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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
16章 継承される流れ

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 それは魔物を退治しない限り、この森から出られないってことだ。魔物が出るのは街ではなく、森限定なのがせめてもの救いだろう。


「ところで、なんでケインプの魔物たちはここに来るんだ?」

「だから言ってるじゃん。キャッテクの森の女神が――」

「そうじゃなくって、目的は何かって訊いたんだ」

「あぁ、ケインプの森を通る人がいないから? それに獣や鳥を獲りつくしちゃって、食べるものが無くなったんじゃない?」


「それじゃあ、狩りのために来る?」

「そうだと思う。でもジョーンキの森にだって限度がある。ケインプのヤツらが毎晩来て狩りをしてたら二の舞になるのは目に見えてる」


「しかし獣や鳥が居なくなったらケインプの森は枯れてしまうんじゃ?」

「今のところは貯蔵した魔力で森が維持できてるんじゃないかな? ジョーンキはひとたまりもないだろうね。だから早くなんとかしなきゃならない。女神も必死だよ。魔物を退治したら、ジョーンキの女神はキャッテクの女神にも祝福させるって約束した」

またも女神の祝福かい?


「できれば女神の祝福よりも、何もしなくてもここから出して欲しい。魔物退治が成功するとは限らない」

「弱気になるな。挑む前からダメだなんて思うんじゃない」

なんかそのセリフ、懐かしいぞ。


「ジョーンキの女神が言うには、うじゃうじゃいるのは小物ばかり、だけど大物が二体いる。これが厄介なんだそうだ。女神の力も歯が立たない。その二体がいるから小物たちも強気になって女神に従わなくなった」

「大物ってどんな?」


「マデルが泣きそうなやつ。そしてわたしは絶対食べない」

「ふぅ~ん、ヘビか。それが二体?」

「ううん、もう一体はイーグルなのに夜行性、突然変異体だって。ま、ヘビも突然変異体だし、両方かなり結構すっごく特殊」

なんでそんなに強調する? 魔力の強さだけじゃなさそうだ。


「どう特殊なんだ?」

「頭の数。ヘビは八つ、イーグルは二つ。しかもその二体、マジで仲が悪い。互いに相手を食べる気満々」

「おまえ、なんだか楽しそうだな?」

「楽しいわけない!」


「おい、こら……」

大声を出したクルテを、ピエッチェが窘める番だ。向こうに座るラクティメシッスが

「楽しませてあげないとフラれますよ」

と冷やかして、マデルにまた怒られた。


 ピエッチェが苦笑して、クルテの頭を包むように抱き込んだ。ラクティメシッスたちからは、怒るクルテをピエッチェが宥めているように見えるだろう。

「形状は判ったがその二体、どんな魔法を使う?」

クルテの耳元でそっと言った。


「ちょっと、くすぐったいってば」

満更でもなさそうにニマッと笑むクルテ、

「ジョーンキの女神はそのあたり、なんにも教えてくれなかった」

笑顔のまま胸の中でピエッチェを見上げる。


「ラスティンとマデルの魔法は通用しそうか?」

「どんな魔法をあの二人が使うかにもよるけど、効果がないってことはないんじゃないかな?」

「ラスティンの得意は検知術だけど、攻撃魔法だってかなり使えるはずだ。何しろローシェッタの王室魔法使いのトップクラスの一人だからな」


「でも、森の中で火球はダメだよ。山火事になる」

「おまえはどんな魔法を使うつもりでいる?」

「イーグルには風魔法。()ばたいて強風で攻撃してくる。だけど、そんなの弾き返してやる。巧くいけば飛べなくなって地上に落っこちる。だからカティは首を叩き落とせ」


()()()()()ってのが気になるが、なかなか勇ましいじゃないか――ヘビはきっと毒を使ってくるぞ。マデルの癒術は毒消しもできるかな?」

「それはマデルに訊いて」

「きっといけると思うんだけど……不確定要素なら、毒にやられないような備えが必要だな」


「どう備える?」

「こっそり防具に魔法封じの魔法をかけるか?」

「ここでカティが魔法を使ったら、絶対ラスティンが気付くよ?」

そう、そこが問題だ。


 森から出るだけならできなくもない。魔物封じを使えば魔物は近寄らない。だがそれでは退治できない。


 森の女神の祝福なんてなくてもいい。だが、やはり放置できない。森が枯れ、獣たちを獲れなくなった魔物が次に狙うのは人間だ。人間の住む街だ。ジョーンキの街に魔物が出没するようになり、次にはキャッテクの街が狙われる。森が枯れれば森の女神も滅ぶ。魔物を制御する力が働かなくなる。まぁ、今でさえ、二体の女神は魔物を制御しきれていないらしいが、だからこそ俺がなんとかするしかない。


 だけどどうする? ラクティメシッスたちの前では魔物封じも魔法封じも使えない。それどころか、攻撃だろうが防御だろうが魔法はダメだ。何しろ対外的にピエッチェは魔力が弱いことになっている。ひた隠しに力を隠している。それがカテ()()クル()スト()の時からの森の女神との約束、その約束を破れば、特殊魔法はきっと使えなくなるし、下手をしたら存在を消されてしまうかもしれない。


 そうなると、魔法に関して頼れるのは皮肉にもラクティメシッスたちだ。それとクルテ――自分は物理攻撃、剣を使うしかない。


 できれば二体の大物を先に倒したい。だが、うじゃうじゃいる小物たちが黙って見ているはずもなく、対応しながら大物を倒すしかない。小物たちをラクティメシッスとマデル、カッチーに任せ、俺とクルテで二体を? いや、二人で二体は無理がありそうだ。かと言って小物をマデルに任せるのも不安だ。ラクティメシッスが難色を示すような気もする。カッチーもそこそこ剣を扱えるようになっているが、なにしろ実戦は皆無、どんな危険があるか知れない。


