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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
16章 継承される流れ

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16

 (にわ)かに緊張するピエッチェとクルテ、それは他の三人も同じだった。

「魔法が使えるようになったわ」

「結界も解除されましたね」

キャビンに乗り込むマデルが不安そうな顔で言えば、乗り込むのを手伝っていたラクティメシッスが微笑んだ。

「大丈夫、わたしが近くに居ます。あなたは安全な場所で、自分にできることをしてくれればいいのです」


「わたし、キャビンに居ても本当にいいの?」

「外よりもずっと守り易い。だからキャビンに居てください」

「だけど中からは外の様子がよく見えない。癒術や毒消し魔法を使うタイミングを逸するかも」

「だったら、こうしましょう」

ラクティメシッスがぬめるように見ると、キャビンの色が薄れて半透明になった。


「外から中が見えないようにしたかったんですが、今のわたしではこれが精いっぱいなんです。許してください」

「許すって、何を?」

「敵があなたを見て、標的にと考えるかもしれないってことですよ。まぁ、そうなっても、わたしが近寄らせたりしませんけどね」


 と、不意にリュネが(いなな)いた。

「来るぞ」

ピエッチェの低い声、身構えたカッチーが、

「この方向からです」

振り向いて木立を指すように見た。


「いいや、そこだけじゃありません」

見上げたのはラクティメシッスだ。

()ばたきが近づいています」


「いよいよだね」

クルテが弓に矢をつがえ、空を狙う。ラクティメシッスが半透明なキャビンの屋根に乗って、何かを手に身構えた。(ダガ)だ。


「アイツ、あんがい高いところが好きなのかもな」

ボソッと呟くピエッチェ、木立の隙間からカッチーに近付く気配に神経を尖らせている。

「ふふん、トロンバ街道に出るとき、木に登ってたっけね」

クルテも口角をあげて笑むが、目はしっかり空から近づくものを睨みつけている。


 翼を広げ上空で円を描いているものが、ただの鳥ではないと見て判る距離まで降りてきている。しかし夜だ、はっきりとは見えない。


 木立に隠れて襲う隙を窺っているのは大蛇だろう。だが、そちらはまだ一つ目の頭だけだ。

「八つは意思を共有できるのかな?」

小声で言うピエッチェに、

「本人に訊け」

クルテは冷たい。本人ね。人じゃないけどね。まぁ、クルテにヘビの魔物の事情が判るはずもない。話しかけられれば狙いを定める集中の、邪魔と感じるかもしれない――いいや、この質問、訊いた俺が愚かだった。意思を共有できるのなら、樹木に分岐部を引っ掛けるはずがない。


 キャビンの上のラクティメシッスが、

「どちらにしますか?」

ピエッチェに訊いた。カッチーを狙っているヤツか、それとも上空からこっちを狙っているヤツか、あんたはどっちにかかる? と訊いたのだ。とりあえずは単独であたる設定、だがそれもケースバイケースだ。二人で一体もないわけじゃない。


「空のヤツはすぐには来ない、クルテが矢で狙っている――そっちだ!」

「おうよっ!」


 言い終わるよりも早く駆け出すピエッチェ、遅れることなく、駆け寄ったラクティメシッスがカッチーを押し退ける。

「ひぇえっ!」

カッチーの悲鳴はラクティメシッスに押されたからじゃない。大口を開けた大蛇がブッシュから飛び出してきたからだ。ラクティメシッスがどちらにするか訊かなくても、ピエッチェがこっちだと言わなくても、きっと二人は同時に飛び出しカッチーを助けただろう。


 がぶりと来るかと思ったヘビは、そのままいったん頭だけは退いた。ラクティメシッスはカッチーを押し退けるついでにタガーを投げていた。見事に目に命中している。腰を抜かしたカッチーを後ろ手に庇うラクティメシッス、その前に躍り出たピエッチェ、ヘビは大きく()()って、鎌首を(もた)げている。頭が優に木の上に出ている。もっともその分遠くなった――梢より高いじゃないか! 見上げるしかないし、ろされている。だからって、誰に文句も言えやしない。


