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秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す=   作者: 寄賀あける
16章 継承される流れ

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 飲み切ったレモン水の瓶をピエッチェに押し付けてクルテが笑う。

「なんで二人とも難しい顔してるんだ? 下手をしたら国が亡ぶってときに、そんな話をしてどうする? 無事に平穏を取り戻してからゆっくり相談したらいい」

そして『リュネ~』と甘ったるい声を出して、リュネのところへ行ってしまった。


 水を差されたピエッチェとラクティメシッス、睨み合いはやめたもののどことなく気まずい。それをマデルがクスッと笑う。

「クルテに助けられたね――あんたたち二人ってまったく正反対かと思ったけど、割と似た者同士だわ」


「似た者同士?」

互いに見交わすピエッチェとラクティメシッス、もちろん今度は睨み合いなんかじゃない。


「似てるんでしょうかね?」

「自分じゃ判らないな」

その点では意見が一致したようだ。


 ほっとしたのはカッチー、

「で、これからどうします?」

と本来の議題に戻した。


「さて、どうするか……」

チラリとクルテを見るピエッチェ、クルテはまたリュネの首根っこに腕を回して抱きついている。そして気になるのはさっきから感じる気配、ラクティメシッスとマデルに感知している様子はやはりない。その点からも、この柔らかに包み込むような気配は森の女神だろう。


 ラクティメシッスと揉め始めたころはスルスル近づいてきていた。それが、すぐそこに来たと思ったらふわっと広がり、本体の在り処が判らなくなった。霧散したと言ったらいいのだろうか、包み込まれるような感触、それが今もそのままだ。


 気付いていないはずはないのにクルテは感心を示さない。となると、女神の接近は自分たちとは関係ないのだろう。せいぜい侵入者の様子を見に来たってとこか。


 それともこちらに接触する機を窺っているのだろうか? ミテスクとバースンの森の女神は接触前にピエッチェとクルテ以外を眠らせた。ラクティメシッスたちを盗み見るが、寝入ってしまうような兆候は見られない。そして森の女神が、用事のない者を必ず眠らせると決まったわけでもない。でも『ここ』に居る。なぜここに居る? まぁ、敵意は感じられないからヨシとするか。そもそも森に来て、なぜ森の女神が居ると問うのは愚かだ。


「リュネにお伺いでも立てるか?」

冗談を装って言うピエッチェ、

「あれ? ピエッチェもお(んま)さんと話せるんですか?」

ラクティメシッスが受けて笑う。

「馬鹿ね、クルテに訊いて貰うのよ」

マデルも笑えばカッチーが、

「あぁ、クルテさんならリュネとも意思疎通ができそうですよね」

真顔で言って、ますますマデルを笑わせた。


 もしも森の女神に何か問題があるなら、大きな声では話せない。脳内会話はやっぱり便利だった。それが使えなくなった今は、そっとコソコソ話すしかない。内緒話をするために、さりげなくクルテに近寄って肩に手を伸ばす。


「なぁ、おまえはこれから――」

リュネの首に抱き着くクルテの顔を覗き込んでギョッとする。おまえ、泣いているのか?

「どうしたらいいと思う?」

クルテの肩に置いた手に、小刻みな震えが伝わってくる。どうしたって言うんだ?


「ダメ……」

消え入りそうな声でそう言うとリュネの首を放したクルテ、今度はピエッチェに抱き着いた。

「眠過ぎて気が遠くなる」

そのまま座り込みそうなのを慌ててピエッチェが支えた。


 振り向くとこちらを見ている三人、

「キャビンで寝かせてあげたら?」

マデルは心配そうだ。ラクティメシッスは呆れ顔、カッチーはニヤニヤと笑いを噛み殺している。


「いや……」

ピエッチェが口籠る。キャビンにクルテを運ぶのは造作ない。だけど、そうなったらリュネに飛んで貰おうってことになる。きっとそれは無理だリュネが言うことを聞いてくれると思えない。


「お(んま)さんも随分回復したようですし、お嬢さんにはキャビンで眠って貰って――えっ? あれっ? おいっ!」

ラクティメシッスが言い終わる前に、リュネが地面に座り込んでしまった。するとピエッチェの腕を擦り抜けたクルテが隣に腰を下ろし、リュネの胴体に(もた)れかかった。

「リュネ~大好き。一緒に眠りたい」


 ピエッチェが(ひざまず)き、クルテの頭を撫でる。

「悪いな。今夜はここで野宿しよう……少し無理をし過ぎたみたいだ」

ラクティメシッスたちから顔を背けて言った。顔を見られたら、嘘がバレそうな気がした――


 そんな事なら何も早朝チュジャバリテの屋敷を出ることはなかった。きっと心の中でそう思っているのだろう。

「こんな時刻に野宿を決めてしまうんですか?」

空を見上げてラクティメシッスが不思議がる。太陽はまだ中天にほぼ近い。傾き始めたばかりだ。


 マデルは火を(おこ)す場所を探している

「クルテ、具合が悪いんじゃなくて?――この辺りでいいかな?」


(たきぎ)になるような枝、探してきます」

カッチーが森に入っていきそうなのを止めたのはピエッチェ、

「いや、この辺りに落ちているのを集めれば充分だし、火を熾すのは日没間近で」

クルテの隣に座りながら言った。


 ラクティメシッスは周囲に気を張っているようだ。

「ここに降り立った時は魔物の気配を感じたんだけど……わたしの気が届く範囲には一体もいないようです。でも油断はできませんよ。いつ出てくるか判りませんから。それにしても()しいな」


