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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
16章 継承される流れ

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 カッチーがザジリレン王家の? あ、いや、何代も前ってことか。そうだ、ローシェッタ王家に嫁いだザジリレン王の娘は何人もいる。その血を引いた貴族だって相当数になるはずだ。そんなに驚くことじゃない――そう思うのに、なぜだ? なんでドクドクと脈を打ち、こんなに心臓が騒ぐんだ?


「クルテ、カッチーと両王家の繋がりがどんなものか判るのか?」

「わたしには判らない。だけどカッチーもジランチェニシスも、カティとそう遠くない」

「えっ? ジランチェニシス?」

「二人からはカティ、おまえと同じ血の匂いがする。だけど三人とも微妙に違う。カティからはカテルクルストの匂いがするのに、カッチーとジランチェニシスからは感じない」

「おまえ、何を言い出す!?」


「声を荒げるな」

ギュッとクルテがピエッチェを抱き締める。

「向こうの三人に訊かれたらどうするんだ? 落ち着け」

そんなこと言われて落ち着いていられるか。カッチーだけならまだしも、あのジランチェニシスまで? でも、確かにラクティメシッスたちに聞かれていい話じゃない。


 深呼吸するピエッチェの髪をクルテが弄ぶ。まるで母親が(おさな)を撫でるような感触にピエッチェが目を閉じる。


「カテルクルストの匂いがしないって、どんな意味を持つ?」

想像は付いている。だけど正解をクルテの口から聞きたい。もしも想像通りなら、二人の母親に心当たりがなくもない。ジェンガテク湖のコテージで聞いた話とも一致する。ジランチェニシスの母親は、世話をする(ノホ)()()()から『姫さま』と呼ばれていたとノホメは言った。ノホメの話が厄介なのは、事実と嘘を混ぜ込んであることだ。姫さまと呼んでいたのはきっと事実だ。


 落ち着いた? ほんのり微笑んでからクルテが答えた。

「母親が王女だってことだよ」

「うん。そうか。そう言うことか」

やはりそうか。それなら二人の母親は『失われた王女』に違いない。


 失われた王女――ザジリレンでは数代おきだが繰り返し、王の娘が謎の失踪を遂げている。森の女神に気に入られて連れ去られたのだと言われたがそれは親の心を慰めるための言葉で、事実は違うと誰もが知っていた。


 数代おきだったものが、二代前・三代前と続いた。(カテ)(ロヘ)()(の父)はクリオテナ王女誕生とともに警護をそれまでよりも強化することにし、王家警護隊を結成した。それまでは王宮警護隊が王族を含めて王宮内を守っていた。が、二代続いたのだ。これ以上続けさせるものかと、前王が自費で作ったのが王家警護隊だった。


 ジョーンキの森の女神とクルテの言うことを信じるのなら、カッチーの母親は二代前の王の娘、つまりピエッチェの父の妹だ。そしてジランチェニシスの母親はピエッチェの父の叔母にあたる、三代前の王の娘だ。ラクティメシッスが部下を使ってどんなにローシェッタ国内を探らせても、ジランチェニシスの母の素性が判らないのも説明がつく。


 さらに……ノホメの正体がはっきりしないうちは結論が出せないが、フレヴァンス誘拐も別の意味を持ってきそうだ。


「つまり、カッチーは俺の(いと)になるんだな?」

「コゲゼリテから連れてきてよかったでしょう?」

「おまえ、初めて会った時から気付いていたのか?」

「怒らないで。言える時期が来ていなかった」

女神の制約か……


「知っているが俺には言えないことが、まだまだおまえにはありそうだな」

「でも少しずつ減ってる。カティが思い出せばいつか全て言えるようになる」

「女神は俺に何をさせたい?」

「居るべき場所に戻り、王として生きること。それが課せられた使命だろ?」


「おまえはそれにどう関わる?」

「それは……カティのこれから次第、そしてわたし次第」

「おまえ、ちゃんと意思があるんだ?」

「当り前だ」

クスリとクルテが笑う。

「女神に無理難題を押し付けられたって、カティと一緒に行くって決めたのはわたしだ」


「無理難題か。それって俺が解決しちゃダメなのか?」

「今までもそうしてきた。二人で解決するしかないことだよ」

行ったり来たり遠回りしたり、それって(けい)さんづくの動きだった? 答えを出すため、クルテが導いたのか?


 そう考えると、このジョーンキの森に来たこともクルテの考えだと思えてきた。

「おまえの考えでこの森に来たのか? それともリュネの?」


「わたしもリュネもここに来る予定はなかった。ジョーンキの女神がリュネを呼んだんだ。だから森に降りた」

「わざわざ厭味を言うために俺たちを呼んだ?」

「ま、それもあるのかな?――ジョーンキ上空を通ったのがまずかったみたい。空高く飛ぶ魔物、しかも強い魔力。わたしの空を脅かすのは誰だ? そんな感じ」


 この辺りの魔物は飛翔するものが多い、ついさっき自分で口にしたことだ。

「女神は空も管轄してる?」

「ジョーンキの女神はね。リュネがもっと高く飛んでたら、捕まらなかったかも」


「ほかの森はどうなんだろう?」

「カッテンクリュード周辺の森では、地面から離れちゃいけない。これは確定」

「なんで確定してる?」

「カティがカテルクルストの末裔だからとしか、今は言えない」

今は言えない、またそれか。だけど、その時が来れば判るってことだ。今までそうだったように。


 それにしても……

「なぁクルテ。二人で解決するしかないって言ったけど、本当に解決できてるんだろうか?」

「いろんなことが判ってきたよね?」

「あぁ、判ってきた。でも、判ってきたのは問題点ばかりな気がする」


 カッチーの母親、つまり父王の妹がなぜコゲゼリテの地でカッチーを産むことになったのか? ジランチェニシスの母親、ピエッチェから見ると大伯母にあたる王女はなぜジェンガテク湖のコテージに軟禁されたのか?――失われた王女が繰り返し起きる謎を解かないことには先に進めないんじゃないのか? 解決することが、女神が俺に出した課題の一つに感じる。