「フン! 片目にタガーが刺さったくらいじゃビクともしないか。しかし……見ただけで、マデルが泣きだしそうだ」

ラクティメシッスが苦笑した。まだまだ余裕だ。ま、そりゃそうだ。これから同じのが七体出てくる。今から根を上げて貰っちゃあ困る。


 ヒュン! 矢が放たれた音、すぐさまバサッと大きな羽搏き、見ると頭が二つあるでっかい鳥が上空へと戻って行く。

「降りてくる羽音が聞こえなかったぞ!?」

「翼を畳んで突っ込んできた!」

ピエッチェが叫べば、クルテも叫ぶ。


「アイツはわたしが地上に降ろさない。そっちに集中しとけ!」

クルテ、さっきと言ってることが違う。だけどそう言うことならば、他のヘビ(あたま)が来る前に今いるヤツを片付けるのが先、つまりそう言うことか。八体同時より、一体ずつ、クルテはきっとそう考えた。双頭のイーグルは後回し、と方針を変えた。


 ヘビの後ろに回り込もうとピエッチェが走りだす。ラクティメシッスはヘビに注意を向けながら、カッチーの手を引いて立ち上がらせている。ヘビが舌先をちろちろと震わせている。その舌だけでも並みの大蛇ほどはある。並の大蛇? コイツを目の前に、並もへったくれもあるもんか!


 ラクティメシッスが潰したのは向かって右の目、もちろん右に向かって走るピエッチェ、動くものを追う習性か、ヘビの頭も右を向く。しかし、このまま追わせたところで勝機は掴めない。下手に動き回れば他の頭と出くわさないとも限らない。


 ヘビが地面に腹をつけている真横でピエッチェが足を止める。ヘビを中点にラクティメシッスたちと九十度ほどの角度になるあたり、ヘビはこちらを向いている。ヘビに注意を向けたままラクティメシッスの様子を窺うと、キャビンに入るようカッチーを説得しているようだ。だけどカッチーは従わない。自分も戦うと言い張って、ラクティメシッスの手を振り払った。


「迷惑かけません! 指示してください、役に立ちたいんです」

カッチーが口答えしている。

「思った以上の魔物です。マデルのそばに居て、マデルを落ち着かせてください」

足手まといになると言わないところはラクティメシッスのいいところだ。


「キャビンの中に居ればマデルさんは安全なのでしょう? 俺は魔物に立ち向かわなきゃダメです」

魔物と聞いただけで震えあがっていたカッチーが、正面切って魔物と向き合うと言っている……ラクティメシッスの心配ももっともだ。今のカッチーにこのヘビは大物過ぎる。


 頼むラスティン。俺はカッチーの成長を止めたくないんだ。今キャビンに匿ったらカッチーは自信を失くし、二度と立ち向かえなくなるかもしれない。立ち向かえくなるのは魔物じゃなく、カッチー自身にだ。


 コイ()()は俺が必ず仕留める。だからあんたはカッチーに危険が及ばないよう、そこで見守ってやってくれ。その場にいるだけで、カッチーにとっては大きな一歩となるはずだ――ピエッチェが、勢いつけて大蛇に向かう。


 視界の端に、こちらに向かって駆けてくるリュネが見えた。大きく口を開いた大蛇がリュネに気が付いて注意を逸らす。向かってくる馬が気に入らないのだろう、ヘビは首をリュネに向けた。


「俺が相手だ!」

ヘビに突進しながらピエッチェが叫ぶ。またもヘビは首の向きを変えた。今度は迷わない。勢いつけてピエッチェに向かってヘビの口が落ちてくる。


 寸でのところで横っ飛びに(かわ)したピエッチェ、目の前に躍り出たリュネの手綱をガシッと掴む。そのままの勢いでリュネの背に飛び乗った。いや、リュネがピエッチェを乗せたのか!?