「ラスティンたちに知られないよう、魔法封じを使えないかな?」

「ヤツは検知術に長けてるって言ったのはカティじゃん。わたしの魔法だって言ってもバレるのがオチだし、誤魔化せてもわたしの正体を追及してくるね」

「無理か……」


「それに奥の手は、こんなところで使っちゃダメ。コゲゼリテの女神の娘像に使ってから、少し気が緩んでない? やたらと使っちゃいけない魔法のはず」

「使う魔力量が大きいから、気軽に使えないってだけだ」

嘘じゃないが、クルテが言うのも本当だ。特殊魔法に頼り過ぎてはいけない、どうしても他の方法がない場合以外使うなと、父に厳しく言われていた。


 他の方法……何があるだろう?


 黙り込んだピエッチェにクルテがギュッとしがみ付いた。

「睡眠不足じゃいい考えは浮かばない。身体も思うように動かない。今は眠ろう。昨日もまともに寝てないし、キャビンでも眠ってないんでしょう?」

「うん?」

見るとクルテはもう目を閉じている。自分が眠かったんじゃないのか? そう思ったが、クルテの言うとおりだ。閉じ込められている反面、ジョーンキの女神の結界の中に居る限り、外部からの脅威もない。日没が訪れれば魔物との対決が待っている――クルテを抱き寄せて目を閉じた。


 お(なか)()いた……クルテがピエッチェを揺り起こしたのは、夕食を摂るには早い時刻、だが、日没までに済ませるならばそろそろの頃だ。魔物が出る前に腹ごしらえをしようと言っているのだと思った。


 立ち上がったクルテを目で追うと、ラクティメシッスたちも仮眠を取っていたようだ。荷物から引っ張り出した毛布を被って横たわっている。どうやらピエッチェたちにも掛けてくれたらしく、自分に掛けられていた毛布を畳みながらピエッチェが苦笑した。まったく気が付かなかった。


 思っていた以上に疲れていたらしい。女神の結界で守られていたとはいえ、迂闊だった。クルテに従って眠ったのは正解だ。眠らなかったら肝心な時に、大きなミスをしていただろう。


「もうお(なか)()いちゃったの?」

呆れるマデルにカッチーが、

「クルテさんがすぐ腹減りになるのはいつものことですよ」

と笑う。


「クルテったら、すぐお(なか)すいたって言うくせに、いっつも大して食べないよね」

「まぁ、そんなことを言っても仕方ありません」

クルテを庇ったのはラクティメシッスだ。


「少し早いけれど、夕食にしましょう――朝、カッチーが焼いてくれたパンを持ってきたのでしょう? それで済ませればいいんじゃないかな?」

弁当は移動中に食べてしまった。

「お茶を淹れるのに火を起こしますよね? なんだったら卵を茹でて、ソーセージを焼くくらいはしましょうか?」

すぐに立ってキャビンに向かったカッチーが、貨物台からケトルと鍋、フライパンを取り出した。


「茹で卵! 食べたい、作って!」

喜ぶクルテに、マデルが『仕方ないわねぇ』とそれでも微笑んだ。


 焚火の準備はここに落ち着いてすぐ、マデルが済ませていた。が、魔法は未だ使えない。カッチーが、

「任せてください」

と、やっぱり貨物台から火打石を取り出した。

「これ、買って初めて使うかも」

嬉しそうに石を打ち合わせるカッチー、巧いもんだ、すぐに火がついて薪が燃え盛っていった――


「それにしても、なんだろう? さっきから嫌な予感がします」

フォークに刺したソーセージに嚙り付いてラクティメシッスが言った。

「どこか、うん、居所の判らない何者かに、狙われているような気がします」

茹で卵の殻を剥きながらマデルが頷く。

「やっぱり? わたしもさっきから感じてる。でも、気配って言うより視線。じっくり見られてるよね」


 傾いた太陽がいろいろなものの影を、細く長く延ばしている。焚火で照らされていなければ、この周囲は木々の影に包まれて薄暗くなっているはずだ。

「いったい何に見られてるんでしょうか?」

不安なのかカッチーの声は小さい。


「カッチーも感じてるの?」

マデルが問うと、

「えぇ、ビシビシと。あれって喧嘩する気、あ、そう殺気ってやつですよね?」

カッチーが手に持っていたパンの残りを大口開けて放り込んだ。


「おまえ、コゲゼリテに居た時は、(けん)(ぱや)かった?」

ピエッチェが呆れてカッチーを見る。以前も『喧嘩の相手から目を離すなとババロフに言われた』なんて話をしていたカッチーだ。


「ほら、俺、親父が居なかったから、悪ガキどもにからわれたり虐められたりしてたんです……で、なんか、よく喧嘩になってました」

そうか、そう言うことか。それで同情したババロフが喧嘩の流儀をおまえに仕込んだんだな。


 ピエッチェに剥いて貰った茹で卵を食べ終わったクルテが物欲しそうな顔で皿を見ている。卵は割れる前に食べたほうがいいとカッチーは、あるだけ卵を茹でていた。

「もっと食べたいのか?」

ピエッチェが訊くと嬉しそうに頷く。次の卵に手を伸ばすピエッチェに、ラクティメシッスが、

「ピエッチェは何も感じていないんですか?」

と尋ねた。


「いいや……でも、まだ遠くだな」

殻を剥いた茹で卵をクルテに渡しながら、ピエッチェがラクティメシッスを見た。

「だからって油断はできない。必ず俺たちを襲ってくる」

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