「何が()しいのよ?」

マデルはすぐ火が熾せるよう、周囲の枯葉や枯枝を集めて()()()()させていた。延焼防止のためか、下は地面だ。


「いえ……念のためと思って結界を張ろうとしたんだけど、どうにも巧くいかないんです」

「んん?――あら、わたしの魔法もダメだわ。すぐ消せばいいと思って火を点けようとしたのに」

蒼褪めるマデル、

「火が点けられない?」

ラクティメシッスもすぐに試したのだろう、やはり蒼褪める。

「わたしもです――それどころか、お(んま)さんとキャビンに掛けた魔法もいつの間にか解除されてます。見えて当たり前だから気付くのが遅れました」


 ラクティメシッスは口にしなかったが、きっとかなり深刻に考えている。自分が掛けた魔法が解除されたのに、彼ほどの魔法使いが気付かなかった。自分が解除するまで解除されない魔法を使うと言っていた。だったら同時に、解除されれば感知する魔法も使ったはずだ。


 点火魔法は基本中の基本、攻撃に使う火球を作るならともかく、日常での着火はピエッチェにだって〝できることになっている〟ほど簡単なものだ。


「クルテじゃないけど、わたしたちって、自分で思っているより疲れてる?」

「どんなに疲れてたって、着火くらいできますよ。だいたいわたしもあなたも魔力は充分なんだから」

ラクティメシッスが怖い顔で考え込む。


「まさか、得体のしれない魔物?」

ラクティメシッスがピエッチェを見た。ザジリレンの魔物について話したのを思い出したのだろう。答えたくなかったが、無視するわけにもいかない。ピエッチェが考え込んでから答えた。はぐらかすつもりだ。


「この辺りの魔物は確か飛翔するものが多いはずだ。小鳥やムササビ、そんなのが変異したもので、強い魔力を持つ個体の報告は聞いていない。あと、巨大ミミズの出現がかなり前にあったんじゃなかったかな? 大量の塩を()いて退治したらしいが、塩の回収に苦労したって」

ミミズと聞いてマデルがギョッとする。それをチラリと見たラクティメシッスが確認した。

「ヘビは出ていませんか?」

これにはカッチーも蒼褪めた。


「ヘビは聞かないな。ヘビの魔物は魔力が強いと聞いている。この山はそれほど魔力を貯蔵できない。小動物を魔物に変える程度だ。だから、そんなに恐れなくてもいいと思う」

「山が魔力を貯蔵する?」


 指摘されて『しまった』と思うが手遅れだ。山が魔力を溜め込む――それは森の女神信仰の考え方だ。今では森の女神を信じている者などいない。ザジリレンでも信じているのは、と言うか理解しているのは王家だけだ。それをつい口にしてしまった。


「あぁ、迷信だったな。でもさ、ここに居ると、なんだか信じたい気分になる」

「確かに森の神秘は感じますが……ん? あれ? 魔法が使えないってことは、お(んま)さんも飛べなくなってる?」

ピエッチェの苦しい言い訳、納得できなさそうなラクティメシッスだったが、他のことに気を取られてくれた。


「どうなんだろう? クルテ、判るか?」

ピエッチェが訊くと、クルテはリュネの胴体に顔を埋めたまま首を横に振った。それって、判らないってことか? それともリュネも魔法が使えないってことか?


「お嬢さんの魔法はどんな感じですか? やっぱり使えませんか?」

続くラクティメシッスの質問をマデルが(とが)める。

「クルテは具合が悪いんだから、放っといてあげなさいよ――ラスティンもこっちに来て座ったら?」

マデルの中ではクルテ不調が確定しているようだ。


 マデルとカッチーは小枝を積み上げ、そこに枯葉をクッションにして椅子らしきものを作っていた。立ちっぱなしよりはいいだろう。しかし、おかげで助かった。少し距離ができ、これなら内緒話ができそうだ。


 向こうで談笑する三人の様子を見ながらピエッチェもリュネの背中に上体を投げだした。目の前にクルテの顔がある。そのクルテがパチッと目を開け、ニヤッと笑う。

「キスできそうな近さだね」

馬鹿言ってんじゃないよ。


 顔が熱くなるのを感じながら、クルテの頭を抱き込むように引き寄せた。なにイチャついてると思われたって構うもんか。今さらだ。マデルがクルテの体調が悪いと思い込んでくれてるのも好都合だ。俺が心配でこうしてると、勝手に思ってくれるだろう。


「ここに居るのはジョーンキの森の女神でいいんだよな?」

「うん、さっきから叱られてる」

「叱られてる?」

「自分の森を離れて、どうしてこんなところにいるのかって」

「自分の森? コゲゼリテ?」


「そうじゃないけど……魔法を使えないのは女神が解除しちゃうから。自分の森で人間に魔法なんか使わせないって」

「ジョーンキの女神は人間嫌い?」

「人間って言うよりも……ローシェッタが大嫌い。なんでカテルクルストの末裔がローシェッタ王家に繋がる人間と一緒に居るんだって怒ってる」


「事情を説明した?」

「人間の事情なんか理解すると思う? それにカッチーの説明がつかない」

「カッチーの説明?」


「ジョーンキの森の女神は流れる血を読み取れるみたい」

「それは他の女神だってそうだろう? 俺がカテルクルストの末裔だってみんな知ってた。血の匂いがするとか言ってたような?」

「カティは直系だから、どの女神にもすぐ判る。傍系となると違ってくる」

「そうか、ジョーンキの女神は傍系でも読み取るってことだな。で、カッチーの何が問題なんだ? アイツの父親は貴族だ。ローシェッタ王家の傍系だったか?」


「カッチーはローシェッタ王家って言うか……ザジリレン王家の血を()いでいる」

「えっ?」

ピエッチェが絶句した。

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