「どうせおまえ、全部答えを知ってるんだろう? 知ってても今は言えないとか言うんだろう?」

「知ってるわけないよ。わたしが七百年、封印されてたのを忘れた? 母さまはカティと二人で答えを探せって言ってた。少しヒントをくれただけ」

「ってことは、コゲゼリテの女神は知ってるってことか?」

「それもない。母さまはコゲゼリテから出られない。知っているのはあの周辺で起きたことだけ」


「うん? 森の女神は知見を共有できるんじゃなかった?」

「そうだけど、覚えていられる量と期間に個体差がある」

そうか、忘れっぽいんだった。あれ、だけど?


「それって、何もかも知っている女神も居るってこと?」

「どうだろう? 知っている女神を探そうなんて言うなよ。すべての森を巡るのは無理だ。ザジリレンとローシェッタだけでもどれほど森があるか知ってる?」

「そんな効率の悪いこと、考えるわけないだろ」

チラッと脳裏をよぎったとは言うまい。


 まぁ、少しずつ進んでいくしかない。クルテの口ぶりから前進しているのは間違いなさそうだ。できることから順に片付けて行こう。ってことは?


「ところでクルテ、ジョーンキの女神は俺たちをどうする気なんだ?」

なにしろ今の状況を打開しなければ……女神の結界から出られなくなっている。ここから出るのが先決だ。


「魔物を遠ざけてくれているのはいいけれど、このままずっとここに居るわけにもいかないぞ」

「あぁ、それか……」

きゅっと唇を尖らせたクルテ、

「困ったね」

と情けない顔になる。


「困った? 女神はなんて言ってるんだ?」

「それがね、夜までここに居ろって」

「夜まで?」

「うん……カティ、ラスティンに言ってたじゃん。ジョーンキからトロンバ街道をキャッテクに向かうには森を抜けるって」

「あぁ言った。それがどうかしたのか?」


「あの森、ケピンネの森って言うらしいけど、魔力の貯蔵量が半端ないらしいね」

「あぁ、魔物がうじゃうじゃいるって――まさか?」

「そう、そのまさか。その森から夜になるとね、来るんだよ」

「ちょっと待て? それを俺に退治しろ、なんて言い出さないよな?」

クルテが申し訳なさそうにピエッチェを見る。


「わたしが言ったわけじゃないよ?」

「あぁ、そうかい! ジョーンキの女神が言ったんだよなっ!」

「だから、声が大きいってば」

ハッとしてラクティメシッスたちのほうを見ると、(なに)ごとかとこっちを見ている。


「あ、ごめん。クルテと女神クイズしてて、つい興奮した」

自分でも情けない言い訳に涙が出そうだ。


「女神クイズ? 俺も混ぜてくださいよ」

カッチーが立ち上がりかけるのを、

「却下! カッチーに全部持って行かれる」

クルテが拒絶した。うん、来てくれるなカッチー。本当はそれどころじゃない、許してくれ。


「リュネを焦げ付かせないよう気をつけなさいよ」

マデルがわけの判らない冗談を言った。

「それって二人の熱さで焦げ付くのかな? それともリュネが嫉妬して?」

面白くなさそうにラクティメシッスがマデルに訊いた。目は疑わしそうにピエッチェを見ている。森の女神クイズって嘘だよな、と目が言っている。


「どっちもありじゃない? それよりもねぇ、カッチー、話の続き」

カッチーはどうも、本で読んだカテルクルスト伝説を話していたようだ。マデルの催促に『それでカテルクルストは……』と話を再開させた。するとピエッチェたちのほうを見たままのラクティメシッスをマデルが引っ張る。じろじろ見てるもんじゃないわ、だからスケベって言われるのよ。そんなマデルの声が聞こえた。


 自分たちから注意が逸れたことを確認して、ピエッチェも話を再開させた。もちろん気を付けて、囁くような声だ。


「ケピンネの森に女神はいないのか?」

「あの森はキャッテクの森の女神の管轄。ケピンネって呼ばれてるけど、それは勝手に人間が付けた名、本来はキャッテクの森――キャッテクの街には立派な聖堂があって、街の人間どもは聖堂を大事にしてる。供物も祈りも欠かさない。そして祈りはキャッテクには魔物が来ませんようにってのが主流」

「つまり?」

「キャッテクの女神は魔物の管理が苦手。だけど街に来させたくない。騒ぐ魔物たちに、ジョーンキの森に夜なら行ってもいいって許可した」


「ジョーンキの女神もそれを許した?」

「許すわけないじゃん。でもさ、森の規模や貯蔵魔力量で女神の力も変わる。ジョーンキの女神はキャッテクの女神に対抗できない」

俺たちは、二体の森の女神の尻拭いをさせられるってことか。


「魔物退治なんてしたくないって断ったらどうなる?」

「永遠にここに閉じ込められる、なんて事はない。だって、魔物が来たら女神は逃げちゃって、結界も解かれる。魔法も使えるようになる」


「魔物退治は断れないってことだな」

「断ってもいいって女神は言ってる」


 それは詭弁だ。魔物が来るまで足止めするんだろ?

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