 ザザッと一陣の風、リュネの背に〝生えてえきた〟翼の羽搏きが起こした風だ。姿勢を正そうと思うことなくピエッチェの態勢が安定する。(くら)はない。なのに足はしっかりと(あぶみ)に嵌っている。リュネの魔法か、それともクルテの? そんなのどっちでもいいことだ。


 飛び回るリュネを、蛇の頭が追い回す。リュネの背中で、剣を討ち込むチャンスを窺うピエッチェ、目の前で何度もガシッと音を立てヘビの牙が噛み合わされる。そんなヘビを(から)うように、リュネはクルクルとヘビの周りを旋回する。


(やっぱりヘビってバカだ……)

下を見てピエッチェが思う。ヘビの胴体は動きにつれてどんどんと()じれていく。このままだとヘビは身動き取れなくなるだろう。願ってもない展開だ。だが、そう決めつけるのは危険だ。他の可能性は?


 そう考えてピエッチェが焦る。こうしてはいられない。早く決着つけなければ、あるいは馬鹿にしたヘビの動きが(あだ)となる。捻じれを戻す反動でヘビが反転したらどうなる? かなりのスピードが出るはずだ。きっとリュネも避けきれない。だけどしかし……むしろそうなった時がチャンスか?


 ガブッ! すぐ後ろでヘビが嚙みついた。もちろんリュネは巧く避けている。そして……ヘビの動きが急に止まった。


 リュネが(いなな)き、急降下した。ピエッチェが見上げると、ヘビはジリジリと動いている。いいや、自分の意思で動いてるんじゃない。口をアグアグ開け閉めし、必死で後ろに引っ張る力に抵抗している。そして!


 ピエッチェを焦らせた動きが始まる。物凄い勢いでヘビの首が振り回される。どうにも抵抗できないらしい。あの首の動きに巻き込まれたら逃げようがない。なのにリュネが上昇を始めた。リュネの背でピエッチェが姿勢を低くする。回転するヘビの首すれすれでリュネが止まって翼を引っ込めた。もちろん落ちることはない。そのまま宙で踏ん張っている。しっかり握った剣をピエッチェがヘビの首元に向けた。


 ガリガリとウロコがかれていく。勢いに負けそうになるのを堪え、さらに強く剣を握り締めた。なん回転だろう、ググっと肉に食い込む手ごたえ……これで勝ちだ、すぐに首は落ちる。だがまだ一体め。


 ダサッとヘビの胴体が横たわる直前、蛇の頭は遠心力に抗えず飛んで行った。目で追っていたピエッチェがぞっとする。木の間から出てきた長いものが、飛んできたヘビの頭をパクっと咥えた。もう一体はあそこにいる。そして木の中に消えた。長いもの、あれは間違いない、ヘビだ。


 しかし茫然としている暇なんかあるはずもない。宙に現れた飛ぶ馬に気付いたイーグルが威嚇鳴きをしながら突っ込んできた。


 スルリと躱すリュネ、すぐ先で身を翻しホバーリングするイーグル、鋭い目つきでこっちを見ている。

「降りてこい!」

地上でクルテが怒鳴り声を上げた。


 だがリュネは動かない。降りようとすれば隙ができる。そこをイーグルが狙ってくるのを警戒してる。さすがに空中での速さはイーグルが上か? 位置的に、リュネが邪魔をしてクルテは矢を放てない。


 こうなったら、()(ーグ)()を先にやっつけるか? 別にそれでも構わない。だけど、リュネの動きから空中戦は不利なのが判る。クルテもそれが判っていて、だから躍起になって『降りてこい』と怒鳴るんだ。


 さて、どうする? 降りるか()るか?


 遠くの木が揺れている。さっきのヘビがこっちに向かっている――

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