッと方向転換した。


 そうかリュネ、クルテが注意喚起した相手より、後ろから来るヤツが先にここに辿り着くか。そうだな、アイツのほうが足が速い。いや、足はないはずだ。この場合なんて言えばいい? スピードがある?


 ピエッチェがニヤリと笑う。息が止まりそうなほどの緊張を、解すにはどうしたらいい? 無理にも笑ってみるしかないじゃないか。でも、それぐらいじゃどうにもならない。


 ふとピエッチェがさらに緊張した。同時にリュネが嘶いた。そして駆け出した。キャビンに猛スピードで近づくヤツが居る。迂回してた()()だ。引っ掛かりが取れた途端、呪縛から解き放たれたように真っ直ぐキャビンに向かっている。


 キャビンを囲んでいた小物たちが急に散って逃げ惑う。ヘビは鎌首をあげて、木の上からキャビンを見ている。チラチラと覗かせる舌は火のように赤い。いや、夜だというのにはっきりと、しかも輝いて見えるのは燃えているからか?


「カッチー! 深追いするなっ!」

響くラクティメシッスの声、カッチーは小物を追っていた。はっとして立ち止まったカッチー、上を見て腰を抜かした。


「リュネ!」

ヘビに向かっていたリュネが、ピエッチェの声より先に進行方向を変えてカッチーへと向かう。頭上ではヘビが大きく口を開けた。近づくにつけて口の中が見え始めた。


 口の中には赤い渦、間違いない炎だ。まさか口から火を噴く? だとしたら、とっくに森は消失している、そんなはずはない。


 ヘビが大きく息を吸ったと思った。瞬間、口の中の炎が消えた――

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